EP 13
「英雄のメッキが剥がれる時、100円の奇跡が炸裂する」
金貨が光となってゼロスの体内に吸い込まれていく。
「アハハハッ! 見ろ、この圧倒的な魔力を! これぞ金で買った絶対防御だ!」
暴力的なオーラを纏った偽善勇者が、狂った笑い声を上げてこちらに歩みを進めた。
彼の全身を、黄金色に輝くドーム状の障壁が包み込んでいる。
「死ねぇッ!」
ゼロスがオリハルコンソードを無造作に振るうと、凄まじい剣圧が飛び、村の強固な防壁の岩が豆腐のように切り裂かれた。
「くそっ、あんなデタラメなステータス、ありかよ……!」
「私が止めるわ!」
俺が舌打ちする横で、キャルルが弾かれたように飛び出した。
先ほどの将軍機を粉砕した速度そのままに、彼女の安全靴がゼロスの懐へと潜り込み、横腹に向かって必殺の回し蹴りを叩き込む。
『ガギィィィィィンッ!!』
だが、金属が弾けるような甲高い音が響き、キャルルの方が大きく後ろへと弾き飛ばされた。
「キャルル!」
「きゃっ……!? 嘘、私の蹴りが、完全に防がれた……!?」
空中で体勢を立て直して着地したキャルルが、信じられないという顔で自分の足を見る。
「無駄だ無駄だ! 俺の【マネー】で極限まで強化した絶対防御は、いかなる物理も魔法も通さない!」
アラトが連続で放った炎と氷の矢も、バリアに触れた瞬間にパラパラと燃えカスや氷の破片となって落ちていく。
外からのあらゆる衝撃を完全に遮断する、文字通りのチートバリア。
ゼロスは勝ち誇り、顔面にへばりついた泥を拭いもせずに下劣な笑みを浮かべた。
「さぁ、どうした? 逃げ惑え! 絶望しろ! それがゴッドチューブの視聴者が一番喜ぶ絵なんだよ!」
ゼロスがゆっくりと、俺たちを蹂躙するために石畳の坂道へと足を踏み入れた。
だが、そこはまだ俺たちが仕掛けた『洗剤と油のデスゾーン』だ。
『ズルッ!』
「おっと? ……ふん、足元を滑らせようとしたのか? 残念だったな!」
ゼロスの足がツルリと滑るが、彼は転倒しなかった。
絶対防御のオーラが、足元と地面の間すらも均等に固定し、彼はまるで氷の上を滑るホバークラフトのように、強引に姿勢を保って進んできたのだ。
「打撃も魔法も通じない。トラップも効かない。……おい、バイトリーダー。お前の算盤じゃ、あいつの防御を剥がす計算式は出ねぇのか?」
アラトが冷や汗を流しながら、俺に問いかける。
「……いや。俺は今、あいつのクレーム対応マニュアル(弱点)を書き終えたところだ」
「なんだと?」
俺は地面に置いていた二つのアイテム——『1.5リットルの巨大ペットボトルコーラ』と『ミント味のソフトキャンディ(メントス)』を掴み上げた。
絶対防御のバリア。外からの衝撃を完全に弾くのはわかった。
だが、ゼロスの挑発する『声』は俺たちに聞こえているし、あいつ自身も激しく『息』をしている。
つまり、音や空気といった『気体・液体』は、呼吸を確保するためにバリアを通過する仕様になっているのだ。
「アラト。俺がこれのフタを開けて、このキャンディを限界まで詰め込む。……こいつが爆発する前に、風の魔法で覆って、あいつの顔面目掛けてシュートしてくれ」
「……またその謎のアイテムか。だが、空気を通すなら、その液体もバリアを通り抜けるって寸法だな?」
「あぁ。しかも、ただの液体じゃない。炭酸水にミントキャンディの成分が溶け込むと、急激な気化現象が起きて大爆発を起こすんだ」
俺の狂った説明に、アラトは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに凶悪な笑みを浮かべた。
「ハッ! 最高に狂ったカクテルだぜ。……よし、やれ!」
俺はコーラのキャップをひねり開け、筒状のミントキャンディを数粒、一気にボトルの中へとねじ込んだ。
『シュワァァァァァァァッ!!』
瞬時にボトルの内部で化学反応が起き、茶色い液体が爆発的な圧力となって噴き出そうとする。
「いっけぇぇぇぇッ!!」
俺がボトルを手放すと同時、アラトが【家庭科】スキルで磨き上げた精密な風魔法を発動させた。
噴出しようとするコーラの圧力を風のドームで無理やり圧縮し、そのまま弾丸のようにゼロスの顔面へと射出する!
「あ? なんだその黒い水は。そんなもので俺のバリアが……」
ゼロスが鼻で笑った瞬間、風の圧縮から解放された巨大ペットボトルが、彼の顔の目の前(バリアの内側)で完全に破裂した。
『ブシャァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』
「ぶふっ!? げほっ、がぁぁぁぁッ!?」
1.5リットルの炭酸飲料が、ミント成分との化学反応で本来の何十倍もの体積を持つ高圧ジェットと化し、ゼロスの顔面に直撃する。
バリアは『外からの打撃』は弾くが、『内側で発生した気体と液体の膨張』は防げない。
狭いバリアの内側は、一瞬にして凄まじい水圧の炭酸と、強烈なミントの刺激、そしてベタベタの糖分で満たされた。
「目、目がァァァッ! 息が、息ができねぇッ!!」
目と鼻と喉に強烈な炭酸とミントの刺激を浴び、ゼロスは完全にパニックに陥った。
気管に入ったコーラを吐き出そうと咳き込み、目を擦りながらのたうち回る。
その瞬間——彼の集中力が途切れ、全身を覆っていた黄金の絶対防御オーラが、パリンと音を立てて砕け散った。
「よし! バリア(メッキ)、剥がれたぞ!!」
俺が叫ぶ。
「よくやった、相棒」
アラトが、今まで見せたことのないほど強烈な闘気を弓に込め、紫色の雷光と炎、そして氷の魔力を同時に一つの矢へと融合させ始めた。
英雄のメッキは完全に剥がれた。
残るは、この理不尽な請求書の回収だけだ。
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