53話
「カールお兄様ご迷惑お掛けしました。
随分ここに来られるまでに時間が掛かった様ですが、ルーカス義父様のお戻りが遅かったのでしょうか?」
「いや、1時間程前には着いていたのですが、シャルに売り子長の事を聞かれていたからね。」
そう言いながら、カール兄様は左頬を撫でています。その左頬は、シャルロッテ姉様にやられたとの事でしょうか?
意外ですが、シャルロッテ姉様は口が辛辣なだけではないのですね。これからは言動にも注意を致しましょう。
「カール様、ミーナも戻ってまいりましたし、今後の商会の方針を話し合いを行いません事?」
「そうですね。
まず、昨日も少し話していたミーナブランドの事を決めていきましょうか。
ミーナはどうしたいと思っているのか、先に聞きたいのだけど。」
「私としては今までの様に、いろんな種類の洋服を作りたいと思っています。
どれかの種類に絞るのは、想像する楽しみがありませんし、同じ様な物になってしまう気がするので…。」
「そうですか。針子長はその意見はどう思う。」
「私ですか?
ミーナ様が作られる洋服は画期的ですので、宜しいかと思います。」
「ミーナが今までの様に種類を選ばないで作った場合、針子達はそれに被らない様な作品は作る事は可能でして?」
「それは…どうしても、ミーナ様の作品の影響は受けてしまいます。」
「そうですわよね。
ミーナはそれを受けて、どう思いまして?」
「オートクチュールの作品は、お客様の意見もあるので、サンプルのシルエットを元に今まで通りに作って頂いて構わないと思います。
それに合わせる形で、既製品のシルエットのみ私の方で考えて、デザインや配色・飾りは針子達で考えるのはどうでしょうか?
それであれば、半年~1年の間に2~3のシルエットを作るだけでも、色々な商品が生み出されるので、効率的では無いでしょうか?
もしくは、私がミーナブランドとしてデザインした商品のシルエットを使うなどは如何でしょうか?」
「それであれば、ミーナブランドのシルエットを使うのが一番有効的ですね。
ミーナブランドと既製品の2系統のシルエットを毎年幾つも作るのは大変だろうしね。
ミーナブランドの1年に1回新シルエットのデザインを発表して、発表の半年後にミーナブランド以外の商品にシルエットを転用する事にしよう。
何か意見はありますか?」
「私もそれでいいと思いましてよ。」
私も針子長も同意する返事を返します。
その後もぬいぐるみの事や護身用の服などの話し合いは続きます。
途中で侍女達がお茶とお菓子を持って来てくれたので、喉を潤し小腹を満たして、話し合いが続き、話し合いが終わった頃は夕闇が迫る時間になっていました。
「今回の話し合いを纏めますと、ミーナブランドが1年に1回、先行してデザインを発表をし、その半年後に既製品に転用。
オートクチュールは今までと同様に、ミーナがシルエットのみを作製をして、デザインは針子達とお客様で相談をして決める。
ぬいぐるみは、ミーナブランドからは外して、針子達に一任し、ミーナが何か思いついたときは、デザインを針子達に渡す。
護身用の洋服に関しては、既製品と同様の扱い。
暗器はぬいぐるみと同じ扱いで、提携している鍛冶屋にある鍛冶部門に任せる。
ドライフルーツは今までと同様で、お得意様にのみ販売するが、ミーナが作る分に関しては、上得意様のみにする。
こんな所でいいでしょうか?」
「私に異存はありませんわ。
よく1日で纏まったと思っておりますもの。」
「はい、私も異存はございません。
その旨をこの後、針子と売り子に伝達致します。」
「私も異存はありませんが、今少し思った事があるので、提案させて頂いても宜しいでしょうか?」
「構いませんよ。」
「今後、護身用の洋服や暗器はしばらくの間は売れ筋になると思うのです。
ですが、それを使う事が出来ない小さな子向けの商品を新たに作るのはどうかと思ったのですが。」
「新しい商品ですの?でも、この護身用の商品に関しては、一時かもしれませんのですぐに発売出来るものでなければなりません事よ。」
シャルロッテ姉様の発言の後、カール兄様も先を促すような視線を向けてきます。
そして、針子長はどんな難題になるのかと、不安そうな顔をされています。
今の針子達の現状を考えれば、無理難題になると思うのは仕方ない事ですね。
「分かっています。
小さい子供が持って歩いていても不自然ではない物が、この商会にはあるではありませんか。それを少し改良するだけですので、そんな難題にはならないと思います。」
針子長が安心する様に話しますが、カール兄様達は思案顔をされています。そんなに難しい事ではないと思うのですが…。
「ぬいぐるみの背に、眠り薬や麻痺薬などの相手の動きを阻害する薬が入った小瓶を仕込むのです。
それを、子供なり、一緒にいる大人が相手に向かって投げつけるなどはどうでしょうか?」
「側にいる大人が投げつける分にはいいですが、子供が投げるのは危険ではなくて?」
「確かに危険かもしれませんが、分別が付く前の子供が一人で出歩くことは無いと思いますので、大人が投げることになりますよね?
それに販売する時に注意をしっかりし、誤った使い方をした場合の責任は負わない旨を了承したとサインをもらうのです。また商品にも注意書きを付け、一筆もらった物の控えも渡せばいいのではないでしょうか?」
「…この件は持ち帰って、父上と相談の上決定する事にします。」
「分かりました。」
やはり、そう簡単な内容ではありませんか。
故意に誤った使い方をされる方が出てきますから、その責任の如何をどうするかが問題ですからね。
「では、私達は屋敷に戻りますので、後の事はお願いしますね。
新しい売り子長はこちらで選定しますので、どんな輩が来られても必ず追い返して下さい。しばらくの間は針子長に負担を掛けますが、宜しくお願いします。
それと、明日以降もまた今日の様な状態になるようでしたら、すぐに連絡を下さい。
後手に回るのはよくありませんので。」
「畏まりました。申し訳ありませんでした。」
「気にしずぎ無い様にするのでしてよ。それでは失礼しますね。」
カール兄様とシャルロッテ姉様の後について、一緒に馬車に乗り込みます。
流石に、夕食の時間に差しかたっていたので、作業場を手伝う事は出来ませんでした。
それに、護衛の問題もある事も忘れていましたし。
少し残って作業場を手伝いたいと言った時のシャルロッテ姉様のお顔が怖かったですし、令嬢としての心構えを説かれてしまいました。
明日から、シャルロッテ姉様との令嬢としての常識のお勉強が始まる予感がします。
屋敷に着くと、既に厄介な方々の姿はありませんでした。当たり前ですよね。
マルスを始めとする使用人に出迎えられ、自室に向かうと机の上に手紙の山が出来ていました。
夕食の後は、手紙の確認をしなければならない様ですが、この量では、いつ寝られるのでしょうか?
夕食の後のお茶を飲んでいる時にマルスから、1通の手紙を受け取りました。まだ増えるのかと慄いていると、まるすから、‘これはパトリック王太子殿下からのお手紙でしたので、別にさせて頂いていました’との事です。
これ以上増えなくて良かったです。
いつもお読み頂きありがとうございます。
次回は閑話の予定です。




