邂逅。(1)
長期の休みが終了し、学園での生活が始まる。
ベルが私の支度を手伝っているのを鏡越しで確認していると、彼女は鼻歌を歌って楽しそうにしていた。
「昨日の休日は楽しかったのかしら」
ベルの機嫌の良さを理解した私は彼女に質問する。
彼女は”そうなんですっ”と声高らかに返事した。
「王都にある新しく出来たお店で、美味しいケーキを食べたんですよ」
彼女の声は嬉しさが溢れている。私はそれを聞いて微笑んだ。
ベルが楽しそうで何よりだ。
それと…美味しいケーキか。
甘いものに目がないので興味を持ってしまった。誰か私と行ってくれるだろうか。
そんな考えを抱きながら学園に登校した。私はいつものように隣に座ったジークフリートに声をかける。
すると、授業中だから静かにしろと叱られた。
私が一人で反省していると、隣から雑に切り取られたノートの端が差し出された。
”何か用事?”
小さくささやかな字で書かれていた。
私はソレを見てニッコリと微笑むと、その下に小さく字を連ねる。
”今度の週末、空いてる?”
”空いてるけど、どうしたの?”
”ベルが王都に出来た新しいお店に行ったんですって”
”ソレについて来いと?”
”理解が早くて助かるわ”
直接話した方が早くないか?と思うが、これはこれで楽しい。スラスラと紙の上を走るペンの音も心地よい。
”殿下は?先に誘ったのか?”
彼から渡された文字が目に入り手が止まる。
殿下…ルートヴィヒはまず先に誘った。
だけど、今週末はどうしても外せない用事があると言われてしまった。
彼から断られたことが顔に出ていたのか、ルートヴィヒは優しく頭を撫でてくれた。その後は、彼に一言だけお礼を伝えて去ったのだった。
”誘ったけど、用事があるんだって”
”そうなんだ。今週末、良いよ。一緒に行こう”
ジークフリートから了承を得たので、小さい声でお礼を告げると彼は短く返事をして、真面目に授業を受け始めた。私はしばらくその紙切れを眺めてから、彼と同じように真面目に授業を受けた。
◇◆◇◆◇◆
ジークフリートと約束をした週末がやってきた。
ベルに お出かけ用に綺麗にしてもらい、クラウスハール家の馬車に乗り込む。
中にはジークフリートだけ…ではなく、ハーゲンとエレオノーラが乗車していた。
もしかして…隊長って暇なの?
私は顔に出さないように努めて挨拶をする。
彼らも同じように挨拶を済ませると、エレオノーラの隣に座っていたハーゲンは、狭い馬車の中で立ち上がり、ジークフリートの隣へ腰掛ける。エレオノーラは私に手を差し出してくれた。女性にエスコートされるなんてほぼないので、胸が鳴る。
エレオノーラ様…かっこいい。
隣に座ってこっそりと顔を覗くと、彫刻のように美しく端麗な顔があった。
ダメだ…これ以上見ると…目がやられてしまう。
私は真っ直ぐ向き直り、エレオノーラを見ているハーゲンに声をかけた。
「今日はお休みですか?」
「そう、休みだよ。で、エレオノーラを誘って王都にある新しいお店に行こうかなって」
「もしかして…私たちが行こうとしている場所と同じですか?」
「そうです。メルクーア様がジークフリートと行く場所です」
エレオノーラはハーゲンが言った言葉を無視して続ける。
ジークフリートからは小さくため息が溢れたのを私は見逃さなかった。
「ご迷惑でしたか?」
「いえ、全く。人数が多い方が楽しいので。むしろ…私が邪魔ではありませんか?」
「そんなことありませんっ」
目を見開いたエレオノーラは、私の耳元へ近くと”助かりました…”と呟いた。彼女の顔を見ると、少しだけ頬が赤くなっている。
私はソレに気付いて自然と口角が上がる。
「では、一緒に参りましょう」
私が声を上げてそう言うと、目の前に座っている彼らからは笑みが溢れている。
「そういえば、その髪型どうした?」
