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結局、変わらず傍にいてくれるそうです。

私とジークフリートとツェツィーリアが三人で話し合った後、彼らはただの顔見知りだということがわかった。

ジークフリートが私と距離を置いたような発言や、言動をとったのは私がルートヴィヒの婚約者だかららしい。周りに変な誤解を招かないように…と彼の口から伝えられた。だから、節度を保ちながら私を仲良くすること、次の日さらっと伝えられた。急に言われて、うん。とすぐに反応出来なかったし、何を言われたか理解できなかった。だからか、今まで通りで大丈夫らしい。


「ってことになったから、メルクーアは今まで通りで平気だよ」


いつものようにいつもの表情で…あまりにも普通すぎる。


「そう、分かったわジーク。本当によかった…」


胸を大袈裟に撫で下ろすと、彼は珍しく嬉しそうに笑う。


「メルクーア様…お客様が」


教室の窓際で話していると、同じクラスの令嬢から声がかかる。声がする廊下の方へ顔を向けると、キラキラと輝いているルートヴィヒがこれまたキラキラと輝いているギルベルトを連れて立っていた。私は急いで立ち上がると、彼の元へ走り出す。


「ル、ルートヴィヒ様っ。どうかなさいましたか?」


短い距離だが、少しだけ息を切らしていると、ルートヴィヒは私の髪に触れる。走った勢いでパサりと落ちた髪を彼が耳にかけてくれたのだ。ルートヴィヒの人差し指が、私の耳に触れて…その部分からジワジワと熱が伝わってくる。


「特に用事はないんだけど…会いに来たって言ったら迷惑かな?」

「い、いえっ…全然迷惑じゃないです…むしろ…嬉しいです」


少しだけ困ったように笑うルートヴィヒに、胸の前で手を振る。彼の後ろでギルベルトが揶揄うように口笛を吹く。


「メルクーア嬢、一緒にお昼にしない?」

「え?私とですか?」

「僕とギルベルトとメルクーアだよ」

「じゃあ私も良いかしら」

「僕も参加させてもらう」


ルートヴィヒからお昼に誘われた嬉しさに舞い上がっていると、後ろに友人二人も賛同するように声をかけてくる。せっかく二人きり…(この際ギルベルトがいることは無視)になれると思ったのに…見えないように唇を尖らせる。

ここは普通、婚約者同士で楽しんでね。と友人なら送り出すところなのでは?特に…ツェツィーリアは送り出してくれても良いじゃない。


「ツェツィーリアとクラウスハール殿」


私の目の前にいるルートヴィヒは困ったように眉を下げる。思っても見ない方向から声がかかり戸惑っているようだ。


「ねぇ…殿下、私も一緒にいいですか?」

「僕も良いですよね?」


悪巧みをしている二人の表情にこちらまで眉を下げてしまう。ルートヴィヒの気持ちがわかる気がする。


「ここは、二人きりにしてくれないのかな」


ルートヴィヒの口から乾いた笑みが溢れる。

私は彼の言葉に同感するように、首が取れそうになるまで首を振る。


「ギルベルト様もいるじゃないですか」


ツェツィーリアは口に空気を入れて、リスのように頬を膨らます。

ギルベルトがいるけれど、ここは友人のために引いてよ。


「僕はルートヴィヒが二人がいいっていうなら、今回はやめとくけど。ツェツィーリア嬢は引かないのかい?」


それに…僕が一人になると、女の子が誘ってくれるから。とツェツィーリアに喧嘩を売りながら楽しそうに笑う。


「…引きますけど…」

「いいよ。今回は五人でお昼にしよう」


二人の喧嘩を収めたのは、ルートヴィヒの諦めるような一言だった。

特に急用の話がある訳ではない。だから、仲を深めようと提案する。

私は二人きりを望んでくれなかったことに寂しくなるが、ここで空気を壊すのは彼の面を汚すことになる。ここは黙ってうなずくしかないのだ。


◇◆◇◆◇◆


丸いテーブルに各々座り、お昼ご飯を食べ始める。

ギルベルトは構わず話を続け、その横ではルートヴィヒが楽しそうに相槌を打っており、私の横ではツェツィーリアがギルベルトに怒りをぶつけながらお昼を食べている。ジークフリートだけは、静かに顔色を変えずサンドイッチを食している。

このカオスな空間では、通るものも通らない。空気すら飲み込むのに時間がかかってしまう。


「そう言えば…ジークフリート殿、クラウスハール侯が活躍されていましたね」

「…は?あぁ…前回の森への派遣の話ですか?」


無愛想に返すジークフリートは淡々と話を進める。

ここ数ヶ月、この王国の隣にある小さな王国はで王族へのクーデターがあったそう。隣の国とこの王国を繋ぐ森に、隣国からの亡命者がいないか、クラウスハール家が駆り出されたらしい。昨日、父と兄がそんな話をしていたのを薄ら聞いた。

