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36 元魔王の陰謀は、人間の知らないところで始動する

前書き



 始動、ヤクモ式異世界版ディズ○ーランド計画!

 【海港都市ディール】は【王都ロンドリーナ】の港として栄えてきた都市である。

 ロンドリーナは内陸部に位置する都市のため、当然ながら港を持っていない。しかし【テル河】を20キロほど下れば、そこには海に面して港を持つ街【ディール】が存在する。

 2つの都市は【テル河】を運河として利用することで、物流の流れが結ばれていた。

 海外から王都へと運ばれる物産は全て【ディール】の街を介して運ばれる。逆に、王都から海外へ運ばれていく物産も、【ディール】の街を中継することで運ばれていくのだった。


 そのため、【ディール】の街はこの国で最も栄えている港である。




 ヤクモは自身が経営する魔銃販売店【スプリング・ティールド】の経営が安定した段階で、本業と関係なくこの都市で行われている交易に少し手を出した。その結果、元手の10倍になる資金を短期間に稼ぎ出した。


 ヤクモは既に飛び級で大学を卒業している学歴の持ち主だが、大学で経済学を専攻したわけでない。

 ただ、ヨーロッパにいた頃に通っていた高校 (ハイストール)のクラスメイトで、友人の1人が、ハーバード大の経済学部を卒業し、その後一流証券会社で働いていた。


 ハーバードと言えばアメリカの大学で、世界最高の学府として知られている。そのレベルの高さは、日本の最高学府である東大を卒業しても、ハーバードには入学すらできないと言われるほどだ。

 そんな友人は、27歳にして年俸が既に億を超えているという怪物だった。


 高校(ハイスクール)卒業後は、ヤクモと友人はそれぞれヨーロッパとアメリカで離れていたが、SNSで互いにやり取りが続いていた。

 昔からこの友人は、人に教えるのが大好きな性格をしていた。おまけにヤクモが10歳も年下だったこともあり、教えたがり癖がSNSでも強烈に発揮されていた。

 おかげでヤクモは経済学のうんちくをSNSを通じて散々聞かされまくったが、そのおかげで気付いた頃には経済関係の知識が素人の次元を超えていた。


 経済の専門家になるつもりはないヤクモだったが、その知識がこの世界に来て、まさか役に立ってしまったわけだ。


 元手の資金を10倍にした後、ヤクモは【ディール】の街の港を散策し、港を出入りする船を見ていた。

 そして港の隅っこを、鼠がチューチューと鳴きながら走り去って行った。


 ――そこで閃いた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 当人の学力もあるが、ヤクモの前世であるディヴァイアという魔王は、とにかく無駄に長生きをしまくった。

 自分の前世であるから、悪く言いたくはない。

 しかし、無限と言っていい時間を生きまくった魔王は、戦争ばかりして時間を潰していたのでなかった。

 ある時などは、いまだに単細胞生物しかいない原初の星の海に、自らも単細胞生物の姿となって飛び込んだことがある。


 単細胞生物の世界であれば、争い事もなく海に浮かんでいるだけでいい。そんな風に思っていたのだが、海に潜ってすぐに、単細胞生物の世界もそんな楽なものでないと教えられた。

 弱肉強食は自然界の掟であり、単細胞生物同士でも捕食合戦が展開されていたのだ。

 ディヴァイアも姿は単細胞生物になっていたから、同じ単細胞生物から食われそうになった。

 むろん、姿は単細胞生物でも、彼女は恐るべき魔王だった。

 食おうとしてくる単細胞生物どもを逆に食ってやった。脳細胞がついている生物であれば、恐れや恐怖を抱いて逃げ出しただろうが、相手にはそんな脳みそなど存在していない。

 そのせいでディヴァイアは本能だけで向かってくる単細胞生物どもを次から次に食らいつづける羽目になり、気が付いたときには自身の体が直径で20メートルの大きさにまでなっていた。


 大きさがおかしいが、一応それでも単細胞生物として存在している。

 とはいえ、ここまでデカくなったせいで、他の単細胞生物が彼女を食おうとすることはなくなった。


 その後は、3億年ぐらい海の中を漂い続けた。


 多細胞生物が生まれて、そのうち陸上に上がっていく生物も出てくるかと思っていた。だが残念なことに、その星では途中で大規模な環境変化を惑星規模で起こし、海水の温度が100度以上になってしまった。

