54話
部屋に戻り、エマには今日はもう下がって良いと伝え、一人手紙と格闘する事にしました。
何か不明な点があれば、明日の朝一にエマに質問すればいいと思いますし。
始めに取り掛かるのは、パトリック王太子殿下からのお手紙ですね。
山積みになっていた手紙を全て読み終わると、既に夜の闇が広がっていました。
普段しない事をしたので、流石に疲れました。
エマが退出する際に用意してくれた、ローネ入りの水を飲み、温めたタオルと目を癒す軟膏がおいてあったので、軟膏を瞼を閉じた目の上に塗ります。
しばらく時間を置いてから拭き取らなければいけないので、手紙の事を思い返します。
このまま寝てしまえば、明日の朝エマに起こされる時に驚かさてしまいますし、そうすると、明日の夜以降、私が完全に眠るまでエマを下がらせる事が出来なくなってしまうので、絶対避けなければなりません。
机の上に山積みにされていた手紙の大半は、お茶会やガーデンパーティー、夜会の招待状でしたが、中には、恋文かと思うような内容のものもありました。
私がパトリック王太子殿下の婚約者になったと知っていて送って来られているのもあるので、どうゆうつもりなのでしょうか?
お茶会などのお誘いもどれを受ければいいのか分からないので、明日アマンダ義母様とシャルロッテ姉様に相談しましょう。
取り敢えずは、爵位順に送り主と催し物の内容と日付の一覧表を作成したので、それを見ながら相談すればいいですよね?
あの量の手紙を持ち歩くのは面倒ですからね。
恋文の様な物は、当たり障りが無い内容で返信の手紙を書きましたが、それで問題が無いかもアマンダ義母様とシャルロッテ姉様にチェックして頂きましょう。これは手紙を見せなければならないので持ち歩かなければいけませんが。
初めての事は難しいですね。
それにしてもパトリック王太子殿下の手紙のお返事も書きましたが、これはアマンダ義母様にもシャルロッテ姉様にもお見せしてチェックしてもらう訳にはいかないので、大丈夫か不安です。
まさかあの初めてお会いした8歳の時に、私に好意を抱いていたなんて思ってもいませんでした。
そして、パトリック王太子殿下にあのような秘密がある事も知りませんでしたし、その事をいくら婚約者になったからと、教えて頂いたのには正直言って重りにしかならないのですが…。
気が滅入ってきたので軟膏を拭き取り、ベッドに入ってしっかりと寝ましょう。
寝間着に着替えベッドに入り目を瞑りますが、読み終わった後に一部を燃やしたパトリック王太子殿下の手紙の内容が頭にこびりついた状態で、眠る事が出来ません。
私の貴重な睡眠時間をどうしてくれるのでしょう。
『拝啓愛しのミーナへ
突然、周囲の状況が一変して戸惑っているでしょう。
その中でも一番戸惑ったのは私との婚約だったでしょう。玉座に座る陛下の後ろからミーナを見ていた所、とても驚いているのが見て取れましたから。
もしかしたら、市井で育ったミーナにとっては、その中で恋をしていた相手もいたかもしれません。
その方から引き離す事になってしまった事は深くお詫びいたします。
ただ、私としてはこの婚約はまたとない幸運でした。
私は初めてお会いした時よりずっとミーナの事を好いていました。
【陣】の中で佇むミーナはとても神秘的な魅力を溢れさせていました。私は一目でミーナに見とれてしまいました。
その後の問答は、確かにミーナの事を試すためでもありましたが、本音でもありました。
今更その様な事を言われても困ってしまいますね。
陛下はミーナを守る為と国を発展させる為の政略結婚としていますが、私個人としては、政略であっても恋仲での結婚をしたいと思っています。
婚約期間中に少しでもお互いの距離を縮められる様に誠意を尽くしてミーナと過ごしたいとも思っています。
しかし、ミーナも私も多忙を極める身ですので、ミーナが王宮に訪れる時に少しでも私が時間を作る様に努力を致します。ミーナの王宮での用事が済んだ後に1時間だけでもお茶をする時間を作りたいと思いますが、いかがでしょうか?
もし可能であれば、王宮に来られる日の前日にお手紙でも頂ければと思います。
私の婚約者となり、これから多々の困難があると思いますが、困難な事や辛い事は溜め込まずに相談して頂ければと思います。
勿論、嬉しい事や楽しかった事、些細な日常の事も教えて頂けると私も嬉しい限りです。
では、お会いできる日を楽しみにしています。
貴女の婚約者 パトリックより
私がミーナに対しての誠意の証として、私の秘密をお教えします。
ここからの内容は読み終わりましたら、胸の内に秘めて頂き、燃やして処分をお願いします。
私達、プランツェ王国の直系の王族の男性には共通の秘密があります。
それは、この世界を作られたナディエージ神の子孫あたり、特別な力を持って産まれてくることです。
私は歴代でも数人しか確認されていない複数の力を持って産まれた王族になります。私の力は、歴代の陛下が多く授かっていた【恵み】そして【保護】の力になります。
【恵み】の力を簡単に説明すると、国を豊かに導く力です。王宮内にある特殊な【陣】に自分の血を数的垂らし専属の魔法士の魔力で【陣】を発動させて王国中に力の恩恵を授けるのです。
対して【保護】の力は個人に対しても力を使う力になります。
【保護】の力は、意識を集中させると、私に力を付与した人の現在位置と状態を大雑把に教えてくれるものになります。また、その人の生命力を底上げしてくれます。
そして近いうちミーナに【保護】の力を付与する事になると思います。
理由は、王都襲撃の際にミーナも対峙した男の為です。その男は恐らくミーナ個人を再度狙ってくると思われます。
あの男は、強い者に強い執着を持つ人間で、尚且つミーナの力も目のあたりにしているので利用しようと近づいてくる可能性があります。
誰もあの男について説明をしていないと思いますので、私がこの手紙で説明させてもらいますが、あの男はかつてプランツェ王国の直系の王族でした。つまり、特殊な力の持ち主です。
あの男の力は【精製】です。この力はあの男が起こした過去の事件の為禁忌とされた力の為、私も詳しい力の内容を知る事は出来ませんでしたが、あの男は危険ですので、十分にお気を付け下さい。
私の方でも再度調べてみますので、分かり次第その事はお教えします。
もし、あの男の人となりを知りたいのであれば、ミーナの実父であるハンス・ヴァグナーク殿に聞いて下さい。
あの男は、20年前の事件を引き起こす前までは、騎士団の団長をしていましたので。
それではこれで失礼致します。』
寝返りを打って、パトリック王太子殿下の真意を考えますが、全く分かりません。
どうして私にこの事を伝えたのでしょうか。本当に誠意を見せる為だけに、教えて下さったのでしょうか?
お会いした際に確かめるしかありませんね。
いい加減眠くなったので、これなら寝れるでしょう。明日はエマに起こしてもらうまで、寝ていましょうか。
お読み頂きありがとうございます。




