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27 チート系主人公(自称)、家賃と食費の為に就活に励む

前書き



 沢西くんは書いてて楽しいです。

 いつも西沢と打ち間違えるミスを連発してますがw

27 チート系主人公(自称)、家賃と食費の為に就活に励む




 沢西の話を聞き終えた後、ヤクモたちも自分たちの事情を語った。



「ククク、コウがドブサライ。ククク、イケメンに天罰が降った」

 話の中、コウの最底辺労働時代の話を聞いてほくそ笑む沢西。

「笑うことじゃないだろう」

 流石にコウも腹をたてるが、モテ属性の対極に位置する属性を有している沢西には、小気味のいいことだった。

 もっとも沢西は三次元(現実)の世界でもてることに意味を見出していないが、それでも気持ちがいい。



「でも、お前らいいよなー。前世が魔王様に勇者なんて」

 二次元病であり、中二病を当然保持している沢西。

 前世の記憶と言うものが気になった。


 うらやましそうにする沢西だが、こうなることはヤクモにもコウにも理解できていた。

 とはいえ、秘密にし続けられそうなことでないので、先に話しておくことにした。


「それにこの世界の言葉が分かるのって、前世の記憶があるからなのか?」

「言葉が分かるのに前世は関係なくて……ヤヌーシャ」


 ――ビクリッ

 ヤクモに呼びかけられたヤヌーシャの肩が、上下に揺れた。


「俺たちがこの世界の言葉を理解できるのは、記憶のせいじゃない。この世界に最初に来た時に、ヤヌーシャが俺たちにかけた魔法が原因」

 ヤクモがヤヌーシャの方を見た。


 ――お、お姉さま。なんだかすごく不吉な予感がするのですが……

 このメンバーの中では、物理的にもっとも巨大な力を有しているのがヤヌーシャだ。

 前世がトンデモ次元の魔王であるヤクモだが、今は人間の体なので、前世の強大な力は全く持っていない。

 なのにヤヌーシャは、前世の魔王ディヴァイアを前にした時の恐怖を、今のヤクモに見出した。


「沢西くんは言葉が分かるようになるついでに、前世も知りたいかな?」

「当たり前だろう。前世の記憶……やっと俺にも、チート能力が使えるときが来たんだな!」

 感動する沢西。

 しかし、そんな沢西の様子を見るヤクモの目はひどく()めていた。



「なあ、ヤクモ。前世の記憶なんてあんまり思い出してもいいものじゃないだろう」

 ヤクモの目に不安を感じつつ、コウが告げる。

 かつての勇者の記憶によって、戦い方の上達が格段に早く、そのおかげでコウは討伐系ギルドで働けている。

 とはいえ、過去の記憶には、苦い思い出も数多くある。

 ああいうものは、思い出すべきものでない。


 だがそんなコウの前で、ヤクモは「ヤヌーシャ」と、かつての魔王が下僕としか見ていなかった少女の名を呼んだ。


「お姉さま、嫌です。いくらお姉さまの命令でも、絶対にできません!」

 だが、この時ヤヌーシャが、必死な様子で拒絶の意思を表した。

「いいだろう。俺たちにもしたことなんだから」

 ――フルフル

 首を全力で左右に振るヤヌーシャ。


 おかしい、と思うコウ。

 いつものヤヌーシャであれば、もっと超然とした態度をとっている。ヤクモに苛められているときだけは嬉しそうにしているが、こんなヤヌーシャの姿など今までにないことだ。


「なあ、もしかしてヤヌーシャが俺たちにしたことって……」

「キッス」

 コウの予想を、ヤクモが口にした。


「キッスですーと!!!」

 その言葉を聞いた途端、沢西が飛び上がって喜びの雄たけびを上げた。

「なんだよそれ。ゴスロリ様のキスなんて、どんだけ黄金イベントだよ。……待てよ、てことはお前たち、既にゴスロリ様と……」


 ――畜生、(見た目だけ)美女とイケメンめ。なんて役得!