 結果、海中にいた生物は死滅してしまった。



 何もいなくなった海で漂い続けるのは、さすがにディヴァイアもむなしく感じ、星を去って行った。




 別の時には、トカゲになって1万年ぐらい過ごしていた期間もある。

 また別のある時には、宇宙空間を目的もなくぼうっと漂い続け、彼女がそれに飽きるよりも先に、宇宙の方が寿命を迎えるなどということもあった。


 とにかく、有り余る力と時間のせいで、彼女はそのようなことすらしていたのである。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 さて、話を元に戻そう。

 港で鼠が駆けていく姿を見たヤクモは閃いた。


「ミケーネ、ひとつ聞きたいことがあるんだが」

 ヤヌーシャが既にこの街の猫たちのボスに君臨していることを知っていたヤクモ。今ではヤヌーシャの忠実な手下と化している、三又猫のミケーネに尋ねる。

「何でしょうか、大ボス」

 大ボスとは、ヤヌーシャよりさらに上の立場にいる、ヤクモのことだ。


「この街に鼠はいるよな?」

「はい、それはもちろんです」

 あまりにも当たり前すぎる質問だが、呆れることもなく丁重に答えるミケーネ。

「なら、この街の鼠たちにボスはいるか?」

「それでしたら、ボルジュ・ゲーテ大公がいます」

「大公閣下か……。よし、今すぐ連れてこい。できれば大公の一族ごと、生きたまま、無傷で」

「御意」

 大ボスヤクモの命令に、ミケーネはすぐさま従った。



 その日の夜、ヤクモはこの街の猫たちの集会所と化している、ボロ屋へやってきた。

 黒猫になったヤヌーシャを連れてきていて、彼女はヤクモの右肩に乗っかっている。

 ヤクモとヤヌーシャの登場で、集会所に集っていた猫たちが、一斉に4本足で立ち上がって大ボスとボスを出迎える。

 ヤクモとヤヌーシャは、猫たちの敬礼を浴びて、集会所の奥にある部屋へ入った。


「ブータ、お前は相変わらず太っているなー」

 奥の部屋にいる猫たちの旧大将(ボス)であり、現在では副大将(サブボス)になっているデブ猫ブータを、ヤクモは両手を使って持ち上げた。

 しかし体重が15キロもあるものだから、途中までしか体を持ち上げられない。

「ブー」

 体を半端に持ち上げられたブータが、不服そうに鳴く。


「お前さん、ダイエットしないと本当に猫じゃなく、豚になっちまうぞ」

「仕方がありませんわ。見苦しい豚猫ですから」

 ヤクモはやや呆れ、ヤヌーシャは相変わらず手厳しい。


「これでも先月と比べて15グラムは軽くなったんですぞ」

「ただの誤差のじゃないか……」

 人語を話すブータの弁明に、ヤクモは呆れた。



 この後ヤクモは、集会所の奥にある部屋で、ボスだけが座れる中央の床に座った。

 左には現在猫たちのボスとなっているヤヌーシャが君臨し、右側にはサブボスのブータが鎮座する。

「ヤヌーシャ、少し大きくなってみろ」

「はい、お姉さま」

 ヤクモに指示され、ヤヌーシャは猫の姿を大きくする。少しと言っても体長が3メートルになり、しなやかな筋肉を持った黒豹となる。

 サーベルタイガーほどの鋭い牙は持っていないが、この場にいる猫はもちろん、ヤクモですらひと噛みで殺すことができる獰猛な獣と化した。

「よしよし、恫喝するならこれぐらいのインパクトがないとな。ただし、それ以上大きくなるなよ。床が抜けたら面倒だ」


 ――グルルルルルッ


 うなり声を上げて同意するヤヌーシャ。

 もはや黒猫でなければ、人間の姿でゴスロリをしている時の断片すらない。

 そんなヤヌーシャにヤクモは恐怖を感じないようだが、デブ猫のブータはブルリと全身を震わせた。


 ――自分は、とんでもない怪物たちと知り合ってしまった。

 それがブータの感想だ。



 それからほどなくして、ボロ屋の中に三又のミケーネがやってきた。

 口には太ったハムスターをくわえている。

 さらに彼の背後にも猫たちが続く。

 皆、ミケーネと同じく、口にハムスターをくわえていた。


 ミケーネにくわえられているハムスターは、チューチューと鳴いて、

