女の嫉妬ほど嫌なものはない。(2)
「シュテルンベルガー様の冷たい視線…見ました?」
「いくら…彼女が平民の出だと言ってもね…」
「結構強く言ったみたいですよ」
「…怖いですわね」
周りから聞こえてくる話し声に、前を追いかける足が自然と止まる。声がする方を向くと、令嬢達はわざとらしく顔を逸らした。
後ろから追いかけてこないからか、前を歩いていた二人も足を止める。
今…彼女達が言っていたのはどういうことなの?何故か私が悪く言われてない?
アナベルに対してはキツくお灸を据えるように言ったが、あの少女に対しては普通に接したはずだ。
思いもよらない出来事に頭が真っ白になる。
「メル…気にしないで」
「歩けるか?とりあえず教室まで行こう」
支えるように両脇に手を添えてくれる。ツェツィーリアは私の腰に手を添えてくれている。その支えもあり、震えながらも無事に到着した。
「メルクーア様っっ」
「リタ様…」
隣の教室にいるはずのリタが焦りながらこちらへとやってくる。その後ろには、リタと親しい令嬢達も同じような表情で駆け寄ってくれる。
「……リタ様も…お聞きになりました?」
乾いた笑いで彼女に問う。
「嫌でも耳に入ってきたのです。私達、あの場に居たのですが…メルクーア様が強く言っていないのを見ています」
「無実なのは知っています」
手に拳を作って懸命に擁護してくれるリタ達。
彼女達が言ってくれるのはありがたい。本当に私は無実なのだから。
「…やはり…アナベル様が」
「私がなんですか?」
赤い髪を揺らしながら堂々と教室に入ってくるアナベルと、その取り巻き達。
ジークフリートとツェツィーリアは、壁を作って彼女達から遠ざけてくれる。
「アナベル様、変な噂を流してませんか?」
ツェツィーリアが攻撃的に質問を投げつける。彼女はそれを嘲笑うかのように反応する。
「嫌ですわ、ツェツィーリア様。私がこんなことをするとお思いですか?」
値踏みするようにツェツィーリアを頭から爪先までじっくりと見つめる。
そんなことをすると思っているから、彼女は貴女に聞いたのよ。とは誰も言わなかった。
「私は誇り高きルーマン家の娘ですわよ?やるなら正々堂々と致しますわ。殿下の婚約者であるお方が…こうも…酷いお方だったとは…」
誇り高きルーマン家?
ずる賢く、心汚いルーマンの間違いでしょ。お金ですぐ解決しようとする癖に、どの口が入っているのよ。
今すぐアナベルの口を封じたいのを、ルートヴィヒの婚約者としての立場で抑える。将来、上に立つものは何を言われても、何をされても動じないように…と教育係から口をすっぱくして言われてきた。
私は壁を作ってくれている二人の前から飛び出す。
「何か、勘違いをしておりませんか?私は別に、彼女を責めるようなことはしておりません」
「しかし、私は直接、本人から、メルクーア様が汚らわしい者を見る目で見たと聞きましたわ」
違う。
私は…そんなことしない。
ルートヴィヒに迷惑をかけるようなことは…しないわ。
いじらしい笑みを抑えきれないアナベルの顔を見て、ハッと気づく。
……全て仕組まれたもの?
最初から、あの子はルーイに色目なんて使っていなかったとしたら?
アナベルとあの子のやりとりが…演技だったとしたら?
見抜けなかった私が間抜けだ。
きっとずる賢いアナベルのことだ…私がルートヴィヒの婚約者に相応しくない、と入ってくるだろう。
私は桃色の形のいい唇を噛み締める。噛んだところから血が溜まっているのがわかる。
「教室の前で何をしているんだい?ルーマン嬢」
拳を握りしめる上から、白くてそれでも男らしい手が上から被せられる。
「で、殿下っ」
目の前にはルートヴィヒの背中がある。アナベルから物理的に遠ざけてくれているようだ。
彼の自然な優しさにじんわりと胸が暖かくなる。
「今、ローゼンハイン嬢から粗方話は聞いたよ」
ルートヴィヒの冷ややかな言葉と声色とともに、この場の温度が一気に下がる。
彼の背中から少しだけ顔を出すと、アナベルは顔を真っ青にしている。まさか、本人が出てくるとは思わなかったのだろう。
「僕がクラスメイトに色目を使われたって?メルクーアは婚約者なのだから、もう少し周囲に目を配れって?クラスメイトは本当に困っていて、僕が助けたんだけどね。それをメルクーアが対応してくれたんだっけ?なのに、いつの間にか色目を使ったと言われている子にきつく当たったと…」
彼の口から出る言葉全てが今までの経緯だ。
所々に混じった怒りを含んだ言葉に周囲は慄いている。ジークフリートさえも固まっているんだ。
「自分ではなく、他人をいいように使って僕の大切な人を傷つけるのは、いい加減やめてくれないかな」
そんなことをしたって、僕はルーハン嬢を好きになることはないんだから。
最後の一言が、アナベルの心臓に言葉の刃として突き刺さったのだろう。彼女は目に涙を浮かべている。
「ルーハン侯爵家を失いたくなかったら、静かに去ることをお勧めするよ」
最後に圧をかけると、彼女はか細い声で”申し訳ございませんでした”と紡ぐ。そしてこちらを…私を殺意が篭った目で射抜く。
それを見てしまい、私の心臓が嫌に鳴る。そして自然とルートヴィヒのブレザーの裾を強く掴む。
全てのことが済んだからか、集まっていた生徒達はまばらに散っていく。
「メルクーア気にしなくていいからね。ルーハン嬢が何かしてきたらすぐに教えてね」
「えぇ…わかりました。ルートヴィヒ様の手を煩わしてしまい、大変申し訳ございません」
頭を下げると、彼の手が頭を撫でる。
気にしなくていいよ。
今までの冷たい声とは反対に、優しく暖かい声が頭上から降ってくる。
私は涙を必死に抑えて顔を上げた。
嫌なシコリのような物が、胸に溜まったままだが…今は気にしないようにしよう。
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