ー閑話 ~シャルロッテ・シュテルネンの怒り 後編 ~-
本日2話目です。
長くなったので、2話に分けて投稿しています。
前編は本日7時に投稿済みです。
翌日になり、屋敷に迷惑極まり無い、無礼者どもが押し寄せて来ましたので、ミーナとのお出かけが中止になるところでしたわ。
カール様がすぐにお義父様を王宮から呼び戻して下さったので、予定通りお出かけ出来る事になりましたが、不愉快ですわ。
そして、商会についても人が押し寄せていて、眉を顰めたくなりましたの。
こちらにも、無礼者が集まってしまったのかしら?
裏口から商会の中に入ると、お昼時だというのに誰も休憩室を使用していませんわ。きっと表の者たちの対応に追われてしまったのですわね。
私付きの侍女に様子を見に行かせると、針子長と共に戻ってきましたが、針子長から驚きの事実を告げられましたわ。
もう何日もこのような状態ですって?
しかも、カール様に報告をしていないと。こういう報告は、売り子達を纏める売り子長の仕事でしたわよね?
一体何をなされているのかしら。
すると、昨日カール様からこちらに来ると連絡があった後から行方不明ですって?何故そんな事になるものを雇っているのかしら?
ここはカール様を問い詰めないといけませんわね。
取り敢えず、カール様が来られるまでは、現状の打開をしなければなりませんわね。
ミーナには針子達の方の応援に行ってもらい、商品の作製スピードを上げておいて頂きましょう。
私は、我儘なお客様のお相手を致しましょう。
休憩室から侍女と針子長を伴って、売り場スペースの方へ移動致しましょう。
まずはお客様方を黙らせ、こちらの声を全員に届けなくてはいけませんわ。
侍女に目配せをし、鞭を取り出して頂きます。
=バシーーン=
鞭を一振るいして、注目を集めます。
どうやら、全てのお客様に注目して頂けた模様ですわね。
「皆さま、シュテルネン商会へようこそ。
私は、商会長の妻のシャルロッテ・シュテルネンと申しますわ。
皆さまのご要望は護身用の洋服との事で宜しかったかしら?
それ以外をお求めの方は、こちらの針子長の方に申し付けて下さいまし。」
しばらくお客様が動かれるのを待ちますが、女性ずれで来られている方が2~3組のみ針子長の方へ移動してきましたわ。
どうやら他の方々は、護身用の洋服がお目当ての様ですわね。
まずは、通常の商品をお買い求め頂く方にご迷惑をお掛けしてしまったのですから、その方々に謝罪をせねばなりませんわね。
「本日はお越し下さり誠にありがとうございます。
少々込み合ってしまっていた様でして、ご不便お掛け致しましたわ。
落ち着かないとは思いますが、どうぞごゆっくりとなさって下さいまし。」
針子長に目線で奥に連れて行くように指示を出し、売り子も2人程目線で合図を致しますわ。
針子長も売り子2人も意図を察して下さり、奥へお客様をお連れしてくれましたわ。
これで、通常のお客様に迷惑を掛けなくなるので安心しましたわ。
では、しっかりとお客様の教育を致しましょう。
「護身用の洋服ですが、それを着られる方に本日はお越し頂いていらっしゃいますか?
いらっしゃる方は別の者より説明をさせて頂きますので、ぬいぐるみの商品棚の方へ移動お願い致しますわ。」
移動された方には通常の説明をして、採寸・暗器の選択・デザインの決定をして頂きますわ。
移動された方には、先程同様に売り子と針子各2名が別室を案内させます。
「残った方は、今日は着られる方をお連れで無いと言う事ですわね。
護身用の洋服は、オートクチュール…所謂採寸をしてその方に合ったサイズでお作りしますので、後日、もしくはこの後にその方をお連れ頂いて、お手数お掛けしますが再度お越し下さいまし。」
何人かの方は帰られて行きましたが、まだ大多数残っていらっしゃいます。
この方々が聞き分けの無い方々なのですね。
「既製品のサイズで売りゃいいだろ!
わざわざ採寸なんて手間だし、金が高くなるだろうが!
悪どい商売人だな、この守銭奴が!」
私、初めに挨拶致しましたわよね。この商会の商会長の妻だと。
つまりは、私がシュテルネン侯爵家の人間だと分かっていてのこの暴言でして?
無礼打ちにされたいのかしら?
でも、この方だけではなく何人も便乗されていますわ。
あら、侍女も護衛の兵士も怖い顔をされていますわ。まだ出しゃばって来ないでくれるとあり難いですわ。
「この商会がどこの家が経営しているか分かってらして?
