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20 若者たちは旅立ちを決め、老人は1人絶叫する

 ――元の世界に帰る方法を見つけるべきだ!


 この世界に来てから、もう何カ月もたっている。

 当初無一文状態で、元の世界に戻る以前に、明日の食事が大問題だった。だが、いい加減この問題にも取り組まなければならない。


「そもそもお前が俺たちをこの世界に召喚した理由って……」

「お姉さまに会いたかったからです」

 はっきりと答えるヤヌーシャ。


 ファンタジー小説でお約束の、魔王が攻めてきたので異世界から勇者を呼び出すとか、世界の危機がなんたらかんたら……などという、とてつもなく御大層な理由は存在しない。


「人探しで異世界から人間を召喚するのってどうなんだろう……?」

 コウも呆れた。


 ガーゴイル、そしてヤヌーシャとの戦いから日もたち、コウの体も今では完全に回復している。

 元の世界に戻ろうということで、相談中だった。



「でも、ヤヌーシャが召喚したってことは、元に戻すこともできるわけだよね」

 目の前の魔族はとてつもなく強い力を持っている。そのことは前世でも現世でも、体にしっかり叩き込まれているコウ。

 だが、2人の地球人をこの世界へと召喚した当人は、あどけない表情をしつつ、フルフルと首を横に振った。

「?」

 ヤヌーシャの拒絶の様子に、戸惑うコウ。

 連れてきたなら、戻すことだってできるはずではないか?


「戻す方法なんて知りませんよ、ヘボ勇者」

「ヤヌーシャ!」

 ヤクモが白い目でヤヌーシャを見る。

「おにいちゃん」

「……」

 顔に感情を宿すことなく、のっぺりとした表情で言い直すヤヌーシャ。以前からコウのことをヘボ勇者と呼んでいたが、それはいかんだろうとヤクモに注意されたので、『おにいちゃん』と呼ぶことにした。


 ――でも、この子におにいちゃんと呼ばれても嬉しくない。

 むしろ、殺されかけた時も、最初におにいちゃんって言われたし。


 コウが殺されかけた時。つまり現世で二度目にヤヌーシャに遭遇したときに、ヤヌーシャは最初コウのことをそう呼んでいた。そのトラウマが蘇ってしまう。


 そんなコウの内心を分かってて、少女は呼んでいる。そう、コウは決めつけていた。

 ――何しろ、さっきから目が笑ってない!



