ー閑話 ~パトリック・ナディ・プランツェの驚愕~ー
いつもより長めです。
ヴァグナーク隊長に娘が居たのには驚いた。そして、その娘の色の組み合わせを言われさらに驚く。
亜麻色の髪に烏羽色の瞳の組み合わせをした者が本当にいるのだろうか?
父上が、外に出さずに閉じ込めておきたいと思う気持ちも分かる。そんな特殊な容姿の少女が外に出れば、どうなるかがある程度の予想が出来るからな。
それに、シュテルネン魔法士団団長の孫娘だと、万が一に帝国の人間に知られればさらに酷い事になるだろう。
帝国は40年前の我が国との戦争で、まだ年若かったシュテルネン魔法士団団長――当時は一般魔法士――1人によって、戦況はひっくり返されそのまま敗戦している。
その為に、帝国の密偵や暗殺者が我が国にやって来ては、シュテルネン魔法士団団長やその家族を狙っていた。
一度、まだ成人前だったヴァグナーク隊長を誘拐したが、ヴァグナーク隊長とヴァグナーク隊長を大人しくさせる為に人質として連れてこられていた、当時成人前の学院生でもあった友人のクリーガ団長に返り討ちにあい、余程の事をされた様で、その後は大人しくなっていた。
しかし、最近ヴァグナーク隊長の家族の事をコソコソと探りを入れているネズミがいるようだと、フランツから聞いていた。
恐らくまだ、ヴァグナーク隊長はその存在に気が付いていないだろう。
フランツの趣味が情報収集で、それを行うのに風属性の魔法まで行使している程だ。
時々それで持ってくる情報は価値があり、今回もその趣味を行っている最中にネズミの存在を知って、過去の事もあり私に話を持って来ていたのだ。その内容を父上に報告を上げて、大々的にネズミの正体を調べようと思っていたら、娘の存在の発覚だ。
先程、フランツが言っていた市井の噂話の真相を探ろうとしていた帝国のネズミなのだろう。
そして、娘の存在が明らかだった場合、少女を誘拐して今度こそ目的を果たそうとするだろう。
いつまでも鳥籠に押し込めておけないが、帝国側からの動きも気を付けなければならない。
帝国のネズミに対抗出来る様な子であれば、問題なく外に出しても構わないはずだ。逆に帝国のネズミを暴け出せるかも知れない。
私は、国の為に幼い少女を囮にしてしまうのだな……。いや、為政者なのだから、全の為に1を犠牲にするのは間違いではないだろう。
娘を思う親心を利用するのも心苦しいし、幼い少女を囮に使うのも本心では嫌だが、戦争が起こり多くの国民に犠牲が出るより、はるかにマシだろう。
「陛下、私の方でそのお嬢さんを見極めてもいいでしょうか?
実は、最近ヴァグナーク隊長の周りをコソコソと調べているネズミがいるとフランツから報告がありまして。今日の報告会にフランツを連れてきたのはその為だったのですが、恐らくそのネズミはヴァグナーク隊長の娘さんの事を調べているのでしょうね。
どの道このままでは、ヴァグナーク隊長の娘さんが人知れず誘拐される可能性が出ます。それであれば外に出して、人目に触れさせるべきでは無いでしょうか?
勿論、無条件で外に出すわけではありません。
ネズミに対抗出来る様であれば自由でもいいでしょうが、そうでない場合は、シュテルネン家に養子に出して、伯爵令嬢として生活をしてもらえればいいでしょう。」
「どのようにして、見極めるつもりだ?
それに、容姿の件はどうする?」
「容姿の件は、今までにも何度か外には出られているのですよね。その際はどうされていたのですか?
