―閑話 ~パトリック・ナディ・プランツェの決断~-
お待たせ致しました。
今回は長めです。
陛下が私とミーナの婚約を発表した時のミーナの顔が驚愕の色に染められていたのを見て、私はミーナに思っている事を手紙に書くことにした。
驚愕の顔色の中に戸惑いの顔色が含まれていたから、もしかしたら好き男がいるのかも知れないな。
手紙には私の…いや王国の最大の秘密を書いて、少しでも歩み寄れるようにしようと思った。そして、今後ミーナを脅かす事になるかもしれない存在の事も。
私も産まれる前に起こった事件で、緘口令も布かれていた為に大筋の事件の概要しか知らないのだ。ミーナと会った時に詳しく話せるようにする為に、私の方でも詳しく調べる必要があるな。それに、20年も王国から離れていた割にはスムーズに潜入・攪乱・逃走が出来ていたのも気になる。内部に手引きした者がいるかもしれない。
取り敢えずは王族の系図と禁書を調べてみようか。禁書の中に20年前の事件の詳しい概要が記されているかも知れないし、王族の犯した罪も確か記されている禁書があった筈だ。
もしそれで手がかりが見つからなかったら、シュテルネン魔法士団長に直接聞いて見よう。
早速、王族専用の書庫に行き系図と禁書を調べていると、やはり20年前の事件の詳細が記された禁書があった。
大叔父は、とても優秀だった様だ。陛下とは歳が10歳程しか離れておらず、また陛下よりも優秀だった為に、前陛下は後継者を自分の嫡男にするか異母弟にするかで大分悩まれていたそうだ。その為に、貴族間の派閥争いが激化し、その現状を見かねた大叔父が継承権を破棄し臣下に下り、もともと在籍をしていた騎士団で実力のみで団長まで登り詰めた。
しかしどこで歯車が狂いだしたのか、それまで力を入れていた後進の育成・人材の発掘を突如として強制的に終わらせた。終わらせ方は育成・発掘した人間の惨殺。
惨殺された者のリストに挙がっている名前を見ると、優に100人以上が殺されている。
名前を流しながら見ていると、見覚えのある家名を持つものが居た。
‘アルモルド・ドゥムメンシュ’
宰相と同じ姓の者か…。そう言えば宰相は、20年前の悪夢と言われた事件後に頭角を現し、アッと言う間に宰相にまで登り詰めた人物だったな。
アルモルド・ドゥムメンシュと言う人物がどんな人物だったのか、宰相が頭角を現す前の人物像はどうだったのかも合わせて調べよう。
ただ、誰に聞くべきか…。
そんなに昔の事をよく知っていて、私の見方になってくれる人物は…ヴァグナーク隊長ぐらいしかいないな。シュテルネン魔法士団団長も味方になってくれるだろうが、騎士団に所属していた若い騎士の人となりは流石に分からないだろうし。
そうと決まればすぐに彼の執務室に向かって話を聞こう。
「ヴァグナーク隊長、今お時間宜しいですか?
聞きたい事があるのですが。」
「殿下!どうされたのですか?
こちらへお座り下さい。ケイン、お前は訓練場で訓練を見て来てくれ。」
何かを察したのか、ヴァグナーク隊長が副隊長を外へ行かせ、2人きりで話せる状態にしてくれた。
「ヴァグナーク隊長、20年前の悪夢の事件について詳しく聞きたい。
それと、その時惨殺された中にいた‘アルモルド・ドゥムメンシュ’と言う人物について教えて欲しい。宰相との関係についても何か知っていればそれも合わせてだな。」
「20年前の悪夢ですか…。
あれはリガーフェル団長の当時恋人だった女性が王都のスラム付近で惨殺されていたのが発見されたのが切欠です。」
「恋人の惨殺死体…。何故それで100人以上の騎士を惨殺する事になるのですか?」
「その惨殺事件に係わっていたのが、リガーフェル団長が目に掛けていた騎士団の団員に複数名いたからです。
当時リガーフェル団長が交際されていた女性は、平民の女性で、たまたま助けた事で交流が出来、そして交際に至ったのです。
その女性は、亜麻色の髪に黄土色の瞳をした可愛らしい女性で、年もリガーフェル団長とは20歳程離れていました。
ちょうど入団して数年の騎士達と同じ年頃でして、よく団長を訪ねに第2騎士隊の騎舎にきていましたが、若い騎士たちの間で彼女は恋愛対象として見られる事が多く、団長と別れて自分と付き合って欲しいとよく言われていました。
彼らからしたら、20歳も年上のおじさんより自分達の方がふさわしいと思っていたのでしょう。
しかし彼女はリガーフェル団長の事をとても愛していた様で、必ず相手が未練を残さない様にきっぱりと振り続けていました。
それをよく思わなかった者が一部にいまして…暴挙に出たのです。
彼女の帰り道で待ち伏せをして、スラムに近い路地裏に連れ込み複数で凌辱した上で、自分たちが行った行為の発覚させない為に、彼女の性別や顔の原型が分からなくなる程、滅多刺しにされていました。
死体を発見したと報告をしてきたのが、非番だったその彼らだったのです。
死体を見分した際に、その日リガーフェル団長が彼女に送ったリボンを持っていた事から身元が断定され、事件が起こるまでの足取りが分かり、犯人が自分が目に掛けていた部下だと分かり…リガーフェル団長は壊れたのでしょう。
