その男、疑念を晴らす
「え?」
全て私の自作自演、セキソウがそう言ったのは聞き間違えか。
それが聞こえていたはずの観衆の反応は鈍かった。野次馬の中心ほど落ち着き、何かを期待するような好奇心に満ちた表情を浮かべている。
瞬間、セキソウは地面に膝をついて頭を垂れた。
「改めまして。私は心穏塾の塾生セキソウと申します。
全ては我が国──隘国を救うため、攻めてきた野国を打ち倒すために企てたものです。一介の百姓でしかない私ではほかにシバガキ殿と知己を得る方法がなかったためこのような策を弄しました。ご無礼をお許しください。
ですがお許しいただけるのであれば、どうか私の策を聞いてはいただけませんでしょうか」
我に返ったアヅキは、慌てて神楽笛を構えた。
「信用してはいけません。下がってください」
「いや、笛を下ろせ。心穏塾は俺の故郷にある私塾だ。何度か世話になったこともある」
思うところはいくつもあったが、シバガキであれば多少の荒事には対処できるだろう。アヅキはすぐに神楽笛を吹けるように意識しつつも大人しく一歩下がった。
「先生はお元気か?」
「七十を超えましたがかくしゃくとされています。しかし先生が政に関わることはありません。これはあくまで私個人のものです」
「そうか……」
落胆するようにシバガキが俯くと同時に、セキソウがすっと立ち上がる。
「ですがご安心を。私の力で隘国が誇る国士無双の英傑──オオサキ殿を必ずや助け出してみせましょう」
オオサキ・クリトラ。
野国に比べて十分の一にも満たない国力しかない小国の隘国が、長年独立を保ってこられたのはこの英傑の圧倒的な軍才によるものだ。今回の戦とてオオサキが兵を率い、いつも通り迎撃する予定だった。
しかし、一通の書状により根底がひっくり返る。
オオサキ・クリトラ謀反。
忠臣のあり得ない一報を誰もが疑ったが、決定的な証拠を前にして主君たる国主は無視できず、謀反人オオサキを捕らえて目の前に連れてくるよう命じる。
ところが英傑を失った軍勢は迎撃に向かう途中ながらあっけなく瓦解して雑兵たちは逃散し、残った将たちはなんとか態勢を整えようと撤退することになった。
必然的に野国の軍勢はやすやす隘国を侵し、なおも中心部に迫っている。
「どうやって助けるというのだ。内通の証拠となる書状を持っていたのは、ほかならぬオオサキ殿の甥だぞ」
「これは野国の計略です。それを明らかにすれば、オオサキ殿に掛かった疑いも晴れるでしょう」
不可能だ。その言葉がアヅキの口を突きそうになった。
隘国の人間でオオサキの謀反を信じている人間など誰一人いない。
無論、捕縛の命令を出した国主すらもそうだろう。オオサキが国士無双とまで呼ばれるようになり、その名声が国主を遥かに上回ろうともオオサキを重用し続けているのは、ほかならぬ国主自身だからだ。
しかし、その命を出さざるを得ない状況にしたのが、オオサキの甥が持っていた書状だった。
「オオサキ殿の甥御殿が殺人事件を起こし、その取り調べの最中に内通を記した書状が出てきたとのことですが、いささか奇妙ではありませんか。
なぜそれほど重要な書状を持っている人間が、つまらぬ殺人を犯すのですか?」
セキソウの指摘は尤もだ。
オオサキの甥は野国が兵を起こしたと聞き、オオサキの命を受けて単身野国へ調査に赴こうとしていたという。
それが事実であれ、書状を野国に送り届けるためであれ、可能な限り厄介ごとを避けるのが道理だ。そこからして不自然だった。
だが、野国の計略であることを証明できた者はいなかった。
「大まかなことは聞き及んでいますが、いくつか分からないことがあります。聞けば国主さまは詳細に調べるため、その殺人事件を担当した町奉行をはじめとした関係者を全員呼び寄せたとのこと。実際に調べた人間であればたった一人で構いません。どうか私に聞き取りをさせてはいただけませんか?」