「離せ離せ」

 と叫んでいる。


 だが、ミケーネはそんなハムスターの叫び声など無視だ。

 それよりも、叫び声を上げていたハムスターを始め、連れてこられた全てのハムスターたちが、集会所にいる猫の姿に愕然となった。


 猫と鼠は、捕食者と非捕食者の関係にある。

 日本だと猫は魚を好んで食べているイメージが強いが、もともと猫は肉食で、動物の肉だって好んで食べる。

 同じネコ科のトラやライオンが肉食なのだから、彼らもまた同じ肉食の血を引いているわけだ。

 そして、その肉の中に鼠が含まれている。


「お前たちは、まさかこの僕を食べるつもりなのか!」

「……」

 ミケーネは何も答えなかったが、ハムスターたちは今後自分たちに襲い掛かるであろう運命を恐れた。



 その後ハムスターはミケーネの口にくわえられたまま、集会所の奥にある部屋へ連れていかれた。

 残りのハムスターをくわえた猫たちは、奥の部屋の前で待機だ。

 しかし周囲には数多くの猫がいるため、ハムスターたちはもはや自分たちの命が風前の灯火と、恐怖するばかりだった。




 さて奥の部屋へ行ったミケーネは、そこでハムスターを口から床の上へと転がた。

 直後ミケーネは前足でハムスターの体を押さえつける。足の鋭い爪はしまわれているが、爪の一撃をくらったら、ハムスターは無事で済まない。

 おまけにここは猫たちの巣窟であるため、ハムスターにはもはや逃げるという選択肢がない状態だった。


「大ボス、ボス、ネズミの大公ボルジュ・ゲーテを連れてきました」

 そんな中で、ミケーネが頭を垂れた。

 部屋には銀髪の人間の女が1人。傍にはこの街の猫たちの頂点に君臨する、デブ猫ブータが鎮座していた。

 だがそれらを圧倒して、黒豹の巨大な姿に、ハムスター――鼠のゲーテ大公――は、驚いた。

 恐怖のせいで目が点になり、金縛りにあったようにその場から動けなくなる。


「ネズミの大公。()が高いですよ。死にたいのですか?」

 黒豹が喋った。

 ネズミの大公ゲーテは、恐怖から黒豹に対して頭を低くする。


「お、お願いです。どうかお助けください。私なんか食べても、おいしくないですよ……」

 命乞いをするゲーテ大公。

 そんなゲーテに対して、黒豹は慈悲の心など一切持ち合わせない、冷たい目をしている。

 一方でデブ猫ブータは、目の前にいる丸々と太ったゲーテ大公の姿に、口から涎を垂らし、目が釘付けになっていた。

「ようこそ、ネズミの大公」

 そんな中、銀髪の女が、ゲーテ大公に語り掛けてきた。


「……」

「お姉さまが挨拶しているのです、答えなさい」

「お姉さま……?」

 黒豹の言う意味が分からないゲーテ大公。


「これは姉などと呼んでくるけど、俺の名はヤクモ。そしてこの黒豹は、俺の手下のヤヌーシャだ」

 ヤクモが自己紹介をした。


 だが、すぐにヤヌーシャが

 ――グルルルッ

 と唸りを上げる。

 ゲーテ大公は、全身の毛が逆立って、失神しそうな恐怖に襲われた。


「こらっ、脅かしてどうする!」

 黒豹の頭をヤクモが叩く。

 途端、黒豹は嬉しそうな顔をしながら、地面に横たわった。


 ――この変態魔族は……

 と、思うヤクモだが、さすがにそれを表情には出さないでおく。


「ネズミの大公。ここに来てもらった……いや、ここに連れてこさせた理由だが、猫どもの餌になってもらうためではない」

「そ、そうなのですか!」

 ヤクモの言葉に、ゲーテ大公が反応する。

「そう、少しばかり俺に協力してほしいんだ。そうしてくれるなら大公はもちろん、ここに連れてきた君の家族の無事を保障しよう」

「……信じてもいいのですか?」

 ヤクモの言葉に、ゲーテ大公が乗ってくる。


「もちろん、俺はきみたちネズミの敵ではないからね」

 ヤクモはゲーテ大公に囁いた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 翌日、【スプリングフィールド】にあるヤクモの仕事部屋には、籠に飼われたゲーテ大公の姿があった。

