残りの二日はお休みします。
あの事件があった後、ゆったりとベッドで寝ていると自然と朝になった。
朝日が覚醒を促してくれるので、私は腕を伸ばして体を起こすと、立ち上がって着替えの準備を始める。
近くにあったジークフリートから贈られた時計を見ると、ベルはまだ起きていない時間だ。彼女には、心配をかけたし…もう少し寝ていて欲しいから起こさないないでおこう。
クローゼットから簡易的なワンピースに着替えると、ソファーへと腰掛ける。
昨日の出来事は…嘘じゃないもんね。
首へ手を持っていくと、ガーゼが当てられている。
うん。昨日の出来事は本当にあったことだ。後で、ガーゼを取り替えてもらおう。
朝食の時間になると、支度を終えたベルが迎えに来てくれる。そのまま家族が揃っている食堂へと向かうと、いつも以上に優しい家族がいる。
昨夜私を訪ねて来たエルヴィンは、泊まったようで朝食を共にしている。
その後は一人になりたくて、またもや部屋へと篭る。部屋にあった小説を読んで、一日を過ごすことにしようか。
時間が経つのを忘れて、本に没頭していると扉からノックをする音が聞こえる。
「どうぞ」
そのノック音に返事をすると、外からツェツィーリアがやってくる。
「こんにちはメル。急に訪ねて申し訳ございせん」
「いいえ。今日は特に用事がありませんでしたので、ツェツィが来てくださって嬉しいです」
彼女を連れて来てくれたベルに声をかけて、お茶を用意してもらう。
ツェツィーリアはベルに手土産を渡している。その中には、建国祭限定販売の、オレンジを使用したケーキだった。
食べたいと思っていた物が手に入り、自然と笑顔になる。それを見た彼女も微笑んでいる。
「喜んでいただけで何よりです。あの…メル…」
「今日は心配して来てくれたのでしょう?昨日、あんなことがあったから」
彼女を見つめると、わざとらしく下を向く。
「思ったより落ちついているの…。でも、本当に危なかったな…って」
「クラウスハール様から聞きました。その…不躾な質問で悪いのですが…首筋だけなのですか?その…キズは」
彼女は探り探りで質問してくる。
こう聞きたくなる気持ちは分からなくもない。私だって、自分の体なのに本当に傷物じゃないのか聞きたくなる。
「信じてくださらないかと思いますが…この首筋のみですよ。他は全くの無傷です」
カップを口に添えながら返答する。
ここで信じてくれないと…私がつらい。でも、彼女との友情はそこまでだったと言うことだろう。
「そうですよね。ごめんなさい、メル…大切な友人を疑ってしまうなんて」
「大丈夫よ。信じてくれてありがとう、ツェツィ」
せっかくだからケーキを食べましょう、と話を変える。彼女は疑っている自分に反省している様子だが、噂を広めにくるような人は、こうも神妙にならないだろう。
だから、彼女は気にしなくて大丈夫なのだ。
「ツェツィ…貴女がそんなに落ち込んでいると、私が悲しいわ。こんな時だからこそ、いつも通りのツェツィでいて欲しいの」
ね?と彼女に励ますように伝える。
これでは私とツェツィがどちらが襲われたのか分からない。
「そうね。これで謝るのはお終いにするわ」
ようやく私の好きな笑顔になったツェツィーリアを見て元気になる。
学園ぶりに再開した彼女との会話は、話しても話し足りない。最近流行している演劇の話であったり、先ほど見ていた小説の内容に花を咲かせた。
「来年は…ツェツィと建国祭を過ごしたいですね」
「……そうですね。来年は…メルの時間を私にください」
ボソリと言った言葉に、一瞬暗くなるが笑顔で返事をしてくれる。私はそれに頷くと、彼女の前に自分の小指を立てる。
「私の小指にツェツィの指を絡ませてください。そうです…来年は一緒に行きましょうね?約束ですよ」
ツェツィーリアが指を絡めるのを確認すると指を切る。
この世界にないものなのか、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「なんだか…秘密の約束みたいで、嬉しい…」
「二人だけの秘密よ、ツェツィ」
顔を合わせて微笑み合う。
夕暮れになる前に、彼女は帰宅して行った。
「ルーイは…いらっしゃらなかった」
来るという連絡がないまま夜になろうとしている。
後…ジークフリートも来てくれなかった。
一人になった私は、窓を見ながら昨日と同じように膝を抱えた。
◇◆◇◆◇◆
建国祭最終日。
今日も変わらず自宅で、小説を読む生活をしている。太陽が真上に登る頃、昨日のツェツィーリアと同じように扉がノックされる。ルートヴィヒ以外の誰かが来てくれたのだろう。外へ声をかけると扉が開く。
「遅くなってごめん、メルクーア」
「ジークっっ」
待っていたもう一人の人物が登場した。彼を見た私は本を置いて彼に駆け寄る。
ジーク…少し目の下にクマができている。この二日間、後処理が大変だったのだろうか。
抱きしめたい気持ちを抑えて彼の手を掴む。
「……待ってたの」
色々聞きたいことがある。
どうやって私を見つけ出したのか。エルヴィンに協力をお願いしたのは何故?アナベルの…ルーマン侯爵の処遇はどうなったの?
