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第八話:フォーグマ洞窟の死闘 中編その2

【第八話:フォーグマ洞窟の死闘 中編その2】

フォーグマ洞窟内 トロッコ置き場

 ノーフェイス・レイスとの戦闘の後、セツナたちはこのまま進むか、それとも後退するかを相談していた。


レイダーが言う。


「でもさぁ。武器の効かない、魔法も大量に撃たないとならない相手が、まだどっかに潜んでいるわけだろ?

俺たちの依頼は探索任務だぜ。リスキーじゃないか?

俺なんか役立たねえし…」


ルディウスがさらに深層へと進みたい意志を示したので、レイダーが止めた。


すると話を聞いていたロビンが言う。


「オラぁ。ルディウスが行くなら地獄の底までついていくぜ」


するとセツナも言う。


「僕はあのノーフェイス・レイスにもう一度会わないといけない気がしているんだ」


「お、セツナ。お前も男気あるじゃねぇか!やっぱ冒険者なら逃げ帰るより、倒して返りたいよな!」とロビン。


するとレイダーがユアラに聞く。


「ユアラはそこんところ、どうなんだ?」


「…私は…確かに怖いし、危険もあるけど、セツナの言う通り、何か引っかかるのよね…」


「ちぇ!4:1で俺の負けか~」とレイダー。


するとロビンが「なんなら、レイダーだけ帰っても良いんだぜ?」とニヤニヤした。


「帰るかよ!ダサい真似できるか!」


するとルディウスが頭を下げて言う。


「私のわがままに付き合わせてしまって申し訳ない。

危険は承知だが、もう少し付き合って欲しい!頼む」


「いいって事よ!」とロビン。


「帰ったら特別危険手当。エルヴィンからふんだくってやろうぜ!」とレイダー。


「私たちパーティーだしね」とユアラ。


「ほんと、いいパーティーだと思うよ」


セツナがほほ笑んだ。


「ほんじゃま。休憩もしたし行くとしますか!」


ロビンが装備を握って立ち上がった。


「でよう…どっち進むよ?」


ロビンは坑道の横穴を覗き込んで言う。


するとルディウスが地面を見ながらこう言った。


「足跡を見るに、あまりこの出入口を行き来する様子がない。

きっと奥でどこかが繋がっているのだろう」


「なるほどな!なら俺はこっちが良いと思うぜ!」


レイダーが右の穴の方を指差した。


「良いだろう。ただ、ここから先はルシエラたちも立ち入っていないエリアだ。十分警戒して進もう」


ルディウスはそう言うと、進まない方の左の坑道の出入り口に、敵を感知する魔法を仕掛ける。


『我に伝えよ。大地の息吹よ、蹂躙する物の名を叫べ』


「これでいいだろう。この場所を通過すると、その人物の特徴を私に伝えてくれる」


「便利だな。この魔法」


セツナが感心した。


「後で教えよう。では行こうか」


「おっし!先頭は任せろ!」


ロビンを先頭にトロッコの線路に沿って、右の坑道に入ってゆく。


坑道は手掘りのせいか道幅が狭く、放置されたトロッコの脇を歩いて抜ける時には、片手を壁に触れて通れなければいけないほどの幅しかない。


この坑道を走るトロッコには動力源が見当たらない。


かつては人力か、それとも魔法で動かしていたのだろうか。


そんな鉱夫たちの苦労はお構いなしに、坑道は坂道を上がったり下がったり、左右にカーブしたりを繰り返す。


何度となく、行き止まりからの引き返しを経験し、ロビンがげんなりしながら言う。


「こんなグネグネした横穴だらけの坑道を掘ったやつは、へそも曲がってるに違えねぇ」


するとルディウスが言う。


「鉱脈を探して掘り進めた結果だろう」


「かー!もう少し解りやすく掘って欲しいもんだよな。

これじゃ迷子になりそうだ」とロビン。


するとユアラが周囲を見回すと言った。


「でも、こうして高低差があるおかげで、魔煙の漏洩も最小限になっているじゃないかな」


ユアラの言葉にルディウスがうなずきながら言う。


「うむ。風が坑道の奥から吹いてきている。

魔煙はこの風にのって漂い出てくるようだ。

おかげで魔煙だまりが予測しやすい」


迷路のような坑道をしばらく進むと、少し広めの広場で線路がまた二手に分かれていた。


「あちゃー。また二手に分かれてらぁ…」とロビンが頭をかく。


するとセツナがフィールを介して、左右の坑道の奥を確認する。


「右の先は魔煙だまり、その先は袋小路になってる。