見極め方法は2つ用意するつもりですよ。
1つ目は私が直接会い、簡単に手懐けられる相手かどうかと色仕掛け等の対応出来るかどうかを試させて頂きます。
2つ目は、単純に力の確認させて頂きます。
そうですね、対戦相手は、騎士からクリーガ騎士団団長かルダート騎士団副団長、魔法士からはネイルソン隊長でいかがでしょう?」
「お前は何を考えているのだ。1つ目は構わんが、2つ目は対戦相手が悪いだろう。脳筋の戦闘狂と鬼神、腹黒魔法士なんて、8歳の少女が相手に出来るはずがなかろうが。」
「陛下、それぐらいの相手と戦えなければ、自由を与えるのは無理ですよ。ネズミや帝国の相手がどの程度の力を有しているのかが分からないのですから。
ヴァグナーク隊長、娘さんとはいつ会うことが可能でしょうか?」
「明日、魔力値等の測定で魔法士団の隊舎に訪れる予定です。」
「そうですか。では、私はこれで失礼します。フランツ行こうか。」
父上の執務室を出て、その足で騎士団団長・副団長の執務室とネイルソン隊長の元へ向かい、それぞれに模擬戦を行う事といつ頃行うかは追って決める旨を話した。
翌日ヴァグナーク隊長の娘が、魔法士団の隊舎に訪れたタイミングで隊舎の魔力の測定をする部屋を訪ねた。
訪ねた時には既に魔力測定を行っていて、その光景に息を飲んだ。
あまりにも美しく幻想的な空間で、光の中心で佇んでいる少女は、ナディエージ神の使いのような雰囲気を醸し出している。
これは、私の幻覚だろうか?思わず隣にいたフランツ見やった。するとフランツも同じく息をのんでいる。
魔力の色は系統を表していたな。銀色は確かに聞いたことが無い。これが父上が言っていた、‘魔力を有し、魔法の才もあるようだが魔法の系統が一切不明’と言う事か。
父上は色を聞いていたのだろうか?
銀はナディエージ神の色だと、ナディの名を戴く王族と教会の枢機卿以上の者以外には秘されている情報だ。
その為、教会は銀の色を持って生まれた者を、神聖視するか異端視するかの両極端になっている。彼女の敵は、帝国だけではなく、教会も含まれる様になるだろう。
何とも頭の痛い話だ。そしてどうしようもないが、まさかこの私があの幻想的な光景の影響で幼い少女に淡い思いを抱く事になるとはな。
フランツの顔も若干赤らんでいる。こちらも予想外の展開になったものだ。
さて、このまま淡い思いを抱いて終わる訳にもいかない。本来の目的を果たすとしようか。
少女…ミーナは簡単には手懐けられそうにないな。芯をしっかりと持ち合わせている。
そして残念ではあるが、私の顔だけでは落とせないようだ。顔で人を判断する人間でも無い様だから、色仕掛け等も大丈夫だろう。まだ、8歳の少女では色仕掛けしても反応がないから断言は出来ないが。
ミーナとの対面を終え、自身の執務室へ戻ると模擬戦の日程を伝えられた。
リューリンの2月18日か。予定を開けて私もしっかりと見定めさせてもらおう。
そして模擬戦当日になり、普段ミーナの外出先だという森へ父上達と視察と言う名目で移動した。
1ヵ月ぶりに再会したミーナの服装は、洗練されたデザインだが町娘のよく着るワンピースだった。まさかそれで戦闘しないだろうなと思っていたが、どうやらそのまさかだった。意図としては十分に分かるが、不利ではないだろうか?
そんな事を思っていたが、いざ模擬戦が始まってみるとそんな事は無いのだと気付かされた。
戦闘狂と名高いクリーガ騎士団団長が楽しそうで、どんどん本気を出している。それだけ、ミーナの戦闘力が高いのだろう。
その後は、最初から本気を出したネイルソン隊長と戦い、お互い決め手がない状況だったが、何故かミーナが敗北宣言をした。
そして、クリーガ騎士団団長とネイルソン隊長コンビでの1戦で、最後に本気を出したクリーガ騎士団団長の一撃で、気絶をして勝敗がついた。
ミーナの実力は申し分が無いだろう。何せ、普段本気を滅多に出すことの無いクリーガ騎士団団長が本気を出さざるおえなかったのだから。
君は自由を手に入れられるだろう。だが、君の周りには敵が多く潜むことになる。
そんな敵から君を守る強さを私は手に入れよう。愛しい君を守るために。
お読み頂きありがとうございます。
次回も閑話になります。




