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26 俺はチート系主人公なんだ。主人公なんだぞ!しゅ、主人公なんだからな……(涙)

前書き



 ある日突然異世界に召喚されたオタク。

 その生き様とは……


(今までで一番長い話になっちゃいました)

 魔銃販売店【スプリングフィールド】。

 海港都市ディールで、ヤクモが新たに店長となって開店させることになった店の名だ。


 この店の開店準備のため、王都で魔銃販売店をしているルシオラからの手配があって、5人の姉妹が救援に来てくれた。

 魔銃ギルドに所属している姉妹で、血縁関係はないが、「このギルドにいる人間って9割は訳あり、残り1割は頭のおかしい人たちだから」とのことで、姉妹関係になったそうだ。


 ヤクモにしても、訳ありの1人と言っていい。

 そしてノインターシュの街にいた頃に世話になった【ガン・ザ・ロック】の老店主オトナー老は、確実に後者だろう。


 それはともかく、救援に来てくれた5人の助けもあって、店の開店準備は格段に早く進んだ。



 途中、「女同士だからいいじゃないですかー」と言われて、5人姉妹が着替えている現場になぜか放り込まれた事件があった。

「姉さんって普段着やせしてるけど、服を脱いだらこれなんだから犯罪以外の何ものでもないでしょう」

「ちょっとあんた、どこ揉んでるのよ!」

 姉妹は喧嘩を始めたが、ヤクモは慌ててその部屋から飛び出した。

「あれ?ヤクモさんなんで逃げちゃうの?」

「見てくれはあれでも、青少年には刺激が強すぎたんでしょう」

 などと、暢気に姉妹は話し合っていた。



 また、別の時には、「ヤクモさんって本当に男だったんですねー」と言われた。

 部屋で服を着替えていて、ちょうど全裸なっていたところを5人姉妹の1人に発見されたのだ。

 発見した姉妹はあっけらかんとした顔のまま、部屋のドアを閉めて出て行った。

 それで何事もなく終わればまだ救われた。だが、その後ドアの向こうから姉妹たちの声が聞こえてきた。

「ヤクモさんって思っていたより大きかった。やっぱり男の子って違うわね」

「ねえねえ、どれくらい?」

「こーれぐらい」

「わー、本当!すごいじゃない!」

 そう言い、ワイワイと賑やかに話す姉妹たち。

 ――彼女たちに羞恥心の欠片などなかった。



 この姉妹は数日間泊まり込みで開店準備を手伝ってくれた。

 当然、開店作業を進めているヤクモとは別に行動しているコウが、夜にはギルドから家に戻ってくる。

 ついでにヤヌーシャもいる。


 ヤクモがいつものように料理を作り、5人姉妹も料理が得意な1人が献身的に手助けしてくれた。

 大人数の食事は賑やかだったのだが、

「お2人はどこまで進んだんですかー?」

「うらやましいな、新婚カップル」

「毎日家の外で働く旦那さん。それを家庭の中で支えている妻。なんて健気」

 勝手な妄想を、本人たちの前で堂々としている。


「私もヤヌーシャちゃんみたいな可愛い子供が欲しいな」

「だよねー。2人の血をついで、美少女だものねー」

 などなど、姉妹たちは言いたいことを明け透けもなく言いまくった。




「……疲れた」

 やがて開店準備が終わり、店を無事に開くことができた。

 連日に渡って準備を助けてくれた姉妹たちがいなくなった後、ヤクモは開店日までの苦労より、姉妹たちがいたことでの苦労に終止符が打たれたことにほっとした。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 店の開店から数日。