左の先は部分的に魔煙だまりはあるけど、奥まで道が続いているかも。

風もこっちから吹いているみたいだ」


「なら左だな」


天井からは湧き水だろうか、水滴が滴り、地面の水たまりに落ちてピチョンと音を響かせる。


不意にセツナが前を歩くルディウス聞く。


「ルディウス。ゴブリンについて質問があるんだけどいいかな?」


「知っている範囲であれば何でもいいぞ」


「あれは人間なのか?」


セツナの質問を聞き、ロビンが爆笑する。


「ブははは!!!んなもん人間なんかじゃねえだろ」


するとルディウスが言う。


「ゴブリンは人型こそしているが、ああ見えて稚拙な動物だ。

駆け出し冒険者が最初にけがをする相手がゴブリンだ。

人に近い見た目なので尻込みして剣が鈍るのだろう。

何かあったか?」


「あ…いや」


しかし明らかにセツナの言葉には別の意図があった。


するとその意図に気づいてルディウスが言う。


「セツナは先ほど倒したバーサーカーの事を気に病んでいるようだが、ああなっては手の施しようがないんだ。

魔煙に触れてもすぐにバーサーカーになったりはしない。

彼の場合、我々が遭遇するまで、4日もの間、魔煙にまみれていた。

直ぐに吸魔石で処置できれば人に戻れる…が、時間が経てば経つほど、人間には戻れなくなる。

心が壊れてしまうからだ」


「だから迷わなかった…他に方法がなかった?」とセツナ。


するとルディウスが言う。


「セツナの住んでいた異世界では、人を殺すような野蛮な行為は存在しないのか?

…残念ながらこの世界では違う。

場合によっては人を殺さねば生き延びられない、そんな過酷な選択を迫る世界なのだ」


その言葉にセツナは気づいた。


「(地球でも戦争はあるし、イジメで人が死ぬこともある…同じだ。自分が知らないだけ、見て見ぬふりしていただけなんだ)」


「僕の世界でも人を殺すことはあります。

戦争も頻繁に起きるし、身近でもイジメによって人が自殺します。

僕はきっと運よく、恵まれた環境にいただけ、なのかもしれません」


するとレイダーが言う。


「なーんだ。そうなんだ。異世界って言うからどんな凄い場所かと思っていたけど、こっちと大差ないんだな。ある意味安心したぜ」


するとルディウスがさらに聞く。


「今後のためにも聞いておきたいのだが…

セツナ。君は人を殺せるか?」


余りにも重い質問にセツナは黙り込んでしまった。


そしてこう返した。


「…必要であれば。自分のためじゃなく、誰か大切な人のためなら…」


それを聞いてルディウスが言う。


「大切な人のためなら…か…。しかしそれはおそらく偽善だな。」


「(図星だ。悪い事を綺麗ごとにしたがっている…)」


ルディウスの言葉がセツナの心に突き刺さった。

するとルディウスがセツナに問う。


「自分が“大切な人のためなら、犯罪者にだってなってみせる”という考え方は実に危うい考えだ。

そんな曖昧な動機では、際限なく人を殺すことも出来てしまうだろう。

自分にとってどこまでが大切な人になるのだ?

街中で隣に偶然座った人は対象外でいいのか?

それとも血の繋がった家族までが大切な人なのか?」


ピチョン…


静かな坑道に水滴の音が響く。


ルディウスの言葉にセツナは答を出せずにいた。


するとルディウスがこう続ける。


「セツナは優しい。私はそんなセツナであり続けて欲しい。

きっとこの先、セツナを慕い、仲間が増えれば自ずと大切な人が増えてゆく事になるだろう。

だが覚えておくといい。

大切なモノが多すぎると失うモノも多くなるという事だ。

だからと言って、大切なものを全て護るために犯罪者のように振る舞うのは君の本心ではあるまい?」


「はい。

でも…それなら僕はどうしたらいいでしょうか。

護りたい場合はどうすれば…」


するとルディウスがセツナの問に対してこう言った。


「セツナ。他人のために無理をするな。

“自分が犠牲になってでも護らなくては”と自分に言い聞かせるな。

セツナが思うほど、我々は弱くない。

自分の身の丈にあった最善の行動をとればいい。

そして考え続けるのだ。どうしたら大切な人を護り抜けるかと。

しかし、もし“その時”が来て、考えより先に心がそれを望むなら、その時は心に従って行動すればいい」


するとレイダーが笑いながら言う。


「ハハハ!なんだよセツナは俺より自分が強いだなんて思ってたのか?

