61話
シャルロッテ姉様と手を繋いで眠ってどれくらいの時間が立ったのでしょう。
何だかとても懐かし場所と人にあった様な感じの夢を見ていたと思いますが、内容は全く思い出せません。
夢の内容を思い出せないかと微睡ながら考えていると、隣から苦しそうなうめき声が聞こえてきました。
慌てて起き上がり、隣を見るとシャルロッテ姉様がお腹を押さえながら冷や汗を流しています。
もしかして陣痛が始まったのでしょうか?
「シャルロッテ姉様大丈夫ですか?
私の声は聞こえていますか?すぐに誰かを呼んで来ます。」
「ミーナ大丈夫ですわ。恐らくお腹の中の子が産まれてこようと頑張っているのでしょう。
そこのベルを鳴らせば侍女が誰かしら来るはずですわ。ベルを鳴らしてもらってもいいかしら。」
私はシャルロッテ姉様に頷いてからベルを手に取り鳴らし、侍女が来るまでの間に出来る事をしましょう。
取り敢えずは、額の汗をタオルで拭いましょう。
桶に水を張りタオルを浸してきつく絞り額の汗を拭い、次に首元も拭ってしまいます。
ここまでやるのに多少でも時間が立っていますが、侍女が誰も現れません。どうしたのでしょう。何か起こっているのでしょうか…?
依然として、苦しそうにしているシャルロッテ姉様が居ます。腰を擦れば少しは楽になるでしょうか?
そう言えば、テニスボールなどでお尻を押すと楽になると前世で聞いたことがあります。
テニスボールなんて優れものはここにはありませんので、拳を握って押すことにしましょう。
「シャルロッテ姉様、少し失礼します。」
そう言ってから、拳でお尻を押してみます。少しですが、シャルロッテ姉様の表情が和らいだ様に思います。異世界でもこれは有効なのですね。そうであれば、侍女が来るまでの間、拳で刺激をしておきましょう。
でもその前にもう一度ベルを手に取り鳴らします。今度こそ早く来てください。
その願いが通じたのか、エマが慌てた様子で部屋に飛び込んで来ました。
どうしたのでしょう?所作がエマらしくありません。やはり何事かが起こったのでしょうか?
「若奥様、ミーナお嬢様遅くなり申し訳御座いません。
王宮からの使者を追い返す為に、使用人全てで対応しており伺うのが遅くなってしまい…ミーナお嬢様は何をされているのですか?」
「エマ、シャルロッテ姉様が産気付かれました。すぐにお産の準備をお願いします。
私がしているのは、これをすると少しですが楽になるので…。」
「!至急に手配いたします。」
そう言い残すとエマは脱兎のごとく部屋を飛び出して行きました。
暫くすると、年嵩の侍女が2人部屋に入ってきて、迅速に準備を進めています。
この世界の出産事情は、前世程の安全性はありません。それこそ出産は命がけの大仕事になり、周りがどれだけサポート出来るか、手配できた産婆の腕により母子の一命が決まると言われている程です。
入ってきた年嵩の侍女の1人は、シュテルネン家に仕える産婆でもあり、ルーカス義父様や父様を取り上げ、その後もカール兄様から私や他の使用人の子供までを取り上げて来たベテランの産婆になり、腕は一流になりますし、もう1人の侍女もサポートとして経験豊富な方になります。
出産の準備としては、これほど頼りになる人々はいませんね。
ただ、通常であればこの2人以外にもサポートをする侍女がいるのですが…。
「ミーナお嬢様のお手を煩わせてしまいますが、他の侍女がこちらに来ることが適わない状況になってしまっておりますので、お手伝いをお願いできないでしょうか。」
「はい、出来る限りのサポートをさせて頂きます。
遠慮せずに何でも申し付けて下さい。シャルロッテ姉様や産まれてくる子が無事である様に、私も尽力を致します。」
「「ありがとうございます。」」
その後は、2人の出す指示に従いながら、時折シャルロッテ姉様の汗を拭いたり、水を飲ませたりしました。