「でも、なんで元の世界に帰すことができないの?」

 呼ばれ方はともかく、至極もっともな疑問を口にするコウ。

「お(つむ)が足りませんわね、ヘボおにいちゃん」

 今度はニコリと笑顔を浮かべるヤヌーシャ。

「……」

 しかしヤクモに白い目で睨まれ、ヤヌーシャは頬を微かに染める。そして頬に両手をあてて、恥ずかしそうに顔をフリフリと動かす。


 ――傍から見れば可愛い仕草だ。



「コホン、例えてみればこんな感じかな」

 ヤヌーシャではダメだと思い、ヤクモは自分で説明することにした。

「例えば滝があるとして、上流から葉っぱが1枚流れてくるとする。何もしないでも葉っぱは流れに沿って滝の下に落ちるよな」

 コウが頷くのを見て、ヤクモは続ける。

「そこでだ。一度下に落ちた葉っぱが、滝の上に戻ることはできるか?」

「無理だろう」

「そういうこと。この場合、地球は滝の上、下にあるのがこの世界。そして葉っぱが俺達。上から下に行くのは流れに身を任せておくだけでできるけど、その逆はまず不可能」

 ヤクモの説明で、コウもなんとなく理解することができた。


「つまり、地球に帰る方法がないってことになるか?」

「今の例えで行くと、滝を登れるぐらいの力があれば無理じゃないけど……

 ヤヌーシャの力だと、俺たちを地球からこっちに連れてこれても、逆のことをできるだけの力はないな」

「はい、お姉さまの言う通りです」

 しおらしく答えるヤヌーシャ。

「……でも、お前はそのことが分かってて、俺たちを一方通行の召喚術で召喚したんだよな」

「お、お姉さま。そんな刺々しい目で見られると、うれ……」

「いい子だなー、ヤヌーシャ」

「ハフン」


 睨まれれば喜び、褒めればしょげてしまう。

 ――ヤヌーシャのMな性格は何とかならないのか、面倒臭すぎる……

 ヤクモは呆れる。



「……なら、ヤクモには?一応、魔王だったんだよな」

 前世のことを持ち出すコウ。

 自分の前世シリウスが戦っていた魔王軍。その王がヤクモの前世だ。そのことを思い出すと、苦いものがいろいろと出てくる。

 それでもヤヌーシャ以上に強力な力を持つ魔王ならば、できないことはないはずだ。

 だが、ヤクモは首を振る。

「無茶言え。俺はただの人間で、あんな化け物と同じことはできんぞ」

「化け物って……」

 自分の前世だろうに、ひどい言い方だ。


 そんなコウの肩に手を置いて、ヤクモは正面から顔を近づけてくる。

「コウ。宇宙服を着てない生身の人間が、宇宙空間に行けばどうなる?」

「確実に死ぬだろ」

「そういうこと。あれは宇宙空間だろうが、太陽の中だろうが、ブラックホールの中でさえ、平気でいられる。あんなのと同じことは、俺には絶対できんぞ!」

 そう言って、ヤクモはふっと疲れた笑いを浮かべた。


 ――いくら何でも、例えが大げさすぎるだろう。

 と思うコウ。


「いや、今のは例えでも比喩でもなく。マジな話だから」

 そんなコウの心を読むかのように答えるヤクモ。


「前世のお姉さまの強さと言えば、私程度の魔族が100万や1億集まったところで、瞬殺されてしまう怖い方でしたから」

「ヤヌーシャ、お前が1千億いても、指一本で消されてるぞ」

「ああ、思い出しただけで、あまりの恐ろしさに全身が震えてしまう」

 本当に震えだすヤヌーシャ。でも、なぜか顔を赤くして、嬉しそうにしている。


 そしてこの2人の会話を聞いてるコウは、2人が全く冗談を言っているように聞こえなかった。



「とりあえず、俺の前世は当てにするだけ無駄だから」

 きっぱりと、ヤクモは告げた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ならば、どうやって元の世界に帰るか?

 結論は、情報を集めるしかない……と言うことだ。


 そのためヤクモたちは、ノインターシュの街と比べて、もっと情報を集めやすいこの国の王都へと向かうことを決めた。

 今なら旅の資金も十分にある。

 この世界に来た頃の無一文だった状態とは、今では経済状態も大きく違っていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ノインの街にも随分長い間いたわけだが、旅立つにあたってヤクモは、仕事先だった【ガン・ザ・ロック】の老店主へ挨拶に来ていた。

「ハーイ、ヤクモさーん」

 店では、ヤクモに代わって、新たに雇われたリズが窓口に立っていた。

 ヤクモのまったいらな胸と違って、すごく豊満な胸をしている。おまけに安産型の大きなお尻をしていて、肉感が強い女性だった。


「仕事は順調?」

「ええ、毎日いっぱいお客さんが来てくれるわよ」

 そう言い、リズはにこやかに笑った。


 順調なのはいいが、ヤクモは仕事を辞める際、リズに仕事の引継ぎを行っていた。その時に、リズの頭がどうしようもないほど悪いことを知らされた。

 帳簿をつければ足し算ですら間違いばかりで、常に帳尻が合わない。店頭に出たら出たで、商品を売買する際に金額を間違える、お釣りの額を渡し間違えるなどということは、日常茶飯事だった。