 ……でも、この流れだと俺にも回ってくるよね。

 俺だけにキッスじゃないのが不満だけど、この際贅沢は言わない。


「さあ、ヤヌーシャちゃん。お兄さんと熱いキ……」

「くたばれ、外道!」


 沢西の体が空中に持ち上がり、直後地面に落下。唇が床と盛大な口づけをした。



 しかしヤヌーシャの目には涙がたまっていて、必死そうである。

 そんなヤヌーシャの肩を、ヤクモはポンと叩いた。

「いいじゃないか。お前、俺にいじめられるのが大好きなんだろう。だったらヤレ!」

「お、おねぇ……」


 ヤヌーシャは抵抗しようとしたが、ヤクモが無言でヤヌーシャを見る目が何だか怖い。



 ――……ど、どうしよう。私、あんなクズとキスなんてしたくないです。

 本当に泣きそうになってしまうヤヌーシャ。


 ――でも、どうしてだろう。なんだか今までにない感覚が、体の底からします。

 物理と言葉での責苦は今までに何度も経験してきましたが、精神的な苛めなんて初めてかもしれない……。



「お姉さま、私の覚悟をご覧になってください」

 目からは涙が流れた。

 しかし、ヤクモが見る前でヤヌーシャは決意する。


「キスをー」

 地面から顔だけ起こした沢西は、盛大に鼻血を出している。落下したときに鼻も打ち付けていたせいだ。

「ヒィッ」

 その恐ろしい顔に、ヤヌーシャが小さな悲鳴を上げる。


 ――だが、これもお姉さまのため……。お姉さまが、私に新しい責苦をしているのよ……


 ヤヌーシャは泣きながら、沢西の唇に自分の唇を重ね合わせた。


 そして、クズ男の前世の記憶を引っ張り出してくる。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「俺の前世……農家の三男坊だったけど、家が貧しいせいで子供がいなかった別の農家の養子に出されてたや。しかも、結婚できずに生涯終えました。

 俺の前世、普通過ぎない?主役属性は?チート能力は?女の子と結婚(ハーレム)は?」

 引き出された前世の記憶に、呆然とする沢西。



「どうして、お前らは勇者と魔王で、俺はただの農民なんだー!」

 あまりの不公平さに、沢西は叫んだ。


 だが、そんな沢西の顔を見ながらヤクモは告げる。

「沢西くん。現世だろうが、前世だろうが。異世界だろうが。世の中は不公平にできてるんだよ」

「お、お前みたいな完璧野郎の言う台詞か!」

 嫉妬心が沸き起こる沢西。


「言う台詞だよ。だって俺は頭脳明晰で容姿端麗……まあ、男にもててしまう容姿は困りものだけど……。

 一方で君は現実逃避のためにオタク生活をしていて、体力も頭脳も全くのド底辺。

 世界が違っても、持てる者と持てない者に分かれてるんだ」


 そう、完璧人間ヤクモは言った。

 ――こ、こいつ、性格ひどすぎねぇ!?


 沢西がヤクモと話したのは今までに数回だけ。これだけ多くのことを話したのは、今日が初めてだった。

 だが、今日だけで、実は鬼畜性格だったのだと理解させられた。

「お前、やっぱり魔王だ」


 ――ゲフッ

 口から血ではなく、魂の一部が噴出した気がした。

 沢西は白目になって、床にぶっ倒れてしまった。




 一方その傍では、ヤヌーシャが望まない相手とのキスを強要されたことで、シクシクと泣いている。



「ヤクモ、頼むから魔王になんてならないでくれよ」

「もちろん、分かっているって、コウ」


 従兄弟の将来に、漠然とした不安を持つコウだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「うおおっ、すげぇ」