シュテルネン商会でしてよ?つまりは、シュテルネン侯爵家の経営している商会ですわ。
その商会に対して随分な言い方ですわね?
それに、この商品は隠している武器を使うので、体に合わせていないと不都合になるのですもの。オートクチュールにせざるおえないのもお分かりにならないのかしら?
それでも、なるべく多くの方にご使用して頂きたいと言うデザイナーの思いを受け、オートクチュールでは考えられない程安くさせて頂いていますのよ?
この金額で護身術もお教えしているのですから、高いなどと言われましても。
守銭奴などどうして言われるのかしら?
何か反論がおありの方は、個別にお話しさせて頂きますわ。
要望は良い経営をする為に必要な事でしよ?」
カール様にお褒め頂いている、絶対零度の微笑みを湛えてお客様方を見まわしますが、反論は無い様ですわね。…青ざめている方が大多数いらっしゃいますが、知ったことではありませんわ。
「どうやらお分かり頂けた様ですわね。
先程の無礼な物言いは忘れる事に致しますわ。
再度ご検討されて購入を決意された方は、護身用の洋服を着られる方をお連れしてのご来店をお願い致します。」
取り敢えず、現在お店にいらっしゃった方々は帰られたので、今この場にいる従業員にお昼休憩を取らせましょう。
私と侍女で店番をすればいいですもの。
しっかりと食べて、英気を養って頂かなければなりませんわ。
それにしても、何故あのような暴挙に出られるのかしら?商店の名にシュテルネンと入っていましたのに。
その事と護身用の服の店内用の注意書きの事をカール様に相談しなければなりませんね。
「若奥様、若旦那様がいらっしゃいました。
ミーナ様はまだお呼びしないで宜しかったでしょうか?」
私は侍女に頷き、執務室の方へ移動致します。
さて、カール様に売り子長の事を色々聞かねばなりませんわね。
「カール様、屋敷での対応お疲れ様でしたわ。」
「シャル、何故その微笑みをしているのか聞いても良いですか?」
「今からご説明いたしますわ。
カール様、売り子長はどのような経緯で雇ったのでしょうか?」
「あれは、前任者の推薦ですよ。信頼していた前任者からの推薦でしたので、当時は簡単な身辺調査のみしかしませんでしたが、さらに問題を増やしたのですね。」
「既に何かを起こされていたのですか?
私が知っているのは…」
先程の経緯と針子長に聞いた行方不明状態の事を伝えましたわ。
するとカール様の眉間に寄っていた皺がさらに寄っています。
カール様付きの侍女がすぐに部屋から出て行き、何かを持って戻って来ましたが、あれは帳簿と金庫ですわね。
まさか、横領でもしていたのですか!?
そして、遅れてやってきた侍従が何かをカール様に渡していますわ。
「シャル、これをそれぞれ見て下さい。
取り敢えず、騎士団に捕縛命令をだし、売り子長を捕らえねばなりませんね。
前任の売り子長の行方も捜査してもらいましょう。無事だといいのですが。」
カール様から差し出された書類は当時の身辺調査の結果と再度行った身辺調査の結果でしたわ。そこには、巧妙に隠されていましたが、あの王国の膿ともいえる連中とのつながりが書かれていましたわ。一体いつから、この商会に目を付けていたのでしょう。
それにしてもなんと言う事でしょう。
前任の売り子長に対する脅しや嫌がらせ、果ては家族への暴行と誘拐の記載がありましたわ。
もっと従業員に対して親身になっていなければなりませんでしたわ。
そして、帳簿の方も巧妙に辻褄を合わせた偽りの内容の帳簿でしたわ。
これでは、他のまっとうな従業員に顔向けできませんわね。
他にもこのような従業員がいないか炙り出さねばなりませんわ。これ以上、カール様とミーナにとって大切なこの場所を貶める訳にはいきませんわ。覚悟なさいませ。
その後はミーナを呼び、今後の経営について話し合いをしましたわ。
帰りがけに、ミーナが残って針子の手伝いと言っていましたが、この場は今現在安全な場所では無くなってしまっていますわ。
その場にミーナを残すなんてもってのほかです。
針子達にはボーナスを出して、頑張ってもらいましょう。屋敷の侍女で縫物が得意なものをこちらに回して、一時的なサポートをさせましょう。
侍女の抜けた穴は、私とお義母様とミーナで何とか致しましょう。
お読み頂きありがとうございます。




