62話
ここでこの男にキレてもさらにグチグチと言ってきそうなので、キレるのは王宮についてから陛下にいたしましょう。
陛下には、この男に対しての文句も言ってやらねばなりませんし。
その際の証人が私の家族のみで、第三者の証言が無い為どこまで信用してもらえるかですが、もし信用しない様ならば、私にも覚悟はあります。
「申し訳ありません。姉様の出産の手伝いをしておりこちらに籠っておりましたので、準備がまだ整ってはおりません。
ですので今しばらくお待ちいただくか、先に王宮にお戻り頂いていても宜しいでしょうか?」
「なっ!?
数日前までただの庶民だった小娘が私に指図するとは何様だ!!
私が誰だか知っていての言動か!?」
「あいにくと、数日前までただの庶民の小娘だったので、貴族様のお顔とお名前には疎いものでして、失礼してしまいました。」
知る筈がないでしょうに。名乗りすら上げてないこんな失礼な男の事なんて。
侯爵家になっているシュテルネン家に対してこのような態度でいられると言う事は、公爵家の人なんでしょうが、公爵家って確か10家ぐらいあった筈なので当てずっぽうでは答えられませんし。
「ユーディット伯爵子息様、いい加減こちらの部屋から退出して頂けないでしょうか?
ここには、出産を終えたばかりの妻と産まれたての子もおりますので。
まさか、宰相様の縁戚の方で伯爵家の出身の方がここまで不調法な方だったとは知りませんでしたが。」
「き、貴様…私を愚弄するつもりか!
私を愚弄すると言う事は、宰相である我が伯父様を愚弄すると言う事だぞ!!」
何を言っているのでしょう、こいつは。
貴方を愚弄する事で、別に宰相を愚弄する事にはならないでしょうが。馬鹿なのですか?
いくら宰相の縁戚…甥だからと言って、格上になる侯爵家にこのような態度が取れるとは驚きですよ。どこでも宰相の威を借りて威張り散らしていそうですね。今後あるかは分かりませんが、絶対に近づきたくない方ですね。
「その様な事は申してはいませんわ。ですが宰相閣下のご指示で来られていたのですわね。
その割には態度が一方的ですし、なにより先触れもなく、騎士やら魔法士やらをぞろぞろと連れて誰を訪ねて来たかも言わずに、さっさと出せだの、陛下のご命令だの、このままではどうなるか分かってるのか、などと言って、門などを破壊させたりしていましたもの。
当家としましては、どうする事も出来ませんでしたわ。
そうで御座いましょう?その様な方の前に出て行って万が一にも何かあってからは遅いですもの。我が家はお義父様の功績で、帝国から暗殺者がよく訪れますもので。
ですが、今回の事は宰相様のご指示だったのですね。では破壊された門などの修繕費は宰相閣下に請求すればいいのですわね。
まぁ、なんとお優しい事なんでしょう。これはお茶会の席で孫が無事に産まれた事を報告するついでに一緒にお話しして花を咲かせねばなりませんわね。」
「な、な、な何を言っているのだ…。
私はただ、いきなり侯爵になり、尚且つ縁戚の小娘を養子にとってパトリック王太子殿下の婚約者に納まった身の程知らずが、これ以上場を弁えない様にするために少々過剰でしだったがかもしれないが、警告をしたまでだ!
そうだ、警告をしたまでだ。それを、あたかも私や伯父様が狼藉を働いた様な物言いをするとはなんと言う事だ。
この様な家の者が王族になるとは、甚だ遺憾だ。
これは伯父様と陛下のお耳に入れて差し上げなければならないな。
この事を風潮して、恥をかきたくなければ大人しくこちらの言う事を聞いている事だな。」
どんな屁理屈とこじつけですか?
パトリック王太子殿下の婚約者にならないんでいいな、願ったり叶ったりなんですが。
と言うか、いつまでここでわめき散らせば気が済むのでしょう?
さっさとたたき出して良いですよね?よし、たたき出してやりましょう!
と思ったら、既にカール兄様が動いていますね。私は傍観しましょう。少しでもあの男には近づきたくはありませんしね。
それにしても、脳筋だと思っていたアマンダ義母様が便がたつとは思いませんでした。いえ、もともと脳筋だとは思っていなかったので、便がたつのは当たり前でしたね。
しかも、口調がいつもと違いシャルロッテ姉様と同じになっていたので、迫力が違いました。あの口調で言われたら、貴族の女性であり、噂話がとてもお上手に感じますよね。
「シャル、出産と言う一大事に側にいられなくて申し訳ありませんでした。
あの男を侵入させない様にする為に、表にいなければいけませんでしたので…。
無事に子を産んでくれてありがとうございます。」
「いいのですわ、カール様。ずっとミーナが付いて励ましてくれましたもの。
それに、あの男が侵入してくるのをずっと阻止されていたのでございましょう?お疲れさまでしたわ。」
「それを言うなら、シャルもでしょう。」
あのうるさい男をたたき出した後に、カール兄様がシャルロッテ姉様に労いをしているのですが、何でしょうこの甘い雰囲気は。今から2人目を作るような空気を作らないで頂けないでしょうか。
2人の様子を呆然と見つめていると、アマンダ義母様が近寄って来ました。
「2人のあの雰囲気はよくある事ですから、早々に慣れた方が良いですよ。
それよりも、ミーナは王宮に行く用意をしなければなりませんから、自室の方へ移動しましょうね。
見回りもして、取り敢えずの安全は確保できましたから。」
「やはり王宮に行かねばならないのですね。」
「流石に今はまだ陛下からの召集を完全に無視する訳にはいきませんからね。
王宮の方には使いを出しているので、今回の遅れは問題にされ無い筈ですよ。もし問題になったのであれば、家の事は考えずに、ミーナの好きな様に動いて構いませんから。
私も一緒に付いて行き、一緒に暴れられれば良かったのですが。」
アマンダ義母様…暴れたいだけではありませんよね?
あぁでも、あの男の相手を7~8時間近くしていたのであれば、ストレスが溜まって暴れたくなりますよね。
そうですね。アマンダ義母様が側にいれば、何だか安心が出来そうです。
「それでしたら、アマンダ義母様は私の付き添いで一緒に行くのはどうでしょうか?
前回の謁見を抜かして、王宮に上がるのは初めてですから、所作に不安がありますし…。
それに、色々な判断をアマンダ義母様にして頂きたいですから。」
「それが良いですね。本来は父上が行ければいいのでしょうが、まだ起きられていませんし、病み上がりで王宮に行って頂くのは心苦しいですからね。
母上お願いしても宜しいでしょうか?」
「勿論ですわ。
そうと決まればこうしてはいられませんね。早く戦闘準備を整えなくては!
アイン、行きますよ。エマはミーナの支度を頼みますよ。」
そう言い残してアマンダ義母様は颯爽と部屋を出て行きました。戦闘準備って一体何を準備されるのでしょうか?
そう思いながら、私もエマと一緒に自室に戻り支度をしました。
支度が済み、アマンダ義母様と馬車に乗り王宮へ向かいます。こちらはちゃんと先触れを出しましたよ。
よしっ、陛下達の出方次第では盛大に文句を言ってやりましょう!
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