 翌日、街に繰り出した沢西は、街の住人の言葉が聞き取れることに感動していた。


「これってゴスロリ様の魔法の力なんだよなー。やっぱり二次元の力ってすごいぜ!」

 相変わらずの二次元病も健在である。


「ところで沢西くん、感動しているところ悪いけど、少しいいかな?」

 そんな沢西にヤクモが話しかける。

「何?」

「これからの君のことについてだけど」

「?」

 ヤクモが何を言いたいのかが分からないので、ハテナとしか言いようがない表情をする沢西。


「沢西くんは、この世界で他に行く当てってないよな?」

「そりゃまあ、行く当てなんてあったら、乞食なんてしなかったし」

 二次元世界大好き人間の沢西だが、彼はこの世界で乞食をしていただけだ。


「なら、うちの部屋が余ってるから貸してあげる」

「おお、ヤクモ、ありがてぇ」

 住む場所なし。今まで夜は街の橋の下で眠っていた沢西。異世界に来て身に着けたスキルは、物乞いと野宿の二つだけだ。

 これでは異世界ファンタジーの世界にやってきた人間でなく、単なるホームレスだ。

 そんな沢西に、ヤクモの提案はありがたかった。


「ただし、ちゃんと部屋代と食費はもらうから」

「へっ、どうして……?」

 ありがたいが一転、ヤクモの言葉に沢西は耳を疑った。


「どうしてって、部屋はあくまでも貸すだけ。食事も用意するけど、その分のお金は払って当たり前だろう」

「おいおい、ここは二次元だぜ。なんで現実みたいなことをしなきゃいけないんだ!」

「異世界だろうが、二次元だろうが、ただで人の面倒を見るほど俺は面倒見が良くないぞ。別に金が払うのが嫌なら出て行ってもらっても構わないけど。その時はまた家なし状態に逆戻りだな」

 沢西の前にいるヤクモは、ニコリと笑いながら説明してくれる。


「あ、あのヤクモさん。それは勘弁してください。もう、乞食に戻るのは嫌です」

 二次元の世界とはいえ、言葉も通じず、ろくな食べ物も得ることができなかった乞食生活は辛かった。また、同じところに戻れなんて言われては、たまったものではない。


「だったらきちんと働いて、金を稼ぐように」

 そうヤクモは言った。


 ――おいおい、なんだよこれ。

 これじゃあまるで現実(リアル)じゃないか。

「……なんで、二次元で金を稼がなきゃいけないんだー!」


 二次元世界に夢を見る沢西は叫んだ。だが、家主となったヤクモは、沢西の訴えなど全く取り合う様子がなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――金が払えなければヤクモに家を追い出されかねない。