騎士団の制服を見れば襲い掛かり惨殺し、また次が目に付けば襲い掛かり惨殺する事を繰り返した結果が20年前の悪夢になります。
あの悪夢と言われた事件はたった1時間の間に起こった事です。」
「…ヴァグナーク隊長は何故そこまで詳しく知っているのですか?事件の事が記されている報告書には突然狂い惨殺を始めたと書かれていたのですが…。」
「当時の私は第2騎士隊に所属していたので、事件の報告があった段階から動いていたからです。また、リガーフェル団長が彼女に贈り物をしていたのも見ていたので、リガーフェル団長に身元確認をして頂くために、リガーフェル団長を呼んだ本人だからです。」
「そう、ですか…。」
「あぁ、アルモルド・ドゥムメンシュについてですが。
彼もリガーフェル団長のお気に入りの1人でした。そして、お気に入りの中で、異常なまでにリガーフェル団長を崇めていた人でもあります。
そして宰相とは、ご両親も見間違える程瓜二つの双子のご兄弟です。」
「事件の際に入れ替わっていた可能性はありますか?」
「それは……分かりませんが、切り殺された時の剣捌きは本人とは思えない程別人のようだったと記憶しています。
アルモンド程の実力者であれば、切り殺される前にリガーフェル団長の前から離脱する事は可能だった筈です。
ただどういう訳か、実力以下の剣捌きしか出来ない時も週に1回程はあったので、その日は運が無い日だったのだと思ったのですが、過去に何回か入れ替わっていた可能性があるのですね。」
「性格的な所はどうですか?」
「そこまで2人と深い付き合いが無かったので、分かりません。」
「そうですか。ありがとうございます。」
ヴァグナーク隊長の執務室を後にする。
計画的に交際していた女性を目に掛けていた部下を使って惨殺させて、何かの計画を実行しようとしていたのか、本当に可愛がっていた部下に惨殺されて精神が壊れてしまった所に、たまたま入れ替わっていたと思われる宰相を今回の手駒に使ったのか…。
もう少し調べた方がよさそうですね。どこを調べるべきでしょうか…。
翌日になり、朝から調べ物をしたい所でしたが執務をきっちりとこなさないといけない為、調べ物をする時間があまり取れそうにもない。
ただ執務の間は何度か宰相と顔を合わせるので、そちらを注目する事にしよう。
私だけでは取りこぼしがあるかも知れないので、フランツにも宰相に対しての情報収集をしてもらおう。
そうこうしている内に昼になり、一度昼食をとる為に執務を中断したのだが何やら王宮内が騒がしい。
一体何があったのだろうか?
フランツに視線を送り、風魔法で情報収収集をするようにする。
執務室に戻り、報告で挙がってきた王都襲撃事件の追加情報の報告書を読み進める。
今回の内容は、異形なモノの魔法士隊と医療隊のそれぞれの見解が書かれていた。報告によると、何らかの外的干渉により遺伝子操作をされ産みだされた可能性があるモノと、【陣】を用いて複数の動物を組み合わせた事により作りだされたモノの2種類が居たとの事だ。
何らかの外的干渉は、大叔父の力が使われている可能性が高いな。数の比例としては3:1で何らかの外的干渉を受けたモノの方が多い。
と言う事は、【陣】を使ったモノよりも大叔父の力を使った方が用意が楽なのだろうか…。もしくは、【陣】を使った方法が確立されたのが最近で、此度の襲撃に数を揃える事が出来なかったのか…。
机上で考えた所で何も分からないな。
だが、今度の戦争であの異形なモノを使ってくることは確かだろう。
魔法士隊と医療隊にはさらに研究を進めてもらう必要があるな。出来る事なら【陣】の詳細も解明する事が出来ればいいのだが。
「パトリック、情報をある程度収集出来たぞ。」
「何が起こっていたんだ?」
「シュテルネン侯爵家の領地の通達があり、それに不服申し立てをしたシュテルネン侯爵が宰相補佐官の任を辞任した。それに合わせて、シュテルネン侯爵家の人間が次々と辞職願を出した様だ。」
「…どこの領地が通達されたんだ?」
「過去、帝国と戦争が起こった際に悉く戦地になり、焼け野原が多くなる帝国と接している国境の領地で、現在は王国直轄地のグレンライヒ領だ。」
「それはまた…。これの決定は陛下と宰相の独断か?」
「多くの大臣が反対しているが、プリヒユーバ公爵が後押しをしそれに倣う大臣も数名出ている。
それと、陛下に不服申し立てをした事で、不敬罪に処して身分剥奪をする声も挙がっている。」
「宰相の後ろ盾は、プリヒユーバ公爵と見るべきか?」
「まだ断定は出来ない。」
「また何か分かったら情報を伝えてくれ。」
フランツが頷きながら、控えの位置に戻る。フランツは幼い頃からの付き合いだから他者の目がない時はフランクな話し方をしてくれるから気が楽だな。
ミーナにもそんな存在が居ればいいのだが…。それよりも、宰相はシュテルネン侯爵家をどうしたいのだろうか。
ミーナを私の婚約者にするように進言し、婚約者にする為に必要な手立ても立てたかと思えば、シュテルネン侯爵家を潰す様な事をしている。
ミーナの事とシュテルネン侯爵家に対する事は別で考えるべきか?
