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夜空の下の円舞曲。(2)

「お久しぶりです、メルクーア嬢」


私の視界に広がったのは、白い騎士団の服に裏地が紺色のマントだった。その声は落ち着いており、急いでいた私を落ち着かせる。


「お久しぶりです、ハーゲン様」


ドレスの裾を軽く掴むと、以前褒められたカーテシーを行う。それにならって彼は左胸に手を当ててお辞儀を行う。


「そんなに急いでどうされたのですか?それと…殿下の傍から離れて大丈夫なんですか?」


久しぶりの再会も早々に問われてしまう。


「えっと…ダンスに疲れてしまったところに、ハーゲン様をお見かけして。後…ルートヴィヒ様から離れてしまったのは…申し訳ございません」


深々と腰を折って謝る。

確かにあんなことがあったのに、ルートヴィヒから離れたのは軽率だった。ハーゲンが幼い子を叱るように言うのも納得がいく。


「そうでしたか。ではなるべく私たちの傍にいてくださいね」

「私…たち?」


複数形で自分のことを数える彼に首を傾げていると、ハーゲンの後から同じ騎士団服を着た女性が出てきた。


「えっと…あの…」


狼狽えている私と、後ろから出てきた女性を壁へと連れてきたハーゲンを見上げると、目の前にいる彼は楽しそうに笑った。


「彼女は、エレオノーラ・シュヴェリーン。北の守護の第三隊の隊長なんだ」

「お初にお目にかかりますメルクーア様。シュヴェリーン侯爵の娘のエレオノーラでございます。ハーゲン様から紹介していただいた通り、北の守護の第三隊の隊長を任されております」


エレオノーラと名乗った彼女は、ハーゲンと同じく左胸に手を当てお辞儀をする。

全ての所作が貴族の令嬢とは異なる。騎士の所作そのものなのだ。


「初めまして、エレオノーラ様。シュテルンベルガー伯爵の娘のメルクーアでございます」


こちらは騎士ではないため、貴族令嬢として洗礼された所作で対応する。

挨拶を終えた私は、気になったことを二人に訊ねてみる。


「お二人は婚約者同士…なのですか?」

「…へ?」

「…まさか」


私の質問に、ハーゲンは目を見開いて拍子抜けしたような声が、エレオノーラからは信じられないといった声がそれぞれ聞こえる。

この反応は…間違えたな。


「ハーゲン様は…私の上司のようなものです」

「では、なぜお二人でこの場に?」


この場に男女が来ると言うことは、兄弟関係…または婚約者同士ということだ。

それが大半だというのに…上司と部下の関係で来るなんて…。


「ジークムント団長と夫人の代わりに…とハーゲン様が指名されたのです」

「私に婚約者はいないんだ。女性の隊員はほぼいないに等しいし、エレオノーラは私の親戚だからね」


二人で分割してそれぞれ私に説明してくれる。

エレオノーラはハーゲンの親戚なのか…。確かに言われてみれば、目元が似ている気がする。

凛々しい目が二人とも…うん。


「ハーゲン様も、婚約者の方は…いらっしゃいませんでしたか?」

「あぁ…いたんだけどね、煩わしくて」

「ハーゲン様の婚約者の方は…少し…傲慢といいますか…なんといいますか」


女性にしては少し低めの声で濁しながら、ハーゲンの婚約者だった方を説明する。


「だから、同い年で親戚のエレオノーラに頼んだわけだよ」


ハーゲンはエレオノーラの腰に手を添えながら楽しそうに笑う。彼女は真顔でその手を剥がそうと必死になっている。それを上回る力で添え続けるハーゲンの腕は血管が浮き出ている。