その程度で野国の計略を暴けるわけがない。アヅキの中の常識が冷静に否定するが、同時にそこまでの自信があるのなら不可能でもないのかという期待が芽生えた。
それはシバガキも同じだったようで、二つ返事で了承して屋敷を出ていくと、半刻ほどで事件を調査した岡っ引きを連れて戻ってきた。
「失礼いたします」
アヅキより少し年嵩の、二十半ばほどの岡っ引きはおっかなびっくり広間に着座して頭を下げ、上目使いで口を開く。
「それでええと、オオサキさまの甥っ子さんの供述と、あたしたちが見聞きしたことを話せばいいんでしたね。何度も話したことですから任せてください」
岡っ引きは背筋を伸ばすような仕草をしてから息を吐き、再び猫背になって語り始める。
そも、野国が兵を起こしたから様子を見てこい。
そうオオサキさまに言われたのがことの始まりのようです。元々野国の動向を探るのが甥っ子さんの役目だったらしく、領地を出てからいつも通りの道を行き、夕暮れ前に事件現場となる宿場町に足を踏み入れたそうです。
この国と野国の国境近くの宿場町ですから貧相なもので、宿も民家と変わらないようなものが数軒ぐらいで、小さな町ですから遊ぶ場所もなく、汗を流してすぐに寝ようと考えていたようです。
ところが宿に入る前、丁度道沿いで藍染をしていたようで、ドジな娘が甥っ子さんに藍染用の染料を掛けちまったそうです。
それで甥っ子さんの小袖の左の太もも辺りに大きな模様ができて、娘は平謝りで近所の人間なんかは刃傷沙汰が起こるんじゃないかと冷や冷やして見ていたそうですが、甥っ子さんは丁度意匠が寂しいと思っていたところだと笑い飛ばして、何事もなかったようにそのまま宿に入っていったそうです。
甥っ子さんが泊まった宿は個室ではなく雑魚寝でして、甥っ子さん以外に三人の客がいたそうです。甥っ子さんは小袖についた分は気にしてませんし、客にそれを聞かれてむしろ自慢したそうです。
ただ、肌に付いた分は落とそうと、ついでに汗も流そうとして宿の主人に風呂か井戸の場所を聞いたそうです。ところがほかの客に食事を誘われて後回しになったとか。
それから宿の裏にある井戸で躰を洗った時にはもう遅く、左の太ももには藍染の色がべったりと残っていました。ただまあ、いつかは落ちるからと深くは気にせず、そのまま三人の客と一緒に一つの部屋で寝入ったということです。
そして事件が起きたのは、夜が明ける前のまだ暗い時間でした。
誰ともなく物音に気付いて目を覚ますと血の匂いがしたそうで、勘付いた客の一人が動かないように言い、その場から大声で宿の人間を呼んだそうです。
それで宿の人間が持ってきた明かりで室内が照らされると、ふんどし一丁になった客の一人が胸を刺されて死んでいたと。仏さんが着ていたであろう小袖は部屋の隅にありました。
「ふんどし一丁ですか」
セキソウは呟き、ややあって岡っ引きに続きを促した。
一つの部屋に雑魚寝ですから、誰かが宿を出入りすれば分かります。それで容疑者は甥っ子さんを含めた客の三人だけ。殺された客も含めてそれぞれ初対面だったそうです。
最初に現場に着いたのが岡っ引きであるあたしと朋輩の二人です。
まだ薄暗い時間でした。あたしたちはさっそく二人で取り調べを始めました。あたしが仏さんを調べて、朋輩が容疑者を裸にして調べるって形です。
仏さんは胸を刺されて死んでました。
胸には肋骨があるんで心臓を刺すのは難しいんですが、まあ綺麗に肋骨を避けてたんでそこらへんの人間にできる芸当じゃありません。出血量も心臓を刺された割にはそこまでじゃありませんでした。でも鮮やか過ぎてそれ以上の手掛かりはありません。
朋輩の取り調べのほうですが、まずは容疑者を全員裸にしました。
