➖閑話 〜ダン・フォスキーの幸運〜➖
流行病が終息して学院が再開してから数週間がたった。
再開直後に、シルバとロイ兄弟に呼び出しをくらって、ミーナに惚れるなと言われ…既に惚れてるから無理な相談だか、それは言わない方が身の為だろう。
それと、瞳の色を気にしてミーナの存在を誰にも言うなと言われた。やっぱり何か特別な事情があるんだな。
その後は、シルバとは普通に友人付き合いを続けていたが、弟のロイの方は、やたらと俺を睨んでくる。
「なぁシルバ、学院が再開されてからロイと会うと必ず睨まれるんだが、理由を何か知らないか?」
「…ただの心配性だ。ミーナの事で気が気じゃないんだろう。」
「俺、あれからミーナに会ってないけど…。」
名前を呼び捨てにしただけで睨むなよ。これは、あの有名なあれか。
シスコン野郎どもが。
将来ミーナが結婚する時は大変そうだな。
まぁ、それも愛の試練かね。
…はぁ、また会いたいな。まっ、俺みたいなのは相手にされないだろうから、兄貴分として見守るつもりだ。ヘタな男だったら、奪うつもりだがな。
ロイに毎日睨まれる事と、最終学年になった事で、多少忙しいが充実した毎日を送っていたが、ある日突然、シルバとロイが攻撃的になった。
シルバが授業中の模擬戦や休憩時間での手合わせで、やたらとえげつない攻撃を仕掛け、ロイが所構わず魔法で攻撃を仕掛けてきやがった。
おまけに、ロイは俺を許さないときたもんだ。俺がお前らに何したってんだよ。
その後も毎日毎日、ロイは飽きもせず所構わず魔法を打ってくる。
お陰で周囲に影響が出ないように対処したり、魔法士相手での戦闘も格段に上達したが、微妙にイラっとする。
いや、シルバも分かりづらいが相変わらずえげつない攻撃をしてきている。
本当にお前ら何なんだよ。
そんな毎日を過ごし、最終学年が1ヶ月過ぎた。
今日から、学院の最終学年の1番大切な研修が始まる。
研修と言うのは、学院と学園の合同で、最終学年のリューリンの2月になると、希望進路先に仕事を体験しに行く事だ。
要は、本当にその仕事に就いていいのかの確認をする様なものだ。
研修を2週間受けた後に、1ヶ月の猶予期間を経てまた研修をする。それを卒業するまで繰り返す。
猶予期間の際に、希望進路先を変更して新しい研修先に移動する事は認められている。と言うより、それをして就職後の離職率を下げる狙いがある。
俺は、もちろん騎士団を希望進路にしているので、騎士団に研修に行くことが決まっている。
実力により研修の受け入れ先が変わる為、学院で2位の俺は第1騎士隊に、学院で1位のシルバも本来なら同じ第1騎士隊だったが、父親が第1騎士隊の隊長なので、第2騎士隊に受け入れが決まった。
第1騎士隊は、平民出での騎士の1番の出世部署と言われている。
この短い研修期間でどれだけの物を吸収出来るかが、今後の騎士生活に重要だろう。
さぁ、これから騎士団団長の挨拶が行われる。
気合を更に入れなければ。
「皆さん、おはようございます。
私が騎士団団長のオルデン・クリーガです。
これから2週間は、本物の騎士同様の訓練と任務に就いて頂きます。
大変でキツイ事も有るでしょう。しかし、それを乗り越えられない様で有れば、この騎士団には不要です。
一瞬の気の緩みが、皆さんの命取りになる事も有りますので、お気を付けて下さい。
………こんな風にです。」
いきなり、この場にいた騎士団の騎士達が抜剣して、学生達に襲いかかっている。
俺はこの時ほど、ロイの攻撃に感謝した事はない。
あれのお陰で、突然と事にも動じず、動く事が出来るようになっていたのだから。
取り敢えず襲ってきた騎士を弾き飛ばし、近くにいた学生を助ける。
弾き飛ばした騎士が再度襲って来ないかを注意しつつ、更に他の学生を助ける。
それを数度繰り返していると、団長からの声が上がった。
「やめっ。
今年は骨がありそうな子が居ますね。楽しくなりそうです。
そこの君と君。前に出てきて名前を教えて頂けますか?
