-閑話 ~ハンス・ヴァグナークの策略~ー
自分にあてがわれた執務室で書類仕事をしていると、実家からの使いとしてマルスがやってきて手紙を渡してきた。
王都屋敷筆頭執事のマルスが遣ってきたことで何があったのかと、訝しげに手紙の内容を読み進めていると、どうやらミーナとロイが喧嘩をしたようだ。
確かに今まで喧嘩をした事は無かった様に思うが、何故そんな事で使いが遣ってくるのかと不思議に思っていると、マルスが補足情報を話し出した。
「ミーナ様の唯一の友人であるセシルさんがいらしている時に、恋愛のお話になったのでしょう。その際に、ミーナ様が好いている方がいるというのを部屋の外から、ロイ様がお聞きしてしまった様で、その方についての口出しをされた模様です。
そこから、普段色々と我慢をされていたのが溢れてこられた様でして…。
私も、エマが護衛のものに言づけたのを聞いただけですので、詳細までは把握しておりませんので、ご了承お願い致します。」
「…そうか、わかった。
と言う事らしいから、今日は仕事を切り上げて早く帰ることにするから後は頼んだぞ、ケイン。
マルスもわざわざすまんな。」
「ハンス様。
貴方様がいくら対外的にもシュテルネン家を出られたと言われましても、私にはお仕えする主家の大事な一員でございます。
ですので、その様にお思いにならないで下さいませ。」
マルスの実家に対する忠誠心は相変わらず呆れる程だな。まぁ、過去を思うと仕方がないのかも知れないが…。
マルスが帰ったのを見た後に、手元の書類を片し、手つかずの書類を副隊長のケインに押し付けて帰った。
明日はネチネチと小言を言われるだろうから、ドライフルーツを多めに持ってきておくか。
家に着くと、書斎にエマを呼び出し詳しく事情を聞くことにした。
やはり、マルスが言っていた通り恋愛話をしていた所に、ロイが乗り込んで相手の事を貶し、さらに認めないと文句を言ったようだ。
その事にミーナがキレて、普段は文句も言わず我慢をし続けている自由に外出する事が出来、また友人を何人も持つ兄に、さらに心の自由を奪われたくないと、怒りをあらわに泣きながら言っていたとの事だ。
その後、エマが退出する際にロイに書斎に来る様に伝言を頼み、ロイからの話も聞いて、間違いが無いかを確認した。
「ロイ、お前がミーナを大切に思っている事はわかっている。だが、ミーナの気持ちも考えてから行動に移せ。
それが出来なければ、大切な者を守る事も出来ず、さらに今回の様な事を続けるとミーナに嫌われるぞ。」
「…はい。以後留意しておきます。」
だいぶミーナに言われて堪えている様だ。この分ならまた同じ過ちもしないだろう。
夕飯後にはミーナを訪ねて、思っている事を聞いておこう。
ミーナの部屋を訪ねると、マーガレットの体調を気にしていた。
そう言えば、早い帰宅の理由をマーガレットの体調不良にしていたな。喧嘩のおかげで、マーガレットと一緒にいられる時間が長くなったからと、少し構いすぎていたしな。
ミーナからは何を思っているのかを聞くと、やはり、自由に外出が出来ない事や友人を作ることが出来ない事に辛さを感じながら我慢をしていた事が分かる。
当たり前の事だよな。何を言わないのは、俺たちを困らせない様にする為だったんだな。そして、俺達のような結婚がしたいのか。
そうとなれば、大切な娘の為に俺が出来ることをしていこう。
もう少し、辛抱していてくれ。
それと、相手の少年のダン・フォスキーの心と将来の事を確かめておこう。ミーナの事を憎からずと思っているのなら、この恋を実らせてやりたいからな。
翌日、王宮に出仕すれば予想通りにネチネチとケインから小言を言われていたが、聞き流し無言でケインにドライフルーツの入った袋を渡した。
ケインはドライフルーツと俺を交互にみて懐にしまい、鍛練場に木剣を持って去っていった。
俺は机の上に載っている書類を一瞥し、ため息をついた。
昨日押し付けた書類をほとんど処理されずに載っていたのだ。取り敢えず後回しにして、陛下の執務室に行こうか。
この時間ならば、事情の知らない王太子殿下も執務室にいるはずだしな。陛下には申し訳ないが、現状の打開には、頭の柔軟な若者の考えを取り込みたいからな。
陛下の執務室の前に到着し、護衛している騎士に訪問を告げてもらう。ほどなくして、入室を許可されたので中に入り、騎士の礼を取り朝の挨拶をした。
「陛下・パトリック王太子殿下、おはようございます。本日もご機嫌麗しく存じます。そして、早朝からのご訪問申し訳ご座いません。」
「構わん。何かあったのか?」
「私も構いませんよ。むしろ、毎日同じ話で飽きていた所ですので。」
「陛下にお願いしたき事が御座います。」
「何だ?」
「娘のミーナの事で御座います。いつまで現状維持をせねばならないのでしょうか?」
「っ!その件はここでは…。」
「ヴァグナーク隊長には息子が2人でしたよね?娘がいるのは存じ上げていなかったのですが…フランツは知っていたかい?」
「いや、…ただ市井の噂話で聞いたことがあるな。
シュテルネン家…ヴァグナーク家には隠された姫がいるとかいないとか。」
「どういう事でしょうか、陛下?」
「…お前が20歳になったら言おうとしていたが、早まったと思うことにしよう。
そこのヴァグナークの娘は少々特殊でな。
髪の色こそ母譲りの亜麻色の髪をしているそうだが、瞳の色が父親譲りの烏羽色の瞳をしている。
もちろん、魔法士団の調べで魔力を有し、魔法の才もあるようだが魔法の系統が一切不明だ。
そんな娘を気軽に外に出せんだろう。なんせ、祖父はあのアーノルド・シュテルネンで、父がハンス・ヴァグナークだぞ。誘拐され脅しの材料に使われるか、その特殊な容姿から人体実験をされかねんからな。」
「…そうだったのですか。ですが、その少女は人間ですよ。いつまでの鳥籠の中におとなしくしていられるとは思いませんが…。
ヴァグナーク隊長、娘さんは今何歳になられたのでしょうか?」
「今年9歳になります。」
「1年後には学院に通う年齢ですね。よく今まで外に出ないで大人しく出来ていましたね。
ですが、今になって鳥籠の現状を変えたいとの事は、抑えが効かなくなりつつあると考えて宜しいですか?」
「今でも我慢をし続けていますが、何時まで続くのかとこの間問われまして。兄たちが通っている学院にも通いたい気持ちが強いのでしょう。
父親として、もうこれ以上娘に我慢を強いるのが辛いのです。」
「……。」
「陛下、私の方でそのお嬢さんを見極めてもいいでしょうか?」
どうやら、思惑通りに殿下を巻き込むことに成功したようだ。
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次回も閑話になります。