もっと俺たちを頼れよ」


するとユアラがセツナに言った。


「セツナには無理をさせたくないの。

魔煙の事もあるしね。

でも、本当に必要になった時は助けてもらえる?

頼りにしたいわ」


仲間の言葉にセツナの心から重たい何かがスーっと消えた気がした。


「自分の心のままに…か」とセツナ。


すると先頭のロビンが言う。


「そうだセツナ!自分が後悔しない選択をしろ。それが一般的に間違いであっても正解だ!」


その言葉にセツナの口から思わず感謝の言葉がもれた。


「ありがとう…みんな…ありがとう!」


「(この世界に来てからずっと、自分はのけ者にされないかと心配だった。

仲間はずれになるのが怖くて、誰かの役に立たなくてはいけないと必死に思い込んでいた。

しかし違っていた、僕がそんな事を考えている間も、皆が僕を護ってくれていたんだ)」


セツナは気づけば涙を流していた。


洞窟の冷たい空気に触れても尚、その涙だけはなぜか暖かかった。



フォーグマ洞窟内 鉱脈採石場

 セツナたちは狭い坑道を抜けて、ひときは大きな広場に足を踏み入れた。


正面には中央に赤さびだらけのトロッコが3機ほど転がった状態で打ち捨てられている。


地面は湿気を帯びた土でぬかるんでおり、所々に硬い岩盤が露呈している。


光に照らされて、微かだが、何かキラリと光るモノが足元に散らばって見える。


「あらー。ここはなんだ?」


ロビンの声が、これまでよりも反響し木霊する。


「明かりを強くしてみよう」


ルディウスは静かにそう言うと光の玉に注入する魔煙量を調整する。


その途端、パッと光の玉が明るくなり、周囲の状況が一変した。


そこは直径50メートル以上はある巨大な大空洞のど真ん中だった。


周囲には大小様々な水晶のような無色透明な結晶石群が乱立し、その先の壁も一面キラキラと輝きを放っている。


セツナたちが来た方向とは反対側に、洞窟のさらに下層へと続く横穴が一つある。


レイダーがおもむろに見上げて言う。


「おわー…壁一面宝石だらけだぜ…見ろよ星空みたいだ」


天井を見上げると、光に照らされて夜空の星のようにキラキラ輝いていた。


地面にも壁から剥がれ落ちた宝石の欠片が散らばっている。


ルディウスが足元の一片の宝石を拾い上げて言う。


「この宝石は全て吸魔石の結晶のようだ」


するとユアラが近くの結晶石に駆け寄る。


「改めてみると綺麗な宝石よね」


ユアラが結晶石を覗き込んだ。


向こうが透けて見えるが、後ろに回り込みながら、見る角度を徐々に変えると、光の屈折で自分たちの虚像が写り込んだ。


「あ、セツナとフィールがいっぱい写って見えるわ。

こっちよフィール!」


結晶石越しに手を振りながらはしゃぐユアラ。


するとセツナが返す。


「こっちからはユアラが複数見えているよ」


名前を呼ばれたフィールは長い舌をペロンと出して眼球をひと舐めすると、ユアラの虚像ではなく、結晶石の陰に隠れたユアラを直視する。


レイダーが、すぐ近くにそそり立った、ひときは大きな結晶石に触れながら聞く。


「でもよ。なんでここは閉坑になったんだろうな。

まだこんなに鉱脈があるってのに…」


すると道中の複雑な坑道にうんざりしていたロビンが皮肉交じりに言う。


「結晶石を求めて後先考えずにぐにゃぐにゃした坑道を掘るような連中だぜ、何かダメな理由でもあったんだろうよ」


その時だった。


ユアラの視界の隅、結晶石を通して何かの影が走った気がした。


「ねえ、今、フィールが走った?」


「ん?いや走ってなんかいないぜ?」とレイダー。


その言葉にその場の空気が一気に張りつめた。


次の瞬間、吸魔石採掘場の静寂を切り裂いて「カカカ!」というゴブリン特有の笑い声が響いた。


「まずい!ゴブリンだ!」とレイダー。


「皆、周囲を警戒!円陣を組め」


ルディウスの号令が響く。


セツナたちは採掘場の中央に寄り、乱立する結晶石から間合いを取ると、互いに背中を向けながら、武器を構えて周囲に目を凝らす。


「くそ。どこにいやがる」ロビンが周囲を見回す。


するとゴブリンの一匹がまるで散歩でもしているかのように、ひょっこりと歩いて姿を現した。


それに気づいてロビンが「そこか!!」と護身用で持っていた投げナイフを投げつける。


ガキャン!!