ひとしきり笑ったジークフリートは、私の髪のことを訊ねる。私はその言葉で、自分の髪のことを思い出し一房とって眺めた。
「私の髪色、目立つでしょ?流石にジークと二人きりはマズイってことで、ベルが用意してくれたの」
ウィッグって言って、流行しているらしいの。と付け加える。
父にジークフリートと出かけることを伝えると、あまりいい顔をしなかった。
確かに私は殿下の婚約者だから、他の男性と出かけるとはよくないことは理解している。
そこで父がこのウィッグをベルを通して注文してくれたのだ。
「すごいね、髪色は私たちにそっくりだ」
「輝き方まで似ていますね」
ハーゲンが言った通り、クラウスハール家特徴の茶色の髪色のウィッグなのだ。エレオノーラは興味深そうに眺めている。
「これで、クラウスハール家の親戚には見られると思って」
ドヤ顔をすると、エレオノーラは可愛いと褒めてくれる。
「今日のメルクーア嬢は、クラウスハール家の一員ってことだね」
ハーゲンの一言に私は頷く。
流石に瞳の色は変えられなかったけれど。
そんなこんなで話をしていると王都に到着した。
先に降りたジークフリートからエスコートしてもらい、地面に降り立つ。私たちの後では、ハーゲンがエレオノーラをエスコートしている。
お互いがエスコートし慣れ、され慣れており、日常なのだなと思った。じっと見つめる私に、二人は不思議そうに見つめるため、笑って誤魔化す。
年上二人組についていくようにして、ジークフリートと並んで歩く。前にいる談笑している二人とは対称的に、私たちの間には沈黙が流れている。
そのまま歩いていると、目的地へと到着した。
お城のような外観は、いかにも女の子が好みそうなものだった。
お店に入室して四人で丸いテーブルを囲むと、メニューを見てベルが頼んだというケーキを注文した。
可愛い見た目のケーキに目を輝かせていると、目の前に座っているハーゲンが微笑む。
「メルは可愛いね」
ハーゲンの言葉に私は食べていたケーキが器官に入って咽せる。右隣にいるジークフリートも紅茶を飲んで咽せている。
「メルは可愛いですよ。私のケーキも食べますか?」
今度はエレオノーラが私のことを愛称で呼ぶ。
そういえば…ここに来る前に、ハーゲンがクラウスハール家の一員だと言っていたのを思い出す。
「だ、大丈夫です」
照れながら断ると、エレオノーラは眉を下げてに微笑んでいる。それが視界に入り、胸が締め付けられるように痛くなった。
「や、やっぱり…エレオノーラ様のケーキいただきたいです」
申し訳なさそうに彼女を見つめながら、分けてもらうようにお願いしてみる。
「メル、いつもはレオ姉のこと”様”なんてつけて呼ばないのに」
ジークフリートは先ほどまでの慌てぶりはどこへ行ったのか、もうこの感じに慣れている。私は彼の言葉に目を見開いてから、小さく息をついて口を開く。
「エレオ姉…様のケーキと私のケーキを分けませんか?」
耳が真っ赤になるのがわかる。
恥ずかしさから彼女を見ることが出来ず、テーブルにあるケーキを見つめる。
「私もメルのケーキを半分出来るのは嬉しいわ」
エレオノーラはそう言ってナイフで丁寧にケーキを切り分ける。彼女の元にあったチョコレートケーキが私のお皿に移る。
「さぁ、一緒に食べましょう」
私の分のケーキも切り分け自分のお皿に移すと、彼女は口にした。
血の繋がった姉という存在は私にはいない。
近しい姉といえば、兄の妻であるエルヴィンの姉だけ。彼女とは半分したことはないため、なんだかんだで新鮮で楽しい。
私はそれを噛み締めるようにしてひとときを過ごしたのだった。
明けましておめでとうございます!!
前回の投稿から随分と時間を開けてしまい申し訳ございません。
またこの投稿から改めてお願いします。
今年の目標は、この作品をちゃんと終わらせることです。