 沢西は乞食に逆戻りしたくないために、「二次元の世界で働くなんて……」などと呟きなぎらも、労働に従事しなければならなくなった。


 とりあえず、まずはヤクモの店で働く。

 だが、この世界の会話はできるようになっても、文字は全く理解できなかった。

 ヤクモに帳簿を見せられたが、そこに書かれている文字などチンブンカンプン。第一、高校は商業系でないので、帳簿の付け方も知らない。

 おまけに店で扱っているのは銃器だが、そんなものの扱いなどまるで知らない。

 軍事(ミリタリー)オタクではないのだ。


「邪魔になるだけなので出て行ってください、低能」

 最終的に、店の売り場にいたヤヌーシャに蔑まれ、追い出されてしまった。

「ヤ、ヤクモー」

「ちゃんと働き口を見つけこい」

 店主であるヤクモも、助けるそぶりすらなかった。




「そ、そうだ。ここは二次元なんだ。俺にはチート能力があるから、モンスターを倒せばいい」

 店から追い出された沢西は、頼りたくない相手であるが、すでにギルドで討伐系の依頼を何度も受けているコウを頼った。自分も魔物を倒して、稼いでいくと主張する。


 そんな沢西に対して、コウは「危ないし、危険だからやめておいた方がいいよ」と忠告した。

「ふふん、俺様を誰だと思う。俺は主人公なんだ。主役なんだ!まだチート能力が目覚めてないだけで、戦いになったら隠れた能力が覚醒するはずだ!」


 沢西の熱弁に、コウは呆れ果てた。

 しかし、沢西に妥協も退却もあり得ない。

 沢西の有り余りすぎる熱意に押されて、コウは沢西を連れて危険度の最も少ないスライム討伐に連れていくことにした。


「……って、なんだよこれ。ただのナイフだよな」

 沢西がコウから手渡されたのは、長さが20センチ近くあるナイフだ。

 日本にいた頃にサバイバルナイフすら持ったことがない沢西にとって、長さが20センチもある刃物は、かなり物騒な代物に見える。

 だが、ここは二次元だ。

「二次元ファンタジーなら、当然武器は剣だろう!」

 そう言い、沢西はコウが腰に吊るしている剣をしげしげと眺める。


「……持ったら分かるよ」

 コウが鞘から剣を抜き放った。

 白刃が陽光を受けて鈍く輝く。

「言っておくけど、この刃は体でも簡単に切れるから、絶対に振り回したり、落とさないように」

 本物の剣は、アニメや漫画と違ってかなり重厚感がある。

 ゴクリと唾を飲み込む沢西だが、

「おうっ」

 と元気良く請け負った。


「うへぇっ!」

 コウから剣を受け取ったが、その途端沢西は剣の重量に耐えかねて前屈みになった。

――ドスッ

 と、物騒な音がして剣は地面に突き刺さる。


「な、なんだよこれ。重すぎるだろう。しかも危なすぎ!こんなの持つなんて、絶対に無理!」

「だから、剣は初心者じゃ使えないんだよ」

 コウはため息をつきながら言った。


 ――チ、チクショウ。イケメン野郎め、俺のことを見下しやがって……

 剣ひとつ満足に持てないことを悔しく思う沢西。

 だが、だからと言ってスライム討伐まで諦めるには、まだ早すぎる。


 沢西はナイフを持って、RPGのザコ的代表であるスライムと戦った。



 ――結果は見事な大敗北。


 スライムのヌメヌメとした体に押しつぶされ、体液まみれにされてしまった。

 身動きが取れなくなり、必死にコウに助けを求めるが、スライムが乗りかかっているので声が届かない。

 というか、このままでは乗りかかったスライムの体のせいで、呼吸ができなくなって窒息死しないか?


 沢西は、スライムをどかそうと叫び声をあげ、じたばたと暴れるが、スライムをどかすことすらできない。


 ――ヤダ、ヤダー!俺はこんなところで死にたくないー!



 結局、スライムはコウによって簡単に倒され、沢西は無事に救出された。


「うえっ、なんだよ。なんかものすごく臭いんだけど……」

「スライムの体液だよ。それ、洗ってもなかなか落ちないから」

 スライムの体液に関しては、コウもドブサライをしなければならなかった頃に、散々悩まされている。


「コウー」

「うわっ、こっちに来ないで!」


 泣きついてくる沢西から、コウは急いで逃げた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――魔銃販売店は無理。討伐系の依頼も無理。