ただまあ、その時甥っ子さんが随分抵抗するもんで苦労しましたよ。太ももに付いて落ちなかった藍染が恥ずかしくて見せたくなかったからだそうです。それで揉めに揉めましたがなんとか小袖を脱がせることができまして、その時は目立つ返り血もなく、ひとまず小袖を着させたそうです。
ところがその時、甥っ子さんの小袖の袂にちょっと血が付いているのが見えたようで、もう一度詳しく調べたところ、袂から例の書状が血が付いた状態で出てきました。
そりゃ抵抗するわけですよ。そこからはもう、殺人どころの騒ぎじゃありませんでした。
あたしたちはあたしたちで何を優先するべきか分かりませんし、甥っ子さんは書状を入れられたなんて無茶苦茶言いますし、結局ほかの朋輩が来るまでそれ以上何もできませんでした。
そもそも書状が入れられたんならもっと早く気付くでしょうし、仮に小袖を丸ごとすり替えたとしても藍染の模様って証拠があるのを周りも自分も見てるのにどうやってすり替えるって言うんですか。
話が逸れてきたな。そうアヅキが感じていると、セキソウがなるほどと声を漏らした。
「大体分かりました。やはり野国の計略ですね。オオサキ殿と甥御殿は罠に嵌められたのですよ」
シバガキが目を輝かせて声を上げるが、アヅキの中にあるセキソウへの疑心はむしろ深まった。
アヅキもまた自身のためにオオサキへの疑惑を晴らそうと知恵を絞ったが、ほかの人間と同じように、精々がオオサキの甥で独断と動いたと擁護するのが限界だった。
隘国中の人間が疑いを晴らせなかったのに、どこの馬の骨と知れない男がどうにかできるわけがない。セキソウはシバガキの性格に付け込んで悪事を働こうとしているではないか。
「いいですか?」
アヅキはシバガキに許可を取ってから発言する。
「オオサキ殿を助けられなかったら、セキソウ殿はどう責任を取るつもりですか?」
「おい、アヅキ」
シバガキがどう言おうとこれはアヅキの、ひいては故郷に残してきた家族の食い扶持に関わる問題だ。無視してセキソウをねめつけると、頭巾を被った大人しそうな青年は、さらりとそれを口にした。
「その時は殺してくださって結構です」
シバガキの顔がぽっと火照るのが見えた。逆効果だったと後悔するがもう遅い。横目でそれを確認したのか、セキソウの表情が僅かに緩んだ。
「いくつか確認させてください。あなたの朋輩に関することです」
「なんなりと」
「取り調べの際に脱がせた小袖ですが、被害者の小袖と同じ場所に置いてはいませんでしたか?」
「ああっと、確かそうだったと思います。投げ捨てて重ねてたんじゃないですかね」
「では、朋輩の方は取り調べが終わった後、不審な行動をしていませんでしたか? 例えば、いつの間にか宿を抜け出していたとか」
あっと岡っ引きは大声を上げた。
「そうですよ。あの野郎、俺にだけ見張りさせて小便に行きやがって」
「その時、被害者が着ていたという小袖を持ってはいませんでしたか?」
「あー、そういえば持ってましたね」
「ありがとうございます。シバガキ殿、これではっきりしました」
アヅキとシバガキは、どういうことだとほとんど同時に尋ねた。
「結論から言うと、甥御殿が着ていた小袖はすり替えられたのです。野国との内通が記された書状が入ったものとね。甥御殿が着ていた小袖と被害者が着ていたと思われる小袖の基本的な色や柄は同じだったはずです。違いますか?」
岡っ引きは頷きつつも首を捻る。
「そりゃ似てますよ。小袖なんて似たり寄ったりですから。というか多分同じですよ。でも太もものところに藍染の模様っていう決定的な違いが。あたしたちは下っ端ですがそこまで節穴じゃありませんよ」
