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39 忘れた頃に奴らは戻ってきた

前書き



 奴ら再び!

【ノインターシュ】の街から、ヤクモ宛に手紙が来た。


『ヤクモくん、助けてくれ。

 店の金がなくなって、このままだと潰れちゃう』


 かつてヤクモが働いていた魔銃販売店【ガン・ザ・ロック】の老店主、オトナー老からのものだった。

 店の金がなくなった理由は至極単純で、ヤクモがいなくなった後、後釜の店員リズのハチャメチャ経済感覚によって、店の金が消滅してしまったからだった。


 オトナー老と言えば、魔銃販売店が所属している、魔銃ギルド内ではかなりの大物で、ドラゴンキラーと呼ばれる、超高級魔弾を作成できる唯一の人物である。

 通常販売している魔弾は、オトナー老からすれば小銭稼ぎ程度のものでしかなく、彼お手製の魔弾は相当な額がする。


 ――なのに、店の金がなくなるとは、どういうことだ?


 現在のヤクモほどでないにしても、オトナー老はかなりの資金を持っているはずだ。それが空になるという。


 ヤクモはしばし無言で考えた後、500万ゴールドの小切手を封筒に入れ、オトナー老宛てに送った。


 この世界の経済と、日本の経済をそのまま比べることはできないが、500万ゴールドと言えば、日本円ならば500万円ほどの価値になる。これだけの大金があれば、店の経営を立て直すのに十分な資金になるはずだ。

