63話
今回は少し長めです。
アマンダ義母様と一緒に王宮に到着すると、やっと来たかと言う雰囲気が漂っています。
何故でしょうか?先触れを出してますし、すぐに来られなかった状況も連絡していた筈ですが…。
隣を歩いているアマンダ義母様も訝し気にしています。
「ようやく来ましたか。
陛下からの召集命令だと言うのに随分と…。これは、今後の事を再度熟考した方がよろしそうですね。
付き添いで来られたシュテルネン伯爵夫人はここでお帰り下さい。
こちらが用はあるのはご令嬢のみですので。」
「何故ですの?ミーナはまだ未成年の子供ですわ。保護者として付き添うのは妥当だと存じますの。
それと、先日我が家は侯爵の位を頂いておりますので、今後はご注意下さいませ。」
「宰相閣下からの指示で、お通しするのはご令嬢のみと言われていますので。
…そんなに位を鼻に掛けないで頂きたいですね、脳筋の一族の癖に。それにすぐに降格されるから、いちいち呼び方を変える必要は無いでしょうに。」
小声で聞こえない様に言ってるつもりの様ですが、シュテルネン家の悪口が丸聞こえですよ。わざと言っているのでしょうか。
私に聞こえていると言う事は、隣に立っているアマンダ義母様にも丸聞こえな訳でして…。
「あなた名前は何というのかしら?
私の家の事を貶めていらっしゃるのですから、それは名のある家のご出身なのですわね。
不勉強の事で申し訳ありませんわ。何せ脳筋の一族の人間ですもので。」
うわー、アマンダ義母様からブリザードが噴出してますよ。この侍従はどうするんでしょう。
そもそも侍従をしているのですから、爵位は高くても没落寸前の伯爵家か伯爵家でも将来の食い扶持に困るような4男とかですよね?
通常侍従に就く者は、子爵家とか男爵家の次男以降の男性や準貴族の騎士爵・商爵でその道の才が無い者ですよ。
元のシュテルネン家の爵位は伯爵だったのですから、無礼打ちにされても文句は言えません。それに、貴族に対して、このような言動をした事が公になった場合、その人の主人の顔に泥を塗る事になるのですが…。果たしてこの方はその事を分かっているのでしょうか?
「私は、宰相閣下付きの侍従ですよ。貴女に名を名乗る言われはありません。
この事は宰相閣下に伝えさせて頂きますので、ご覚悟をしておいて下さい。」
えっと…この人も宰相の手の者なの?屋敷に来ていた男といい、この男といいまともの人間は宰相にはいないのでしょうか?よくそんな人が宰相になれましたね。不正でもしたのでしょうか?
アマンダ義母様も、この男の言動に唖然とするしかありません。馬鹿な事をよく正論だと思って言えますわとでも思っているのでしょうね。
さて、いつまでもここでこの男と問答をしていても埒があきませんね。ここは親玉の所に乗り込みましょう。
アマンダ義母様の怒りの分も発散してきましょう。
「アマンダ義母様、ここからは私が一人で伺います。もしご迷惑でなければ、帰りの時までお待ちいただけませんか?
流石に1人で王宮にいるのは心細いですので…。それで構いませんよね?」
「…仕方ありませんね。控室をご用意させて頂きます。
全く王太子殿下の婚約者になる人間がこのような人間とは嘆かわしい。」
だから、聞こえていますよ。よし、この男も後でコテンパにしてあげましょう。
私だって、好きで婚約者になった訳ではないのですから、婚約破棄して頂いて構いませんよ。
内心のイライラを出さない様に、小さく微笑みながら後をついて行きます。
お互い無言で歩いていると、つい数日前に訪れた謁見の間に到着しました。
到着するや否や、自称宰相の侍従はこちらに挨拶をする事も無く、どこかへと消えて行きました。私としても済々するので構いませんが、退席の挨拶ぐらいするのが当たり前だと思うのですが。主人への不評に繋がるとは考えていないのでしょうか?それとも小娘と侮っているのでしょうか?
侍従の男の行動に、謁見の間を警護している騎士の方が眉をしかめています。
気持ちはよくわかりますよ。
「ミーナ嬢、大丈夫でしたか?