 そしてリズが順調と言うときは、確実に問題が山積みになっている。

 こんなのが自分の後釜で、果たして大丈夫かと思うヤクモ。


「店長~、ヤクモちゃんがきたわよ~」

 そんな中で、リズは店の奥にいる老店主を呼んだ。

 だが、しばらく待っても老店主はやってこない。

「あの爺、腰でも悪くしたか?」

「大丈夫、私に任せて」

 一応、体のことを心配するヤクモ。


 そんなヤクモの目の前で、リズは肩を気だるげに回し始める。

「アアンッ、私、肩が凝っちゃった~」

 なんとも間の抜けた、バカそうな声。

 聞いているヤクモは、頭痛が少しした。

 ――この店、きっと潰れるな。

 と、店の将来が不安になる。


 だが、リズが気だるげな声を出した途端、店の奥から年齢に似合わない素早さで、老店主が現れた。

「おお、いかんのう。リズちゃん、今すぐジイジが肩をマッサージしてあげよう。いや、背中も揉んであげるから、横になりなさい」

 歳でしわくちゃの顔に、嬉々とした表情を浮かべた老店主。


「……エロ爺」と、ヤクモは呟いた。


「店長~、ヤクモちゃんが来ましたよ~」

 だが、これはリズが老店主を誘き出すためにまいた餌だったようだ。

 リズはウインクしながら、店にやってきたヤクモを視線で示す。

「男のことなぞどうでもいいから、早くマッサージをしてあげよう~」

「もうっ。店長ってば、いけないんだから~」

「ウヘヘヘヘ」

 リズが店長の額を指でつつくと、老店主は気味が悪いほど情けない声を出した。


 老齢になっても男の本能に素直すぎる老人だが、こんなのが自分の雇い主だったのかと思うと、なんだか悲しくなってくる。

 ――いや、働いてる間は散々セクハラされたわけだから、今更か……


 そんなヤクモの前で、老店主はリズの肩を揉み始めた。

「……爺さん、今までお世話になりました」

「うむっ」

 一応、ヤクモの言葉を聞く店長。


「ところで王都に行くなら、この手紙をルシオラの奴に届けてくれ」

 リズの肩を揉む手を一度止め、手紙をヤクモに渡す老店主。

「ルシオラ?」

「住所は……」

 老店主は王都で魔銃を売っている店の住所を告げ、そこの店主がルシオラだと言った。

「あいつにそれを渡せば、向こうでいいようにしてくれるはずじゃ。一応言っておくが、お前さんはもうこっちの世界の人間になっておるからの」

 こっちの世界の人間とは、魔銃ギルドの組織に所属している人間、と言うことだ。

 ヤクモは老店主によって、魔弾の作成方法を教えられたが、後になってそれが魔銃ギルドの内部で、トップクラスの機密事項だと知ることになった。

 この魔銃ギルドという組織は、魔弾の作成方法を独占するためら、殺人すらも犯すという、危険極まりない存在だ。


「爺さんのせいで、勝手に変な組織(ギルド)の一員にされたんだけどな」

「今更文句を言っても、足は洗えんぞ」

 老店主はフォッフォッと笑い、それからリズの肩もみを再開した。


 リズは2人が話している会話には全くの無関心で、その間ずっとバカっぽい笑いを浮かべていた。

 見た目はこんな感じでも、踏み込んではいけない世界があるということを知っているのだろうか?


「まあ、達者でな」

「爺さんも歳なんだから、女を卒業しろよ」

「馬鹿もん!ワシから女を取り上げたら、何も残らんではないか!」

 別れ際になっても、老店主は相変わらずだった。


 ただ、これ以上は名残惜しい。

 ヤクモは、回れ右をして【ガン・ザ・ロック】の店を後にした。

 もう振り返るつもりはない。


「ギャアー、なんでレジの中身が空なんじゃ!」

 ただ、店の外にまで響く老店主の悲鳴が、最後に聞こえてきた。

 リズがやらかしたのだ。

 どうせあの老店主のことだから、能力でなく、見た目だけでリズの採用を決めたのだろう。

 すべては身から出た錆。自業自得だ。


あとがき



 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。





 お久しぶりの人にはお久しぶりです、通しで読んでいる方には前回ぶりです。



 前回の公開分から一区切りつくところまで書けたので、まとめて読み返し、推敲作業をし、公開していくといういつもの作業が再開です。





 今回でノインターシュの街ともお別れ。

 物語としては第2章の舞台でしたね。



 そして次回からは新天地に……なるといいですね~

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