ー閑話 ~パトリック・ナディ・プランツェの決意~-
少し長めです。
謁見の間で父上と共に各部門からの奏上を聞いている時に、緊急会議を開く旨の連絡が入り、父上と何事かと顔を見合わせた。
今ここには各大臣がいる為、実働部隊である騎士団か魔法士団かそれ以外の部隊なのか…。
最重要の会議の要請だったので、父上が謁見を中止し各大臣と共に緊急会議室へと急いだ。
廊下ですれ違う人々は何事かと私達がすれ違った後でささやき合っている。
確かにこのメンバーでの予定にない移動は不安を煽る事だろう。
会議室に着くと、既に騎士団の団長・副団長とヴァグナーク隊長、魔法士団団長の姿があり、ヴァグナーク隊長と魔法士団団長の顔が厳しいところを見ると、ミーナがらみなのかとふと思ってしまう。
その後、騎士団の第3と第5隊の隊長以外が揃うと、騎士団副団長が会議をスタートさせた。
どうやら、騎士団からの要請だった様だ。
内容を聞くと、ミーナのお手柄だったことがよく分かるが、騎士団の体たらくが気になるな。
これは、今まで通りに騎士団での処罰で終われば、また同じ事が繰り返されないとも限らない。
ここは、こちらにも情報を回してもらい、こちらで処罰を考えねばならないかもしれないな。
その旨を伝えれば、心得ているとばかりに返事をされる。
それならばいいのだが。
王都襲撃への対応も既に取っている様で何よりだが、こうなる前に何とかするべきだろうに。
その埋め合わせの為なのか、騎士団団長が自ら前線に出る事になったようだ。
戦闘狂が前線に出れば、万が一も起こらないか。
ただ、後進の育成のためにも騎士団からも同行者を出した方がいいだろう。
父上もそう思っていたのか、騎士団からも1人同行する様に要請をしている。すると、騎士団副団長が難しい顔をしながら、騎士団団長について行けるものは軒並み指揮をする立場にいるときている。それは仕方が無いのだが、騎士団の中で実力差がありすぎるのではないだろうか?
唯一ついて行ける存在は、騎士にもなっていないミーナときたものだ。
これは、イヴォール大臣に騎士団の改革を打診するしかないだろうな。
そう言えば、騎士団と魔法士団でそれぞれ、ミーナの隊服を毎年作っていたな。騎士団の隊服を着たミーナの姿を見てみたい気もするので、ここは騎士団長に味方に付こうか。
会議が終わり、何事も無く王都襲撃が未然に防げればいいのだが。
私は、父上とイヴォール大臣に、騎士団の改革をすることを打診した。
勿論、私付きのフランツに風魔法で情報収集をしてもらい、王都に異変が起こっていないかを確認しながらだが。
「殿下、王都の複数個所で爆発が起こり、あちこちで戦闘が開始されました。」
フランツが耳打ちをして知らせてきた。
未然に防ぐことが出来なかったか。事が解決した後は、王都民から非難の声が多数寄せられるようになるな。
父上にこの事を話そうと思たが、父上付きの魔法士も父上に同じ事を耳打ちしている。恐らく同じ事を聞かされているのだろう。
「どうやら、未然に防ぐ事が出来なかった様だ。
各大臣を集めて、今後の対策の会議だ。」
父上の侍従が、小さく頷きその場を後にする。
他の大臣達をこの場に集めて、そのまま会議をする様だ。
大臣達があつまり、今後の事を話し合っているが、王都民の負傷者や建物の損壊具合もまだわかっていない為、話が中々まとまらない。
取り敢えずの決定は、学園と学院の休校が決定したぐらいだな。
今は、建物が損壊した者への補償の話し合いの最中だが、揉めている。
家に住めなくなった者を一時的にどこで保護するのか、店や工房の損壊した者にはどの程度の範囲で補償をするのかなどの意見が一致しないのだ。
このままでは、埒が明かない。どうしたものかと考えていると、突如として、周囲一帯が銀色の光に包まれた。
これは一体なんだ?襲撃者達の攻撃だろうか?
しかし、銀色の光とは…っミーナか!?
会議中隣室で控えていた、フランツが父上の側により何事かを耳打ちしている。
「この光には害はない。ミーナ・ヴァグナーク嬢の魔力だとの事だ。
取り敢えずは、騎士団と魔法士団からの報告を待つ。」
やはり、ミーナか。これは、教会からも何か問い合わせが来ることになるな。
早急に前線に出ていたミーナの魔力が王宮に現れたのかを調べなければな。
父上の発言により、父上の執務室には静寂が訪れ会議は一時中断となる。
しかしどれ程待てっも、騎士団からも魔法士団からも報告が来ない。
一体何をしているんだ。
イライラが募るが、父上や大臣達は平然としている。何故平然としていられるんだ。
「パトリック、騎士団も魔法士団でも情報を纏め齟齬が無いかすり合わせているから、多少時間がかかるのは致し方ない。
もう少し余裕を持ち、事を構える事だな。お前は頭でっかちすぎる。」
父上の指摘にぐうの音もでない。
確かに言われてみれば、まだ王都襲撃事態が収束したかもわからない上に、私達に報告するには、正確な情報で無ければならない。
私の器はどうやら小さい様だ。今後、父上の後を継ぐに当たって余裕を持つようにしなければいけないな。
それからさらに経ち、漸く今回の件で全ての指示を出していた騎士団副団長が現れた。
「遅くなり申し訳御座いません。
幾つか重要なことが起こりました。まず、今回の襲撃には帝国が裏で糸を引いていることが確認が取れました。
これは、朝ミーナ嬢が捕らえた者が最終的にはいた内容です。3人共同じ今日実をしましたし、死体からも帝国の軍人の証が見つかっております。
また、王都襲撃で捕らえた者達の一部でも同様に帝国軍人だと言う者がいました。
次に、クリーガ団長が捕らえに向かった、ドゥムガイツ貿易商会長ですが、死亡しました。接触する前に、仲間割れを起こして殺された模様です。
その殺した男ですが…。」
「どうした?」
「いえ、団長がその男と戦闘になったのですが、その男の正体が20年前の悪魔…先王の王弟であり前騎士団団長だったリガーフェル・ナディ・プランツェだったとの事です。」
「っ!!馬鹿な!叔父上は…あの男は20年前に死んだはずだろう!?