「港で船の積み荷の入れ替えをする仕事を募集してるけど、単純労働ならどうだ?」

 店へと戻ってきた沢西を見かねたヤクモは、仕事の募集があるからと言ってきた。

「無理だろう。俺に肉体労働なんて絶対に無理だぞ」

「まあ、その体じゃ仕方ないか」


 オタクの道に没頭してきた沢西である。

 筋肉と無縁な腕と脚は細い。体力すら、普通の人間以下しかないのだ。

 港の荷物の入れ替えは重労働であり、当然そんなことをできる体力など持ち合わせていない。


 ――しかし、俺には絶対にチート能力が……

 そこで、沢西の視線はヤクモの隣にいたヤヌーシャに向いた。


「そうだ、魔法だ!ゴスロリ様、俺に魔法を伝授してください」

 ガバリと両手を地面について、ヤヌーシャに平伏して頼み込み沢西。

「嫌です。第一、あなたみたいな低能には、魔法の才能がこれっぽっちもありません。いくら努力しても使えませんよ」

「そこを何とか。お願いです、ゴスロリ様」

「嫌です!」

 冷たい目で見降ろされる沢西。


「ヤクモ~」

 ヤヌーシャに拒絶されたせいで、今度はヤクモへ懇願する。


 ――面倒臭いなー

 と、ヤクモは思った。


「……ヤヌーシャ、今日の晩御飯まで帰ってこなくていいから」

「えっ?」

 ヤクモの言葉に、ヤヌーシャが間の抜けた表情になる。


「今日1日、沢西くんと魔法の練習をしておいで」

 ニコリ笑いながら、しかし有無を言わせず、ヤクモは沢西とヤヌーシャの2人を店の外へ追い出してしまった。


「お、お姉さまー」

 ヤヌーシャは叫ぶ。

 だが、ヤクモは店の玄関ドアを閉めてしまう。

「がんばれよー」

 ドアの向こう。ガラス越しに無情な声だけが響いた。


「……ひ、ひどいです、お姉さま。よりにもよって、私がこんなド低能の相手をしないといけないなんて……ひどい仕打ちです」

 いや、もしかして、これはそういう仕打ちを楽しむといいのか?

 そう思いかけたヤヌーシャだが、

「ゴスロリ様ー」

 背後で叫ぶ沢西の声を聴いて、すぐに思い直した。


 ――ドスンッ

 とりあえず重力魔法で沢西の体を持ち上げ、地面へ激突させる。

 落下した拍子に沢西が悲鳴を上げたが、そんなものはヤヌーシャにはどうでもいい。

 ただ、その悲鳴を聞いて、ヤヌーシャの脳裏に閃きが走った。

「……そうですわ。下等生物は、同じ下等生物に任せましょう」


 ヤヌーシャは沢西を伴って、街にあるボロ屋へ連れて行った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「うへー、ここの床ボロボロで、天井が今にも崩れ落ちそう」

 ヤヌーシャに連れてこられたボロ屋のボロぶりに呆れる沢西。


「ねえ、ゴスロリ様。ここの床って踏みぬいたりすることないよね?」

「さあ、どうでしょう。いっそこのボロ屋が崩れて、あなたを押しつぶしてくれれば私としては御の字ですが」

「ヒエエッー」

 ヤヌーシャの言葉に情けない声を上げる沢西。

 もっとも情けないのはいつものことなので、ヤヌーシャはもはや気にしない。


 そんなヤヌーシャと沢西の周囲に、猫たちが集まってくる。

 猫たちは闖入者である沢西に対して、目を細めていて歓迎の様子など微塵も浮かべていない。ただ黙って、睨むだけだ。

「ゴ、ゴスロリ様ー」

「まさか、猫まで怖いと言わないでしょうね?」

「俺、昔から動物アレルギーで。ヘプシッ」

 くしゃみをする沢西。


「こっち向いて咳をしないでください。次やったら、足か腕を1本千切ります」

「……じょ、冗談だよね?」

「試してみます?」

 ニコリともせずヤヌーシャが言ったので、沢西は両手を上げて降参した。


 ――こ、この子、目が全然笑ってない。マジ、鬼畜、鬼、悪魔!