 これに懲りて、リズを自由にさせなければ、オトナー老の店は無事で済むだろう。





 それから2週間後、再びオトナー老からヤクモの元へ手紙が来た。


『ヤクモくん、助けてくれ。

 500万ゴールドじゃ足りない』


「……」

 500万ゴールドもの大金を、2週間でどこにもっていったのかと正気を疑いたくなるヤクモ。

 オトナー老は、この世界に来た際最初に厄介になった仕事先の店主であり、財布が無一文だった状態から引き揚げてくれた恩人でもある。

 とはいえ、500万ゴールドも出して、また金の無心である。


 通常であれば、これ以上オトナー老に対してヤクモが手を施す義理はないが、オトナー老はあれでも魔銃ギルドでは大物だった。

 様々な方法で資金を獲得しているヤクモだが、いまだに魔銃ギルドに所属している身分でもある。

 そのことも考えて、ヤクモは小切手に2000万ゴールドを書き記し、再びオトナー老宛に送った。


 ただし、今度はこの街で手下にしているネズミの1匹に命令し、オトナー老の現在の状況を調査するよう伝えた。





 それから1週間後。


『ヤクモくん、ワシは破滅だ。

 店は抵当にとられて、リズが有り金と共に行方をくらましてしまった!』


 もちろん、オトナー老からの手紙だ。


 この手紙を読んだヤクモは、連日の寝不足のせいもあって、部屋に置いてあったごみ箱を思わず蹴りつけた。


「チュッ!」

 籠の中に閉じ込められている、この街のネズミたちの頂点に立つゲーテ大公が驚きで鳴き声を上げた。

 ついでにこの部屋の中にいるペルシャ猫のスキピオがヤクモの方を一瞥するが、特に興味なしと言う感じで、それ以上は何もしない。、

 あとは黒猫状態になっているヤヌーシャもいたが、「蹴るなら、ぜひ私を!」という感じで、ヤクモに蹴られたゴミ箱をうらやましそうに眺めていた。


 調査に送り出したネズミも、1週間では向こうに到着しているのかさえ怪しい。


 それでも手紙には続きがあったので、ヤクモはそれを読んでいった。

 読み終えた結果、オトナー老は店を手放すしかなくなったため、【ノインターシュ】の街を出て、ヤクモの元に来るという。

『ついてはワシの為に、美人の秘書を用意しておいてくれたまえ』


 そう、手紙は結ばれていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 それから2週間後。

 【ディール】の港には、物騒な見た目のおじさんたちが5人ほど集結していた。

 一般人であれば明らかに近づきたくない集団で、全員が強面の顔をしている。とても堅気には見えず、危険な組織の一員にしか見えない。


 そんな危険にしか見えない集団の中に、1人だけ銀髪の美女がいた。

 女性1人だけあまりにも場違いに見えるが、いつものごとくヤクモである。



「オトナー老の登場か……しかしミスター・ヤクモ、女を用意しておかなくてもいいのかね?」

 こげ茶色の髪と目。左目に眼帯をした、この中で最も強面の顔をしてる男が言った。

 ディールの街からは20キロ離れた、王都ロンドリーナで魔銃販売店【ライフリング・ツイスト】の店長を務めているルシオラだ。

 ヤクモが【スプリングフィールド】の経営を始める際、世話になった相手である。


「女を用意って……あの爺さん相手に、どういう接待をするつもりなんだ?」

 ルシオラの言葉に呆れてしまうヤクモ。


 しかし、呆れているのはヤクモ1人だけで、他の面々は皆顔に強張った緊張を浮かべていた。

 彼ら全員がディール近郊で魔銃販売店を営んでいる同業者だ。無論魔銃ギルドに所属しているが、ただのギルド員と言うわけでなく、全員がギルド内では幹部級という連中だった。


「オトナー老は昔から女がいないと不機嫌を辺りにまき散らすんだ。あの人を怒らせると、我々も商売に差しさわりがあるから困る」

 とは、この場にいる幹部の1人の言葉だ。


 ――あの爺さん、ギルドじゃ本当に大物って話だったけど、そこまでなのか……

 ヤクモは感心するより、呆れてしまった。


 何しろ、ヤクモはあの爺さんから……



 直後ヤクモは背後に気配を察した。

 振り向くより早く、自然に体が覚えてしまった動作で、手を振る。

 ――パシッ


 ヤクモの尻めがけて延びてきた手が、途中で振り払われた。


「爺さん、あんたどこからいてきた?しかも、挨拶より先に手が動くとは、相変わらずの変態趣味だな」

「フォッフォッフォッ、ヤクモくんは男のくせして相変わらず美人じゃのう」

 久方ぶりの再会、【ガン・ザ・ロック】の店長――今では元店長となってしまったオトナー老の登場だった。


「オ、オトナー老!」

 70歳を過ぎていながら、やることはただの変態エロ爺なのに、登場に気付いたルシオラが慌てて頭を下げる。それに、他の幹部たちも続いた。

「うむ、みな元気かのう?」

「おかげさまで、皆無事に商売に励んでいます」

「そいつは結構」

 幹部たちを一通り見まわすオトナー老。

 強面の幹部たちが、一様に体を縮めている。


「……爺さん、あんたただの変態エロだけじゃなかったんだな」

 そんな光景に、ヤクモが言う。

「当たり前じゃ、ワシはギルドで最も偉いのじゃ。ここにいる全員、ワシが死ねと言えば死ぬ。そうであろう?」

「ハハハハ、オトナー老も大人げないですぞ。さすがにそこまでは……」

 オトナー老の無茶苦茶にルシオラが笑うが、直後鋭い目でにらみ返される。

 ルシオラは奥歯を噛んで、黙り込んでしまった。


 ――うわっ、マジかよ!