まさかあれで生き抜いたと言うのか!!?」
「当時どの様にして生き延びたかは分かりませんが、事実として、今現在生きている事に変わりはありません。
そして、その男はミーナ嬢に目を付けたとの事です。」
「ミーナ嬢は帝国だけでなく、叔父上にも目を付けられたのか…。
どの程度の執着だったか分かるか?」
「そこまでは、分かりかねます。クリーガ団長に直接聞かれた方が宜しいかと。」
「それにしても、クリーガもよく無事だったな。」
「本人曰く、あと数瞬で死んでいたと。
たまたま、ミーナ嬢が今まで不明だった魔法の行使に成功したことにより、生存が可能だったとの事です。」
「どう言う事だ?」
「ここにも一時銀色の光に包まれたと思いますが、それがミーナ嬢の魔法だった様です。
その光に触れた者は、怪我の度合いに係わらず治癒していたとの事です。また病気も回復傾向になったとのことでした。そして、あの銀色の光は確かにミーナ嬢の魔力が使われていた事が複数の魔法士によって確定されているので、ミーナ嬢の魔法は回復・治癒系統となりました。」
「新たな魔法の系統か…。念のため、私や各大臣の前で魔法を行使してもらう必要があるな。
その場でも問題なく回復・治癒系統の魔法が行使されれば、これでの様な平穏に平民と同様の生活をさせる事は出来んな。
ミーナ嬢を貴族にするしかないだろう。シュテルネン家を今までの功績を踏まえて、侯爵位にして、そこに養女として入ってもらう。」
20年前の悪魔とは確か、当時の騎士団の団員の半分以上を惨殺した、当時の騎士団団長で精神が狂った王族だったな。それを追い詰め、殺したとされていたのは、シュテルネン魔法士団団長と現騎士団団長・副団長、そしてヴァグナーク隊長だったと筈だ。
最後は瀕死の状態まで追い詰めて、最後のトドメを刺したと同時に岩肌が尖った谷底へと落ち死んだとされていたのだったな。それが生きていて、20年ぶりに姿を現したのか。
だが、何故そんな危険な奴がミーナに執着をしたんだ?
ミーナの特殊な魔法を見たからだろうか?
それにしても、ミーナはこれから貴族として生きることになるのか…。今まで平民と変わらない生活をしてきたから、辛い事が多々あるだろうな。
私が支えてやりたい所だが、それをすれば年頃の令嬢達に嫌がらせをされるだろうから、しばらくは係わらない様に気を付けなくては。
その後騒動がひと段落着いた所の会議で、その後父上と宰相が詰めた話を発表していた。
ミーナは王国の為に、色々な国を回らされてさらし者にされ、さらに、家族とも数年は会えない状況にさせられるのか。
何故、そんな結論になったんだ?こんな事になるのであれば、無理にでも父上達の話に割り込めばよかったな。
会議が終了してからしばらくして、父上に呼び出された。
一体何事だ?
「失礼します。いかがされましたか?」
「先程の会議の場では発表を控えたが、ミーナ嬢をお前の婚約者とする。」
「…何故ですか?」
「お前はどこまで叔父…20年前の悪魔の事を知っている?」
「騎士団での殺略や死んだと思われていた状況の事は知っていますが。」
「そうか。叔父上はな、力を持ったものやその原石に強い関心を抱く。
まともだった頃は、ただ強くすることや教育する事に関心を抱いていた。
しかし、何が叔父上にあったのか、突如として自分が育てた者を壊す事を始めたのだ。それが、20年前の出来事だった。
そんな男に目を付けられたのだ。魔法の事で他国や貴族共に狙われるよりもたちが悪い。
なまじこの王国の王族の直系だ。ナディの名を持つことの意味を分かっているな?それに対抗できるのもナディの名を持つ者のみだ。
だからこそ、お前の婚約者の立場が必要なのだ。」
「だから、わざわざミーナの魔法の事を世界に発表するのですか?
私の婚約者と言う立場を手に入れさせるために?」
「そうだ。貴重な魔法士を手放さない為にしている行為に見えるだろう。」
私は父上がミーナの事を何処まで思ってのことなのか、それとも、私にそう思わせて、ただ単に王国に縛り付けるための言い訳なのかが分からない。
少なくとも、私はミーナに誠実であろう。
いつもお読み頂きありがとうございます。
次回からは4章が始まります。
明日・明後日は更新をお休みします。
楽しみにお待ちいただいている所、申し訳ありません。
次回は5/17の7時に更新予定になります。




