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37 猫とネズミの国の支配者は、今日も人間世界の陰で策動する

前書き



 知的エリートによる、世の中を舐め腐ったチートが始動する!

 【海港都市ディール】には、3年前から【グラックス&スタンレー商会】と呼ばれる、交易をメインに活動している商会がある。

 商会の代表は、グラックス・チザルピーナとスタンレー・チザルピーナの兄弟。兄弟の家はディール近郊の地主の家柄で、一般庶民に比べかなり裕福な家庭に生まれた。ただし、両親が若くして死去。

 それをきっかけに、2人の兄弟はそれまでに持っていた土地を売り払い、交易商となって活動することを決めた。

 地主であれば、そこにある畑や建物からの賃貸料で安定した収入を得ることができる。だが、ディールの街の繁栄は海運業によって成り立っていて、それに関わる仕事こそが、この街ではもっとも大きな富を獲得できる手段だった。

 平たく言えば、2人はさらなる金持ち目指して、商会を立ち上げたのだった。


 そんな野心満々の兄弟だったが、所詮は両家の坊ちゃん兄弟でしかなかった。

 最初に手掛けた貿易は、海外からの香辛料の輸入だった。それも巨額の富を狙って大量に買い付けたのだが、本国でいきなり香辛料の価格が大暴落。結果、利益を得るどころか、巨大な赤字を出してしまった。

 それでも懲りない兄弟は、次に海外から大量の鉄鉱石を買い付け、それをディール近郊にある工業地帯で売ることを画策した。

 だが、こちらも失敗してしまう。香辛料で出した大赤字ほどではないが、利益を上げることができず、赤字を膨らませる結果となった


 当初は野心を抱いていた兄弟は、いつの間にか企業家と言うより、単なる博打打(ギャプラー)となっていた。

 儲かる見込みがあると思うものに手を出すたびに、確実に利益でなく損失を作り出し、両親が残してくれた財産は、あれよあれよと言う間に目減りしていった。




 商会創立からわずか3年にして、積み上げた赤字は莫大なものとなり、対して両親が残してくれた財産は残りわずかとなってしまった。

「次は【ボルドー】ワインで……利は大したことがないが、安物ならなんとかなるはずだ」

 事業に成功しない兄弟だが、懲りもせず次なる交易を画策していた。

 兄が目を付けたのは、ワイン。


【ボルトー】と呼ばれる地方は、昔からブドウの産地として知られ、そこで作られるワインは、【ディオナ王国】の王侯貴族から一般庶民まで広く飲まれていた。

 ここのワインを売り出せば、莫大な利益は出せずとも、安定した利益を生み出すことができる。


「でも、兄さん。今年のボルドーは長雨で、ブドウの出来が悪いって話だけど?」

 そんな兄の企みに、不安を覚える弟のスタンレー。

「いいか弟よ。今年のブドウの出来が悪いってことは、例年に比べてワインを安く買えるということだ」

「そりゃ、そうだね」

 あまりにも当たり前の話だ。


「それを去年のワインということにして、王都で売りさばくんだ。そうすれば安く買ったワインでも、例年と同じ価格で売ることができる。どうだ、これなら確実に利益を出すことができるだろう」

「なるほど、それならいつもの年より儲けることができるね。さすがに兄さんだ」

 兄の考えは明らかに間違っているが、そんなことを気にもせず賛同する弟だった。

 かくして2人の兄弟は、ワインで一儲けすることを企んだ。




 その日の午後。商会の外に1匹の猫がいた。

 猫は口に白い封筒を加えていて、ちょうど商会から出かけようとしていた弟のスタンレー・チザルピーナの前に、それを置いていった。

 封筒は中身が手つかずであることを証明するため、赤い蝋によって封蝋(ふうろう)が施されていて、スタンレーが見たことのない印璽(いんじ)が押されていた。

 封筒の後ろにはただ1行、『グラックス&スタンレー商会宛』とだけ書かれていた。

「一体これは何だ?」

 猫がわざわざ封筒を置いていくという怪異に弟は首を傾げながらも、封筒を商会の中へ持って帰ることにした。


 商会には兄もいたので、2人は不可思議な封筒を開けて、その中の手紙を読むことにした。

『ボルドー地方の不出来なワインを誤魔化して売ったところで、商会の評判が悪くなるだけだ。

 それより先日、本国にあるクリアランチ炭鉱で事故があった。この情報はまだ世間に知られていないから、今のうちに海外で石炭を手に入れ、本国で売りさばけばくことをお勧めする』


