67話
国境へ向かう馬車には、私以外に司祭様が4人乗っています。後5人は別の馬車に乗っています。
私と同乗しているのは、最年長で唯一戦争に従軍経験のあるプリースダント司祭様を始め年嵩の高位の司祭様達になります。もう一台の馬車の方に若手が乗り込んでいます。
プリースダント司祭様が、今回の従軍する司祭の纏め役になり、私はプリースダント司祭様のお世話係をする事で、こちらの馬車に振り分けられています。それは便宜を図っただけで、私は若手の司祭の多くに、毛嫌いされていると言うのが理由です。
やはり、きちんとした手順で司祭になっていない事が気に喰わないのと、貴族の令嬢…あまつさえ、即位したばかりとはいえ陛下の婚約者と言うのも原因の様です。
国境までは馬車で約2週間かかる道のりであり、その間に、プリースダント司祭様に色々と教会の教義を教えて頂いています。
王都を出立して約1週間が過ぎ、軍行の工程にも大分慣れてきました。
そろそろ日が傾いてきたため、野営する場所を確保する頃合いになります。
軍で進行している為、町や村で寝泊まり出来る人は限られています。教会所属の司祭であれば宿で寝泊まりする事も可能ですが、プリースダント司祭様がそれを良しとしなかった為、一般の騎士様達と共に野宿する事になりました。
その事について、若手の司祭様達は不満があるようですが、プリースダント司祭様の‘戦地では常に野宿になるのだから、今から慣れねばならない。これもナディエージ神のお導きです。’の一言で黙るしかありません。そのイライラを私を標的にしてチクチクと嫌味を言う事で解消している様ですが、高位の司祭様達がその動向をチェックしているのに気が付いていないのでしょうか?
夕食を一般の騎士様達と取り終わった後に、私は医療隊としての仕事が待っています。
怪我をした騎士様が居ないか確認する巡回をして、いれば治療をし、いなければ医薬品などの備品の確認をします。
戦端が切られれば、医薬品の充実は戦況に大きく影響を及ぼす為、とても重要な確認事項になります。私がこの確認をするようになったのは、国境に向けて出立してから割と直ぐの事でした。
ある日、巡回中に怪我をしている騎士様を見つけて魔法を使わずに治療をしたのですが、治療後に使用した薬品を補充しようとした所、幾つもの薬品が不足している事が判明したのです。どうやら、医薬品の管理を言い使っていた方が、仕事をしていなかったのでした。すぐにその方は医療隊から除籍されました。
そして、それを発見した私がその任を引き継ぐ形となりました。
下っ端の私が雑用をするのはいいのですが、司祭としての仕事も全員分の雑用をしているので、意外と大変です。
司祭としての仕事は、他の司祭様が書留めた書類の整理から始まり、食事の準備と片付け、洗濯、寝床の準備、お茶の用意、朝晩の祈りの準備などなどです。
他の若手の司祭様は一切手伝いをする素振りはありません。枢機卿はどの様な人選を行ったのでしょうか?
その様な事を考えていると、ひと段落がついたプリースダント司祭様に声を掛けられました。
「シュテルネン司祭、いつも一人で雑務をこなしてもらい申し訳ない。
若手がもう少し使えればいいのだが…。あれらは貴族の次男三男で騎士にも文官にもなれなかったプライドだけが高い連中だからな。
本来なら、あの者達が私らの世話を分担して行う筈だったんだが…。」
「私が一番の下っ端なのですから、仕方ありません。プリースダント司祭様が気になさることではありませんよ。」
「私らが手伝えればいいのだが、あいにく数千人の騎士相手に4人で祈りやら相談やらを聞いているので時間が取れないのだ。」
高位司祭としてこの戦争に参加している年嵩の司祭様の4人は、軍行の休憩中や就寝中も悩める騎士様相手に司祭の仕事を行っています。
ここで疑問になるのは若手の司祭様達なのですが、彼らは高位司祭様の後をついて歩いているだけです。
付き人のつもりなのでしょう。その割には仕事もせず、就寝中に相談に来られた騎士様にも対応せずにいるのですが。高位司祭様たちは就寝中であっても相談者が居れば、すぐに身なりを整えて対応をされています。私は邪魔にならない様に、お茶を出した後はそっと控えていますが。彼らに割く軍備がもったいないので帰ってもらいたいです。
若手の司祭様達が使えない以外は、順調に軍行は進み明日には国境付近に陣を引いている斥候軍と合流が出来ます。
漸くここまで来たと思えます。戦端が切られずに帝国軍が引き返してくれればいいのですが、そうもいかないのでしょうね。
どれだけの犠牲が出るのでしょうか。願わくば、最小限の犠牲で済みますように。
昼頃に斥候軍と合流を果たしましたが、既に小競り合いを何度も繰り返していた様で怪我人が続出していました。
私はすぐに医療隊の方に呼ばれ、そちらで治療行為をすることになりましたが、若手の司祭様達に呼び止められました。
「お前、こちらの仕事が終わっていないだろう。何故、違う所の手伝いに行こうとしている!」
「私は、医療隊に所属しています。医療行為が必要な方々が待っているのですから、そちらを優先するのが妥当だと判断いたしました。」
「お前は、教会所属の司祭だろうが。これだからコネで入った奴は…。
大体、お前なんかが行ってどんな手助けが出来ると言うのだ。私達が赴いて怪我人に祈りを捧げてやろう。」
この人達は馬鹿なのでしょうか?
馬鹿なのでしょうね。怪我人に祈りを捧げた所で、怪我が治る訳ではないのですから。
それにしても私の事をなんと説明されているのでしょう?
まさか枢機卿が何の説明もしていない事は無いと思うのですが…。
呆れて何も言えないでいると、プリースダント司祭様と医療隊のハイルク隊長がやって来ました。
「お前達は何をしているのだ?
シュテルネン司祭は医療隊の隊員として此度は従軍をしているのだ。医療隊の隊務に差し障りが無い程度で、司祭の仕事をするようにと枢機卿からも仰せつかっている。
その説明は従軍前にされている筈だが聞いていなかったのか?
そもそもお前達が5人いるのは、我々高位司祭とシュテルネン司祭の補佐役としてここにきているのだ。」
「ミーナ様がお前らの尻拭いをして、怪我人が死んだらお前らが責任を取れるのか?
祈りは死者に捧げろ。怪我人に祈りなんて捧げてくれるな。生きる気力を奪うつもりか?怪我人に必要なのは治療だ。
軍行中の休憩時間にお前らの尻拭いをしていたが為に医療隊の一員としての仕事が出来なかったんだ。軍行中はさして怪我人も少なかったから黙認していたが、ここは戦地だ。怪我人など掃いて捨てる程いる。
ミーナ様の医療隊の仕事の邪魔はするな。分かったな!?」
ハイルク隊長の強面の顔に、ただただ頷くだけの若手の司祭様達です。戦闘狂の騎士様を相手に医療行為をするのですから、怖くない筈がないじゃないですか。何故そんなハイルク隊長に逆らう様な事をしようと思ったのでしょう?
まさかハイルク隊長の怖さを知らなかったのでしょうか?
「それよりもミーナ様急いで下さい。瀕死の者がいます。」
「分かりました。すぐに向かいます。」
プリースダント司祭様に一礼をして、医療所になっている天幕に向かいます。
戦争の犠牲者が少しでも減る様に、力を惜しまずに頑張りましょう。
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