 ヤクモは近所にある討伐専門のギルドで、ギルドのマスターといくつか話し合いをした。

 このギルドでコウも働くようになったが、コウのこととは別件。

 討伐専門のギルドでは、魔銃を使うギルド員も多く、彼らにとって近所に新たにできた魔銃販売店【スプリングフィールド】は、なくてはならない店になる。

 一方、ヤクモにしてもギルド員相手の商売は、上得意様になる。


 代表同士の間で、打ち合わせであったり、話し合いをしなければならないことは度々起きるわけだ。


 そんな話し合いがあった後、ヤクモはその日の夕食を用意するための買い物に向かった。

 店のことは店員のヴォルドと、ヤヌーシャの2人に任せてある。

 ヴォルドは魔銃ギルドに所属してから長いので、問題ない。

 ヤヌーシャの方は気まぐれで店のことを手伝ったり手伝わなかったりだが、問題を起こすというわけでもなかった。

 とりあえず、『お姉さま』の命令には従順なのだ。




 やがて買い物を済またヤクモ。

「お恵みをー、どうかお恵みをー」

 店へと変える途中、街の一角で物乞いをする乞食がいた。

 みすぼらしい格好をしていて、近づくだけで臭気がする。何日どころか、何十日も体を洗っていないのだろう。

 ひび割れた器を手にもって、道行く人々の前に差し出す。

 だが、乞食の傍に近づこうとする人間は少なく、その器に入っているのは、銅貨が2枚だけ。


 ヤクモは買い物でできた釣り銭の銅貨があったので、それを何枚か乞食の器に入れた。


 それで、後は去るだけ。

 乞食との間に特別な関係があるわけでないので、それで終わるはずだった。


 だが、立ち去ろうとしたヤクモの腕を、いきなり乞食が掴んできた。

「なんですか?」

 乞食の態度に、ヤクモは警戒した声を出す。

「……ヤ、ヤクモ!?」

 乞食が震える声を出す。

「?」

「ヤクモ……たよな。俺だ、俺だよ、俺」


 俺、俺なんて言われると、オレオレ詐欺かと考えてしまいそうになるヤクモ。だが、この乞食は自分の名前を知っていた。

 この世界には既に何カ月もいるので、ヤクモにも知り合いが多くできた。とはいえ、乞食の知り合いなどいない。


「誰だ?」と、尋ねるヤクモ。

 自分の記憶の中に、目の前の乞食と合致する人物がいない。

「同じクラスだっただろう」

「……沢西……くん?」

 乞食の髪は茫々に伸び、そのせいで目が隠れている。

 しかしそんな中で、ヤクモの記憶から呼び出された人名がでてくる。


「そうだ。沢西だ。沢西健二!」

 乞食はそう言って、喜びの声を上げた。

 とはいえ記憶力に自信があるヤクモですら、沢西の名前が出るまでに時間がかかった。今の沢西の姿は、ヤクモが日本にいた時に知っていた沢西の姿からは、あまりにも遠く離れている。


「ヤクモ~」

 ただ、その後なぜかヤクモは沢西に抱きつかれた。

 男から抱きつかれるという悪夢は過去に何度か体験しているヤクモだが、乞食と化している沢西は、何日もまともに体を洗っていない。

 全身から凄まじい臭気を漂わせていた。


「ギャッ」

 つい反射で、抱きついてきた沢西の足の甲をヤクモは踏みつけた。

 あまりの痛さで、ヤクモから離れる沢西。


「なんで急に抱きつくのかな?」

「そりゃ決まってるだろう。ここは二次元の世界なんだから、お前は女になったんだ」


 ――コイツハ、何ヲ言ッテンダ?


 ヤクモは白い眼で沢西を見た。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 魔銃販売店【スプリングフィールド】は正面の店舗玄関のほかに、2階の生活スペースに直行できる裏口がある。

