笑顔が戻ったようです。
前回のジークフリート視点です。
夏季休暇の五日ほど前、ツェツィーリアが僕の前にやって来た。
「今度、私の領地に遊びに来ない?」
「…は?ハーゲンと間違えてないか?」
彼女からの提案に目を見開いて驚く。僕のその反応に彼女は眉を寄せた。
「間違えるわけないでしょ?じゃあまた追って連絡するから」
そう言い残したツェツィーリアの後ろ姿を見送って、呆れたようにため息をついた。
その後夏季休暇の当日、朝早くからハインツェ家から馬車が到着する。それに乗り込み、クラウスハール家より西に移動すると、彼女の家の領地へと到着する。そこに居たのは、ハインツェ邸の家主であるツェツィーリアと…何故かいるエルヴィン。ツェツィーリアとは全く関係ない彼がいることに一瞬詰まる。
「おはよう。いらっしゃいませ、クラウスハール様」
「ご招待ありがとうございます、ハインツェ嬢。えっと…どうして…」
ツェツィーリアから視線を動かした後、横に立っているエルヴィンへと目線を動かす。
「お久しぶり、ジークフリート。俺も来ちゃった」
令嬢達に声をかける時と同じように、甘い声で挨拶をしてくる彼に言葉が出ない。
ツェツィーリアとエルヴィンは、特に関わりがある訳ではないのに、ここに来るなんて…図々しいにも程があるだろ。
「ハインツェ嬢と知り合いだったんですか?」
「いや?そこまで知ってるわけじゃないよ。君たちの会話が聞こえたから、お願いして来たんだ」
「そういうことです」
二人してニコニコ笑っているのが怖い。まぁ…彼女が良いというのなら良いのだろう。
何だか不思議なメンバーだな…と思っていると、到着した数十分後にもう一台馬車が到着する。そこから降りて来たのは、綺麗に身を包んだメルクーアだった。
成程…メルクーアがいるのなら、エルヴィンとは無関係ではなくなる。ツェツィーリアも声をかけられて、一瞬で考えたんだろうな。
僕は思わず不満げな表情を浮かべてしまう。彼女は…メルクーアとエルヴィンの仲の悪さを、あまり気にしないのだろうか。色々考え込んでいる間に、エルヴィンがスマートにメルクーアをエスコートする。後ろを歩く三人の会話を盗み聞していると、エルヴィンがツェツィーリアを狙うだ何だと言っている。
その後、ツェツィーリアが好きだというボートを乗ることになった。折角だからという事で、くじでペアを決めることとなった。くじの結果、僕はツェツィーリアと組むことになったのだ。
「…どうして…貴方と…」
「それはこっちのセリフだけど」
不機嫌丸出しの彼女に、こちらも自然と同じ不機嫌になる。
「ねぇ…ルートヴィヒは、どうしてメルクーアを避け続けるのかしら」
彼女はエルヴィンとボートに乗っているメルクーアを見つめる。
「、仕えていたはずの騎士達がお金で買われていて、自分がメルクーアから離れた途端、そいつらが自分の婚約者を連れ去り監禁した。男が女を監禁すれば、後はわかるだろ?」
一つずつ説明していけば、目の前のツェツィーリアが顎に手を当てて考え込む。
「それに、お前もメルクーアにそのことを確かめただろ?」
「…え?どうしてそれを」
目を見開いて声が震えている。本当に聞いたんだろうな。メルクーア本人は、聞かれたことを何も言わなかったけど。猪突猛進になる時があるから、言ったのだろうとカマをかけたつもりだが、本当だったようだ。
「カマをかけたつもり。お前なら聞くだろうなって」
「だって…本人の口から聞きたくて」
「メルクーアが傷ついたとしてもか」
僕がはっきりと伝えると彼女は顔を逸らして項垂れる。頭の上には陰湿なオーラが漂っている。それはどんどんと大きくなり、こちらまでやってくる。
…鬱陶しい。
「本当にメルには申し訳ないことをしたと思っているわ。あの二人が…早く仲直りしてほしい…」
ツェツィーリアは、メルクーアの方を見ながらボソリと呟く。
メルクーアの悲しい顔を見るのは、僕だってごめんだ。
◇◆◇◆◇◆
湯浴みを終えた後、エルヴィンと一緒にいると疲れる気がしてこっそりと外へと出る。そこには、レースの羽織を羽織ったメルクーアが居た。
彼女からなぜここにいるのか訊ねられると、”眠れなかったから”と嘘をつく。
「気分転換になった?」
メルクーアの顔を見ることが出来ずに、前を見て問いかける。数秒沈黙が流れた後、心配そうに顔を覗くと焦点があった彼女と目が合う。
「気分転換になったわ」
彼女の返答の後、夕食時に盛り上がった話になる。
ツェツィーリアと僕の仲を疑われたのは二度目だった。それに少しだけムッとすると、メルクーアは気づいて謝る。
いや、別に良いけど。疑われるようなことをしたってことだろう。
エルヴィンはツェツィーリアを狙っていることを、メルクーアは必死に止めていた。彼女の顔は彼の好みらしいが、きっと一筋縄ではいかないだろう。それを理解していない彼ではないだろうから…何かが狙いなのだろうか。
「本当にハインツェ嬢のことが好きなんだね」
「当たり前じゃない。大好きよツェツィのこと」
僕が言った一言に、彼女は声を大にして答える。
”そうか”と小さい声で答えてから、もう一つ付け加える。
「じゃあ…僕のことは?」
自分で言っておいて恥ずかしくなってしまう。彼女は一瞬考え込んでから口を開く。
「好きよ?当たり前でしょ」
当たり前か。
目を見開いて驚いてから、自然と笑みを浮かべる。彼女はそんな僕を見て柔らかい表情で笑う。ようやく自然な笑顔を見ることが出来た。