 爺さんのとてつもない権力に、ヤクモは唖然とした。


「災難だな、こんな爺さんに頭が上がらないなんて……」

「それ以上、言うな」

 ヤクモの同情に、ルシオラが低い声で言い返した。もっとも強面の顔に似合わず、その声には哀愁が過分に含まれていた。




 ところで、ディールの街へやってきたのは、オトナー老1人でなかった。


「ハーイ、私のヤクモ。元気にしてた?」

 ものすごく聞き覚えのある声。

 ヤクモはその場から5歩後退した。


 浅黒い肌に尖った耳が特徴。ダークエルフの巨乳美女が、一同の前に現れた。


「ちょっとヤクモ!どうして逃げるのよ」

「や、やあ、ディーヴァ。どうしてここに?」

 ヤクモとしてはあまり再会したくない相手。【ノインターシュ】の労働者ギルドで、討伐依頼を専門に受けている魔銃使いのディーヴァだった。

【ノインターシュ】のギルドでは五指に入ると言われる凄腕のギルド員だが、一方で同性である女性しか愛せないという姓癖の持ち主だ。

 ただ、以前はなかったのに、右頬に切られた傷の跡が残っている。


「それは無論、ワシの旅のお供と……ギャフン」

 オトナー老がどさくさに紛れてディーヴァの背後に回ろうとしたが、ディーヴァが先制攻撃でオトナー老を引っぱたいた。


「オトナー老!」

「貴様、何をするか!」


 ディーヴァの思いもよらぬ行動に、その場にいた幹部たちが、一斉に懐から魔銃を取り出し、ディーヴァの方へ向けようとする。


「バッカ者!」

 だが、それより早くオトナー老の怒声が轟いた。


「中身はともかく、別品さんに物騒な代物を突きつけるとは何事か!」

「も、申し訳ございません……」

 まるでヤクザのボスと子分。

 オトナー老に一喝されて、幹部たちは取り出した武器を収めた。



「……とりあえず場所を移そう。こんな人目が多いところで物騒なおじさんたちが固まってるのも、あれだから」

 魔銃ギルドの面々。それにディーヴァのやり取りを見ていて、ヤクモは提案した。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 と言うことで一行は場所を移して。ヤクモの店の1階にある、魔銃販売で重要な客を相手にする際にだけ使用する部屋に移動した。


 窓のない密室で、おまけに部屋の扉は鉄製という殺風景極まりない密室。


「こんな殺風景なところに、むさ苦しい男が5人か……」

「申し訳ありません」

 幹部の面々がいることにため息を付くオトナー老。幹部たちを代表して、ルシオラが謝る。


「あまり広い部屋じゃないから、ディーヴァくん、ワシの膝の上に座って……」

 ぎろりとディーヴァににらまれて、オトナー老が固まった。

「クソ爺さん。ここに来る船の中で、散々体に教え込んであげたのに、まだ教育が足りなかったかしら?」

「ノウノウ、三途の川はもう見とうない……」

 どうやら【ノインターシュ】からここに来るまでの船旅では、いろいろあったようだ。何があったか簡単に想像がついてしまうが、誰もそのことについて考えたくもない。


「……しょうがない。ではヤクモくんで我慢するから、ワシの隣に腰かけなさい」

「爺さん、あんたは何が悲しくて同じ男に手を出そうとする」

 エロ爺の変態ぶりは相変わらずだ。

「そんなん分かっておるわい!ワシだってインチキ女の外見より、本物の女の方がいいに決まっとる!じゃがな、じゃがな、ディーヴァに手を出せぬ以上、ここではもうヤクモくんしかおらんのじゃ!」

 力説し始めるオトナー老。

「ディーヴァ。この爺さんを本気で絞めてくれないか?」

「そうね、それが世の中の為になるわ」

 しかしオトナー老の力説はむなしく、同性愛者の美女と、美女にしか見えない男によって、冷たい視線で見られた。



「コ、コラ、いかんぞ。年寄りには敬老の精神を持たぬか!そうじゃ、お前たち。ワシのピンチじゃ、命がけでワシを守れー!」

 状況が不利と見て取ったオトナー老は、居合わせるギルドの幹部たちに命令した。

 しかし幹部たちもホトホト呆れかえっているようで、港では銃まで抜いたのに、ここでは誰一人助太刀しようとしない。

「オトナー老、美人の膝の上で死ぬなら本望でしょう」

 ついにはルシオラがそんなことまで言い出す始末。

「う、裏切り者ー」

 オトナー老の叫び声が室内にこだました。




 ところで、オトナー老がこの街に来たのは、店を担保に取られてしまい、ヤクモを頼ってやってきたからだ。

 一方ディーヴァがオトナー老と共にここまで来たのは、オトナー老が【ディール】の街につくまでの護衛を、ギルドの依頼として受けたからだった。

 普段は討伐系の依頼しか受けないディーヴァにしては、珍しく護衛依頼を受けたわけだ。


 ただし、彼女の武器は魔銃で、それに使う魔弾は彼女の大事な商売道具だった。

 オトナー老は性格はただのドスケベ爺だが、一般に市販されている魔弾よりも高性能の魔弾も販売しもいる。高性能な魔弾は量産が効かないため、誰にでも売るわけではないが、ディーヴァは例外に当たっていた。

