第1章 その二十一 初魔王軍戦
まだアーバストに入ることはせず、遠くから様子を見ることにした。特に火の手が上がっている様子もなく、既に事が済んでしまった後のようにもみえる。しかし、まだ魔王軍と思しき軍隊がアーバスト近くで陣取っているのがみえるので、街を落とすことはできていないようだ。
「何をしているのかしら」
「様子みてるんですかね」
「私たち種族の大人たちは強いですからね。軍隊はないですけど、立て籠もるだけなら簡単にはやられないです!」
ふむ。滞在するだけでも食糧が足りなくなったりとトラブルの元だから、街1つのために近くに滞在する意味がよくわからないんだけど。そもそも何で魔王軍はアーバストを襲ってるんだ?
「わかったわ!きっと援軍を待ってるのよ!今の軍の規模ではアーバストを落とせないことがわかって、援軍を要請したんだわ!」
「んーまぁそんなところですかね。それじゃどうします?援軍来る前に殲滅します?」
「そうね。とっととやっちゃいましょう」
そういうとアーシャは軍隊めがけて手を伸ばす。すると、今まで見たことのない規模の魔力がアーシャの周りに集いだす。
「うわっ、なんだこれ」
「どうしたんですか?和馬さん?」
特に風が吹いたりと環境に影響を与えていないので、僕のように魔力が存在じゃないとわからないから、ルーシーは特に気づいた様子はない。
「今師匠がとんでもない量の魔力を集めているんだ。今までみたことがないくらい」
「へぇー……」
しかし、魔王軍に魔力がみえる人がいたら一発でバレてしまうと思うんだけど大丈夫かな?そこら中に漂っている魔力から集めてるんだけど、距離もよくわからないほど遠くからも魔力がこちらに流れて来ているのが見える。ここに何かがいるのが筒抜けだ。
「ところで師匠、何やらすごい魔法を使おうとしてるのはわかったんですが、魔王軍の人たちはみんな殺してしまうんですか?」
「えっ、そのつもりだけどどうして?」
あぁ、やはり。アーシャは生き死にに無頓着なところがあるからな。
「あまり人殺しの趣味はないのですが……。何とかなりませんか?」
「そりゃ私だってそんな趣味はないけど、生かすと後が面倒じゃない?」
「そうかも知れませんが、町の人たちに恐れられてしまうかもしれませんよ?魔王軍の目的も知りたいですし、できるだけ生きて捕らえましょうよ」
そういうと、眉間にしわを寄せてあからさまに面倒そうな態度をとるアーシャ。僕は割とまともなことを言っていると思うんだけどな。
「うーん、面倒だけどそういうならそうしてみる?調整しないといけないから嫌なんだけど」
調整とは魔法のことだろうか。まぁ何とかなりそうならよかった。あまりルーシーに血を見せたくないしな。
「んじゃ今から人を昏倒させる魔法を使うから。これは魔法に体制のある生物には効きづらいから何人か魔王軍が残ると思う。残った分は和馬がなんとかしてね」
「僕が!?どうやって!?」
「そんなの何とでもなるでしょ。これも修行よ。この辺でも緑の魔力はまだ使えるから、それでうまいことやって。考えるところから修行よ」
そういうと、アーシャは早速魔法の行使に入る。ちょっと待って!全く準備ができていない!どうすればいいんだよ!