あの男は宰相閣下の侍従なのですが、最近王宮について来る様になった者でして、あちこちで不興を買っているのですよ。
と言うか、王都襲撃以来、宰相閣下の周りにはあのような輩が目立ち始めまして…。宰相閣下には十分にご注意下さい。…この中にもいますので。
それよりも付き添いは誰もいらっしゃらないのですか?」
「アマンダ義母様が付き添いで来られていたのですが、入り口で止められてしまいまして…」
その言葉を聞いて、扉の前にいる騎士様が目配せをしています。この方達は父様の直属の部下の方なので、私も騎士団で訓練をする際に面識があります。
きっと、父様に現状を伝えに行って下さる手はずを整えて下さるのでしょう。
「ミーナ嬢、隊長には私共から連絡を致します。
おそらく、隊長もシュテルネン魔法士団団長もこのような事態になっている事を把握していないかもしれませんので。」
「どういう事ですか?」
「詳しくは謁見の後、お屋敷にお尋ねしてお話を致します。
ここではあまり詳しくは話せませんので…。」
「アマンダ義母様が控え室で待っていてくれる事になっているので…」
「畏まりました。すぐに手はずを整えます。」
流石父様に鍛えられた騎士様ですね。濁していたこちらの言いたいことを理解して頂けました。
アマンダ義母様には、控室にいる艇を装って貰い、父様かお祖父様に連絡を取ってもらおうと思っていたのですが、もしかしたらその行動が命取りになるやもしれませんから、大人しく本当に待っていて頂けるようにしてもらいましょう。
私と騎士様達で頷き合い、謁見の間の扉を開いてもらいます。
さて、なにが起こるのでしょうか。
顔を伏せながら謁見の間に入り、この間止まった位置で止まり最上級の礼をとりその場で声が掛かるのを待ちます。
ですが中々声が掛かる事がありません。ずっとこのままでしょうか?鍛えているのでこのままでも構いませんが、普通のご令嬢だったら悲鳴を上げるのではないでしょうか?
「まず、此度の召集に中々答えなかった事について申し開きがありますか?」
冷たい声で、宰相が話しかけてきます。このまま話し出してもいいのでしょうか?
悩んでいると、イヴォール大臣が話に割って入ってきました。
「陛下からの召集と言われますが、ここ2日程宰相以外に陛下とお会いした方が1人もいないのはどうゆう事か説明が先だと思いますが。
それに、シュテルネン侯爵家に起こった事は既に知らせが届いていたはずです。それで申し開きも何も無いと思いますが。」
「何を言ってらっしゃるのですか。陛下の命令はどんな事よりも最優先させられる事項に当たりますよ。
それを実行できないのは貴族の風上にも置けないと思いますが。
それに、陛下は突如体調を崩されて誰にも会う事が出来ない状況なのです。私もお会いするべきではない程憔悴しきっているのですよ。」
「それであれば、なぜ陛下付きの医者が診察をしていないのでしょうか?」
「陛下の体調を突如として悪くさせた者に大切な御身を任せらとれる筈がないからです。私の手配した医者が陛下を見ておりますので、問題は無いかと。」
「では、宰相がお会いするのもためらう程憔悴している陛下がどのような理由で召集をかけたのでしょうか?それと、パトリック王太子殿下がこちらにお目見えになっていないのは何故ですかな?」
「パトリック王太子殿下にはお聞かせするのは憚る内容の事での召集だからです。」
「それは、どういう事でしょうね。宰相。私はこの国の時代を背負う者なのですよ。
好き嫌いで物事を選りすぐるつもりは毛頭ありません。
それと父上がご病気になっている事を、私も母上も何も聞いていませんが。その事はどうなのですか?
貴方にはこの場で色々とお伺いしないといけない事があるようですね。
ミーナ、表を上げて下さい。」
「な、何故この場にいるのです…」
「私が居ては不都合ですか?」
「いえ、その様な事は…」
パトリック王太子殿下が突然登場したことにより、宰相が軽くパニックになっています。
この宰相は大物のつもりでいる様ですが、今の状態を見ると只の小物に見えますね。
「ミーナ、私が許可をしますので、昨夜の事からを自由に話して下さい。
ここに集まっている者の中には詳しく知らない者もいる様ですので。」
パトリック王太子殿下から許可が出ましたので、では宰相の配下の暴挙を言わせて頂きましょう。
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