腐れ縁の方とのお話合い。
また明日ね。といつもの笑顔で手を振るメルクーアを静かに見送る。彼女は待機していたシュテルンベルガー家の馬車に乗り込んだ。
しっかりと見送った後は、帰ろうと教室を出ようと一歩踏み出した瞬間…目の前に一人の少女が立ちはだかる。
「…なんだ…ハインツェ嬢」
「なんだ…もなにも。用事があるの?」
「いや?急いでない」
「じゃあこっちに来て」
僕の苦手な令嬢であるツェツィーリアは、僕を自身のアゴで外へと誘導する。それに小さく吐き捨てると、文句を言われて長くなるのが嫌なので、黙ってついて行く。
静かな廊下には、ツェツィーリアのヒールの音が鳴り響く。彼女に連れられてやって来たのは校舎の裏庭だった。
「メルと出会ったのはいつ?今まで何回会ったの?贈り物を上げたことは?彼女の部屋に入ったことは?」
眉間にシワを寄せながら、矢継ぎ早に…マシンガンのように質問をしてくる。彼女と鏡合わせになるように眉間にシワを寄せる。すべての質問に考えるという頭がいかない。このまま沈黙を貫こうとしていると、目の前で仁王立ちをしているツェツィーリアは足を使って威嚇してくる。
「メルクーアに会ったのは、殿下の婚約者として紹介されてた日。今まで出会った回数は覚えていない。贈り物は…してない。部屋に入ったこともない」
全ての質問に丁寧に返したつもりだ。前半二つは記憶が正しいはず。後半二つは嘘だ。
彼女の誕生日には小さいものだが、贈り物を渡したことがあるし…部屋に入ったこともあれば、入られたこともある。特に、僕が腕に大怪我を負った時は、ベッドの傍で泣きそうな顔をして座っていたのだ。
「ねぇ…メルはルートヴィヒの婚約者って本当に知ってるの?」
知ってるも何も……彼女が婚約者として王から紹介された夜会に参加していたのだ。その時は知り合いでもなんでもなかったが目撃している。メルクーアが、他の婚約者候補だった令嬢達に、囲まれているのもしっかりと見ている。そんな令嬢達を一蹴しているのも知っているのだ。
「さっきも言った。この国の全員が知っている…僕だけが例外なわけないだろ」
少しだけ声を荒げてツェツィーリアに返事をする。彼女も彼女で眉にシワを寄せたままだ。
結局コイツは何を言いたいのか。だがなんとなくわかる気がする。
メルクーアはこの国の王太子であるルートヴィヒの妃…つまり王太子妃なる人物。そんな彼女の相手はルートヴィヒなだけであって、他の男が簡単に近づいてはいい訳ではない。朝のように、肩に手を触れたり、家に…部屋に入るなんてもっての他だ…ということだろう。
「近くなって言いたいんだろ?」
「そうよ。流石…クラウスハール様。メルと貴方が仲良くしていると、メルに迷惑がかかる」
そんなこと…言われなくても知っている。
父に紹介された時から、近づきすぎるのはよくないと思っていた。だが…あの出会いから、自分の気持ちを抑えることが出来なかった。
彼女の…メルクーアの傍にいるには、友達でしか居れないのだ。
「僕はメルクーアのことを護ると誓った」
「なんて…ことをしてるの!?」
ツェツィーリアは目を見開く。
「だから…学園では彼女に迷惑をかけないように、なるべく距離をとってるだろ?」
周りに知り合いだとバレないように距離をとっていたつもりだ。その距離で、皆んなが見ていない所で、彼女を護る予定だったのに。今日の朝の出来事で…知り合いだと気付かれただろう。
その原因がツェツィーリアにもあるのだが、彼女は気が付いているのだろうか。
「別にいいだろ護るぐらい。騎士なんだから」
「…クラウスハールは騎士だけど……貴方…騎士の前に…」
「ツェツィーリアっやめろっ」
彼女が続きを言う前に声を荒げて止める。
その声を正面から受けたツェツィーリアは肩をビクリと揺らす。
「……ごめん」
小さく息を吐いて謝ると、彼女の方も小さく謝る。
一瞬気まずくなり、変な空気が流れる。
「僕のことはもういいよ。そう言えば…ハインツェ嬢も殿下と仲が良いだろう?」
今度は、ツェツィーリアとルートヴィヒとの関係性へと話題を変える。彼女はないないなんて、嫌そうに言っているが、周りから見れば、噂される対象になってしまうのだ。
実際、ツェツィーリアはルートヴィヒの親戚でありながら、メルクーア同様彼の王太子妃候補でもあったのだ。噂好きの僕の母から聞いた話だけど。彼女の親が真っ先に辞退したらしいが、二人の関係性は貴族が知っている。
噂話が大好きなゲスい貴族達が、ツェツィーリアが婚約者を作らないのは、ルートヴィヒの事を慕っているからだと…楽しそうに話しているのを、知らないだろう。彼女がいくらルートヴィヒをなんとも思っていなくても、何も知らない貴族達はそう思わないだろう。
そのことを婉曲して伝えると、ショックを受けている。
「…そんなの…知らない」
「今まで優しさで言わなかったんだ。僕に感謝して欲しいぐらい」
「そうね…ありがとう。これからはルートヴィヒ…殿下と距離をなるべくおくようにするわ」
話の内容がショックだったのか、ツェツィーリアは項垂れている。
「私も貴方のこと言えない訳だわ」
「メルクーアとの距離は遠ざける気ないけどね」
「……矛盾してない?どうしてそうなるの」
「だって、メルクーアと僕は友達だし」
そうはっきり…特に友達の部分をはっきり言うと、ツェツィーリアは何か言いたそうに、だが言葉が出ないのか…口を開いては閉じてを繰り返している。
「…分かったわ。でも、節度を保って」
「勿論、分かってる」
結局最後は向こうが譲歩した形で幕を閉じた。
ルートヴィヒとメルクーアの間に入り込めるなんて、思ってないし思わない。
だけど、彼女を傷つかせようものなら…王族であろうが関係ない。何かしても両親なら笑って許してくれるだろう。
それくらいの覚悟は僕にはあるのだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます!!
また沢山の方が読んでくださっているのか…と思うとすごく嬉しいです。
これからは毎日更新…ではなく、話が出来次第投稿になりますが、把握の方お願いします。




