32話
「おはようございます、ミーナ。
毎日ありがとうございます。精が出ますね。」
「おはようございます、ガイストリスタ司祭様。
今日もお元気そうで安心いたしました。」
只今、王都内にある小さめの教会でナディエージ様に祈りを捧げ、教会内や周辺の掃除をしている所です。
ここは、セシルと初めて外出をして王都を案内された時に見つけた教会です。
翌日から毎日通い、最初は祈りを捧げて帰宅していたのですが、通いだして教会に馴染んできた頃から、お年を召されて体が不自由になったガイストリスタ司祭様の代わりに掃除をするようになりました。
「ミーナがここへ通いだして、どれくらい経ったのでしょうか?
歳をとると、時間の感覚が曖昧になっていけませんね。
最近だった様な気もしますし、もうずっと前だった気もしますからね。
それだけミーナが当たり前の様に毎日通ってくれている為なんでしょうが。」
「ふふっ。
少しでもガイストリスタ司祭様のお役に立てているのでしたら、嬉しいです。
今年13歳になるなので、もう4年ほどになりますね。」
「そんなに経ちましたか。時間の流れは早いですね。
もう13歳になるのですね。それであれば、学院で希望進路をそろそろ提出する頃ですね。
ミーナは将来の仕事はどうされるのですか?
もし教会に興味がおありでしたら、私がこの国の中央教会の方に紹介させていただきますよ。」
「ガイストリスタ司祭様、お気遣いありがとうございます。
ですが、実は私既に仕事を持っているのです。」
「そうだったのですか。それは知りませんでした。
差支えが無ければ教えて頂いても?」
「ええ。従兄の経営しているシュテルネン商会で、デザインの仕事をしているのです。」
「あぁ、去年オープンして、忽ち有名店になったお店ですね。
素敵な洋服やぬいぐるみなどを販売されているとか。
実は、私の孫娘がそこの洋服のファンなんですよ。」
「まぁ、ありがとうございます。今度、お孫さんと一緒にいらして下さい。
ガイストリスタ司祭様にはお世話になっているのですから、サービスさせて頂きます。」
「お世話になっているのは、私の方ですよ。
…おや、セシルとアンナが来ましたね。もう学院に行く時間になったようですね。」
「「おはようございます、ガイストリスタ司祭様。
ミーナもおはよう。」」
「おはようございます。セシル、アンナ。
ご実家での朝の仕事は順調に終わったようですね。」
「おはようございます。」
「はい。
ガイストリスタ司祭様、こちら父から預かってきた薬になります。
今日の午後一に、孤児院の方に診察に伺うとの事です。」
「ガイストリスタ司祭様、これは月に一度の寄付の本になります。
搬入した時には既に傷がついていたものになるのですが…。今回は、少し年長向けの絵本になりますね。」
「そうですか。2人ともわざわざありがとうございます。」
「いえ、ミーナを迎えに来るついでですから。」
「そうそう、ミーナは放っておくといつまでも教会に居続けちゃうもんね。」
「それは、もう言わないで下さい。」
学院に通い出した後も毎日教会に来ていたのですが、たまたまセシルが教会に顔を出さなかった日に、学院が始まる時間を過ぎても学院に登校していなかった事があったのです。
その時に学院を無断欠席して、セシルと一緒に私を探してくれたのがアンナでした。
アンナは姉御肌な性格で、学院で浮いた存在になっていた私を、ずっと気にしていた為セシルと一緒に探しに出てくれた様です。
翌日学院に登校した時に、先生にこってり怒られたのは友情を育むいい思い出です。
そうなのです。私は学院にも通える様になり、外出も自由に出来る様になりました。
模擬戦の結果は、2敗1分けでしたがそれだけの戦闘力があればとお許しが出たのです。
しかし条件として、<必ず目眼鏡を掛けている事、模擬戦同様の装備をしている事、騎士団と魔法士団で毎週交互に学院の休養日に訓練に参加する事、外出は予め決められたエリア内である事、それ以外のエリアに行く場合は事前に申請し許可を得る事>とされています。
1つでも破れば、外出禁止が言い渡されるので順守しています。
少し決まり事が多くて息苦しく感じますが、以前の家に引籠っている状態に比べればとてもいい状態だと言えますね。
「そう言えば、今日はこの間のテストが返ってくるね。自信はどう?
私は、10位以内に入っている予定なのよね。」
「私は、今回苦手な家事部門が足を引っ張ってくれたからな。30位以内って所かな。」
「セシルの今回の刺繍の出来上がりは酷かったもんね。逆に天才だと思ったよ。」
「アンナ、どういう意味かな~?」
「セシル、私もアンナと同意見です。」
「ミーナまで!?どうせ、家事音痴ですよ。」
「また時間のある時に練習しましょう。付きっ切りで教えますから。」
「ミーナは相変わらず、万能だもんね。今回も不動のトップでしょ。
どうやったら、そんな完璧になるのよ。」
前世の知識と転生後の努力の賜物です、とは口が裂けても言えませんね。
そんな他愛のない話をしながら、学院に向かって歩いていたのですが、後方から猛スピードの馬車が迫ってきました。
何事でしょうか?
遠目から見ても見慣れない馬車ですね。家紋も見当たらいなですし。
セシルとアンナの手を引き、道の端へ避けて立ち止まります。
しかし、私達が立ち止まったのを見ると、馬車がスピードを落として近くに停車します。
この時間は、学院に登校するには少し早い時間になりますので、学院の正門に続く道筋ではありますが、まだほかの学生の姿は見当たりません。
私達の様な小娘に一体何の用があるのでしょうか?
私はセシルとアンナの手を放して、常備しているクナイと三節棍をすぐ取り出せる様にしておきましょう。
中から人が降りてきました。
「ラッキーだな。お前らは学院の生徒で合ってるな?
大人しくしていれば、それほど痛い目には合わせないからな。」
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