バチバチ、ギクシャクしています。(1)
入学式を終えた次の日。
まだまだシワがついていない新しい制服に身を包んで、学園に登校する。
王族や貴族…だけでなく、商人や成績が優秀な平民がこの学園に在籍している。ただ、人数的には貴族が多数在籍しているため、商人や平民いじめは少なからずあるらしい。
いくら平等をうたっていても、こういうものはあるのが現実だ。新入生の貴族は堂々と歩いているが、それ以外はなるべく端へ端へと歩こうと自ら行っているという印象だ。
私は周りを見渡しながら、ヒロインらしき人がいるか確認する。
薄桃色の肩甲骨まで伸びた髪に、アーモンド色のぱっちりとした瞳のヒロインが、小動物のように愛らしく小さいらしい。彼女の特徴は、小説に書かれていたし表紙にもなっていたからバッチリと覚えている。そんなわかりやすい人物を探すが、見える範囲内では存在しなさそうだ。まだ、始まったばかりだし少しずつ探して行こうか。
教室まで歩いていると、後から女の子の黄色い声が響く。その声に反応するように振り向くと、女の子たちの背より頭二つ分高い男の子が二人見えた。一人は金髪、もう一人は水色の髪をしている。
女の子たちが分けた道を堂々と歩く二人は、私が知っている人達だった。二人は私の前で立ち止まるので、静かに軽く膝を折る。
「おはようございます。ルートヴィヒ様、ギルベルト様」
「おはよう、メルクーア」
「おはよう、シュテルンベルガー嬢」
爽やかな朝にぴったりの笑顔は、確かに女の子の心を射抜いてしまう。ルートヴィヒ達の視線が私と分かったからか、周りに居た令嬢達は、この場から掃けていく。三人で横並びに歩くと、教室まで一緒に向かう。
「ルートヴィヒ様もギルベルト様もお似合いですね」
「シュテルンベルガー嬢もよく似合っているよ」
私が制服の話題を出すと、流れるように褒める言葉が出てくるギルベルト。そんな彼は、最近女の子達を口説いていると噂で耳にしていた。だからだろうか、息をするように女の子達が喜ぶであろう言葉が出てくるのだ。
私は苦笑してお礼を言う。すると彼は楽しそうにウインクをするのだった。
……やりにくい相手……苦手なタイプだ。
と心の中で思っているのは、悟られないために顔に笑顔を貼り付ける。私はバレないようにルートヴィヒの方へと近づいた。
「じゃあ、メルクーアまた後でね」
「シュテルンベルガー嬢またね」
クラスが異なる私と二人は、私のクラスの前で離れる。
この学園には一学年四クラスある。各クラスの成績が満遍なくなるように、人数の割り振りがされている。私は残念ながらルートヴィヒとは離れてしまったのだ。名残惜しそうに彼を見送ってから教室に入る。
「メルっっ」
「ツェツィ…一緒だったのね」
入ってすぐ名前を呼ばれる。顔を上げると、ミルクティーのように淡い色の髪をゆるく三つ編みで結いてあるツェツィーリアがいた。彼女は私に勢いよく抱きついて来て、支えきれずに二人一緒に後に倒れる。
「…危ね…朝から元気だな」
そのまま頭から倒れることはなく、厚い胸板に私の頭が小さく音をたててぶつかる。
首を後ろに倒して見上げると、ジークフリートが迷惑そうに私たちを見下ろしている。
「ジーク」
「…げっ…クラウスハール様…」
ジークフリートは片手で私とツェツィーリアの肩を支えてくれている。そのおかげもあり、倒れずに済んだようだ。
私の胸に埋まっているツェツィーリアは、嫌そうにジークフリートを睨んでいる。彼女達が知り合いだとは聞いたことがない。ジークフリートは相手にしていないようだが、ツェツィーリアは親の仇か…とぐらい睨んでいる。
「ツェツィ?」
私は迷惑そうにツェツィーリアを見ているジークフリートから彼女に視線を移す。彼女は私をキツく抱きしめて、後ろに引っ張っている。それを見た彼は、薄ら笑いながら私たちの肩から手を離す。
「別に取らないよ。気をつけて、シュテルンベルガー嬢」
”それと、ハインツェ嬢も”とついでのようにツェツィーリアも心配する。
ジークフリートの一言に、二人が知り合いかもしれないと言うのは、頭から綺麗に飛んだ。
彼は今、私のことを名前じゃなくて、苗字で呼んだ。それに心が一気に冷えた。
「ジー……」
彼の名前を呼ぼうとすると、彼の指に人差し指が当てられる。
ジークフリートから名前を呼べと言った癖に…。
「メル、もうすぐ授業が始まるわ」
「…分かった」
周りが見えていなかった私は、この時初めてクラス中の視線を受けていることに気がついた。その視線から逃げるようにして、自分の場所へと席に着いたのだった。
彼の行動が理解出来なかった私は、一番初めの授業に集中出来ず、身に入らなかったのだった。




