第1章 その三 夢のマイホーム
まさか唐突にこんな展開になるとは。今までの人生で、家族以外の女性と一緒に過ごすことはほとんどなかった。姉や妹と過ごす機会が多かったから、同年代(アーシャはやや年上かもしれないが)と過ごすこと自体にはそれほど抵抗はないが……。
「えっと、いいんですか?」
「だって困ってるでしょ?ちょうど私も1人で暮らすことに飽きてきたところだったんだよね。もちろん、お手伝いとかはしてもらうけどね!」
うーん。話がうますぎる。今日であったばかりの女性が、特に深く事情を聞くことなく僕を家に泊めてくれる。そんなことがありえるのか?
こうなってくると何かの罠のような気もしてくる。
「それじゃぜひ、お願いします。」
まぁそれでもお世話になろう。問題が起きればその時に対処すればいいだろう。賢者は歴史から学ぶというけど、元の世界の歴史が通じるかわからない。愚者となる覚悟で経験から学んでいこう。
「さぁ、そうと決まれば移動しよう!あっ、ここから先は敬語はなしね。一緒に暮らす人が敬語ってなんかやりづらいから!」
「わかった、よろしくアーシャ」
それからアーシャの家に向かって移動を始めた。山の中の一軒家で、ここからそう遠くはないらしい。花畑から20分くらい山道を進んでいくと、元の世界でもよくみる一般的なログハウスが見えてくる。人の住むところは世界が変わっても特に変わりはないのか。こう謎の感動を覚える。
「さて、ついたわけだけどこのままだとちょっとこの家じゃ小さいかな。」
「うーん、そういわれてみるとそうですかね。」
一人で暮らしていく分には不自由はしないかもしれないけれど、2人で暮らすには多少手狭だな。まだ中に入っていないから詳しくはわからないけど、1DKくらいの部屋しかなさそう。寝室とかもなく、同室で寝ることになってしまう。それはさすがに気まずい。
「よし、それじゃおおきくしちゃおう!」
「は?」
そういうと、アーシャはログハウスの方へ手を向ける。そのままぶつぶつと、隣にいるにもかかわらず聞き取れないくらいの小さな声で何かを唱えている。
すると、手が淡く光りだし、そのまま何か光のようなものがログハウスの方へ向かっていく。
「えぇ!?」
突如木々がへし折れる音が響き、そのままログハウスの一部となっていく。ログハウスの一部となっている木々は、地面から随時生え続けているもの。ログハウスを取り囲むように伸びていく木々を材料に、ログハウスは着々と大きくなっていく。太い樹が折れ裂かれる音はかなりの騒音だったが、しばらくすると音が止んだ。
「ふぅ、完成ね」
すると、1家族分は住めそうな、大きなログハウスにグレードアップしていた。なんという早業……。改築し始めてから5分程度しか経っていないぞ。
「今のも魔法なんだよね。」
「うん、そうだよ。樹を生やす魔法と、樹を裂いたり折ったりする魔法、後は木々の間を固着する魔法を使ったかな。まぁその他にも無意識に使ってるものもあると思うけど、魔法はこんなこともできるんだよ!」
ひどく関心した。日本の大工屋さんに頼んだら、どれだけ早くても1日はかかるであろう仕事を、ほんの数分でやってのけたのか。まぁ実際の大工屋さんの仕事なんてみたことないからわからないけど、これだけの早さは無理だろう。
「すごいな。感動した。」
夢にまで魔法の力を何度も見せられて、素直に感動した。自分もこんな力を使えたらと思うが。
「でしょー!もっと尊敬して!」
そういう元気よく笑う彼女。こうしてみるとよく笑う人だな。魔法使いってイメージではあまり明るくなくて、物静かで知的なイメージだったけど、イメージが壊れてしまった。
「すごい尊敬する。」
「ありがとう!」
この人と一緒に暮らせるようになってよかった。魔法使いについていろいろと話を聞きたい。僕もこの世界なら、魔法使いになれたりするのだろうか。
「とりあえず、中に入ろうか!」
新築されたログハウスの中は新鮮な木の匂いでいっぱいで、とても心地よい。特に床も斜めっているということはなく、地震対策とかはわからないが、万全な仕上がりだ。それからアーシャは自分の部屋(出来たばかりだけど、場所はもう決まっているらしい)に着替えを取りに行った。まさかシャワーとかも付いていたりするのだろうか。
「シャワー?もちろんあるよ!」
あるらしい。水道とか引いていないのにどうやって水を出すんだろう。
「もちろん魔法だよ。私は魔法をより高いレベルで扱えるよう、修行のためにここに暮らしてるからね。基本的に生活は魔法縛りだよ。」
ふーん。ってことはアーシャがいないと僕はここの設備が使えないってことかな?困ったもんだ。
「もちろん、設備は自動化してあるよ。魔法は実行フラグを指定することができるの。任意のタイミングで事象を発生させたり、実行フラグを指定して、あることをすると事象が発生するような状態を作ることも可能なの。」
そんなことができるのか。アーシャが何を言っているのかよくわからないけどすごそうだ。まぁ要するに、シャワーの設備を作って、ボタンみたいなものを押したら水が出るような魔法を組み込んだってことだと思うけど。
そう考えると魔法ってなんでもできる力と思ってたけど意外と理屈っぽかったりもするのかな。