【ディオナ王国】では、既に石炭が普通に利用されている。

 石炭と言えば、地球の歴史ではイギリスの産業革命時代の産物であり、石炭の火力を利用した蒸気機関が生まれることで、産業の近代化が始まった。

 ただ、イギリスで利用されるよりも早く、中国の宋(960年-1279年)の時代に、料理の火力として石炭が用いられていた。

 中華料理は世界三大料理の一つに数えられるが、その理由の一つは石炭にある。石炭は木材や木炭より遥かに強い火力があり、それまでにない強力な火力を使うことで、中華料理は以前の時代と比べ、料理の幅が広がったとされている。


 ちなみに【ディオナ王国】ではいまだに蒸気機関は存在しないものの、製鉄所などでは既に石炭が利用されていて、強力な火力によって良質な鉄を生産していた。

 この鉄が武器や防具、または魔銃にも用いられることで、王国の軍事の一翼を担っていた。



 さて、話がずれてしまったが、炭鉱での崩落事故の情報は、チザルピーナ兄弟は未だに知らなかった。

 街でもそんな噂は飛びかっていない。

 仮にこの話が事実だとすれば、一大事だ。

【クリアランチ炭鉱】は、【ディオナ王国】では有数の産出量を誇る炭鉱なので、そこでの事故となれば、確実に石炭の価格上昇に影響することになる。



【グラックス&スタンレー商会】はこの3年間に出しまくった赤字で、経営状態はかなり悪化しており、ワインで詐欺まがいの販売を企てたのも、ここで失敗すれば後がないという思いがあったからだった。

 2人の兄弟は半ば自棄になっていたこともあって、この手紙の通りにしてみることにした。

「どうせこれで破産しても、それまでのことだ。

 破産するのが自分たちのせいでなく、猫のせいだというのも愉快だが、世の中にはそんな馬鹿な奴らがいてもいいだろう」

 ――豪胆なのか、あるいは阿呆でしかないのか?

 兄のグラックスは、そんなことまで(うそぶ)いた。


 そうして兄弟は海外から石炭を定価で入手した。その後本国では【クリアランチ炭鉱】での事故が正式に発表され、炭鉱からの石炭産出が数週間に渡ってストップする事態になった。

 本国では石炭の供給不安の懸念から、価格が平時の5倍以上に高騰する事態となった。


 【グラックス&スタンレー商会】は、普通に石炭を輸入したときとは比べ物にならない価格で石炭を売り、商会始まって以来、初めて本格的な利益を手にすることができた。



「フハハ、猫様々だな」

 猫のおかげで大金を手にできたことを喜ぶ兄。


 その後も猫は、【グラックス&スタンレー商会】の前にやってきて、白い封筒を置いていく。

 封筒を封印している封蝋にはいつも同じ印璽が押されており、その手紙に指示された内容に従って、2人の兄弟は交易を執り行っていった。

 ほどなくして、商会はそれまでにない利益を次々にあげるようになり、急激に富を蓄えていった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ヤクモは自分の持ち店である【スプリングフィールド】の仕事部屋で手紙をしたため、それに封蝋を施して、印璽を押した。

 それをヤヌーシャが手下にした猫の1匹である、スキピオと言う名の、白い毛並みのペルシャ猫にくわえさせる。

 スキピオはヤクモの意思を心得ていて、そのまま仕事部屋の外へ走り出していった。




 さて、この町の猫とネズミを支配下に治めたヤクモだが、ネズミたちはヤクモの予想以上に、莫大な情報を持ってきてくれる。

 街に20万匹もいるというネズミたちは、この街の各家庭の毎食の食事の内容すら把握しているほどで、この街で起きた出来事なら、どのようなことでも知ることができた。

 一般人の家庭内の事情はもちろんだが、一般人では近づくことができない街の守備隊のことでも知ることができた。

 そんな情報の中には、守備隊の兵士の1人が夜に「姉ちゃん勘弁してくれ。頼むから俺を尻で潰さないでくれ」などという、奇妙な寝言を毎夜毎夜繰り返し、うなされているなどというものまである。


 全くこの街のネズミは、どこで聞き耳を立てているのか分かったものでない。


 ただし、ネズミの情報網は街の中だけでない。

【海港都市ディール】の港にやってくる船の中にも、ネズミが巣食っている。彼らは自分たちのことを『船乗りネズミ』と名乗っていて、世界中を交易して回る船の中に住み着いている。

