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師匠とみる優しい世界  作者: 輝美
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第1章 その二十 アーバストへ移動

そういうと、善は急げとばかりに移動を始める。せっかく宿を取ったのに1日もいなかった。まぁ、事情からすると一刻も争うのだから仕方ないのだけれど、そう考えるとこのタイミングに旅に出たことや、ルーシーと会ったことにも運命性を感じる。あの裏通りを歩かなければこんなことにはならなかったし、こうなってくるとむしろ何者かの意思に歩かされたのではないかとも感じる。神様は信じていないけど。


まぁそうは言っても、だからといって旅を1ヶ月遅くしていたら、それはそれでまた別の危ない状況な人に会うだけかもしれないし、むしろこの世界の治安が悪くてこういったことは日常茶飯事なのかもしれない。それこそ、魔王軍とは今回ばかりではなく、これからも何度もぶつかることになるとさっき予期したばかりだし。


「それじゃ、移動しよっか。私は飛んでいけるけど、一応聞いてみるけどルーシーは飛べる?」


「えっ!?いや飛べませんよ!人は空を飛べません!」


そう軽い感じで確認するアーシャ。魔法でも使えない限り、人は空を飛べない。むしろ魔法を使えても僕は飛べないし、アーシャがどうやって飛んでいるのかも理解していない。


「んー、それじゃどうしようかな。空を飛ぶ魔法って、結構密な計算がいるから人を飛ばすのは難しいのよね。やってみてもいいけど、最悪爆発しちゃうかも」


爆発は勘弁だな……。


「私は後で追いつきますので、ぜひ先に行ってください……」


「私はそれでもいいけど、女の子のひとり旅は不安だわ。……そう行った意味だと私のひとり旅も怖いわね」


そういって、この世に怖いものなど何もなさそうなアーシャが女の子アピールをしだす。そんなデリケートな生物にはとてもみえないけれど、そんなことを口にして身体を爆発されたら堪ったものではないので声には出さない。……ここは僕の温めていたアイディアを出す時だな。


「師匠、僕にいい考えがあります。ちょっと待っててください」


そうアーシャに一言いうと、僕は木でできた乗り物を作り出す。形状としては人力車が4輪になったものをイメージする。屋根とか作るのはめんどくさいからね。人が腰掛けるところと、車輪を4つ付けただけの乗り物を作る。


「ふわぁ……凄いですね和馬さん。これは何ですか?」


「これは特に名前はないけど、人が乗って移動するものだよ」


ルーシーが物珍しそうに人力車をみつめる。そういえば今のところ馬車のようなものを見たことがないけど、この世界には乗り物はあるのかな?


「はぁ……竜車のようなものですか。竜はいないですけど、これはどうやって使うんですか?」


あるらしい。まぁ、この車を動かそうとすれば引っ張る必要なあるわけだけれど、今回は引っ張るわけではない。転がすんだ。


これは初速を木で作った斜面で作り出し、加速は木で地面を繰り返し突いて実現する。そのためにシャフト周りは可能な限り摩擦を取り除く(木をツルツルにしてるだけ)。まぁ言葉にするとそんなことで動くの?って話なんだけど、超短周期で複数の気を使って地面を突けば可能なのでは?と思う。まだ試してないからわかんないけど。本当はなんか氷とか作れる魔法とか使えたらもっと楽なんだろうな。


そんな感じの説明をアーシャとルーシーにしてみたところ、まぁとりあえず納得してくれた。それじゃ試してみますか。


「2人とも乗ったね?それじゃ発進します!」


斜面を作るような木を車の下に生成することをイメージする。魔法にもだいぶ慣れてきた僕は、自然界ではみたことのないような造形の木もイメージで作れるようになった。こんな木作れるの?みたいな木でもイメージできれば作れる。魔法において最も邪魔なのは常識。


「……遅いわね」


「加速には時間がかかるので」


ゴトゴトとゆっくり動き出した車は時間が経つごとに際限なく加速する。まぁ実際は重力と摩擦とで加速度に限界はあるんだけれど、徒歩とは比べ物にならない速度までは上がったからとりあえず良しとしよう。


「うわぁ……はやいですっ!怖いです!!助けてください!!!」


ルーシーが慌てふためく声が聴こえる。僕は御者台の位置にある、この車の運転席とも呼べる場所に座ってひたすら車の速度を上げ続けているので顔は見えないが、きっと涙目になっていることだろう。それを考えるとみてみたい衝動に襲われる。


「そういえば今目の前に冒険者とか現れたらどうしようかな。轢き殺してしまうかも」


この車は基本的には転がしてるだけで方向の制御はほとんどしていない。

たまに方向を変えるためにレールのように木を地面から生やして方向転換をしているけれど、基本的に急停車のことは考えていない。

目的地が近づいたら加速を止めればいいから減速からの停止は問題ないけれど、突然現れた場合はどうしようもない。


「まぁ、この走り方だとそうなるわね。その時は仕方ないと思って轢いちゃうしかないんじゃない?」


人の命が関わってるのにあっけらかんというアーシャ。ここでは命の重さが軽い。


「さすがに無駄な殺生は尾を引いてしまうのでできるだけ避けたいのだけれど、何かいい方法はないですかね師匠」


特に前以て相談せずに無理やり無茶な走行を強要している僕のために、アーシャが改善案を検討する必要はないけれど、全知を司るアーシャならばきっと何か案をくれるはず。


「別に轢いた直後とかなら私が治癒するから大丈夫だよ。それよりもっと加速できないのこれ?遅いよ」


時速100km以上は出てると思うんだけどな。それ以上は体験したことないからわからない。周りの景色も変わらないから速度わかりづらいし。しかし、改善案を要求したらさらなる無茶を要求されるとは。


「これ以上は厳しい。空気や地面からの抵抗がなければもっと加速できるんだけどね」


それは空気や地面がないところという意味なので、人である僕にはどうにも。


「あると思うからダメなんだよ。言ったでしょ?魔法はそういう固定概念をぶち壊すものだって」


摩擦はないものと思えばさらに加速できるっていうこと?そんな無茶な……とは思うけど、あれかな。よくテストとかで出てきた「なお、空気の抵抗はないものとする」とかそういうのを前提にすれば成せるのかな。


「申し訳ないですけど、今回は諦めてください。今の僕にはこれが限界です」


そんな感じで雑談も交えつつ、適度な緊張感も忘れず、目的地へと向かう。

アーシャにとっては遅いかもしれないけれど、時速100km近く出ている上に、特に目立った障害物のない草原を走り抜けるだけだったので、体感だけど数時間で目的地にはついた。

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