EP 7
「Love & Money 〜強欲な人魚姫の奇跡とオタクコール〜」
「もっと踊らせろォ!」「村に入って朝まで宴会だァァ!」
理性を失った魔族の大群が、防壁の石をガリガリと削りながら這い上がってくる。
月光薬のバフと宴会芸で完全にトランス状態に陥った暴徒たちを前に、俺は舌打ちをした。
「……客のテンションが限界を超えてる。このままじゃ暴動(フェス崩壊)だぞ!」
「チッ。やはり宴会芸じゃ、大衆のエネルギーを完全には制御しきれねぇか」
PA卓を操作するアラトが舌打ちし、ステージの上では鼻に五円玉を詰めたリーザが「ひぃぃん! 食べないでくださいまし!」としゃがみ込んでいる。
俺は防壁から飛び降り、ステージに駆け上がってリーザの鼻から五円玉を引っこ抜いた。
「痛っ!? なにするんですの陸人さん!」
「目を覚ませ、強欲人魚! お前、ファンから全てを奪うのがアイドルだって言ったよな! だったら、あの暴徒どもの視線も思考も、お前の本気の歌で奪い尽くしてみせろ!」
俺の怒鳴り声に、リーザはハッと息を呑んだ。
防壁を乗り越えようとする、恐ろしい魔族たちの顔。だが、彼らの目は純粋に「次の楽しいこと」を求めて飢えている。
(——私が、ファンたちの世界そのものになる)
リーザの瞳の奥に、再びあの『強欲な執着』の炎が灯った。
「……アラトさん! 曲、変えますわよ! 私の最強のナンバーでいきますの!」
リーザが立ち上がり、芋ジャージの裾を払うと、アラトがニヤリと笑って音響魔導具のスイッチを切り替えた。
『ジャァァァァァァァァンッ!!』
重低音が村の広場を揺らし、リーザがマイク(魔導拡声器)を握りしめる。
「さぁ、迷える子羊たち! 私の愛と、貴方たちの全財産を交換する最高の時間の始まりですわ!」
腐っても、彼女は海を支配する人魚姫。
彼女が本気で歌い始めた瞬間、その声には強力な『魅了』の魔力が乗り、周囲の空気を黄金色に染め上げた。
「愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!」
リーザの圧倒的なオーラに、防壁を登りかけていた魔族たちの動きがピタリと止まる。
だが、彼らの有り余るエネルギーは、ただ見ているだけでは発散しきれない。彼らには、この熱狂をぶつける『正しい導線』が必要だった。
「アラト! キャルル! こっちに来い!」
俺は第4話で出しておいた大量の『サイリウム(ペンライト)』をポキポキと折り、光らせて二人に手渡した。
「なんだこの光る棒は? 誘導灯か?」
「そうだ! いいか、俺は前の世界で、ライブハウス近くの深夜コンビニで働いてた! ライブ帰りのオタクどもの『コール』と『オタ芸』は、嫌ってほど見せられてきたんだ! 俺が手本を見せるから、お前らも合わせて客(魔族)を誘導しろ!」
「はぁ!? 私にこんな棒振れっていうの!?」
文句を言うキャルルを無視し、俺はステージの最前列——魔族たちから一番よく見える位置に陣取り、サイリウムを構えた。
「マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!」
リーザの歌に合わせて、俺は腹の底から声を張り上げた。
「(Yeah!!)」
俺の合いの手に合わせ、アラトが風魔法で音を増幅させ、魔族たちの耳にダイレクトにルールを叩き込む。
「朝に目覚ましがなったわ」
「(ジリリリ!)」
「私はまだ眠いわ」
「(おはよー!)」
俺が完璧なタイミングでサイリウムを振り、コールを入れる。
最初は戸惑っていた魔族たちだが、リーザの魅了魔法と、俺たちが提示した『明確なルール(ノリ方)』がバチリと噛み合った。
「おお……これだ。このタイミングで叫べばいいのか!」
「うおおおお! (おはよー!!)」
数百人の魔族たちが、一斉に俺のコールを真似し始めた。
「よし、食いついたぞ! キャルル、もっと激しく動け! テンションの捌け口を作ってやれ!」
「よくわかんないけど、全力で動けばいいのね! 月影流・超連撃の型!!」
キャルルが両手に持ったサイリウムを、月兎族の常軌を逸したスピードで振り回し始めた。
それはもはやオタ芸の域を超え、オレンジ色の光が分身(残像)を生み出し、巨大な光の輪となって広場を照らす。
「す、すげぇ! あのウサギ耳のネーチャン、光の壁を作ってやがる!」
「俺たちも負けるな! 振れ! 腕が千切れるまで振れェ!」
魔族たちは剣をサイリウムに持ち替え(どこから出したのか、俺がコンビニショップで出した予備を勝手に拾っていた)、キャルルの超絶オタ芸を見よう見まねで完全再現し始めた。
「さぁ魔法の時間の始まりよ」
「(Change The World!)」
リーザの歌声が、村を、そして魔族たちの心を完全に支配していく。
暴力と破壊しか知らなかった彼らが、今や統率の取れた一個の『オタク軍団』と化し、芋ジャージの人魚姫に熱狂していた。
「今日も私の為に星が降る」
「(ひかって!ひかって!)」
「全部手に入れるわ」
「(強欲!)」
リーザの顔に、恍惚とした笑みが浮かぶ。
これだ。これが私のステージ。彼らの時間を、心を、今この瞬間、私が全部支配している。
「ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪」
「(All Need! All Need!)」
「貴方の全て(人生)を背負って生きていける」
「(Fuuu〜!)」
俺とキャルル、そしてアラトの風魔法による音響アシストが、曲の最高潮を演出する。
数百本の光の棒が、ポポロ村の夜空に美しく揺らめいていた。
「だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ」
リーザがマイクを両手で包み込み、満面の笑みで客席(魔族たち)を指差した。
「だから、何処までもついて来てね♡」
「(一生ついていくよー!!)」
そして、リーザは大きく息を吸い込み、とびきりのウインクと共に投げキッスを放った。
「ダーリン!(チュッ♡)」
『ドッッッッ!!』
その瞬間、俺たちの完璧なコールと、人魚姫の全魔力を込めたチャームの衝撃波が、魔族たちの心臓と鼓膜を物理的に撃ち抜いた。
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