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―閑話 ~ダン・フォスキーの誓い~―

前話の前宰相のお話しより、少し前のお話しになります。

時系列が前後して申し訳ありません。

隊務終了後に珍しくハンスが飲みに誘ってきた。

若手騎士御用達の店ではなく、個室がある貴族御用達の店に態々連れて行かれたので何事かと思っていたら、そこにヴァグナーク隊長とシュテルネン侯爵が現れた。


「フォスキー殿お久しぶりです。

席に座って下さい。この場は私用ですので畏まらなくて大丈夫です。」

「失礼します。」


シュテルネン侯爵にそう言われても、態度を崩す訳にはいかない。個人的にはシルバとは親友だがそれとこれとは別だ。

しかし、この面子で個室で会談となればミーナの事だろうか。


「ダン、気付いているかも知れないがミーナの事についてだ。

ミーナはパトリック王太子殿下と婚約する事になった。」

「ミーナの魔法が王国にとって有益だからですね。」

「…そうだ。」


やはり噂は本当だったんだな。王都襲撃の際に現れた銀色の光。その光に包まれた者の怪我や病気が回復した。それがミーナの力だと噂され、王家がその力を手に入れる為にパトリック王太子殿下の婚約者にしようと動いていると。

こうなれば、ただの平民出身の騎士では見守る事も、ミーナが苦境に立たされた時に助ける事も出来ないじゃないか。

元々シュテルネン伯爵…今は侯爵家に連なるお嬢様だったんだから、俺と恋仲になれるなんて思ってなかったんだから、悔しがる必要は無い。最初から見守るつもりだっただろう。


その後、鬱々した気持ちを隠しつつ会食をしたが、とても料理を楽しむ気になれない。

寮に帰ったら、やけ酒をしよう。明日はちょうど非番なんだし。


「それと、ダンには第1騎士隊の方に移動してもらう。近日中にグロー隊長から内示がある筈だ。」

「帝国と戦争が始まろうとしている今この時期にですか?」

「恐らくミーナも戦地へ赴く事になるだろう。その際の要人の警護は第1騎士隊の預かりになる。

ダンにはミーナの警護に回ってもらいたい。

私は、ミーナにはパトリック王太子殿下よりも、ダンにミーナの旦那になる事を望んでいるからな。何が悲しくて、苦労する王家に嫁がせたいものか。

それに、ミーナの事を任せられる騎士はシルバ意外だとお前しかいないからな。」


信頼してくれているんだな。この数年の努力の賜物なのか。

それよりも、好きな子の父親にその子の旦那に望んでいるって言われると、椅子の座りが悪くなるな。

さっきまでの鬱々とした気分はどこに行ったのか。よし、明日の非番は1日中剣の稽古をしよう7。


「ロイに見せたら、また四六時中攻撃魔法を放ちそうな感じだな。…俺も訓練の時はいつも以上に厳しくしてやろうって言っても、既に互角かそれ以上なんだよな。」


シルバが何か言っているが、今の機嫌の良い俺には聞こえないな。明日にでもなんて言っていたか聞くか。


翌日、非番だったがグロー隊長から呼び出しが掛かり、第1騎士隊への移動が告げられた。移動日は明日から。って、今日中に挨拶周りしないと駄目じゃないか。

バタバタと1日を過ごし、第1騎士隊に移動して新しい隊服を支給されそれに腕を通す。平民出身では一番の出世と言われる第1騎士隊に所属出来たのは嬉しい。ただ、ミーナの事情で抜擢されたと思われたくないので、実力をしっかりと示さなければ。

少しも気が抜けない。


第1騎士隊で慣れない王宮警備をする日々を過ごしていると、時々ミーナの姿を見る。

ドレスに身を纏い、侍女を連れて歩いている様子を見るとやはり俺とは違う世界の住人何だと改めて思わされる。

そんな日は、ミーナを見れて良かったという思いと、手の届かない存在になってしまった事への寂しい思いがないまぜになって、やるせなくなる。


ついに帝国との戦争に向けて王国軍が出立する日が数日後に迫った。

今日は、出立する者たちを応援する事を目的とした壮行会が王宮で開かれる。

壮行会には医療隊や教会の司祭、騎士の上役たちが参加している。俺の様な下っ端は通常通りの隊務に就いている。

今日の俺は、壮行会会場の警護が仕事だ。王太子から陛下に即位したパトリック陛下と一緒にミーナが会場に入場してきた。

ミーナの今日のドレスは、白をベースとして銀と若竹色の刺繍が施された、法衣に似せたドレスを着ている。宝飾品はパトリック陛下の瞳の色に合わせた薄い紫水晶を使っている。