(そりゃまあ、魔族だからのぅ)

 そんな沢西の頭に、突然声が響いた。

「へっ、何々。今の幻聴?」

(幻聴ではない、人間よ)


 沢西の前に、ブクブクと太ったデブ猫がいた。


「ヤヌーシャ様」

 デブ猫は、人の言葉を口に出して、ヤヌーシャに頭を垂れた。

 ただあまりにも体重がありすぎるせいで、立ち上がることができない。なので座ったまま頭を垂れている。

「相変わらず、贅肉の塊ですね」

「か、貫禄をつけるために、このような体になっただけです」

「そういうことにしておいてあげましょう」

 ヤヌーシャと猫の間で、当たり前のように会話が成立している。


 しかし、その様子を見る沢西は目を大きく見開いた。

「なにこれ?妖怪猫?」

「ただの豚です」

 ヤヌーシャの言葉に、デブ猫の顔が渋くなる。ただ、何も言い返せないようなので、黙っている。


 そしてヤヌーシャは、沢西の方を見ながら言った。

「いいですかド低能。私はあなたに魔法を教える気などサラサラありません。ですから、ここにいる豚猫から習いなさい」

「はい、どういうこと?」

 ヤヌーシャの言っている意味が分からない沢西。


「この豚猫は魔法が使える。だから、教えてもらいなさい」

「はいいぃぃっ!?」

 猫に魔法を教えてもらえだと。ゴスロリ様にはひどい扱いをされているが、それはないだろうと思う沢西。


「……あの、ヤヌーシャ様。魔法を教えろとは……」

 一方の太った猫も、当惑した声を出す。


「豚猫はこのド低能に魔法を教える。ド低能は魔法を豚猫から教わる。そうしろと言っているのです。では、私はこれで……」

 言うと共に、ヤヌーシャの姿がその場から忽然と消え去った。


「ゴスロリ様、どこへ行っちゃったのー!?」

 忽然と消えたヤヌーシャに驚かされる沢西。

「……」

 一方のデブ猫も、沈黙している。



「……人間よ。誠に不本意であるが、ヤヌーシャ様の命令だから仕方ない。お前に魔法を教授してやろう」

 やがて、デブ猫が口にした。

「ええっと、猫でしょ。魔法なんて本当に使え・・・・・うあちちっ」

 訝しむ沢西の顔面に、突然火の玉がぶつかってきた。

 火力は大したことがないが、それでも熱い。


「人間よ、わが名はブータ!お前に魔法を教授するからには、今日からワシのことを崇め敬え!」


 ――あの、なんなんですか、この展開?

 俺、二次元じゃなくて、ディズニーの世界にでも来ちゃったのかな?

 それとも、ジブリ?


 この世界がラノベ寄りの二次元でないかもしれない。そう思い始める沢西だった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 なお、この後沢西は本人が望んでいたチート能力をついに開花させることになる。

 ボロ屋の中にいる下っ端の猫たちと、意思疎通できるようになったのだ。

 なんともしょっぱいチート能力だが……


 そんな下っ端猫たちを連れて、街の大通りで猫の曲芸をして見せる。

「右向け」と言えば10匹にもなる猫たちが一斉に右を向き、「上」と言えば上を向く。

「回れ」と命令すれば、10匹の猫たちが一つの輪を作って、ぐるぐると回り始める。


 この曲芸で観客からお捻りをもらい、魚を買って魔法の師匠であるデフ猫のブータに献上する。

 当然だが、一緒に大道芸に付き合ってくれる猫たちにも、報酬の魚は忘れない。



 彼は魔物使いならぬ、猫使いの才能を開花させて、大道芸人となったのだ。

 そこでコツコツ稼いだ金で、なんとかヤクモに家賃と食費を払えるようになった。




「……二次元って、こういうことする世界だっけ?」

 沢西は大道芸人化してしまった自分の姿に、そんなことを呟いた。

 だが、その言葉は彼以外の誰も聞いていなかった。


あとがき



 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。




 完璧超人より、ダメダメ人間を書いてるほうが楽しいですw

 物語的には、個性がありまくりなので、物凄く書きやすいですw




 そしてこの物語は相変わらず、ラノベ的な要素を無視して、努力しないといけないだの、金を稼がなきゃいけないだのと、ごくごく普通(現実)な話ばかり入れています。



 中二病の聖典であるラノベでは、努力なんてものは入れてはならない要素の一つですが、この話は文体をラノベ風にしただけの話と受け取っていただければいいかと~

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