第1章 その十 めでたく冒険者に
「これはね、その辺に漂ってる光を読み取っていい感じに残してくれるものだよ。」
とりあえずボカして説明することにした。正直僕もよくわからないし。
「ふーん。それじゃ私が覚えといてって言ったあの看板を忘れない為に使ったってことだよね。どんな感じなの!みせて!」
そういってアーシャは僕から携帯をとった。やめて!返して!見られたくない画像とかあるから!
「うわっ、ほんとだ。すごく綺麗に残ってる。魔法みたい。」
魔法とはとてもかけ離れた存在なんだけどな。
「えっと、光を読みとって残す……。」
そうボソボソいうと、どこから取り出したのか紙を手にとった。
「えいっ」
そう一言いうと、その紙に僕が写真を撮ったように看板を描写した。マジか、すごい。
「こんな感じかな!紙にこうやって見えてるものを残すなんて考えたこともなかったよ!凄い!」
凄いのはアーシャだと思う。まさかこんなことで新たな魔法を発明してしまうとは。どんな時でも生きているうちは日々勉強ということですか。
「でも紙に描写するのはちょっと効率悪いんだよなぁ。もっと何かいい媒体があると……。」
何かぶつぶつ言ってる。いつかアーシャを日本に連れて行ったら面白いことになりそうだ。そんな日が来るといいけど。
「まぁとりあえず中に入ろうよ。これがギルドのマークだってことは覚えたからさ。」
僕はそう言って先にギルドの中に入る。その後ろからまだぶつぶつ言いながらアーシャが付いて来る。
中に入ると喧騒に包まれていた。ぱっと見は居酒屋に近いのかな。鎧や剣、斧など色々な装備で身を包んだ冒険者たちが何か飲み物を飲みながら語り合っている。ギルドは情報交換の場としても使えるように、居酒屋を同時に経営してたりするのかも。まぁありがちな
やつだよね。でもやっぱり理にかなってるからこう似通った体制になるのかな。
あ、どうでもいいけど僕の着ているのはこっちに着た時と同じ普通の私服。最初の頃は洗濯とかしてたんだけど、アーシャが寝巻き以外いつも同じ服着てるからなんか清潔になる魔法とかあるのかなって聞いてみたら、服に対して何も触れられないよう膜を付与しているとのこと。それを聞いた僕はやり方を考えて緑の魔力を服の上に一層膜を張っている。目には見えないんだけど、汚れを弾くどころかある程度防御力もあるので鎧などは特にいらない。関節部とかに張っちゃうと動きにくくなるからそれなりに精密な操作が必要なんだけど。
まぁ何が言いたいかというと、ここでは僕の格好はすごく場違いになってる。アーシャはアリシアへと返送するにあたって、服装も変えてるから場違い感はない。だからここで場違いなのは僕だけ。ちょっと恥ずかしいよね。
「ようこそイースのギルドへ。本日はどのような御用でしょうか?」
「今日この街に来たんだけれど、滞在許可証が必要で来ました。あと、冒険者登録もお願いします。私はしていますので、こちらの和馬の分だけお願いします。」
アーシャが受付の人とやり取りをしてくれている。冒険者登録、そんなものがあるのか。
「はい、かしこまりました。滞在許可証は冒険者登録をなされていないと、発行できません。ですので、先に和馬さんの冒険者登録から始めさせていただきます。」
そういうと、受付のお姉さんはゴーグルのようなものを取り出した。なんだろう、頭につけるVRの機械みたいなもの。今までそう言った機器的なものをみたことがなかったのに、急に近代的なものをみた。なんだろうこれ。
「これを頭につけていただくと、その個人を特定する情報を読みとって、その人にだけ使える冒険者カードを発行してくれます。」
ふむ。見た目通りのものらしい。この世界の技術力はどうなっているんだろう。ギルドって各街にありそうだし、それを相互間で情報を共有するネットワークみたいなものもあったりするのだろうか。情報を読み取るってことは、それを保存しておくデータベースなんかもあったりするだろうし。それ自体はあっても不思議じゃないんだけど、今まで見て来た文化との格差がひどい。
なんか腑に落ちないけど、とりあえず頭につけてみるか。
「はい、ありがとうございます。少々お待ちください。」
そういうと、お姉さんは僕の頭につけた機械のボタンを押す。すると、僕の目の前に何か光の線のような物が見える。網膜の情報とか読みとってるのかな。わからない。てかこれどこまで読み取れるんだろ。まさかこんなので脳の中とか見れたりしないよね?そんなの覗かれてると思ったら気持ち悪すぎてやばい。
「はい、終わりました。それではこちらのカードをお受け取りください。」
そう言ってお姉さんは灰色の下カードを僕に渡して来た。なんか色々文字みたいなものが書いてあるみたいだけど、僕には全く読めない。
「このカードは色でその人の実績を示しており、最初は灰色からスタートします。それから実績を上げると青、緑、黄、赤とランクが上がっていきます。そのランクによって受領できる依頼の内容も変わって来ますので、ランクアップを目指して頑張ってください。」
どこかで聞いたような話だな。まぁ例によって文化は収束すると言ったところか。しかし、お姉さんと話をしていると日本の人と話しているような気がしてくる。ランクとか明らかな英語を使ってるし。きっとマニュアルに沿って話してるだろうから、ギルドのシステムを作った人も日本から来た人とかだったりするかもね。
その後滞在許可証を受け取って、受付を後にした。
「和馬お疲れさま。まぁこのカードはここに滞在するために作っただけだけど、興味があったら冒険者として依頼こなしたりしてもいいよ。私としては魔法の技術さえ伸ばせればそれでいいし。」
「うーん。そういうのも興味があっていいけどね。そういえばアリシアはカードもう持ってるんだよね?何色なの?」
「私はね、黒だよ。」
え?黒?
「さっきのお姉さん、黒なんてランク言ってなかったけど」
「あれは一般的なランクまでしか話してないからだよ。ギルドってどんな依頼が来てるか一覧で確認できて、その中から選択して依頼を受けることができるんだけど、実力者には公にできないような難しい依頼とかもあったりするんだ。そんな依頼もこなしてくと、裏のランクのカードが発行される。そのうちでも黒は最高ランクだね。」
なんと。ということは、アーシャは冒険者としても最高レベルの実力者ってことか。
「ちなみにどんなランクがあるの?」
「えっと、赤の先は茶、紫、虹、黒かな、基本的には色が濃くなるほどランクが高いの。虹に関しては、なんか1番目立つからっていうので1番上のランクとして用意されてたんだけど、私が昔すごい敵を倒したことがあって、特別に黒のランクが生まれたの。」
それじゃ最高レベルっていうかもう最高の冒険者って言っても過言じゃないな。なんていうかむちゃくちゃだな。まさかそんなすごい人とこっちに来て最初に出会うとは。運がいいのか悪いのか。まぁいいんだろうけど、そんなに強い人といると思うと、いよいよ僕の生殺与奪はアーシャに握られてる感じがする。
「もしかして変装してるのは、アリシアが有名人だから?」
「ま、まぁね。ていうか変装してるとか言わないで。誰が聞いてるかわからないんだから。」
そう言って周りをキョロキョロ見だすアーシャ。まぁ有名人だからって理由で変装してるならわかるけど、なんでこんな風に焦るんだ?普段から余裕のある態度しか見せないアーシャのこんな姿は貴重といえば貴重だけど、そんな英雄的な存在なら緊張する必要とかはないと思うんだけど。




