―閑話 ~エドモンド・ドゥムメンシュの独白~―
私はどこで間違えたのだろう。
先程、帝国との戦争に向けて軍が出立したと、そして、私の処刑が1週間後に秘密裏に行われる事が新しく宰相に就任した青年に言われた。
私以外にこの国の宰相が務まるような人間は、辞任させる様に仕向けたあの男以外にいないと思っていたのに。
あの男…ルーカス・シュテルネンはリガーフェル様によって瀕死の状態になったと聞いていたのにな。まさか、ルーカスの息子がその跡を継げる程の文官の才能があるとは…あの一族は脳筋の集まりだった筈だが、ルーカスの血が濃く受け継がれたのだろう。
私はあと1週間の命か…。思えば、この20年リガーフェル様の為にと色々と必死にやってきた。今まではうまくいっていたのに、王都襲撃でこの王国に打撃を加えられなかった為に私は、リガーフェル様とあの方から切り捨てられた。
あの方が私を切り捨てたのはすぐに分かった事だ。今まであの方の采配で私を補佐していた者達をすぐに引き上げさせたのだから。
私の側に残った者は、私の権力を自分の物と勘違いして行使してしまう様な馬鹿者どもだ。
そんな状況で私が一体どれだけ生き残る道を掴めると思ったのだろうか。それとも、パトリック王太子殿下…今は陛下になったのだったな、がどれほど出来るか確かめる為の駒にされただけなのかも知れないな。
私は信じる者を間違えたつもりは無い。リガーフェル様が国王になっていれば、あの愚鈍な陛下よりも王国が栄えたのは間違いないのだから。
私が切り捨てられたのは、私の力が至らなかったためなのだから仕方がない。
だからこそ、どれだけ尋問・拷問をしようとも、私は何も語らずに死ぬことを選ぼう。
どれだけパトリック陛下が真相に近づいたとしても、証拠は何も残ってはいない。私さえ語らなければ、真相に辿りつける事は無いだろう。
私は生涯あの方に忠誠を誓うと決めたのだから。
ただ、エドモンドにとっては最低の兄だったろう。私があの方に会いたいが為に入れ替わりをさせなければ…あの日に入れ替わらなければ、エドモンドがアルモルドとして死ぬことは無かっただろう。
そして、平凡ながらも幸せな日々を過ごす事が、大罪人の汚名を被る事も無かったのだろう。
あの世でエドモンドと会う事が適えば…いや、来世では、エドモンドの為に尽くして生きよう。そんな未来があればの話だが。
さて、王国に処刑されてしまえば、あの方もご不快になるだろう。
あの方からの差し入れを頂いて、潔く私の幕引きといこうか。
リガーフェル様、後の事はお願いします。あの方を支えて差し上げて下さい。私は一足先に退場させて頂きます。
*****パトリック視点*****
「陛下、ご報告致します。前宰相のエドモンド・ドゥムメンシュが服毒自殺を計りました。
処置が早かった為一命を取り留めました。」
「そうか。やはり、前宰相には後ろ盾が居たか…。
誰が接触したかを直ちに調べ、報告を。」
「畏まりました。」
帝国との戦争の為に騎士や医者が減るこのタイミングで事を起こしたと言う事は、やはり国の中枢にまだリガーフェルの息の掛かった者がいるのか。
それとも、リガーフェルさえその者の息の掛かった使いなのか…。
前宰相が意識を取り戻してからの尋問で全てを語ってくれるかどうか。全て証拠が無いのがやはり痛いな。
*****エドモンド視点*****
私は……確か死んだ筈では。
何故意識がある?体が重く感じるな。
周囲に目を向けると、服毒した時とは別の牢にいる事が分かった。ここは貴族専用の牢では無く、一般人用の牢だった。
私は死に損なったのか。
ここの牢に繋がれていると言う事は、世間的には死んだ事にしていると言う事か。
私に何をしても、何も語るつもりは無い。それは服毒する前と意思は変わらない。何故、態々生かしたのか。あのまま手当てをしなければ、処刑する手間も省けただろうに。
目を覚ましてどれくらいの時間がたったのだろうか。数分か数時間か。死を待つ私にはもう時間など関係ないか。
「目を覚ましたと聞いたので、訪ねてきました。」
「パトリック王太…陛下。何故このような所へ態々?」
「貴方に全てを語ってもらいたいからです。」
「……私が語る事など何もありません。」
「20年以上前から貴女が陶酔していたのは、リガーフェルだけではないのでしょ?
もう一人陶酔していた人物は、私の伯母に当たるプリヒユーバ公爵夫人。違いますか?」
「…………………。」
「無言は肯定と捉えられますよ。
彼女はとても王になる事に固執していた…いえ、恋をした帝国の王子の為にこの国を渡し、自分を妻にしてもらおうと画策をしていた。自身が公爵夫人になった今でも、その考えに固執してしまっている。違いますか?」
「……違います。」
「リガーフェルは彼女を蔑む前陛下を嫌っていた。前々陛下に蔑まれてきた自身と重ねていたのかも知れないですね…。
それでも、王国の為に騎士として生きていた大叔父を奈落の底に追い落としたのは、王族だった。何も優れたものが無い平民と恋仲になった事が許されずに、王族主導で20年前の悪夢に繋がる、事件が起こされた。
だから、リガーフェルはプリヒユーバ公爵夫人に力を貸し、帝国と手を組んだ。
私の考えは間違っていますか?」
「私には係わりの無い話です。
私の死刑執行は何時に行われるのですか?このような不毛なやり取りは些か疲れるのです。」
「…明日行われます。
貴女が陶酔したプリヒユーバ公爵夫人は、帝国との戦争が終結したのち貴方と同じ所に行くと思いますので、そちらでお待ちください。」
「なっ!!?馬鹿な!証拠は何も残っていない筈だ。
何故あの方が処刑されなければならない!?」
「今の貴方の言葉だけで、先程の私の考えを行程していますよ。
まぁ、冥土の土産にお教えしましょう。王国側に証拠が残ってなくても、帝国側には証拠が残っていたからです。」
「ば、馬鹿な………。」
「それでは、失礼します。」
パトリック陛下が退出していったが、私はそれどころではない。あの方が裁かれる?殺されるのか…この王国に。何故そんな事にならなければならない。
プリヒユーバ公爵は何をしているんだ!?何故あの方を守れない。
これだから、甘ちゃんのお坊ちゃまは使えないんだ。私の体が自由に動けば…ここから逃げ出す時間があれば、あの方を助けに行けるのに。
何故こんな事に…あの方を救う方法が他に有ったのだろうか?私はどこで道を間違えたのか…。
お読み頂きありがとうございます。




