誰もいない
あれからどれくらい歩いただろうか。
廃墟と化した街を、僕は人影を求めあてもなく歩いた。時にはオフィスビルの中を、時には人の住宅に、勝手に入り込んで覗き込んでは人を探した。しかしいくら探せど誰もいなかった。
この街はいったいどうしてしまったんだろうか。
いたるところで建物や車は破壊されており、路上にはいろんな物が散乱していた。地面にはおびただしい血痕の跡もあり、想像を絶する騒動が起きたことが推測できた。
血痕……、血の乾いた状態から、日数が経ってるように思えた。いったいこの状況になってからどれくらい経つのだろうか?
変な話だが、人の遺体が見つからなかったのは幸いだった。もし見つけてしまった時は、世界の終わりを覚悟してしまっていたかもしれない。
でも思う。これはたまたま見つけてないだけなのではないだろうか。
道路脇の縁石に座り込んだ。疲れもあったが激しい絶望感が心を襲っていた。
頭を抱え込む。
様々な考えが浮かんでは消えていく。何か災害が起きて、みんないっせいに逃げ出したのだろうか? それとも何か細菌のようなものでも蔓延し、自分以外の人々が消滅してしまった?
……これは壮大なドッキリだったってことはないのだろうか? だとしたら誰か早く出てきてほしい……。
まるで神隠しにあってるようだった。街も、自分の記憶も。何もかも「何かから」隠されてるようだった。
日が暮れ、ビルに闇が覆い始めた。いつの間に時間が経ってしまったのだろうか。手元が暗くなってることに気づいて、僕はようやく顔を上げた。
電気は通ってないらしく、街中に明かりは一つも灯っていない。
リュックの中を探った。すると、懐中電灯が一つ入っていた。
懐中電灯を取り出しスイッチを入れてみた。周囲がわずかに明るくなる。懐中電灯で辺りを照らしながら少し歩いてみる。しかしこの暗闇の中、この懐中電灯1つで無闇に進むのは危険なように思えた。
今日はこれ以上進むのはやめた方がよさそうだ。
僕はそう思うと、どこか休める所を探すことにした。あたりを見渡す。
ーー目の前のビルの谷間に赤い鳥居が立っているのが見える。神社だ。
鳥居脇の扁額には「藤見神社」と書かれていた。案内図の看板もあり、そこそこの大きさの神社らしい。背後には長い石段があり、登りきった先に本殿があるようだった。
高台にある神社ならば、月明かりで少しは見通しが利くかもしれない。
僕はそう考えると神社に足を向けた。何より街中にいるより、神社にいる方が安心できそうに思えた。この静まり返った街に一人で一晩過ごすのは辛い……。
神社の鳥居はほのかに青白く輝き、なにか僕を呼んでるようにも思える。
僕は懐中電灯で足元を照らしながら、鳥居をくぐった。
ゆっくり、慎重に、階段を登り始める。




