近づきたくない親戚ですが。
今年の建国祭も一緒に参加することを約束した私は、ここ数週間ずっと浮き足立っている。だからか、ツェツィーリアに心配されたし、ジークフリートには頭大丈夫か?と嫌な心配のされ方をした。彼の発言にいつもは反論するが、気分がいい私はその発言を流した。それもあってか、本当に頭の心配をされてしまったのだ。
「…本当に心外だわ。私をなんだと思っているのよっっ」
ぶつくさと文句を垂れながら、図書館までの廊下を歩く。一人で話しているからか、周りは奇妙な目で見てくる。
私はコホンと一つ咳払いをして、猫背になっていた姿勢を伸ばす。
今のは、ルートヴィヒの婚約者として相応しくなかったわ。誰がどこで何も見ているか分からないのだから気を付けないと。
静かに図書館の扉を開くと、奥の地図が閉まってあるコーナーへと向かう。この国周辺の地理が描かれている地図と歴史。つい先日クーデターの話を聞いて、改めてこの国周辺を頭に入れておかないと…と思い、借りてきたのだ。
「…可愛いね」
「…あっ…ん。やめてよ…」
今度は歴史が詳しく書かれた書籍を…と思い、より奥に進もうと足を踏み入れた瞬間…男女の艶かしい声が耳に入る。
神聖なる図書館で何をしているんだ…と同時に、男性の方の知っている声にため息を溢す。
私はその場所へ近づくと、わざとらしく咳払いをする。
「お楽しみのところ申し訳ありませんが…。お義姉様の顔に泥を塗るような行為はおやめになっていただけますか?エルヴィン様」
父親譲りのシャープな目で二人を睨むと、令嬢は情けない声を出してこの場を離れていく。対して、令息の方は堂々としており、私の苛立ちは募る。
シャツの肌け具合からもうすぐことに及ぶ予定だった…ところだろう。彼の近くには、一緒にいた令嬢のリボンが落ちている。私はソレをハンカチで拾うと、彼に押し付ける。
「やあ、メルクーア嬢」
「私の名を呼ばないでください…汚らわしい」
汚物を見るような目で彼を見るも、相手は全く気にしていない様子だ。彼のこういうところが…嫌いなんだ。
「姉さんは元気にしている?」
「実の弟であるエルヴィン様の遍歴を耳にして、大変悲しまれていますよ」
吐き捨てるように言うと、エルヴィンは困ったように眉を下げる。
「アウヘンミュラー家の次男として、しっかりとして欲しいと零しておられます」
「……ははっ変わらないね、姉さんは」
何も思っていないような笑いが彼の口からこぼれる。
こう言うところもイライラする。
エルヴィン・アウヘンミュラー。
アウヘンミュラー侯爵家の次男であり、メルクーア・シュテルンベルガーの兄の嫁の弟。私からすれば兄嫁側の家族であり親戚だ。しかも…この学園の一つ上の先輩にあたる。
エルヴィンは、学園の女生徒をこういった人気のない所に連れ込んでいるプレイボーイ。愛だけを囁くギルベルトと違い、手を出しているエルヴィンはタチが悪い。優秀な兄と姉がいるからか、彼は縛られる物がなく、自由に育った。そのせいか…性に対しても自由になってしまったのだ。
こう言う場面に出くわすのは今回だけでない。数回に一度は出くわしている。その度に違う女性を連れているのだが…こんな弟がいれば義理の姉も胃が痛いだろう。
因みに、私は義理の姉からエルヴィンを監視するように、強く言われているのだ。
「エルヴィン様は、アウヘンミュラー家だけでなく…シュテルンベルガー家にも迷惑がかかるのご存知ですか?」
冷ややかな視線を向けながら、図書館の歴史書のコーナーを探る。
「…そうだったね。確かに俺があぁいう行為をすると、メルクーア嬢の家にも迷惑がかかるんだよね」
近くのソファーに深く腰掛けて足を組んでいる。
反省の言葉と態度が一致していない。そういう所だぞ…と言いたいのを堪える。
「本当…そうですよ」
小さくため息をつきながら目的の本を見つける。
女性にしては高い身長だが、この場ではその身長は活かされないようだ。本の背に少しだけ触れて頑張ってみるも、全く本が取れそうにない。
「どうしたら…一途になれると思う?」
後頭部に硬い何かが当たる。それと同時に、手にしたかった本は男らしい手に渡っている。
私の欲しかった本はエルヴィンの手に、そして頭が触れる程近づいているのに気付く。
あまりの近さに喉がヒュンと鳴る。
こんな場所で、こんな女にだらしない男とゼロ距離になってしまうなんて。
「…本当に…心から…愛し合える人と出会ってみては?」
「シュテルンベルガー伯と夫人のように?」
彼の胸板から離れようと、少し体を起こそうとしていると、彼の両腕を邪魔をする。私は彼に閉じ込められてしまった。背中からじんわりと汗が流れる。
「そこは、お兄様と…お義姉様のように?と言わないのですか」
「だって、あの二人は政略的なもんでしょ?」
クスクスと笑うエルヴィンは変わらず私を閉じ込めたままだ。
彼の言ったことは確かにそうだ。
兄と義理の姉はこの学園の同級生。お互いに婚約者がいたのだが、兄の婚約者はぶりっこの猫被り令嬢。義理の姉の婚約者は男尊女卑のクソ野郎。正式な婚約者ではなかったからか、二人は結束して婚約まで持ち込んだらしい。
政略的というか、なんというか…。シュテルンベルガー家に嫁いだ義姉は、兄のことを十分に愛しているし、兄も義姉のことを表に出さないが愛している。エルヴィンはそのことを知らないのだろう。
「エルヴィン様はご存知ないのですね」
「…何が?」
「お兄様たちは、エルヴィン様がおっしゃられた通り、お互いを一途に愛しておられますよ」
おら、早く離しなさい。という意味を込めて、閉じ込めている彼の腕を軽く押してみる。だけど、びくともしない。
私は諦めて彼の方へと体ごとを向ける。ストロベリーブロンドの髪をしたエルヴィンが、目を見開いて驚いている。私も思っている以上に近くて驚く。
「…へー知らなかった」
「お義姉様たちも…あまり態度に出さないですからね」
美しい義姉は、表情筋が死んでいる。身内でも見分けるのが難しいのだろう。
「で、いつまで閉じ込めているんですか?」
ギロリと彼を睨むと、ようやく解放してくれる。
小さく感謝を伝えると、彼から歴史書を受け取る。
「メルクーア嬢は…綺麗だよね」
前を向いて図書館から出ようとしていると、後からエルヴィンの言葉が耳に入る。それに反応してつまづいてしまいそうになる。
…は?まさか…エルヴィン様…王太子の婚約者に手を出そうとしているの?ここまで無節操だったとは。
「本当に…こんな出会いをしなければ良かったのに」
彼がどういう表情をしているのか知らないが、こういうのはこれ以上反応しない方がいいに限る。
私の反応を楽しんでいるのかもしれないし。
「そうすれば、俺…付き合えると思ったんだけど」
これ以上は耳にしたくなくて彼の方を向く。そこには、肩を揺らしているエルヴィンがいた。
ほら、やっぱり楽しんでるじゃん。
「面白い玩具を見つけて楽しいですか?もういいですよ。早く先程の令嬢に、リボンを渡してきてください」
そう言い捨ててこの場を去る。
「…本っ当に…あの人はっ」
せっかくいい気分だったのに。
本当は優しい人なのだから…そっちの方に頑張ればいいのに…嫌いだわ。
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