27話
お祖父様の合図で、アルノー兄様が動きだしましたが、動作がとても遅いです。いえ、父様やシルバ兄様達に比べてなので、一般的には普通なのかも知れませんが。
アルノー兄様が木剣を振りかぶったので、私はその剣を受ける事にします。
受けた剣は軽く、簡単に弾き返すことが出来ましたが、フェイントだったのでしょうか?
剣が弾かれた事により、私とアルノー兄様との間に僅かな距離が出来たので、すかさず詰めてフェイントを入れながら剣を振り抜けば、アルノー兄様の右脇腹に剣がヒットしました。
「そこまで。」
「………。」
「なんで……ミーナに…まけ、た?」
アルノー兄様が呆然としています。
そんなに呆然とされても、私も困ります。
まさかフェイントがそのまま、右脇腹にヒットするとは思いませんでした。
えっと、アルノー兄様は剣の才能が全くありませんね。と言うよりも、体捌き自体も悪いのできっと運動音痴なのでしょう。
「アルノー、ミーナに負けたのだから騎士になる事は諦めなさい。
その約束だったのは覚えていますね?」
「…はい、父上。
文官を目指して今後は精進致します。」
「よろしい。
文官でも騎士団付きの文官の職もあるので、そちらを目指すのは自由ですよ。
必要な知識は、叔父上に教えてもらいなさい。」
「っ!ありがとうございます。」
なんでしょうか、この茶番劇は。
伯父様に顔を向ければ、苦笑いが返されました。
「アルノーに騎士を諦めさせる為に、歳下のミーナに負けさせる必要があったのじゃ。
じゃないと、無駄死にするじゃろ。」
お祖父様が私の横に移動して来て、こっそりと教えてくれました。
確かに、あの実力では直ぐに亡くなりそうですが、その前の入隊試験で落ちるのではないでしょうか?
「お祖父様、手合わせ願えないでしょうか?」
折角着替えたのに、ものの数分で勝負がついてしまったので物足りないです。
それに、模擬戦ではネイルソン隊長とも戦わなくてはならないので、腕慣らしをしたいです。決して脳筋ではありませんよ。
それにロイ兄様だと物足りないですし、父様だと剣主体になってしまうので、魔法が主体のお祖父様と手合わせ出来る機会を逃すのは勿体無いですからね。
「構わんが…。
庭を破壊すると、ルーカスが煩いからのう。
次の儂の休みに森にでも行って、やるのはどうじゃ?」
「…分かりました。」
今日は出来ないのですね。
そして、平然と庭の破壊が前提になる魔法をお使いになるのですね。
訓練としては有難い事ですが。
模擬戦迄に、色々なパターンを訓練したいのですがどうしましょう。
「ミーナ、ハンスやシルバ程ではないですが、私が手合わせしましょう。
模擬戦も有るので、普段と違った相手とも手合わせした方がいいでしょうしね。」
「伯父様、ありがとうございます。」
その後は、伯父様と手合わせをしましたが、父様やシルバ兄様と違って、手堅く守り主体の剣を振るっていました。
立場は伯爵ですから、最低限自身の身を守れる程度で、護衛や騎士の方の到着まで保てばいいのですから、当たり前ですね。
そして、途中でアルノー兄様が参戦されて来ての2対1や、更にそこにお祖父様が、ウィンドボールやウォーターボールを打ち込んできて3対1と、いい経験になりました。
もちろん、伯父様とアルノー兄様は無力化させてもらいましたが、なぜ皆様引いていらっしゃるのですか?
森に行った時は、父様はもっとえげつないですよ。
日が暮れてから屋敷入り、アインさんにお茶を入れて頂きましたが、伯母様が呆れた顔をされています。
「ミーナ、模擬戦があるので気合を入れたいのは分かりますが、女の子なんですから程々になさい。
付き合っていた男共にも問題はありますが。」
「申し訳ありません。」
「次からは気を付けなさいね。
…貴方達もですよ。」
「「「はいっ。」」」
「それより、ハンスはまだ来ていないのですか?」
「先触がありましたので、そろそろかと。」
伯父様が話を逸らしていますね。私としても有難い事です。
模擬戦が終わるまでは、お淑やかは忘れていたいですね。…できればずっとですが。
「父上・兄上・義姉上、失礼致します。」
「ちょうど、そろそろかと話していた所ですよ。」
「そうですか。
アルノーの結果はどうでした?」
「…あっという間に、勝負が付きました。
叔父上、騎士団の文官になるにはどの様な知識が必要ですか?」
「一般的な文官の知識に武器防具やそれらの価値、騎士団の任務内容及び各隊の派遣地の情報・情勢等が最低限必要です。」
「今から覚えて、来年の採用試験に間に合うでしょうか?」
「余裕がある時に、勉強をみよう。」
「叔父上、ありがとうございます。」
アルノー兄様は、騎士団の文官に狙いを絞って士官試験を受ける事にされたのですね。
私がアルノー兄様に引導を渡した様な物なので、頑張って欲しいです。
「ハンス、ミーナの模擬戦の日取りは決まったのか?」
「リューリンの2月18日になりました。」
「1ヶ月後か。」
「はい。ミーナも準備を怠るな。
対戦するのは、団長とネイルソン隊長それぞれと、2人がペアを組んだ場合の2種類で行う。
そして、陛下以下大臣達が納得した場合のみに自由の許可が出る。
線引きがわからないから、常に全力を出す様に。」
「はい、父様。」
中々厳しい条件ですね。
お祖父様達の顔も険しくなっています。模擬戦までの1月は、それに備えて全力で準備を致しましょう。
「父上方、それでは失礼します。
ミーナ帰るぞ。」
父様は早く帰って、母様の顔をみて安心したいのでしょうね。
今までは、お茶を飲んでから帰途についていましたが、それを省いています。お祖父様達も生暖かい目を向けています。
「お祖父様・ルーカス伯父様・アマンダ伯母様・アルノー兄様、今日はありがとうございました。
ご機嫌よう。」
父様のプフェートに乗って家路につきます。
家につけば、シルバ兄様とロイ兄様が待ち構えていました。
「ただいま帰りました。」
さあ、エーデルさんの美味しご飯を頂いて、今後の英気を蓄えましょう。
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