 街のネズミたちは、そんな船乗りネズミたちと同族と言うこともあって、いろいろと雑談やおしゃべりをしつつ、情報交換をしている。

 世界中を旅してまわっているものだから、船乗りネズミはいろいろな情報を抱えていて、その中には各地の天気であったり、某所の鉱山で金が発見されたなどと言うものまであった。


 あるいは船だけでなく、街を行き来している荷馬車などにもネズミは紛れ込んでいて、彼らも数多くの情報を持っている。

【クリアランチ炭鉱】での事故は、そんな荷馬車に紛れて街へやってきたネズミからの情報だった。

 人間の世界に情報が広がる前に、ネズミたちは既に知っていてというのだから、侮りがたい情報網だ。




 これらの莫大な情報をネズミたちから仕入れつつ、ヤクモは一方で現地視察も行っていた。

 ネズミたちは様々な情報を持ってくるが、人間でないので、その話が的外れなことがある。いや、人間であっても、噂話がが伝わっている間に尾ひれがついていて、元々の話から大きく変わった怪談話になっていることなど、ざらにあることだ。

 情報を多く手に入れるのはいいが、それが事実でなければ目も当てられない。


 そのようなわけで、ヤクモはヤヌーシャを伴って、ネズミたちの噂では、人間たちがいまだ未発見の鉄が眠っているという洞窟を、【ディール】の街から数日かけて探索しに行ったりした。

 それで噂が事実なのを確認するのはいいのだが、洞窟には強力な魔物も住み着いていて困ったものだ。

 ヤヌーシャに護衛をさせているので、彼女の前では強力な魔物が束になっても、簡単に蹴散らすことができる。とはいえ、魔物の数が多いので、ヤヌーシャ1人では足りず、本格的な討伐が必要になる。

 そういう場合、ヤクモは【グラックス&スタンレー商会】を介して、【ディール】の街の討伐ギルドに依頼を出し、魔物の討伐を行わせたりもした。

 その後は、鉄の眠った洞窟を買収して、鉱山として本格的に開発していく。


 またある時は、ネズミたちの情報から、【ディール】の街で経営が難儀している港湾業者の視察に行ったこともある。

 数多くの交易船が日々ひっきりなしに往来している【ディール】の港では、交易船の荷物の詰め替え作業などを行う港湾業者が数多く存在する。船の往来が激しいのだから、これらの業者に経営危機など無縁のように思えるが、景気がいい中でも潰れそうになる業者もあるというのだ。


 後日、その港湾業者を【グラックス&スタンレー商会】の傘下に収めさせた。

 港湾業者の事業主を入れ替えたのはよかったが、港で働いていた労働者が賃金の値上げを求めてストライキを起こし、新事業主との間で騒乱が起こってしまった。

 全く持って困った問題だが、ストライキに参加した労働者は全員解雇し、参加しなかった労働者を中心にしつつも、新たな労働者を大量に雇い入れて、港湾事業を再開させたりもした。




 その他、街の内外を問わず駆けずり回り、ヤクモは様々な事業に手を出していった。

 大体は【グラックス&スタンレー商会】を通してだが、この商会だけをヤクモは使ったわけでない。


 さて、王都には暴力団と言っていい組織があった。

 その組織は、自分の治めている区画内(縄張り)の店からみかじめ料を徴収していたのだが、ヤクモにとって商売上少々邪魔な存在だった。

 ある時、この暴力団の本部に『謎の黒豹』が出没し、団員の多くが襲われて負傷したそうだ。さらにこの暴力団のボスを含め、幹部級の人間が何人も行方不明になってしまった。


 後日、ディールの街にやってきた交易船に、暴力団の幹部たちが乗せられていたらしい。

 その交易船はついこの前まで海賊をしていたのだが、現在では心を入れ替えて『まっとうな商売』に乗り換えていた。幸い【ディオナ王国】の海軍からは目をつけられていなかったので、海賊から交易商になったところで、問題は起こらなかった。

 ただ【ディオナ王国】】には半奴隷という身分が存在するが、元海賊船は奴隷制度がいまだに存在している国に向かって、出向していった。

 その際、暴力団の幹部たちも乗せられていたらしいが、彼らがその後どうなってしまったのかを知るのは、おそらく元海賊船の船長ぐらいだろう。


 そして、幹部たちがいなくなった王都の暴力団に関しては、対立していた別の暴力団が後日傘下に治めてしまったそうだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あなたは、自分のしていることに良心が痛まないのですか?」

