76話
慌てた様子で私の名前を叫びながら天幕に入って来たのは、父様でした。
一体何があったのでしょうか?
「父様どうしたのですか?」
「無事で良かった。お前の護衛に着けていた騎士が戦場で死んでいるのをみたからな…。お前が前線に呼び出されていたんじゃないかと思ってな。」
「ヴァグナーク隊長っ!」
「!はっ、すまん。
ダン、どんな状況になっていたんだ?」
「夜警時には交代制で1人ずつミーナの警護に当たっていて、襲撃があった時間はちょうど俺が警護に当たっている時間でした。
その為、他の護衛とは合流せずにここまでミーナと2人移動しました。他の2人は自分に割り振られた天幕で休んでいたので、そのまま前線に行ったのかと。こちらにはいつまでも合流する気配がありませんでしたし、到着時の戦闘時にミーナの戦闘力を見て自分たちは護衛する意味があるのかと言っていましたから…。」
「そうか、分かった。引き続き警護を頼む。それと、警護の人員を増やす事はすぐには出来そうにないから、暫くは一人で耐えてくれ。」
父様はダンさんとの話が終わると、私の頭を少し撫でまわしてから立ち去って行きました。
父様に撫でまわされた後に少しだけ魔力が回復したようでしたが、もしかして魔力を分けてくれたのでしょうか?確か、血のつながりがあれば魔力が分けられると教えてもらった気がします。
その後は毒消しのおかげか、ここに運び込まれる患者さんは減少しましたが、出血死しそうな軽傷者が居なくなっただけなので、重体者や重傷者が減少した訳ではありません。
しかも、いつまでこの状態が続けられるかもわからない状態です。
毒消しは量産出来ていますが、いつ材料が無くなるか分かりません。後方支援部隊でスムーズに材料を準備補充出来ればいいのですが、いつそこからの補給が途絶えるかも分かりません。やはり戦争では後方からの補給を経つようにする為の作戦を取るでしょうし…。
早期に決着が着けばいいのですが…。
戦争が早く終わればと思いながら、ひたすら運び込まれる重体者に対しての治療をしていたのですが、今回治療した人の怪我が思いのほか酷く、予想以上に魔力を使ってしまいました。
拙いですね。魔力回復補助薬を急いで飲まないと…。慌てて、魔力回復補助薬に手を伸ばしますが、ふらついてしまい倒れそうになります。
受け身を取れるスペースもなさそうなので、仕方なく衝撃に備えましたが、いつまでも衝撃は来ませんでした。誰かが私が倒れる前に支えてくれた様です。
まぁ、今この場にいる人で私を支えられる人は1人しかいませんが。
「ダンさん、ありがとうございます。」
「ミーナ、大丈夫か?
無理はするな。少し休憩をもらおう。ミーナが倒れて寝込む方が困るだろうから。」
私が休む訳には、と言う前に釘を刺されてしまいました。魔力が自分で想定していたよりも消費してしまっていた様ですし、確かに私の魔法が使えない時間が長い方が周りに迷惑を掛けてしまいますね。
私が素直に頷くと、ダンさんは近くにあった椅子に私を座らせ、魔力回復補助薬を渡してからハイルク隊長の元に向かって行きます。
ダンさんがどうやら交渉をしてくれるようです。少しでも魔力回復されるように目を瞑り安静にして過ごします。あっ、このままだと眠りに落ちてしまいそうです。流石にそれは拙いので、意思を総動員して瞼をこじ開けます。
「!なっっ!!?」
目を開けた瞬間に、人の気配がしていなかったのに目の前に人が居ました。しかもその人物はリガーフェルです。
私の声に気が付き、こちらを向いたダンさんも目を見開いています。
きっとダンさんも気配を一切感じていなかったのでしょう。慌ててこちらに向かって来ますが、少し距離があります。先程魔法で治療した方もまだ目覚めていない為、側にいても何も出来ない状態です。そして私も魔力切れを起こしている為に、体が思うように動きません。
絶対絶命とはこの事でしょう。
「この瞬間を待っていたよ。やっと手に入れられる。」
ニヤリと笑いながら、動けない私を肩に担いで走り出しました。
この人の体力どうなってるのですか!?
子供とはいえ人1人を抱えてこのスピードで走るなんて…。しかも、片手に剣を持ちながらすれ違う騎士や兵士、あまつさえ帝国側の者さえも躊躇いなく切り捨てています。どうしてそんな事が出来るのですか。
「ミーナ――――!!」
ダンさんが少し遅れながらも、私の名前を叫びながら追いかけて来てくれます。
しかし、ダンさん1人でこの男を流石にどうにか出来るとは思いません。だから、誰か…父様かお祖父様と一緒に来てください。
私は微かに動く様になった体で抵抗しながら、ダンさんが無茶をしないかを祈ります。
私の抵抗がウザかったのか、リガーフェルが舌打ちをしながらスピードを少し落としました。
これで少しは時間稼ぎになるかと思いましたが、リガーフェルは私を抱えて走りながら、器用に私の首筋に剣の柄を打ち付けて私の意識を刈り取ります。
このとき私が見た最後の景色は、モノクロに映る戦場の情景とダンさんの絶望にまみれた表情でした。
ダンさんどうか無事で………。
私の意識はそこでブラックアウトしました。
いつもお読み頂きありがとうございます。
次に閑話を入れるか悩みましたが、この章は本編が終了した後に閑話を入れる事にします。