 その裏口から、ヤクモは沢西を連れて2階へ行った。まずはシャワーを浴びさせる。

 かつてコウがドブサライの仕事をやっていた時にひどい臭いを漂わせていたが、今の沢西の匂いも強烈だ。


 沢西がシャワーを浴びてる間、ヤクモは台所に立って晩御飯の支度をしていく。

 沢西から聞きたいことはいろいろとあるが、とりあえずはやらなければならないことが先だ。


 シャワーを終えた後、ヤクモが持っている服のひとつに着替えた沢西は、台所へやってきた。


 野菜を刻み、それを鍋へと入れていたヤクモ。

「家庭科の実習の時も思ったけど、ヤクモって新妻って感じだよな」

 ――キラリッ


 さっきまで野菜を切っていた包丁を持ち上げるヤクモ。

「誰が、新妻だって?」

 ――あなたですよ、ヤクモさん。

 沢西は心の中だけで言った。包丁を持った相手と喧嘩をする勇気などない。


 しかし、

「お前、女だろう」

 これだけは言わずにいられなかった。


 ヤクモは相変わらず包丁を物騒に光らせながら、沢西を見ている。

 目が笑ってないので、沢西は思わず一歩後ろに後退してしまった。

「……そういえばさっきも変なこと言って、俺に抱きついてきたな。なぜそう思う?」

「見た目が……」


 ――ストンッ

 まな板の上に置かれていた人参に似た野菜が、包丁で真っ二つに切れた。

「いやいやいや、だってここって二次元だろう。ってことは、現実世界(三次元)で見た目が女だったヤクモは、二次元では女になっていなきゃおかしい!」

 拳にグッと力を込めて力説する沢西。

「……とりあえず、君の頭がおめでたいってのは分かった」

 ここが地球でないことを沢西は理解しているのだろう。ただし、ラノベの読みすぎなのか、おめでたい頭をしている。

 ヤクモはそんな沢西に呆れた。


「俺は世界に関係なく、間違いなく男だから」

 その言葉に、沢西の頭が非常に残念そうに、ガクリと垂れた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、店の営業時間の終わりと共に、ヴォルドは自宅へと帰って行った。

 半奴隷などという身分にあるが、彼は住み込みで働いているわけではない。

 自分の住んでいる家がちゃんとあるのだ。


 夕食の食卓には、ヤクモと沢西。そしてギルドから帰ってきたコウの3人がそろった。

 ヤヌーシャは、店の1階でゴソゴソと何かしているが、放っておいても問題がないので、そのままだ。


「なんで志藤までいるんだ。……マズいぞ。あいつから出ているフェロモンはヤバい。イケメンオーラで、俺のヒロインたちが……」

 コウを見た瞬間、ブツブツと沢西が呟きはじめる。


「あれ?君はどこかで見たことがある気が……」

 一方、沢西を見るコウは、頭を捻って目の前の人物が誰かと考える。

「同じクラスの沢西くん。コウ、前にも同じこと言ったけど、クラスメイトの名前ぐらいちゃんと覚えておけ」

 ヤクモが言う。


「そうだった。でも、どうしてに西沢くんがこの世界に?」

「沢西だ!お前、わざと間違えてないか?」

 沢西はぎろりと睨むと、コウは申し訳なさそうに謝ってきた。


 ――畜生、クラスのイケメンだからって、俺の名前も知らないなんて……

 いや、実際同じクラスで俺の名前をまともに覚えてるのって、ヤクモぐらいだけど……


 少し鼻水が出て、グスリとなる沢西。ボッチ属性なので慣れているが、それでもたまには辛く感じる時だってある。



「その辺のことを俺も聞きたいから、食事ついでに話してくれるかな?」

「うむっ、分かった」

 ヤクモの言葉に、沢西は鷹揚に頷いた。




 ただ、食事をしようとする前に、階段を上ってくる音がした。

 ダイニングのドアがガチャリと開く。

「ゴスロリ様!」

 現れたヤヌーシャだった。

 彼女の姿を見た瞬間、沢西は嬉々とした表情を浮かべて、その傍へ飛んでいくように駆けていく。


「?」

 最初ヤヌーシャは突進するような速度で近づいてくる沢西を、特に変化のない表情で見ていた。

「結婚してください……じゃなかった。俺のことはお兄ちゃんって呼んでくれ!」

 愛の告白はさすがに早すぎる。まずは、義理の兄弟としてだな……


 訳の分からない言葉を口にする沢西にヤクモは呆れた顔になり、コウの表情も似たようなものになった。

 ただ、沢西に迫られたヤヌーシャはニコリと笑った。


 ――おお、ゴスロリ様が俺のことを認めてくれた!


