60話
カール兄様が執務室でルーカス義父様に聞かされた、現在の王国の状況を説明してくれました。
「帝国に潜んでいる王国の密偵から昨日の夕刻…もう朝日も昇る頃なので一昨日の夕刻になりますね…に緊急の連絡が入り、帝国が軍行を行う為の徴収や徴兵を始めた事や増税、プランツェ王国に対して悪辣な批評をしだしたとの事です。
間違いなく、近日中に布告がされて進軍してくるでしょう。」
「ちょっと待って、カール。
陛下からのミーナのお披露目と、パトリック王太子殿下との婚約の発表を2週間後にするようにされたのは今日…じゃないわね、昨日の朝よ。
帝国が動き出して情勢が不安定になる時期に、その様な事を大々的にするなんて…まさかっ!?」
「母上、そのまさかです。
回復・治癒系の魔法が使えるミーナを王家に取り入れたとアピールする為でしょう。
それと、シュテルネン家の領地が決定しましたが、帝国との国境にあり、過去の数度の戦争の時に戦場になっている土地を含みます。
父上の見解としては、ミーナを王家に取り入れる為に、英雄を有する我が家が目障り、もしくは邪魔なので、戦争で潰してしまう魂胆なのではないかと思われていました。
この件は陛下と宰相殿2人の独断で決まった事の様です。
他の大多数の大臣達はその事に対して、不服申し立てをしていましたが、その場で却下されたそうです。」
どこの独裁政権になっているのですか?この王国の王は賢王が多い筈なのですが…。だから私も決定に不服を申し立てていなかった…いえ、どの道身分的に不服申し立てなど出来ませんでしたね。私の大切な家族に危害を加えるつもりでしたら、大人しく言う事を聞くつもりはありません。
そうなった時は、変装などして国外逃亡します。出来れば家族と一緒に逃亡したいですが。
そんな事を思っていると、アマンダ義母様が呆れを滲ませながら、陛下に対しての批判を言われました。
「陛下はお若い頃は賢王だったはずですが…、あの宰相が宰相になり愛妾を囲うようになってからは、愚王への道を突き進んだのですね。
愚かな事です。」
「その通りですわ。一国を支える柱である陛下が宰相の言いなり状態などとは、笑い話にもなりませんわ。
ここは退位して頂かなければいけませんのではありません事?」
悪いのは宰相と言う事ですか?私もあの人は好きではありません。人の事を駒の様に見下す感じがにじみ出ていたので。
「ここで私達が話していても意味がない事ですが。
話を戻しますが、私達に与えられる領地に関しては父上が不服を申し立てています。その申し立てをする為に、父上は王宮での出仕を辞してきたとの事です。
そして、お祖父様とハンス叔父上・アルノー・シルバ・ロイも辞職届けを提出したそうです。
ただし、これから戦争が始まるのに優秀な騎士や魔法士が抜けるのは痛手になる上に、他の者も追随する可能性がある事により、許可はされてはいません。
本日戻って来なかった原因だそうです。決着が着くまでは戻って来れないだろうと思われましたが、今日の襲撃された事で執事を王宮に向かわせたので、もしかしたら帰って来れるかもしれませんね。」
お祖父様に父様にシルバ兄様達も一体何をしているのですか!?
それにルーカス義父様は既にお仕事を辞してしまっているなんて。これからどうやって食べて行くつもりでしょうか?使用人さんの生活も掛かっているのに、そんな簡単にやめてしまってもいいのですか?
しばらくは今までの貯金で何とか暮らせるかもしれませんが、計画性は大事ですよ。
「カール兄様、仕事を辞められて拝領する領地に対しても意義申し立てしているとなると、今後はどうなるのでしょうか?
それと気になったことがあるのですが、襲撃者の男…えっとリガーフェルが王宮でわざと数回程目撃されるようにしていたそうで、王宮の警備が厳しくなっている筈と言っていました。」
「王宮でですか…。ミーナ、今後は絶対に1人で行動をすることはしないで下さい。
良いですね?」
「分かりましたが、理由を聞いても良いでしょうか?」
「…もしかしたら宰相は帝国側の人間かもしれませんね。ただ可能性の域をでないので何とも言えませんが…本当にこの王国を捨てるつもりでいないと、大切な者を守る事が出来ませんね…。」
「カール兄様、最後の方が聞こえなかったのですが。」
「私の独り言ですので、気にしないで下さい。」
「?分かりました。
そうだカール兄様、怪我をされている警護の方はどこにいますか?魔法で怪我を治したいと思います。」
「重傷者だったものは、皆亡くなりました。
生きているのは軽症者のみになりますので、魔法は使わなくて大丈夫ですよ。
その気持ちだけ受け取っておきます。」
「そうですわ。ミーナの魔法は確かに特別ですが、命に係わらない状態の者も治療していては限がありませんわ。
外ではそうはいかなくなるかもしれませんもの。家にいる時ぐらいは無理をしては駄目でしてよ。
それに、ミーナが全ての者の命を背負う必要はありませんわ。
彼らも、命を失うリスクは重々承知している事でしてよ。だから、そんな自分を責める様な顔をしてはいけませんわ。」
「えぇ、誰も貴女を責めないわ。むしろ、貴女を守れなかった事を悔やむ言葉を言っていたもの。
シャルロッテ、隣の部屋でミーナと一緒に休んでいらっしゃい。貴女達に今倒れられたらこっちが困ってしまうわ。」
怪我を治せるのなら、治して万全な状態にした方が良いと思うのですが。また何時襲撃されるかもわからないのですから、対策は万全の方が良いと思います。
そう思っていたので、その事を言おうと思ったのですがエマに先を越されてしまいました。
「ミーナお嬢様、そのお気持ちは使用人一同嬉しく思います。ですが、我々が守るべき主家の方に守られるのは、使用人に取っては不甲斐ないばかりになってしまい、本来あるべき姿を忘れてしまいます。
ですから、このままで大丈夫ですよ。それに、今回の傷が次こそはしっかりお守りすると言う強い意志になりますから。
ミーナお嬢様はどうか無理をしないで下さいませ。
それと、心労が溜まったているのでしょう。お顔の色が先程よりも悪くなっております。
ここは奥様のお言葉に甘えさせて頂いて、お休みしましょう。
若奥様も身重のお体でお疲れのご様子ですし、一緒に休まれた方がご安心ではありませんか?」
「そうですわ、ミーナ。一緒に下がらせて頂いて、休ませてもらいましょう。
大丈夫ですわ。何かあればカール様が的確に指示をして下さりますわ。」
こんな大変な時に私が休んでも良いのか釈然としませんが、もしかしたらシャルロッテ姉様が1人で下がられるのが、体面的に良くないのかもしれませんね。
ここはお言葉に甘えて下がらせて頂きましょう。
それに、休める時に休んでおかないと、いざと言うときに動けなくなってしまいますからね。
アマンダ義母様とカール兄様に挨拶をして、シャルロッテ姉様と隣室へ移動しました。
隣室に移動した後にシャルロッテ姉様から、心細いから手を繋いで寝ようと提案され一緒のベッドで寝る事になりました。
こんな感じで寝るのは、そう言えば今世では初めてでしたね。
何だかくすぐったい感じですが、これならゆっくり眠る事が出来るかもしれませんね。
お読み頂きありがとうございます。