それを見て私は思わず苦笑してしまう。


「エレオノーラ様はどうして騎士の衣装を着ておられるのですか?」

「一応、クラウスハール家に仕える騎士ですので」


こんなにも身長が高く、スラリとした手足をしていて綺麗な方なのに…勿体ない。ドレス映えしそうな方なのに。


「騎士なので、どうしても見えてしまう傷が多いのですよ」


ハーゲンが添える手を剥がそうとするのをやめた彼女は、顔に出ていたのだろう。嫌な顔をせず説明してくれる。


「失礼…いたしました」


言いたくないだろうことを言わせてしまった私は、顔をあげることが出来ない。

失礼なことをしてしまった。恥ずかしい。


「いえ、大丈夫ですよメルクーア様。お顔をあげてください」


優しい声が頭上から降ってくる。

彼女の言葉通り顔を上げると、声と同様に優しい顔で私を見つめている。


「このような場では、女騎士がドレスを着ると嫌な顔をされるのです。私はこの傷に誇りを持っていますが…やはり目にして良いものではありませんからね」


今度は悲しそうな表情で自分の手を見つめるエレオノーラに、私の胸が切なく鳴る。手袋をしているその下は、おそらく誇りとしている傷があるのだろう。


「エレオノーラ様は…お茶などを嗜まれますか?」


私よりも身長が高い彼女を見上げながら訊ねてみる。


「えぇ。貴族の令嬢としては…よく嗜んでおりました」

「では…今度は私とお茶会をしてくださいますか?」

「身に余るお言葉です。メルクーア様がよろしければ、ぜひお願いします」


今日初めて見る柔らかい笑顔に、私は同性であるのに見惚れてしまう。

女性の騎士の話は興味深いと思っていたのだ。二人の雰囲気を作り出していると、彼女の横にいるハーゲンがわざとらしく咳払いをする。


「メルクーア嬢は、人たらしですよね」


ハーゲンは柔らかな笑顔のエレオノーラを見つめながら、私を人たらしと言う。悪口にしか聞こえないソレに、思わずムッと頬を膨らました。


「で?私たちに近づいた本当の理由は?」


ハーゲンは急に真面目な顔で言うのもだから、私はふと我に返る。

そうだ、エレオノーラに気を取られていたが…ハーゲンに会いに来た理由は別の理由だった。


「今日は…ジークはいないのですか?」


貴族の挨拶を見ている間彼をずっと探していた。

だけど、見慣れたはずの彼は見つからなかった。


「先ほども言いましたが、我が父と母が今回の招待された人なのです。私たち兄弟の参加は任意となります」

「つまり…ジークは今回、参加していないのですね」

「えぇ。まぁ彼は国王や王妃に会うのは遠慮しているので…強制参加になるのであれば、なんとか誤魔化していたでしょうけど」


確かに言われてみれば、彼が国王や王妃主催のものに参加しているのを見たことがない。

納得した私はこれ以上追求することはなく、うまく嚥下することにした。


「ジークがいなくても、何かあれば私たちが駆けつけるから安心して欲しい」


優しい表情で言ってくれる彼の言葉に私は頷いた。

ハーゲンは確かに安心できる。


「ありがとうございます」

「あ、ほら。君のパートナーが焦ってこちらに向かっているよ」


ハーゲンが私からその後ろへ視線を向ける。

私はそちらの方へ顔を向けると、ルートヴィヒが息を切らしながらこちらへ走ってくる。


「メルクーア…またどこかに行ってしまったのかと」

「……一言告げずに離れてしまい…申し訳ございません」


腰を折って謝罪していると、”無事なら良いんだよ”とルートヴィヒは額に浮かんでいる汗を拭いながら言った。大広間から端に寄っていたし…フロアには多くの参加者がいるから探すのは大変だっただろう。


「少し、外に出る?」


私を見て何かを感じたのか、ルートヴィヒは熱気で溢れるこの場よりも、涼しい場所を提案してくれる。

小さく頷くと、ハーゲンとエレオノーラの方を向く。


「先ほどはありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました。招待、楽しみに待っていますね」

「では、また今度会うときにね」


エレオノーラは左胸に手を添えているが、ハーゲンはひらひらと手を振っている。私はそんな二人にお辞儀をして、ルートヴィヒのエスコートで外へ出ることなった。



「殿下があんなにも焦った表情を浮かべているのは…初めて見る気がします」

「まぁ色々あった後だからじゃないの?二人の中で解決してみたいだけど…」

「本当に解決していたら良いんですけど。殿下は…メルクーア様のこと…本当に好いておられるのでしょうか」

「え?いきなりどうしたの?」

「何となく…女の勘ですかね」

「じゃあ、その女の勘で私が考えているのはわかる?」

「残念ながらわかりません」

「今度は、お互いに正装して参加できると良いねって思ったんだけど」

「お戯れを…」


私が去った後に、こんな会話が繰り広げられているとは知る由もなかった。

まだまだこのお話は続きます。

どうぞ、最後までご覧ください。

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