 歓喜に震える沢西。あまりの喜びのせいか、その体が空中に浮かび上がった。

 直後、体が地面へ叩きつけられる。

 誰に触られたわけでもないのに、顔面から派手に地面に叩きつけられてしまった沢西。自分の身に何が起きたのかもわからない。

 ただ、顔面が強烈に痛いので、起き上がって顔に手を当てようとした。


 ――ゲシッ

 ……のだが、持ち上げようとした頭の上に、ヤヌーシャの足が置かれた。


 見た目は小さな少女だが、かなり高位の魔族なので、その力は人間の比でない。


「ムガガ、フガガガ」

 顔面を床に押し付けられた沢西が、訳の分からない声を上げる。

「黙ってください、クズ野郎」

 ヤヌーシャはニコリと笑いながら言った。


 たぶん天使の笑顔と言っていいが、沢氏にからその表情は見えていない。



 ――相変わらず手加減がない……。というか、僕の時よりさらにひどくなってない……?

 ヤヌーシャに前世で殺され、現世でも殺されかけるという、恐ろしい目に遭わされているコウ。

 ヤヌーシャの手加減のなさに、沈黙してしまう。


「ヤヌーシャ、踏み潰したい気持ちはよーく分かるけど、それぐらいにしておこうか」

「ヤクモ、踏み潰したいって……」

 従兄弟の言葉に呆れるコウ。いくらなんでも、ひどすぎないか?

「仕方ないだろう。あいつ、日本にいた時は臆病なだけの目立たないオタクだったのに、この世界に来てから、かなり危険になってるんだよな」

「危険?」

「物理的にと言うよりは、精神的に……な」


 この世界で再開した途端に、ヤクモに抱きついて来たり、女になったんだろうと言ってきた。

 もっとも他人にそんなことを晒したくないので、言葉はオブラートに包んでいる。

 日本にいた頃は、教室の片隅にいて無害だったのに、今は本能の(たが)が外れている。

 たぶん、この世界のことを二次元と呼んでいることと深く関係しているのだろう。



「できれば、この蛆虫(うじむし)野郎をこの場で今すぐ始末したいのですが、ダメですお姉さま?」

 無垢な瞳で、おねだりするようにヤクモに尋ねるヤヌーシャ。

「をねえしゃま!」

 お姉さまと言う部分が聞こえていたらしく、床とキッス状態の沢西が興奮した声を出した。


「なお、コウ。あいつを海に沈めたくなってきた」

「ヤクモ、冗談に聞こえないぞ」

 ヤクモの真面目な表情に、コウも呆れる。

 もっとも沢西の頭のおめでたさは、再会してすぐのコウにも、もう十二分に理解できる。




 この後、ヤクモの命令でヤヌーシャは沢西を編みつけていた足をどかした。

 ガバリと起き上がった沢西は、鼻から盛大に血を流していたが、そんなことはお構いなし。

「お姉さまって、やっぱりヤクモは……」

「ヤヌーシャ」

 ヤクモの声と共に、再び沢西の体が空中に浮かび上がり、地面へダイブ。


「ギャフン!」


「沢西くん、その腐った衝動をいい加減抑えてくれないかな?でないと次は、簀巻(すま)きにして海に沈めるから」

 額をピクピクさせるヤクモだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 とりあえず、食事にすることにした4人。

 乞食と化していた沢西には、まともな食事は久しぶりということで、次々に皿に手を出し、胃袋にうまい食事を詰め込んでいっていた。


「うおおおっ、うめぇ!やっぱりヤクモ、お前には新妻の才能が……」

 褒め言葉のつもりだったが、これはまずい。

 途中で顔色を変えて黙り込む沢西。


 ヤクモよりゴスロリ様の方が危険度が高いだろうと思ってそっちを見た。肝心のゴスロリ様は、フォークで小さな口に緑色の豆を入れているところだった。

「うー、マズいですの」

 そう言って、外見の姿そのままに、顔を歪めるゴスロリ様。


 ――とりあえず、今回は体罰はなしだよね?

