学校が始まる前の少ししたお話。(2)
ハーゲンを知る人達からすれば、彼が二十数年もエレオノーラに片思いしているのは周知の事実だ。どちらが折れるのか楽しみにしているらしい。
「レオ姉がハーゲンに振り向くと思いますか?」
「エレオノーラ嬢の初恋はジークムントだよ?彼に瓜二つのハーゲンならすぐにいけると思ったのだけど」
エレオノーラの初恋が父だということに驚きを隠せない。
伯爵はこちらの反応を見て楽しそうに笑っている。
「アルベリヒの方は…誰とだっけ?」
「アルベリヒは、幼い頃からの婚約者です。クラウスハール家の遠縁ですね」
「弟に先を越されてしまったのか」
アルベリヒはしっかり者だね。と言った彼の瞳は優しい。
因みにアルベリヒの婚約者は、クラウスハール家の血筋だからか剣捌きが上手な彼と同い年の令嬢。彼女はエレオノーラが隊長を務める第三隊の隊員だった。今は、彼らをサポートする看護役として活躍している。
「ハーゲンは今を楽しんでいるようですけどね」
彼の必死のアピールを思い出しながら伯爵に伝える。
「それは良かった。そんな二人の弟であるジークフリーとはどうなんだい?」
「どう…とは?」
優しい瞳から一転。彼の碧色の瞳が僕を射抜く。
背中からはジワジワと冷や汗が流れてくる。
嫌な気持ち…父に叱られた時のようだ。
「メルクーアのこと、どう思っているのかなって」
まさか伯爵からこんなこと聞かれるとは。
質問に返事が出来ないとでいると、伯爵は優しく笑う。
「ここには私と君しかいないんだ。気にしないで本音を言ってくれて良いよ」
気にしないで、と言われても…彼女にはルートヴィヒという婚約者がいる。
そんな彼女のことをどう思っているかなんて…そう簡単に言える訳ない。
「君は親友の息子。私にとっても大切な存在だよ。ここでの話は他言することはないし…。たまには自分の素直な気持ちを出してみて良いんじゃないかな?」
伯爵はそう言ってから、思い出したかのように目を見開いてから閉じた。
成程…聞いてないフリをするつもりらしい。
僕は意外とお茶目な伯爵にフッと笑って口を開いた。
「ルートヴィヒ…殿下より前に出会っていればって思いました。本当は…僕の方が先にメルクーアに会う予定だったのに」
伯爵は目を閉じたまま静かにうなづく。
メルクーアがルートヴィヒと婚約する前。親同士が仲の良かった僕たちは出会う予定だった。だけど、僕が風邪を引いて寝込んでしまって…延期になっている間に彼らの婚約が決まった。そして不貞腐れた僕は、その後彼女に会うことが出来なくて、彼らの婚約者発表の時に姿を見ることになったのだ。
「僕は…僕にとって…メルクーアは大切な存在なんです。多分…これ以上出会うことのない人物です。彼女への想いは…きっとこのまま心の内に閉じ込めておくと思います」
全てを言い終えた後、ふぅと一息吐くと閉じていた瞳がぱっちりと開く。射抜くような瞳ではなく優しい瞳。
そして小さく”そうか”と呟いた。
「私もまさか殿下と婚約するとは思わなかったよ。こちらとしては、彼じゃなくても良かったんだけど…候補に選ばれてしまったから」
苦笑しながら話す彼の言葉を黙って聞く。
「そして、メルクーアは何も言わずに了承したから」
それは…もしかしたら僕とメルクーアが婚約する予定もあったのだろうか。
彼の含みのある言い方に少し期待してしまう。
「まぁ…これは必然だったのかもね」
「必然」
「クラウスハール家は騎士の家系だ。そこの息子である君とメルクーアは、護り護られる関係であるということだよ」
伯爵の言葉を空気と一緒に飲み込む。
確かに…伯爵と僕の父親は幼なじみだ。
だから、その二人の子供だから…こうなることは必然だったということだ。
「もし…彼女に何かがあったときは、どうしますか?」
「何かって…殿下がメルクーアを捨てるということ?」
今まで瞳にあった光が急に失われる。
またもや背中に冷や汗をかき始めている。
「そうは言ってませんですけど…」
「まぁ、もしそうなったら…ジークフリート。君が殿下のことを殴ってね」
「…え?殴…る…?」
「私は君より非力だからね。メルクーアをしっかり護って」
非力と言っているが…考えが物騒すぎる。
僕は乾いた笑いが口から溢れた。
「私は…君のことを一番信用しているからね」
「ありがとうございます」
そう口に出たが、婚約者であるルートヴィヒより僕の方が信用されて良かったのだろうか。
「メルクーアのことを…頼んだよ」
「……はい」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
メリークリスマス!!そして、こちらで今年の更新はお終いになります。
年明けはいつになるか不明ではありますが、ちょうどいいところで区切れたかな…と思います(^ ^)
次回の更新までお楽しみにください。