亡命者は今のところいないようだが、森の中でその人物らを狙う盗賊団がいるらしい。そいつらをクラウスハール侯率いる北の騎士達が捕まえたのだった。

というのが、彼が話す今回の内容らしい。


「ジークフリート殿の兄上も活躍していたようだね」

「兄上達は優秀なので」

「ハーゲン殿から、ジークフリート殿ほどの人物はいないと聞いているよ」

「…はぁ…そうですか」


ルートヴィヒの口からでた”ハーゲン”とは、クラウスハール家の長男だ。ジークフリートより五つも上の彼は、クラウスハール侯に次ぐ戦力のようだ。

ルートヴィヒ経由で褒められたことを聞いても、嬉しそうにしないなんて…このまま無表情を貫き通すのだろうか。


「隣国のクーデターがこちらに影響しなければいいですね」

「ギルベルト様は能天気ですね。大陸からの輸入品は、隣国から経由しているのはご存知ですか?一部の品が輸入されにくくなっているのです」


商人であるハインツェ家も、今回のクーデターで少なからず打撃を受けているようだ。大陸からの輸入品…となれば、上質なシルクや小麦だろう。

確かに少し手に入りにくくなっている…ように感じる。


「ははっ。ツェツィーリア嬢のように積極的に参加する気はありませんので」


馬鹿にするように話すギルベルト。なんだか、賑やかさが嫌な方へと向かっている気がする。一触即発を防いだのは、意外にもジークフリートだった。


「まぁ…実際ハインツェ嬢の言う通りですね。ギルベルト殿は能天気ですよ」


ニッコリとした笑顔で攻撃をするジークフリート。そんな彼と同じようにニッコリとした笑顔でソレを受けるギルベルト。一気に氷点下まで下がったような気がする。ブルリと震えていると、横に座っているルートヴィヒが背中をさすってくれる。


「ははっ。能天気だなんて。ひどいですね」


バチバチと火花が散っている様子を薄らと目を向けて確認する。

ギルベルトとルートヴィヒは水と油だ…。この二人は一緒に居てはいけない。何か新しい話題を出さないと…私の胃が限界を迎えている。


「二人とも、メルクーアが怖がっているよ。この話はこれで終わりにしよう」


ルートヴィヒがようやく二人を収めてくれて言い争いが終わる。だけど、二人共まだ消化不良の様子でお互いに睨み合っている。


「ルートヴィヒがそう言うなら」


嫌そうに言いながらお昼を終えたギルベルトが、立ち上がると彼に先に帰るように伝える。ギルベルトが立ち上がったのを確認したジークフリートとツェツィーリアも立ち上がる。先に教室に戻っているね。と彼女は伝えて二人で先に戻った。


「大丈夫?メルクーア」

「…はい。二人共…面識ないんですかね?」

「いや?全くないことはないと思うよ」


ギルベルトは公爵家の息子だし、ジークフリートも侯爵家の息子なので…社交界の場には必ず出席しているだろう。だけど、ギルベルトの方はルートヴィヒと仲が良いし、ジークフリートは誰とも関わろうとしない一匹狼のタイプだ。と言うのをルートヴィヒから伝えられる。


「それよりも…ようやく二人きりになれたね」


テーブルに肘をついて私の横顔を覗く。太陽のような微笑みにやられそうになる。

…顔がいい。


「こんなに騒がしいのは初めてです」


騒がしすぎるけど。

家も基本的に静かだし、学園でも賑やかなメンバーの中にいる訳ではない。だけど、学園生活って感じで楽しかった。


「僕も初めての経験だったよ」


同じように微笑んでれるルートヴィヒを見つめて、胸がキュンと鳴る。

やっぱり私…彼の婚約者になって改めてよかった…と思う。


「メルクーア」


彼が甘い声で私の名前を呼ぶ。

一度伏せていた顔を上げる…とルートヴィヒの紫色の瞳とバチッと合う。

「は、はいっ」

「あと、一ヶ月で建国祭だけど」


テーブルに置いていた彼の手が、膝の上に置いてある私の手を掴む。


「今年も…僕と行ってくれるかい?」


不安そうに首を傾げながらこちらを伺う。

そんなこと聞かなくても…私が首を横に振る訳ないじゃないか。

堂々としているのに、時々不安になる彼がすごく愛おしい。


「えぇ…勿論です…ルーイ」

「ありがとう。嬉しいよメルクーア」


掴んだ手を自分の唇へ近づけると、彼は手首にキスを落とす。

一瞬で顔が赤くなったのを、彼は優しい表情で微笑んだのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


また、評価していただけて嬉しいです(*^^*)

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