 ディーヴァにとって魔物討伐のためには、オトナー老の魔弾は欠かすことができないものだった。


「……と言うことで、エロ爺が【ディール】に移るって聞いたから、私もこれからはこの街のギルドで働くことにするわ」

 ここまでの話をした後、最後にディーヴァは締めくくった。


「またよろしくね、ヤクモ」

 ディーヴァは草食獣を狙う肉食獣めいた目で、ヤクモにウインクをした。

「ハ、ハハハ、ヨロシク」

 ヤクモは乾燥した声で、それだけ返した。




 話が終わると、ディーヴァは部屋を出て行った。

 あとに残されたのは、全員が魔銃ギルドに連なる幹部だけとなる。

 ヤクモにしても、すでに魔銃ギルド内部で、立派に幹部の一員に名を連ねていた。


「さて、ここからはギルドの幹部会といくかの」

 ギルドに関係ない人間がいなくなった途端、それまでただのエロ爺でしかなかったオトナー老の雰囲気が変わった。

「はい、オトナー老」

 集まっている幹部たちも、先ほどまでの呆れていた表情を一転させる。


「とりあえず、この店はこれからはワシが仕切ることにする。よいのう、ヤクモ君?」

「いいですよ」

【スプリングフィールド】の店長であるヤクモは、あっさりオトナー老に従う。

 この店の店長でありながら、その座をあっさりとオトナー老に引き渡すというのだ。

 そんなヤクモに対して、オトナー老はひとつ頷く。


「うむ。ヤクモ君にはワシの下でまた魔弾の製造技術をいろいろと教えてあげよう。ついでに、このギルドの勉強もいろいろと教えてあげようかのう」

「……爺さん、まともな顔しながら、俺の方に手を伸ばさないでくれるかな?」

 ワサワサと指が動いているオトナー老。伸びてきた手の甲を、ヤクモはつねった。


「イタタタタ。ヤクモくん、君には相変わらず敬老の精神が足りておらんぞ」

「そりゃ結構。これでも手加減はしているので」

 しれと言い返すヤクモ。


 そんな2人の子弟関係を、残りの幹部たちは黙って無視する。

 関わってもろくなことにならないと分かっているのだろう。


「ただ、店は爺さんに任せてもいいけど、また爺さんの下に戻る気はないぜ」

「なにっ!?」

 ヤクモの思わぬ言葉に、驚くオトナー老。


「それは、どういうことかのう?」

「それはですな……」


 そこでヤクモに代わって、この場の幹部たちの代表的な立ち位置にあるルシオラが説明をした。

 今ディオナ王国の海軍では新型の軍艦の設計がなされているのだが、そこで利用する武器に、魔銃ギルドも1枚関わっていた。

 現状では海のものとも山のものとも言えない新型の軍艦だが、この計画は将来的に魔銃ギルドに数十、数百億単位の利益をもたらす可能性があるものだった。


「ほう、そりゃまた随分と景気のいい話だのう」

 ルシオラの説明に驚くオトナー老。

「その話を我々に持ってきたのが、実はミスター・ヤクモなのです」

 と、ルシオラは言った。


「ふぁっ!?ヤクモくんが!?」

 ヤクモとオトナー老が知り合ってから、まだ1年と経っていない。なのに、いきなり新型の軍艦の話に関わり、莫大な利益の話。それを、ヤクモが持ってきたというのだ。


「ヤクモくん、君は一体何者?」

 思わず尋ねるオトナー老。

「何者でもいいじゃないか。ただ、俺はギルドで魔弾を作る技術者を目指すより、経営者として協力した方が、ギルドにとっても遥かに巨大な利益を生み出せるぞ」

 ギルド幹部たちの目の前で語るヤクモ。


 その言葉に、居並ぶ幹部たちは頷いた。


あとがき



 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。




 後になって思ったんです、1|ゴールド(金貨)は1万円の価値にして、その下に銀貨と銅貨を加えた貨幣経済にしようかな~と。


 ところが2章で、コウにドブサライ生活させていた時に、ゴールドの話をしてしまいました。もう金貨とかなんだと言った通貨に関してあれこれ解説すると、話の整合性が潰れてしまうと……

(問題の部分を書き直すという手はあるけど、面倒だっちゃ~)


 そんなわけで、結局1ゴールドはただの1円ということになってしまいました。



 もっとも、ストーリー部分はクソ真面目に書いてるくせして、他の部分で話の運息を潰しまくってるような話ですけど~






 あと、ディーヴァがようやく再登場。


 本当はもっと早い段階で出てくると思っていたので、ヤクモたちが【ノインターシャ】から出て行った後、ほどなくして再登場すると思っていました。

 だから、別れる際のイベントも書かずにいました。


 ……あれから一体何十話経っての再登場でしょうね~

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