第1章 その十一 アーシャの評判
とは言え、自慢の師匠がどんな評価を世間から受けているかは興味が尽きない。さ、周りの人の誰かに聞いてみたくちゃ。決して、アーシャに嫌がらせをしたいわけではない。怯えるアーシャを見てテンションを上がったわけではない。
さて、実行に移すか。
「やぁ、どうもこんにちは。」
「あっ、和馬ちょっと!」
そして僕はその辺で飲んでた荒くれ者な背格好をした冒険者に話しかけた。後ろからアーシャが近づいて来る。急に他の人に話しかけた僕を不審がっているようだ。察しのいいアーシャのことだ、早めに行動に移さないと邪魔されそうだな。
「おっ、なんだ坊主。見ない顔だな。それに変な格好して」
酔っ払っている様子でこちらを振り向いた荒くれ者。あとその人と一緒に飲んでた人たちが僕の格好をみて不審がっている。あー、この格好で話しかけられたら怪しまれるかな。
「あーどうも始めまして、今日から冒険者を始めた和馬といいます。色々わからないことだらけで、ぜひ話を聞きたいと思いまして」
とそんな感じに丁寧に挨拶をしたらなんとか警戒をといてくれた。それからはとりあえず適当に談笑した。普通に冒険者のことも興味があったので、色々と語ってくれる先輩方の話は勉強になった。
「そのグリムって魔物がこの近辺では主となる獲物なんですね。」
「あぁ、この地域にだけ発生する魔物でな、そんなに強い魔物ではないんだがその肉は癖があるが熟成させると旨味が出てな。この街の名物となっている。需要があるからそれなりの値段で売れるから、いい食い扶持になるんだ」
こんな感じに近辺の耳寄りな情報手に入れつつ、僕は切り出した。
「ところでちょっと気になることがあるんですけど、アーシャっていう人知ってます?有名な人らしいんですけど」
すると、周りの空気が止まった。喧騒としていた店内は静まり返り、誰1人として言葉を口にする人はいない。その間は10秒程度だった。そして僕が1番最初に話しかけた荒くれ者の人が、僕に近づいて来て小さな声でこういった。
「いいか坊主。その名は決して口にしちゃいけない。冒険者として、いや人として生きていきたければ、手を出しちゃいけない領域があるっていうことを知っておきな。」
いったいどういうことだろう。英雄扱いされていると思ったアーシャは、どうやら口にしちゃいけないあの人としてこの街では扱われているようだ。いや、この口ぶりだとこの街では止まらないのか?僕は小声でアーシャに話しかける。
(ねぇ、これどういうこと?)
(だから私の名前出すなって言ったのに。バカ和馬。)
たいそう御立腹の様子。しかめっ面でこちらを睨んで来るアーシャの視線を受け流しつつ、周りにフォローいれないと。
「すみません。まさか皆さんがそんな反応をするとは思っていなかったもので。」
「いや、別に気にしなくていいぞ。」
名前を出しただけで周りの震撼させるパワーワードと化しているアーシャの名前に多少恐怖を覚えつつ、それからは簡単な挨拶を交わして僕とアーシャはギルドを後にした。
とりあえず今からはここで滞在するための宿を探すことになった。この街は冒険者にとっていい狩場となっている背景もあり、宿屋がかなりたくさんあるらしい。僕は手持ちのお金がないので、宿を選りすぐる気はない。アーシャにすべて任せてしまおう。紛う事ない紐である。
「それで、アリシアは一体何をしたの?」
宿屋を探す道中、先ほどの事をアーシャに聞いてみることにした。
「うーん、私のことはとりあえずいいじゃない。今言えるのは、アリシアはこの世界でも有数の英雄の1人。冒険者なら誰でも憧れるヒーローってことだけ。」
そう言って答えになっているのかわからない回答を返すアーシャ。まぁ、慌てなくてもいつか知る機会もあるかな。ここで無理言って養ってもらえなくなったら困るし。
「とりあえず宿を決めたら、和馬にはその日の宿泊代を稼ぎに言ってもらおうかな!もちろん私は自分の分は出すけど、和馬の分は出さないよ?」
どうやらもともと養ってもらえるわけではなかったらしい。まぁ当然のことだったので特に異論はなく、宿の中ではグレードの低い安宿を見つけたので、そこにチェックインして僕は冒険者家業を開始する。