 でも、いいなあの顔~。


 ついついボヘーとヤヌーシャの顔を眺める沢西。


「気持ち悪い顔で見るな、ゴミカス」

「……ううっ。見た目は天使なのに、性格悪すぎ」

「当たり前です。魔族なのですから」

 ヤヌーシャに白い目で見られる沢西だ。




「ところで、沢西君はここが地球じゃないってのは理解してるよね」

 最初は盛大な食べっぷりを発揮していた沢西の食が落ち着いてきたところで、ヤクモが尋ねた。

「ああ、二次元だろう!」

 キリッと笑顔を見せる沢西。

 一応別の世界とは、認識しているらしい。

 頭がオタクのラノベ思考なので、そういうことの理解力だけは高いのだろう。


 しかし、

「きみ、本当にキモオタ属性持ちだね」

 ヤクモは呆れながら言う。


「クックックッ、当たり前だ。俺は三次元(リアル)に興味などない。だが、二次元での俺は主役なんだ」

 胸を張って威張る沢西。

「その主役さんが、どうして街で乞食になってたのかな?」

「……」

 ヤクモの問いに、さっきまでの態度が一転して、沢西の表情が曇ってしまった。


「俺だって、別で好きで乞食になったわけじゃないんだ……」

 沢西は、この世界に来てからの話を始めた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ヤクモたちの時と同じく、沢西も気づいたら|この世界(二次元)にいたという。


 ただし、召喚者はヤヌーシャでない。

「こんなゲスが現れたら、すぐに始末してました」

 との、ヤヌーシャの保証付きだ。




 最初は白い空間の中にいて、そこにいた金髪美人のお姉さんにセクハラ行為をしたことを沢西は話した。


「君、日本ではそういうこと絶対にしなかったよね。というか、そんな度胸がなかったのに」

「チッチッチッ、俺は2.5次元より上の存在に興味がないだけだ。だが、ここは二次元だぜ!」

「つまりいつもは押さえていた本能が、二次元と言う免罪符を得たことで剥き出しになったわけか……」


 沢西の言葉を翻訳するヤクモ。


 コウは沢西のどうしようもない本能に呆れる。

 ヤヌーシャは表面では無表情を保っているが、頭の中では何を考えているのか分からない。少なくとも、沢西のことをどうしようもない男と見ているのは確かだ。



 それんな白い目に晒されながらも、沢西の話は続いていく。

 白い空間の中に召喚されてしまった後、次は訳の分からないテストを受けさせられた。

 だが、学校での成績でさえ底辺を彷徨っているのが沢西だ。テストの問題など1問も理解できない。

 その次に身体検査だと言われて、頭髪や血液を抜かれ、さらに体力検査で走らされたりなどした。


 血を抜かれる際には、「勘弁してくれ」と泣き叫び、体力もからっきしなので、すぐにバテテしまう。


「ゴミカスな上に、とことん無能ですね」

 話を聞いていて、沢西のダメさ加減を評したヤヌーシャの言葉だ。

「な、なあ、ヤクモ。この子、俺に対してものすごくきつくない?」

「俺も、ヤヌーシャとほぼ同じ感想だな」

 ――グハッ。

 まさか助けを求めた相手からも、このような扱いを受けてしまうとは……。


 沢西としてはあまり頼りたくない相手だが、イケメン男コウへと救援の視線を向けた。

「……まあ、仕方がないよね」

「し、仕方がないってどういうことだよ!お前みたいな奴に、中途半端に同情されたくないんだよ!」


 イケメン男などに、俺の何が分かるんだ!