「それが野国の狙いです。藍染の模様は人々の記憶に残るよう意図的に付けられたもの。つまり、染料を掛けた娘も野国の手の者です。小袖をすり替えたのは取り調べで小袖を脱がせた時でしょう」
「待ってください」
岡っ引きが額にうっすら汗を流して口を挟んだ。
「それならあたしの朋輩が、野国のクソッタレの手先ってことになりませんか?」
「その通りです。一から説明しましょう」
言って、セキソウは座り直した。
「そもそも部屋の隅にあった被害者が着ていたと思われる小袖は、実際に被害者が着ていた小袖とは別物で、これこそが後にすり替えて甥御殿が着ることになる血と藍染の模様が付き、袂に書状が入った小袖だったのです。
被害者が着ていた本物の小袖は事件が発覚する前に外にでも捨て、共犯者に回収させたのでしょう。染料による模様は甥御殿に染料を掛けた後、似せたものを用意したのだと思われます。
模様が付いたのは夕方で事件が発覚したのも明け方、この時間帯なら誰も模様の詳細までは見えていません。さらに言えば、その違いに最も気付けないのは冤罪を主張しなければならない甥御殿です。他人の小袖ならまだしも自分が着ている小袖ですから、なおのこと派手な模様に気を取られて細部の厳密さは記憶に残りません。
大まかに合っていればよもや別物だとは疑いもしないでしょう」
「待ってください。部屋の隅にあった被害者の小袖にそんな模様はありませんでしたよ」
岡っ引きが慌てて言うと、セキソウはつらっとした顔で問い返す。
「断言できますか?
朋輩の方は共犯者です。しかも派手な模様と言いますが、太ももに収まる程度の大きさでしかありません。見えないように置くのは簡単です。また、その小袖を拾い上げて直接確認したのは共犯者である朋輩の方ではありませんか?」
岡っ引きは口をつぐんだ。セキソウは表情を変えずに話を再開する。
「そして、取り調べと言って甥御殿から脱がせた小袖をほかの小袖と混ぜて置き、返すときにはその中にある書状入りの小袖のほうを渡して着せたというわけです。
朋輩の方が一度宿から離れたのは、元々甥御殿が着ていた藍染の模様が入った小袖を、模様の無い綺麗な小袖と取り換えるためでしょう」
シバガキと岡っ引きの顔を見れば、セキソウの話を鵜呑みにしているのは明らかだ。アヅキは自分の中の疑心の存在を改めて確かめ、セキソウの説に疑問を呈した。
「手が込み過ぎです。ほとんど妄想ですよ」
言ってから、アヅキは自分の指摘の正しさに心の中で頷いた。
セキソウの推測には越えなければいけない問題が多すぎる。下準備はあまりにも大変で、それが上手くいくかも分からない。ほとんど丁半博打と同じだ。
それが分からぬはずがないセキソウは、しかし平然と答える。
「オオサキ殿を貶めるための野国の策謀ですよ? 恨みつらみの殺人とは違います」
そうだった、とアヅキは息を飲んだ。
オオサキという国士無双の武人を貶めるのなら、どれだけ手が込んでいても不自然ではない。セキソウの推測が事実なら、本当の殺人犯はもとより容疑者の中にも共犯者はいるだろう。
なにより、殺された被害者も共犯者だ。それどころか宿場町全体が野国の息が掛かっていた可能性すらある。
決して大げさでない。
それだけのことをする価値が、オオサキ・クリトラにはある。
「で、ですがすり替えたという証拠はあるんですか? 忍び込ませたり、それこそどこかで小袖を脱いだ可能性もあるはずです」
「書状の大きさは知りませんが、よほど小さくない限り本人に気付かれずに袂に入れるのは難しいでしょう。確かに汗を流した時に一度小袖を脱いでいますが、その間に入れられたというのなら翌朝まで気付かないのは不自然です。
そして、その言い逃れができていないということは、書状はそこまで小さいものではなかったのでしょう」
アヅキが岡っ引きに目を向けると、無言の頷きが返ってきた。