あぁ、シルバも前に出てきて下さい。」
どうやら、俺と学園生とシルバがお眼鏡に叶ったようだ。
まずは、学園生から自己紹介をして頂こう。いくら騎士団が身分制度より実力主義だからといって、こんな所で悪目立ちはしたくないからな。
「ベルンハルト・ユスティリータです。
ユスティリータ子爵家の三男になります。
宜しくお願いします。」
「シルバ・ヴァグナークです。
第1騎士隊隊長ハンス・ヴァグナークの息子になります。
宜しくお願いします。」
「ダン・フォスキーです。
平民で両親は花屋兼薬草園をしています。
宜しくお願いします。」
シルバの挨拶の後と俺の挨拶の後では、学園生の反応が違う。
シルバはヴァグナーク隊長の息子だから仕方ないとはいえ、ムカつくな。
俺は平民で、騎士に関わりのない家の人間だから侮られてるんだな。
今、俺を侮った奴らはいつか見返してやる。
「なるほど。
ルダート副団長、あそことあそことあそこの彼らとここら辺の彼らは、特別メニューが必要そうですね。
彼らの事は任せましたよ。
それと、ベルンハルト・シルバ・ダンの3名は各騎士隊では無く、私の元で研修をして頂きます。
この襲撃に対応出来る対応力と技量は中々素晴らしいですからね。
ここ何年も、これの合格者は出てませんでしたが、一気に3名も出て嬉しい限りです。」
どうやら、この襲撃は何かしらのテストだった様だ。
普通に考えたらそうだよな。
その後、俺達3人は団長に着いて行き、団長の執務室らしき場所に連れて来られた。再度挨拶と今後の研修内容の確認をして、午前中は訓練をして、午後は執務の手伝い…書類整理をして過ごした。
まさか、騎士団の団長の元で研修出来るとは夢にも思ってなかった。
これから更に精進しよう。
今日の研修がそろそろ終わる頃に、団長の執務室に来客があった。
どうやら、シルバの父親のヴァグナーク隊長の様だ。
シルバに用かと思っていたら、俺の前で立ち止まり、団長に俺を借りると言って、俺を引きずりながら執務室を出て行った。
その際、シルバは額に手を当てていて疲れた顔をし、団長と副団長、そしてベルンハルトは面白そうな顔をしていた。
ベルンハルト、何でお前は楽しそうなんだよ。
あっ、ベルンハルトとは今日1日で仲良くなれた。どうも、学園生とは合わない事が多く、俺達といる方が楽しいらしい。学園生って…。
現実逃避をしながら、ヴァグナーク隊長に連れてこられたのは、ヴァグナーク隊長の執務室だった。
「ダン・フォスキー君。君に率直に聞きたい事がある。
ミーナの事をどう思っている?
嘘はつかない方がいいぞ。」
「っ!
……ミーナの父親である貴方を前にして言うのは、気が引けますがハッキリと申せば、好きです。
ですが、ミーナ本人には思いを告げる気は有りません。ずっといい兄貴分で通すつもりです。」
「…そうか。
済まんな、変な質問をして。
そう言えば、ダンの実家は花屋兼薬草園だと言っていたな。
客として注文したいんだが、良いだろうか?
週に1度の頻度で、季節の花の花束を5つと庭に植える用の株を2〜3種類を頼みたい。
株の種類と量はミーナの意見を聞いてくれ。」
「注文承ります。
ですが、ミーナに株の種類を聞いても宜しいのですか?」
「構わない。
ダンは信頼出来るし、ダンのご両親も信頼出来る。
申し訳無いとは思ったが、妻が倒れた時に調べさせてもらっている。」
「そうでしたか。
私には分かりませんが、何か複雑な事情がおありなのでしょうから、構いません。」
「ありがとう。
配達が可能な時には、ダンが自らしてもらえると助かるな。
ミーナは友人が1人しかいないから、話相手になってくれるとありがたい。」
「私で宜しければ。
ですが、私はミーナに惚れているのですが構わないのですか?」
「問題ない。
引き留めて悪かったな。」
「いえ、失礼します。」
ヴァグナーク隊長の執務室を出て、今の出来事は何だったのかと思ってしまう。
ヴァグナーク隊長にミーナの事を好きかと聞かれるし、普通好きな子の父親に言える内容じゃないだろう。しかし、あそこで誤魔化すのは愚策だと直感が告げていた。だから話したが、なんで、少し落胆してるんだよ。どれがダメな回答だったんだよ。
それにいつの間にか名前呼びに変わってるのは嬉しいやら、恥ずかしいやら。
あぁ、でもこれでミーナに会える口実ができたな。
ヴァグナーク隊長ありがとうございます。
なんか、団長の目に留まるは、ヴァグナーク隊長のお陰でミーナと会えるようになるわでいい1日だったな。
お読み頂きありがとうございます。
これにて、第2章は終了になります。
次回からは第3章のスタートです。
ハンスパパは全面的にミーナの恋を応援&キューピッドする気満々です。
辛い思いをさせた事への罪滅ぼしのつもりなんですが、相手がダンだから応援&キューピッドをする決意をしています。相手が何処の馬の骨ともわからなけられば、全面戦争になっていました。その時はシスコンブラザーズも参戦しているでしょう。