 助けを求める視線を送っておきながら、逆切れしだす沢西。


「お黙りなさい、汚物!」

 だがヤヌーシャに言われて、沢西はギャフンと声を出して机に突っ伏した。


 ――ど、どうして俺の扱いってこんなに悪いの……俺は、主人公なんだぞー。



 そんな沢西だが、一応彼の話は続いていく。


 頭脳はダメ、体力もダメ、身体検査の結果は知らないが、とにかく白い空間で受けた様々な検査に対して、そこにいた人間が満足した様子はなかった。

 最終的に沢西は、金髪美人に代わって、テストなどの引率をしたのっぺり表情の男から、

「君は我々の要望に応える何ものも持ち合わせていなかった。これから向かう世界で頑張ってくれたまえ」

 と、告げられた。


 そうして、白い空間に連れて出された。

 今までに検査で連れていかれた場所は、全て白一色の部屋だった。

 だから新しく連れていかれた部屋が、今までに来たことのある場所かどうかまでは分からない。

 しかし、そこには今までに見た金髪美女と、沢西を引率をしていたのっぺり男以外にも多くの人間がいた。

 髪や肌の色はさまざま。

 ただし、皆何をしゃべっているのか、まるで理解することができなかった。

 日本語でないばかりでなく、沢西の乏しい英語力でもってしても、英語にさえ聞こえない不可思議な言語ばかり。


 言葉が通じない事に沢西は最初こそ戸惑ったが、

「二次元に来たばかりだからしかたないよな」

 で、片づけた。



「二次元ですべて片づけられる君は、かなり重症だね」

「お(つむ)が腐ってるだけですわ、お姉さま」

 ヤクモの感想以上に、ヤヌーシャの言葉はひどすぎる。


「志藤ー」

 半泣きになって沢西はコウの方を見た。

「えっと、ノーコメントで」

 とうとう中途半端な同情すらしてもらえなくなった。


 沢西はグスリと鼻水が出そうになるのを何とか堪えた。



 そうして再び話の続きとなる。

 様々な人がいる部屋に、しばらくの間閉じ込められていた。

 窓があるわけでなく、ただ白い壁だけの空間だったので、何時間、あるいは何日そこにいたのか分からない。

 ただ、たまに移動している感覚が伝わってきたので、白い空間が乗り物の内部なのだろうという憶測はできた。


「その白い空間の内部にいた人数は、どれくらいだった?」

 尋ねるヤクモ。

「50人ちょっと。何もすることがなくて暇だったから、数えたんだよな」


「なるほど……しかし50人も一度に運べるとなると、この世界のだと船しかないかな」

「いや、あれは船って感じじゃなかったぞ。船って結構揺れがあるのに、あの中では揺れなんてなかったからな」

 沢西の言葉に、顎に手を当てて考えるヤクモ。


「考えても分からないから、話を続けて」



 ヤクモに促され、沢西はさらに話を続けた。

 沢西たちを乗せた白い部屋は、ある時突然壁の一部が開いた。


 外にはコンクリートっぽい床が広がり、石造りの城壁が周囲には広がっていた。

 そして明らかに銃と分かる武器を構えた兵士たちが整列していた。

「出ろ!」

 兵士の1人が命令を出した。


 だが、白い空間の中に捕まっていた者の中には、銃が武器と理解できなかった者がいたようだ。

 沢西には分からない言葉で叫び声をあげ、兵士へ向けて飛びかかって行こうとした。

 だが、兵士の持っている銃がレーザー光を出すと、飛びかかろうとした人物に命中した。

「うおっ、レーザーってかっこいい!」

 沢西は能天気にその光景を見ていたが、レーザーで撃たれた人物は地面に崩れ落ちて動かなくなってしまった。


「安心しろ、今のは気絶させただけだ。だが、次に抵抗を試みようとした者は、無事で済まんぞ」

 兵士がそう告げると、白い空間に捉えられていた人たちは、逆らうこともできずに皆外へ連れ出された。

 その後は兵士たちとは違う、いかにも中世風の服装をした男たちに囲まれた。皆訳の分からない言語を話しているので、沢西には理解することができなかった。


 ただ、彼らは捕えられていた人々をいくつかのグループに分け、その後鎖で縛って、身動きを取ることができないようにした。

 そして口を無理やり開けさせたりして、体のあちこちを検査してきた。


 体の自由を奪われているので、抵抗はできない。口を開けることを拒絶した1人は、鉄の棒で体を打たれて悲鳴を上げた。