【スプリングフィールド】にあるヤクモの仕事部屋。

 室内にある籠に囚われているハムスターが喋った。【ディール】の街にある、ネズミの大公家の当主ボルジュ・ゲーテだ。


「別に悪いことはしていないと思うけど?」

 送られてきた手紙に視線を向けたまま、答えるヤクモ。


「ヤヌーシャと言う魔族を使って猫たちを支配し、その猫を使って今度は我々ネズミの国を支配する。

 あまつさえ、人間のいざこざにまで干渉するとは、あなたは悪党です」

「ふーん、あっそう」

 うんちくを垂れるゲーテ大公の言葉を、ヤクモはあっさり切り捨てた。


 ゲーテ大公はネズミなので人間みたいに表情を作ることができないが、それでも顔を悔しそうにして、籠の中からヤクモを見ている。

「大公、ピーナツをどうぞ」


 悔しがる大公に、ピーナツを一つ差し出すヤクモ。

 -―ハシッ

 しばらく迷った様子のゲーテ大公だったが、結局ヤクモの手からピーナツを奪い取って、それを齧り始めた。


 ――動物って単純だな。

 と、思うヤクモ。

「俺は君を飢えさせてないんだから、少なくともそれでいいだろう」

「それとこれとは、話が別です!」

「はいはい」

 全く説得力のない大公に、生返事だけヤクモは返した。




「それより大公。俺が心配なのは、ギルドに魔物の討伐依頼を出すことなんだよね」

「悪人のあなたでも、心配事があるのですか?どうせろくなことでないでしょうが」

「君から見れば、ろくな心配じゃないだろうな」

「……」

 ヤクモを白い目で眺めるゲーテ大公。


「かなり手ごわい魔物の討伐依頼を結構出しているけど、どうもそれをコウが受けてるみたいなんだよな。……従兄弟として心配だ」

「身内のことを心配するだけの良心はあるのですね。だったら、危険な依頼をギルドに出さなければいいじゃないですか」

「ごもっとも」

 大公の言葉に頷くヤクモ。


「俺としてはコウにヤヌーシャを同行さらたら、危険はないと思うんだ。ヤヌーシャはかなり強力な魔族だからな。

 ただ2人だけにしたら、ヤヌーシャが何をしでかすか分からないから、無理なんだけど」

 肩を竦めるヤクモ。

 コウの身は心配だが、ヤヌーシャとコウの関係はかなりひどいものだ。

 コウの前世だったシリウスを殺し、現世でもコウを殺しかけたヤヌーシャ。


 ――全く、ろくでもないことばかりしているな。

 そうヤヌーシャのことを思うヤクモだが、そんなヤヌーシャの生みの親は、ヤクモの前世ディヴァイアである。

 これ以上考えていたらブーメランが返ってきそうなので、ヤクモはそこで思考を止めた。


 ――ふああっ

 それにしても眠い。


 ネズミたちが情報を持ってきてくれるのはいいが、各地で展開している事業を軌道に乗せるため、いろいろ無理をしている。

 もう少しすれば、忙しい時期も終わるだろうから、そこまでは辛抱だ。

 そう思いつつ、ヤクモは椅子にもたれて寝息を立て始めてしまった。



「全く、この悪魔は眠っていれば無害に見えるのに……」

 つぶやくゲーテ大公。

 銀髪の美女にしか見えないヤクモが眠る姿は、人間の男ならば、思わず唇に口づけしたくなる美貌をしていた。


あとがき



 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。




 初代プレステでガンパレード・マーチ(ガンパレ)というゲームがありましたが、そこから派生した小説版が存在します。

 いまだに終わることなく続いているので、もう何十巻になるんでしょうかね~?

(たぶんまだ完結してなかったよね~?)



 そんなガンパレですが、話が進んでいくごとに、なぜか動物王国物語の状態にw

 そんな話の内容に、私の小説も見事に影響されちゃってます。



 というか猫のブータとスキピオは、ガンパレとその続編のガンパレード・オーケストラの存在を知っている人なら、分かっちゃうでしょうがね~


 と言っても、持ってきた(パクってきた)のは名前と見た目を少々ですよ~

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