55話
翌朝は予定通りエマに起こされるまで寝ていましたが、寝不足で眠いです。
エマは私が眠そうにしていたのは、手紙の処理に疲れたからだと思っている様で、身支度を整えてもらった後に入れてもらったお茶は、疲労回復の効果がある薬茶でした。
少しある苦みが、寝不足の体にしみわたります。
何だか、年寄くさいセリフな気がします。私はまだ成人前の13歳でしたよね?
朝の訓練や日課の水やりなどが終わり、入浴をして今日もコルセットを締められドレスを着せられます。
あぁ、懐かしのワンピースが着たいです。今度提案してみましょう。
朝食を食べた後に今日の予定をエマから報告されますが、今日はお披露目パーティーなど用のドレスのデザインを決めるそうです。
「エマ、ドレスは私が作っては駄目なのでしょうか?
今の商会の忙しさを思うと、頼むのが忍びなくて…。」
「ミーナお嬢様のお気持ちは分かりますが、デザインまででおやめ下さい。
そうでなくとも、他の貴族家から注目されて目立ってしまっています。そこで、貴族のご令嬢が自ら縫われたドレスを着て行けば、どんな悪評を建てられるか分かりません。
虎視眈々とミーナお嬢様の失墜を狙っている方々にわざわざ口撃要素を与える必要はありませんよ。」
「そう言うものなんでしょうか?」
「ミーナお嬢様には若奥様より、貴族のご令嬢の何たるかをご講義頂いた方が宜しいですね。
若奥様のご都合を確認してまいりますので、もしドレスの案があればまとめておいて頂いても宜しいでしょうか?」
「分かりました。」
エマは颯爽とお辞儀をして部屋を後にしましたが、貴族の令嬢の講義ですか。今までにない精神面の負担が多そうです。
ストレス軽減にドレスのデザインを考えますが、どの様な形でのお披露目パーティーになるのでしょうか?
お茶会?ガーデンパーティー?夜会?それとも王宮での舞踏会では無いですよね?
そう言えば社交シーズンはいつ頃からなのでしょうか?
前世の知識では、社交シーズンの始まりは王宮の舞踏会からのイメージがありますが…。そして、デビュタントの令息・令嬢のお披露目があるのですよね?
この世界でもそうなのでしょうか?
取り敢えず、色々な場面を想定して様々なドレスのデザインを考えましょう。
ドレスの打ち合わせは午後から針子長がこちらに来られるようなので、ラフで色々書いてしまいましょう。
「ミーナお嬢様、そろそろ休憩を取られたら如何でしょうか?」
いつの間にか戻って来ていたエマにそう言われながら、優しい香りのするお茶を差し出されました。
時間を確認すると、デザインを考えだしてから既に3時間は経っていました。
いつの間にそんなに時間が経っていたのでしょうか。
「ミーナお嬢様は、本当に針子の仕事がお好きなのですね。
デザインを考えたり、昨日の様に縫物をしている時の表情はとても楽しそうですし、何より時間を忘れて没頭していらっしゃいますからね。」
「何事も起こらず、学院を無事に卒業していたら、シュテルネン商会で針子の仕事をしようと思っていたぐらいに好きです。」
「そうでございましたか。」
エマの顔が少し曇ってしまいました。
話題を変えなければいけないと思っていましたが、エマに先を越されました。
「貴族の令嬢の講義を若奥様からして頂く件ですが、午前中はカール様に代わり、シュテルネン商会の事務処理を行う予定との事で時間が取れないとの事でした。
ですので、夕飯後にサロンで旦那様や若旦那様を交えて行うとなりました。
そんなに嫌そうな顔をされないで下さい。今後社交界で波風をたてない様にする為の処世術なのですから。」
「分かっていますが、やはり庶民育ちで腹の探り合いには苦手意識があるのです。」
「ミーナお嬢様、昨今の貴族は腹芸がお得意でない方が多数存在しますので、少しお気楽に構えて、肩の力を抜いて下さいませ。」
エマが苦笑いをしながらお茶のお代わりを入れてくれました。
はぁ、エマの入れるお茶は美味しいですね。リラックスが出来ます。と言う事は、エマの言う通り方に力が入っている証拠ですね。
「色々と制約が掛かり大変かと存じますが、ミーナお嬢様はミーナお嬢様らしく過ごされる事が一番です。」
「ありがとう、エマ。
そうそう、昨日のお手紙の件でアマンダ義母様とシャルロッテ姉様に相談したかった事があるんですが、それも夕食後の方が良いですよね?」
「それであれば、昼食後で宜しいかと存じます。」
「分かりました。」
さて、種類多くデザイン画のラフが出来ましたし、これ以上はまた今度にしますか。
出し惜しみではありませんよ?
まだ昼食まで時間もありますし、幾つかデザイン画のラフに色を付けたりしながら手直ししていきましょう。
その後、エマから昼食と言われるまで集中してデザイン画の仕上げをしていました。
昼食を食べた後に、手紙の事を相談するので手紙を持って移動しなければなりませんね。
「ミーナお嬢様、そちらは私がお持ち致します。」
量が減ったとはいえ面倒だと思っているとエマにそう言われ、いつの間には手に持とうとしていた手紙がエマの手の中に納まっていました。早業です。
昼食は、アマンダ義母様とシャルロッテ姉様、カール兄様と取り、カール兄様は食後早々にご自身の執務室へ移動されます。商会の事務処理をシャルロッテ姉様に頼むくらいなので、忙しいのでしょう。夕食後にでも魔法の練習もかねて、癒し効果のある魔法でも掛けてみましょう。
昨夜、手紙を書いていて凝った肩を魔力を纏ったままの手で揉み解したら、肩凝りが解消したので、きっと大丈夫なはずです。
いきなり他人に魔法をかける環境に置かれる前に、家族で練習しないと私の精神が持ちませんからね。
カール兄様が退出された後に、アマンダ義母様とシャルロッテ姉様と一緒にサロンへ移動して、そちらでお茶を飲みながら手紙の件について話し出します。
エマのお茶も美味しいですが、アインのお茶も美味しいですね。
まずは、あの恋文の様な手紙の件を話、相手から頂いた内容を確認してもらいますが、アマンダ義母様とシャルロッテ姉様は呆れ顔をされています。やはりこれが貴族の常識ではないのですね。良かったです。
返事の手紙もチェックしてもらい、内容も大丈夫との事だったのでエマに返事の手紙を渡し、そのまま相手方に返信をしてもらう依頼をしましたが、何故か皆に止められてしまいした。
「ミーナ、この手の方々にすぐに返事を出しては駄目よ。」
「そうですわ、相手が調子に乗るだけですもの。」
「ミーナお嬢様、このお返事は私の方で預かり、適切な時期にお返事を出させて頂きます。」
私は皆の勢いに押され、ただ頷くだけしか出来ません。
そして、お茶会などの招待も、お披露目が済んでからの出席でいいとの事でした。ただ今後懇意にした方がいい方や家の繋がりがある方などを今夜の講義の際に教えて頂ける事になりました。
その後は、女性陣で他愛もない話をしていると、針子長が到着したと知らせを受けたので、応接室へ移動する事になりました。
先程仕上げたデザイン画を持ってくるのは忘れていました。今から部屋に取りに行っても良いでしょうか?
お読み頂きありがとうございます。