体感的には7~8時間程経った頃に、産婆の侍女がシャルロッテ姉様に、いきむ様に指示を出し始めました。
いよいよ最終段階になったのですね。
その頃には、私に出来るようなサポートが無くなっていたので、シャルロッテ姉様の手を握り、耳元で励ましていました。
「頑張って下さいシャルロッテ姉様、後少しでお子様に会えますよ。」
シャルロッテ姉様は頷きながら、指示に従っていきんでいます。
数度いきみを繰り返したのち、産婆の侍女の手に赤ん坊が抱かれました。
「おぎゃっおぎゃっおぎゃっ…」
元気な声で泣いています。子供は無事に産まれ、産婆の侍女がシャルロッテ姉様に赤ん坊を近づけながら性別を教えています。
「立派な男の子にございます。おめでとうございます、若奥様。」
「良かったですわ。元気な大きな声です事。これからシュテルネン家はさらに賑やかになりますわね。
カール様にも早くお教えして差し上げて?」
「畏まりました。」
サポートをしていた侍女が一礼をしてから部屋を退出していき、産婆の侍女が産まれたての赤ん坊の世話をしています。
この状況で私が出来るのは、シャルロッテ姉様のお世話ですね。
新しいタオルでシャルロッテ姉様の体を拭き清め、ローネ入りの水を飲んで頂きます。
後は縛らくここで大人しく寝ていてもらいましょう。出産は体力を使いますから、産後は安静にしないといけませんからね。
後は、何か食べ物を食べて頂きたいのですが、どうしたらいいでしょうか?ベルを鳴らせばエマ辺りがまた来てくれるでしょうか?
「シャルロッテ姉様、何かして欲しい事はありませんか?」
「ありがとう、ミーナ。今のところは大丈夫ですわ。」
「何か思いつかれたらすぐにおっしゃって下さいね。」
シャルロッテ姉様が微笑みながら頷いてくれたので、これで一安心ですね。
「ミーナお嬢様、ありがとうございました。
ミーナお嬢様もお疲れで御座いましょう。少しお休みになられてはいかがでしょうか?
それとも何か食されますか?」
「シャルロッテ姉様が食べてから、私も頂きます。
貴女もお疲れでしょう?何かあればお手伝いしますのでいつでも申し付けて下さいね。」
「ありがとうございます。」
産婆の侍女が、シャルロッテ姉様に赤ん坊を渡しながら、私も気遣ってくれています。
やっと一息つけると思って、シャルロッテ姉様の近くに用意された椅子に腰を掛けると、部屋の外が騒がしくなって来ました。
カール兄様やアマンダ義母様にしては騒がしいですね。お祖父様が帰られて曾孫が産まれた事で騒いでいるのでしょうか?
そんな事を考えていましたが、部屋の扉がノックも無しに突然開き、見知らぬ男性が部屋に入ってきました。
誰でしょう?と言うか、とても無礼で不躾な方ですね。出産直後の女性が休んでいる部屋だと言うのに。
「ミーナ・シュテルネン、さっさと王宮に上がる様に。陛下がお待ちです。
一体どれほど待たせれば気が済むと言うのでしょうか。この家は陛下の召集にも従えない愚かな家だとは。こんな家出身の小娘が王太子殿下の婚約者とは嘆かわしい。」
突然現れて何をブツブツ言っているのでしょう。
こっちは好きで婚約者になる訳ではないのですが。この状況を見ていますか?
屋敷の使用人も貴方の後ろにいるカール兄様もアマンダ義母様もシャルロッテ姉様も、研ぎ澄まされた刃の様な絶対零度の目線で貴方を見てますよ。
私自身もとても不愉快です。キレて良いですよね?キレますよ。こんな男を送ってきた陛下の指示にはもう従わ必要は無いですよね?
パトリック王太子殿下は直接話した後に、不愉快だったらキレても構いませんよね?
こんな事をされたり言われたりしたらもう我慢しなくても良いですよね?
不敬罪?何それおいしいの?
お読み頂きありがとうございます。