 それを見た沢西は、抵抗せずに彼らの検査に唯々諾々と従った。




「でもあいつら、俺たちをまるで人間扱いしてなかったぜ。俺なんて裸にされて……全身くまなく検査されたし……」

 情けない顔で言う沢西。


「ダメ男のヌード話なんて、気持ち悪いだけなので聞きたくないです」

 とは、ヤヌーシャの指摘。

 傷ついた顔で沢西はヤクモとコウを見たが、2人とも息を揃えたように沢西から視線を外した。

 従兄弟同士だからか、やけに息がいい。


 とはいえ、これではまるで馬鹿にされているようではないか。

「俺がこの世界に来て何があったのか聞きたいって言ったのは、お前たちだろう!」

「ん、じゃあ続けて。ただし変なことされたなんて話は聞きたくないから、全部スキップで」

 怒る沢西に、ヤクモはそれだけ言った。



 ……ヤクモの態度に納得できないものがあるが、それでもその後のことを話していく沢西。


 検査をさせられた後、沢西は白い部屋の中に一緒にいた人間の一部と共に、馬車に乗せられた。

 中世の城壁のある都市の中を、幌のない馬車に乗せられて移動させられる。

「王様にでも会えるのかなー?」

 暢気に思っていた沢西。


 と言っても、両手には鎖をはめられていて、とてもそんな感じでない。

 それから数日は街の外を馬車に乗せられたまま移動させられた。

 ただし強い日差しが降り注ごうと、雨が降ってこようとも、そのままにされた。

 検査の後に着せられたのは、襤褸切れでできた服だった。

 おまけに食事は1日に1回出されるのだが、まるで残飯を集めたような臭い飯で、とても食べられたものでない。


 ――奴隷なのか?

 もしかして、二次元の世界に召喚されておきながら、俺たちの扱いは奴隷なの?



 二次元に幻想を抱いていた沢西も、さすがに自分の状況のまずさに気づいた。

 奴隷にされるぐらいなら、何とかして逃げなければと沢西は思いたった。

 沢西たちを運ぶ馬車には、何人か剣で武装した男たちがいたのだが、彼らの隙をついて逃げ出すことに成功した。


 そうして、近くに街を見つけて何とかたどり着いた。

 しかし誰とも言葉が通じないし、金なんてものは一切ない。


 食うことに困ったが、街にいる乞食が、

「お恵みをー、どうかお恵みをー」

 と言う言葉を連呼していた。

 意味は理解できなかったが、その言葉を連呼していれば、何かをもらうことができるのは分かった。

 そうして物乞いをすることで、わずかな小銭や食べ物を得て、沢西は死なずに今まで何とか生き延びることができた。


 そして、ヤクモに出会った。




「そこまで経験しておいて、二次元だってよく言ってられるね」

 ヤクモは、沢西が能天気なだけだと思っていたが、大変な環境を経験していたのだと思わされた。

「ある意味、尊敬に値するかも……」

 コウにしても、この世界でドブサライと言う悲惨な労働を経験させられていた時期があったので、同情の言葉が出る。


「そうなんだよ。俺だって苦労したんだ!だからいい加減、ご褒美イベントでヒロインがでてきたっていいだろう!」



 やっぱり訂正。

「沢西くん、君は正真正銘のアホだ」


あとがき



 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。




 てなわけで、BLしてたり、GLしたりするこの物語ですが、相変わらずシリアスなことも忘れずにしています。


 異世界にやってきたオタクがチートで活躍できる?

 フフフ、何寝ぼけたこと言ってんですか?

 言葉は通じない、お頭は足りない、体力も底辺を彷徨っている。

 おまけに所持金0で、着の身着のままの状態。


 そんなリアルでも使い道のない存在が、異世界に行っても役に立つわけがないでしょう!




 ……あれ?それって異世界召喚系ラノベのストーリー、完全に敵に回してない?

(ついでに中二病読者の夢と希望も見事に粉砕してますね~)

 物語(ストーリー)的にはあれですが、無駄にシリアスな話なので、こんな感じなのかな~と思ったり。


 ついでに、元勇者様は最底辺労働でドブサライでしたからね~。


 唯一ヒロイン属性持ちのヤクモくんだけが、チート(非物理)の恩恵に預かってますw

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