考え込んでいると、護衛騎士であるベルンハルトが警戒するかの様に周囲の気配を探っている。
今度は何が起きたんだ?
「おや、王太子の護衛は流石に優秀なようだね。私の部下になるかい?
――っと冗談だよ。余裕が無いとは駄目だね。ミーナを見倣った方が良いよ?」
ベルンハルトが窓に佇む不審者に切りかかるが、余裕を持って交わされている。かなりの実力者だな。不審者が被っていたフードが落ちて髪や瞳の色が露わになり、不審者の実力に納得する。
プランツェ王国特有の銀髪に薄紫色の瞳と言う事は…。
「リガーフェル大叔父殿ですか。」
「へー、意外と冷静だね。王太子だったら、私の起こした事件と強さを知ってるだろうに。
その護衛は中々優秀だけど、まだまだな所があるから私にはどうやっても勝てないよ。」
「王族を17年もしていると、殺気の有無ぐらい分かるものです。
貴方は今、私を殺そうとはしていない。」
「正解だよ。父親よりかはマシな様だね。
私が殺す予定は、当初の通りあの木偶の坊だけにしよう。まぁ、それ以外の者の行動は私の管轄外だから、殺されても文句は言わないで頂きたいね。」
それだけを言い残すと、窓から飛び降りわざと姿を王宮の護衛騎士達に見せる様に走り去っていく。
私を殺すかを見極めに来たと言う事は、木偶の坊とは陛下の事か。そう言えば今日は一度も陛下と会っていないな。
まさか既に暗殺されているのか?…いや、それならばもっと王宮が騒然としている筈だな。
「フランツ、陛下の状況を探ってくれ。」
「了解。」
「ベルンハルト、ありがとう。怪我は無いか?」
「殿下、仕留められず申し訳ありません。
怪我はありませんが…あれは化け物の域に達している達人です。
本気で掛かって来られたら、殿下がお逃げになる時間を稼げるか…。」
「それほどまでか。負担を掛けるが警戒を頼む。」
「はっ。」
「パトリック、陛下の状況を探ったが床に臥している様だ。」
「何だと?」
「しかも、陛下付きの医者は牢に繋がれている。
陛下の臥せっている原因は急病で夜中に突然倒れたらしいが。」
「何の連絡も来ていないな。陛下の寝所に現在出入りしているのは?」
「宰相とその息が掛かった者のみだ。」
「殿下、宰相を捕まえに出向きましょうか?」
「……いや、いい機会だ。ここで陛下には表から退場して頂いて愛妾と余生を過ごされればいいだろう。
状況が動き次第、こちらも動く。フランツは常に宰相とその息が掛かった者の監視を。
ベルンハルトは密かに集めた信のおける者たちにいつでも動けるように連絡を。」
「「御意に。」」
執務を行うようになり徐々に感じていた陛下の施政に対しての不安と不満、そして王都襲撃における後処理の不備。
今はまだ大々的に王国の打撃にはなっていないが、それがいつもで持つかもわからない。まして、戦争が起ころうとしているのに、あの陛下と宰相をこのままにする訳にはいかない。
陛下と宰相を退場させ、私がどれだけの泥と血を被ろうとも王国民の為にも耐え忍ぼう。
…ミーナに同じ道を歩ませる訳にはいかない。今まで彼女は辛い思いをさせて来たのだから、幸せになってもらいたい。いや、間接的になってでも幸せにしたい。
その為に出来る事も合わせてして行こう。
いつもお読み頂きありがとうございます。
暫くは不定期更新が続きます。
次回も閑話になります。