「はっ!」
そういうと、アーシャの手から集めた魔力が打ち出される。それが魔王軍の上まで移動すると一斉に魔力の塊が広がり、魔王軍を包み込む。うーん……ここからだと魔王軍がどうなったのかよくわからない。
「はい、それじゃ和馬行ってきて」
「ええっ!?これ本当に魔王軍の人たちは気絶してるんですか!?」
「なに?私を疑うの?大丈夫だから早く行って」
もう関わるつもりはないのだろう。アーシャは何も答えてくれない。仕方ない、向かうか……。
「和馬さん、頑張ってください!」
ルーシーから激励の言葉をもらい、僕は魔王軍の元へと駆け出した。一度身体が木になってから、僕は光合成を覚えた。肩など首など隙間から葉緑体を持つ葉のようなものを出して、日光からエネルギーを生産する。そのエネルギーを自分の体力に上乗せすることで、疲れにくい身体になった。何が言いたいかって、ほぼ全力疾走で戦場まで10分とかからずたどり着いて見せたってことだ。
「うーん、結構残ってるな」
やはり魔族って呼ばれるだけあって耐性が高い奴も多いのかな。割合的には9割以上は気絶してるけど、それでも数十人は健在だ。
「こういう多人数を相手にする時の魔法は教わってないんだけどな……」
僕の魔法は広範囲で展開できる魔法ではない。身を守るだけなら多対一でも凌げるかもしれない。身の回りに強固な木を生やすだけだから。ただ、遠隔的に敵を攻撃することは手段を知らない。足元に鋭利な木を生やす?でも距離感をうまく掴めないから難しいな……。
「ていうかなんで僕こんなことやってるんだろ。はぁ……」
街へ着いて初日からこんな軍隊と事を構えることになるなんてどんな巡り合わせなのだろうと。まぁ弱音はいい。そろそろ行動に移さないと。とりあえずあれやってみるか。
「魔法は細かいことを気にしなくてもできると思えばできる。ならば」
僕は想像する。一吸いするだけで強烈な睡魔に襲われ、その場で寝てしまう花粉を放つ粉を。あっ、ついでに僕は吸っても大丈夫な粉花粉を。人が吸うと眠くなる成分なんて全くわからない。わからないからこそ、常識にとらわれずイメージした魔法を行使できるかもしれない。まぁできなかったらその時考える。
よし、なんかそれっぽい花ができた。なんだろう、今まで見たことのない花だ。例えるなら小型な禍々しい色をしたラフレシアだろうか。きっと花粉の色なのだろう、紫色をした空間がその花から漂い、魔王軍の方へと風に乗り向かって行くのが見える。
「な、なんだっ!?」
「おいっ!しっかりしろっ!」
お、いい調子だ。僕の花粉を吸った魔王軍がばったばったと倒れていく。割と適当に行使した魔法だけど、ちゃんと効果は出てくれるんだな。
「みんな!息を止めろ!この粉を吸うな!!毒だぞ!!」
しかし、こういった攻撃には慣れているのか、魔王軍側の対応は早い。僕の放った花粉で残っていた軍隊の半数以上は沈んだけど、生き残っている奴は口元をふさいで花粉攻撃をしのいでいる。
……このくらいの人数なら、花粉で混乱してる今、僕でもいけるかな?
人間を相手にするのであれば、木で串刺しにするわけにはいかないな。いや、獣ならいいかってなるとそういうわけではないけど、あれは生きていくためには仕方のないことなんだ。
とりあえず、木刀を作って……できた。よし、これで制圧すればいいや。
未だ僕が放った花粉がその辺りを漂っていて、軽い煙幕になっている。混乱に乗じて、僕は単騎で群に突撃を開始する。
「ぐっ……」
「な、なんだ!?」
「ガキだ!みんな気をつけろ敵がいる!!」
群衆の合間を加速しながらすり抜ける。その際、胴に木刀を叩き込んで敵を昏倒させにかかる。鎧を着込んでるからすごく重いんだけど。
「ぐわぁっ」
「大丈夫か!?うっ、鎧が」
渾身の力を込めて、体重を乗せ叩いてるので鎧が粉砕されている。ふむ、おかしいな。金属の鎧だから粉砕されるなんてこと起きない気がするんだけど。
「な、なんだこれ!?鎧が木になってやがる!!」
「嘘だろ!?それじゃ奴に叩かれたらその部分は木になっちまうってことか!?」