「ここから出せ、約束が違うぞ!」

 普通の人間が聞いたらチューチュー鳴いているだけだが、ネズミの言葉は理解できているヤクモ。

「申し訳ない大公。しかし、あの後俺の協力を拒んだのは君だろう」




 先日、猫たちの集う中で、ゲーテ大公に「俺に協力しろ」と言ったヤクモ。

 しかし、目の前のとびきり旨そうなネズミの姿に我を失ったブータが、我慢の限界からゲーテ大公に飛びかかってしまったのだ。

 豚猫などと言われ、まともに歩くこともできない猫のくせして、食べることだけは貪欲なる。そのせいで、この時だけは体の動きが早かった。


「ギャー、殺せ、今すぐ殺せ!」

 叫ぶゲーテ大公。

 今にも(かじ)られそうになる。

 だがブータの体は、即座にヤヌーシャの巨大な前足に押さえつけられ、身動きを取ることができなくなってしまった。

「この豚猫。何をしているのです!」

「こ、こんなに旨そうなネズミは……我慢できません」

 涎をジュルジュルと出し、目は完全にゲーテ大公しか見ていないブータ。

「ヤメロー!」

 食われかけのゲーテ大公は、絶叫を上げる。



 こんなことがあったせいで、結局ヤクモの申し出た協力に対して、ゲーテ大公は「人間も猫も信用できない」と言い始め、挙句「さっさと殺せ!」と言いだして、居直ってしまった。



 しかし、ネズミの協力を取り付けたかったヤクモ。

 仕方がないので、ゲーテ大公と共に捕えてきた家族の中から、叔父にあたるシュタイン・ゲーテというネズミと談判することにした。

 この大公の叔父にあたるシュタインは、実は前々から甥に代わってネズミの大公の座に就きたいという、野心満々な御仁だった。

 なんとまあ、ネズミの世界も人間の世界のごとく権力欲に(まみ)れているものだが、ヤクモはそんなシュタインに対して提案した。


「俺があんたの甥を監禁しておくので、シュタインは大公代理としてネズミの世界に君臨するというのはどうかな?」

「監禁ですか?いっそ、ここであの甥が猫に食われてしまった方が、私としては大助かりなのですが」


 血縁であるのに、エグイことを言うシュタイン。

 このネズミ、とんでもなく腹黒い。


「それはいけないなシュタイン。甥が食われてもいいなんてのは、いくら何でもひどすぎる。きみが俺に協力してくれれば、大公代理になることができる。そして俺の方も大助かり。それでいいとは思わないかい?」

「……」

 無言のシュタインに、ヤクモはニッコリと笑いかけた。

「仮にだけど、ゲーテ大公が捕まってしまう。しかし、きみはこの場から無事に抜け出せて、ネズミの国の大公代理になったとしよう。

 でも、その後で俺がゲーテ大公を解放したら、いろいろとマズいことになるだろう。例えば、せっかく手に入れた大公代理の座を追われてしまうとか……」

「あなたは、私を脅迫するために、甥を生かしおくつもりですか!?」

「いいだろう。腹黒いのは君だけじゃないんだし」

 ヤクモの顔には、前世で魔王だった頃の表情が浮かんでいた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 そんな出来事の後、【スプリングフィールド】のヤクモの仕事部屋には、籠に監禁されたゲーテ大公の姿があった。


「大公、飯だぞー」

 そう言ってヤクモは大公のいる籠の中に、ピーナッツがたくさん詰まった餌箱を置く。

 大公は不満そうだが、それでもピーナツを齧り始める。



 あの後、ヤクモは大公の身柄を籠に監禁したが、叔父であるシュタインと残りの家族は、猫の集会所から無事に解放した。

 シュタインはゲーテ大公が人間の手に囚われてしまったことから、大公代理として【海港都市ディール】にあるネズミの国のボスとして君臨するようになった。

 大公が生きているため、あくまでも代理と言う名称がつくが、ネズミの国は今では彼のものとなった。

 そして彼には、この街に住まう20万ものネズミが臣下として付き従う。


 このネズミたちを使って、ヤクモは新しいビジネスを企んでいた。


あとがき



 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。




 動物王国物語なんてするつもりはこれっぽっちもなかったのですが、3章を書いている時に、なぜかアライグマ獣人なんてものが出てきてしまいました。

 あんな人、登場する予定全くなかったんです。


 ……でもね、クルトが「こっちにおいで~おいで~」て手招きするものですから、ついていっちゃったんです。

 そうしたら、アライグマのミッチーが勝手に出てきちゃいました。


 アライグマが出てきたのがきっかけで、もう少し動物物語をやるか~。

 てなわけで、それが4章の下敷きになってきたりして……

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