「でも、岡っ引きを抱き込んだというならそのまま濡れ衣を着せればいいではないですか?」
もはやオオサキを助けることからセキソウを咎めることへと趣旨が変わっているとアヅキも自覚していたが、得体の知れないセキソウが重用されるのだけは防がなくてはならなかった。
「単純です。アヅキ殿が今言ったその疑惑を排除するためですよ。藍染はその決定的な証拠として利用したわけです。シバガキ殿、岡っ引きの方が濡れ衣を着せた可能性が残っていたなら、国主さまはどう対応されていたと思いますか?」
「うむ。それはまあ、書状など信じんだろうな。お二人の関係はそれほどまでに深い」
これ以上、アヅキが指摘できるものは何もなかった。
そもそも、これはオオサキを助けるためのものだ。
それがセキソウの言葉が真実か否かは重要ではない。国主がオオサキに抱いた疑念を少しでも晴らせればそれでいいのだ。食って掛かってセキソウの推測を否定するほうがおかしい。
「朋輩の方もこの街に呼ばれているのでしたよね。問い詰めれば口を割るでしょう。それでオオサキ殿の疑惑は晴れます」
シバガキが一人で快哉を上げる。それを、「しかし!」とセキソウは声を張り上げて抑え込む。
シバガキが落ち着くと、セキソウは声の調子を静かなものに戻した。
「野国はこれでオオサキ殿を完全に失脚させられるとは思っていないでしょう。それはまさにシバガキ殿がおっしゃったように、国主さまとオオサキ殿の関係の深さを知っているからです。これは時間稼ぎに過ぎません」
まだあるのか。アヅキは無意識に唾を飲み込んでいた。
「さしもの国主さまといえども決定的な謀反の証拠があがったオオサキ殿を野放しにしておくわけにはいかず、一時的にでも戦場から引き離しました。それこそが野国の真の狙いなのです」
「どういうことだ?」
そう問うたシバガキの声が、その先の事柄に勘付いたように震えていた。
「野国はこのたびの戦で隘国を滅ぼすつもりです」
シバガキが壁に掛けた短槍に手を伸ばし、全力で握りしめた。その腕には太い血管がこれでもかと浮き出ている。
「だが、数は普段より少ないぞ」
「多ければ多いほど、国主さまはオオサキ殿の武勇が惜しくなります。逆に少なければ少ないほど、オオサキ殿がいなくとも対応できると油断します。今回の軍勢は野国でも最精鋭のはずです。オオサキ殿のお力があれば勝てるでしょうがそれでも苦戦は必至。お気を付けください」
「アヅキ! セキソウ殿を頼んだぞ!」
言うが早いか、シバガキは短槍を片手に飛び出していった。
ふと、アヅキとセキソウの目が合った。
この男は、本物なのか。
アヅキの心臓は知らず知らずのうちに早鐘を打っていた。
果たして、セキソウの言葉は全て真となった。
拷問を受けた岡っ引きは野国の間者だと認め、洗いざらい吐いた。それによって疑いが晴れたオオサキ・クリトラは再び兵を率い、以前より苦戦しつつも野国を追い払う。
「私の望みは立身に非ず」
その功により国主の招きを受けたセキソウは、堂々とそう言い放った。
「我が国を侵す西の大国──野国を完膚なきまでに叩き潰す。それこそが唯一の望みです」
「それが叶えばやっとるわ!」
誰かが叫んだ。セキソウを囲むのは数十人、その全員がセキソウに視線を注いでいる。しかし、当の本人はいささかも表情を崩さずに涼しい態度を貫いていた。
「諸侯による大同盟──合従策を用います」
「それが叶えばやっとるわ!」
別の者が叫ぶ。どこからか失笑が漏れるが長続きはしない。茶々を入れた男は眉を逆立てたオオサキに射竦められ、躰を丸めて小さくなった。
「求めるのは許可それのみ。このセキソウ、必ずや合従策を成し得て戻って参りましょう」
アヅキは広間の隅で武者震いする。
この男は、セキソウは本物だ。