あとは…私は無傷。傷モノじゃないの。
言いたいことが沢山あって、魚のように口をパクパクと動かしていると、ジークフリートが声を上げて笑う。
「聞きたいことがあるんだろ?僕は逃げないから、ゆっくり一つずつ話していいから」
落ち着かせるように腕をさすってくれる。
私たちは立ったまま話し続ける。
「私…ジークが来てくれたから…何一つ傷が出来てない。触れられたのは胸元だけ」
小さい声で”信じてくれる?”と溢す。
「うん。大丈夫…僕はメルクーアを信じるよ。それに、アイツらに吐かせたから」
いい表情で吐かせたという単語を呟くジークフリートに、私は固まる。
それよりも、信じてくれたことに目が熱くなる。
「怖かっただろ?よく耐えたな…メルクーア」
小さい子供を宥めるように話しかけてくれる。
「それに気になっていることを伝えるよ」
真面目な表情になった彼を見た私は、そのままソファーへと誘導する。二人で向かい合って座った後は口を開く。
エルヴィンに協力を仰いだのは、アナベルが彼のことが好みだと聞いたから。もし、私に何かあったときのために、彼女に近づいて欲しいと頼んだらしい。彼は思った以上にうまく付き合ってくれたから、難航したが場所が割れたこと。
場所が割れた後は、信頼できる人間に頼み込んで探し出してくれたと。その場にいた王都の騎士たちを捕縛して、拷問の後に理由を吐かせたと。どれほどルーマン侯爵から援助を受けたのか。そう訊ねると、騎士達が仕事をしなくてもいいほどのお金をもらったと。
その後、それを根拠にルーマン侯爵家に突撃した。それを突きつけ、彼らを逮捕した。今は王からの判断待ちで、一家全員が王宮の地下牢に繋がれている…と。
「って感じで進んでる。因みにだけど、ルートヴィヒ殿下は…」
「大丈夫、ありがとう。ルートヴィヒ様は…もう大丈夫…」
彼からルートヴィヒの名前が出た瞬間…表情が曇るのが自分でもわかる。
この二日間、彼をずっと待っていたが、来る気配すらない。婚約者なら…相手に危険が迫れば急いで駆けつけてくれるもんじゃないのか。
……貴方だって傷ついたのかもしれないけど、私の方が傷ついたの。体も…心も。顔を見せてくれてもいいのに。
「メルクーア…」
「今日は来てくれてありがとう、ジーク」
ぎこちない笑顔で彼に微笑むと、彼は”約束したから”と返事してくれる。
「ねぇ…小さい頃に約束したこと覚えてる?」
「覚えてる。つらい時に傍にいるって話だろ?」
「そう。本当に約束を守ってくれているんだなって」
昔約束したときのことを懐かしむ。
「これからも…護ってくれるの?」
不安になりながら訊ねる。
「当たり前」
そう言うと、彼は立ち上がり私の傍で立て膝をつく。そしてそのまま私の手を取ると、自身の額へと当てる。
これ…デジャブ?
「北の守護であるクラウスハール家の名の下に、必ずメルクーアを護り抜くと誓おう」
こんな真剣なことをされて…嬉しくないわけがない。
「ありがとう、ジーク。これからもよろしくお願いするわ」
私がそういえば、彼は満足そうに笑う。
ジークフリートはきっと…ずっと護り続けてくれるのだろう。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
これにて、建国祭編は終了します❁¨̮
また第6部分である甘えてみましょう。も誤字等変更しております(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)