どこからどう見ても、仲睦まじい恋人同士に見える。

ヴァグナーク隊長には悪いが、お似合いだと思ってしまう。そして平凡な俺では隣に立つ資格が無い様に感じさせられる。

ミーナの好きな花や物、趣味を知っているのは俺だと小さい事を思ってしまう。俺が居たかった場所なのにと…。

はぁ、仕事しよう。いつまでもミーナを見ている訳にはいかない。陛下達が入場した今からが一番危険が多くなるのだから、周りをしっかりと警戒しなければ。

周りを見渡すと、誰も彼もミーナに見とれている。いや、女性陣はミーナを睨んでいるな。恐らく、本来は自分がいるべき場所を奪った性悪女だとでも思っているのだろう。


時々ミーナの方を見ながら、周囲を警戒する。パトリック陛下と楽しそうに談笑している姿を何度も目にしてしまい、そのたびに後悔をする。しかし、ミーナは楽しそうにしているが、少し無理をしている様に感じる。もうすぐ戦争が始まる国境付近に行かなくてはならないのに、今から無理をしていて大丈夫なのだろうか?

ヴァグナーク隊長を含めた軍属しているシュテルネン侯爵家の人間は、一人の漏れも無く斥候として既に国境付近に行っている。

家族と暫く会えていないと言う事か。相談する相手がいない為に余計に無理をしているのだろうか。


そんな事を考えつつも、無事に壮行会が終わり最後に会場内を点検した後隊舎に戻ろうとしたのだが、ベルンハルトに呼び止められた。


「陛下付きの近衛騎士様がどうしたんだ?」

「陛下がお前と話がしたいそうだ。

婚約者のミーナ嬢の護衛になっているお前の心情を確かめたいんじゃないか?」


話とは何だと思ったら、ベルンハルトから先に言われた。確かに、可愛らしい婚約者の護衛がこんな若造だ不安になるよな。

それとも、壮行会の会場でミーナを見過ぎていたのがばれたのだろうか。それで、護衛の任を解くとか…それはまずいな。唯一側にいて守れる方法なのに。

俺も人の事は言えないが、嫉妬深いんじゃないか。


「パトリック陛下、お連れしました。」

「失礼します。」


そんな事を考えていると、陛下の執務室に着いたようだ。騎士になったこの数年で自然と出来る様になった礼をしながら、入室し陛下の言葉を待つ。


「面を上げて下さい。

ダン・フォスキー。貴方に確認したいことがあります。

貴方とミーナは知り合いですか?」

「はい。友人関係にあります。」

「友人ですか…。貴方はミーナに恋心を抱いているのではありませんか?」

「例え、恋心を抱いていたとしても身の程は弁えているつもりです。」

「そうですか。

………今日ミーナは、貴方の事を恋慕う様な目で何度も見ていました。貴方とミーナはかつてお付き合いをしていたのでしょうか?」

「いえ、友人としての付き合いのみです。」

「私を誤魔化そうとしていますか?」

「その様な事は一切ありません。」

「…………貴方に1つ頼みたい事があります。

ミーナと貴方を此度の戦争で死亡した事にします。どうか戦争が終わったその時の隙をついて、他国に逃れてひっそりと生きて下さい。」

「何故ですか?」

「私はミーナの事を愛しています。だからこそ、ミーナの全てを奪う事になる私の隣に置く事は出来ない。

貴方も私と同じ様に、ミーナを愛しているのでしょう?だからこそ託せると思ったのです。

勿論、貴方の騎士としてこの数年の努力をベルンハルトから聞いていますし、そして、その強さもあるからこそ、貴方にミーナを託そうと思ったのです。

受けて下さいますね?

貴方が受けなかった場合は、ミーナは私の隣に立ち続けることになります。」

「御意に。」

「ありがとうございます。ミーナの事を宜しくお願いします。

シュテルネン侯爵家に皆にはその旨を伝えます。でないと、暴れまわりそうですからね。」


陛下に一礼して執務室を後にした。

愛した女性の為に、頭を下げるべきではないこの王国のトップが頭を下げるのか。そして自分の側では不幸にするからと、守れる相手がいるからと手放す事が出来るのか。

俺に真似は出来ない。陛下の為にも必ずミーナを守り貫くと誓おう。

お読み頂きありがとうございます。


ダンの実力はトップクラスです。それこそクリーガ団長を凌ぐ程です。

パトリックはダンとのあの短い時間で、ダンがミーナの為に身を引いたり、思いを告げずに守ろうとしている事を見抜いたからこそミーナを託そうと決断をしました。

パトリックの人の見る目はずば抜けています。



次回は本編に戻り第5章がスタートします。

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