投げナイフが結晶石に当たり弾かれた!

虚像だ。


「カカカ!」


不気味な笑い声が反響し、どこにいるのかも判らない。


そしてその笑い声に呼応して、別のゴブリンが一匹、また一匹と同じような声を上げだした。


「複数潜んでいるぞ!」とルディウス。


「これじゃまるでカエルの大合唱だな」とレイダー。


その途端、一斉にゴブリンたちが攻撃を開始した。


ゴブリンたちは結晶石の隙間から身を乗り出すと、弓や投擲で一斉に襲い掛かってくる。


飛んできた攻撃を回避しつつルディウスが言う。


「ここに居ては的になる、あのトロッコを盾にする」


セツナたちは各自の武器で攻撃を払い除けながら、走ってトロッコの陰に滑り込んだ。


幸い、トロッコはほぼ三方向をカバーできるように転がっていた。


一番に駆け込んだユアラが、即座に詠唱を開始する。


『爆ぜろ。怒りの炎よ、下劣な彼の四肢すら別て』


ユアラは詠唱終了間際、トロッコの影から半身を乗り出し手をかざし、ゴブリン目掛けて炎の塊を放った。


放たれた炎は結晶石に当たり爆発する。


しかし爆炎はゴブリンに直撃しなかった。


「そんな簡単には当たらないわね!」と悔しそうなユアラ。


するとユアラの足元を霞めてゴブリンの放った矢が地面に突き刺さる。


「どこから!?」


射線を辿ると、結晶石の上に立ったゴブリンから放たれたものだった。


すかさずルディウスが応戦する。


『切り裂け。烈風の刃よ、愚か者を刻め』


しかし最速を誇る風魔法もゴブリンが身を屈めただけで手前の結晶石に当たり砕け散った。


「ここは天然の要塞かよ!」とレイダー。


すると今度はセツナが詠唱を開始する。


「(炸裂系がダメなら拡散系を打ち込んでやる…)」


『放て。灼熱の理をもって、立ちはだかるモノを灰に帰せ』


それはホークウィンドを退けた火炎放射器さながらの魔法だ。


結晶石に向けてかざしたセツナの手のひらから、強烈な炎が吹き上がり、結晶石群に到達する。


結晶石に触れた炎は、石の側面を伝い這いまわると、結晶石の隙間に入り込み、裏に潜んでいたゴブリンに到達し瞬く間に炎が包みこんだ。


「グギャギャ!」


強烈な炎がゴブリンの悲鳴もろとも焼き焦がした。


それを見てユアラが言う。


「やるじゃない!セツナ」


セツナの魔法を見て、ユアラたちも同様の魔法で対抗し始める。


ユアラも詠唱する。


『放て。灼熱の理をもって、立ちはだかるモノを灰に帰せ』


ユアラの放った炎魔法が結晶石裏のゴブリンを捉える。


「効果抜群ね!」


その後も魔法を数発放ち、このまま行けば形勢逆転できると思われたその時だった。


洞窟のさらに下層へと続く横穴から、微かにドンドトト!ドンドトト!とゴブリンたちの突撃太鼓の音が響いてきた。


レイダーが言う。


「いよいよ本隊の登場のようだ」


すると、ロビンがルディウスに言う。


「この音からするとまだ距離はあるようだが…ここで迎え撃つのか?それとも一旦引くか?」


すると急にルディウスが緊張した面持ちでこう言った。


「まて!出入口付近に仕掛けた感知魔法に反応があった…」


一同はその言葉に「え?」となる。


「我々が通ってきた通路を、こちらに向けてゴブリンとオーガ、そして例のヤツが向かってきているようだ」


「ヤツって…ノーフェイス・レイスか!!」とレイダー。


「おいおい。まずいぜ、そりゃ」とロビン。


「私たちの逃げ道を塞がれた?」とユアラ。


「せめてこの結晶石群の場所の安全を確保したいけど…」とセツナ。


すると、傍らのフィールが首を持ち上げて反応した。


フィールはセツナの方をじっと見つめると、次の瞬間トロッコの影から素早く這いずって矢面に出てしまった。


「フィール戻れ!」


セツナが慌てて叫ぶ。


しかしフィールはそのまま結晶石群の中へと姿を消した。


「まずい。これで下手に魔法が撃てなくなった」とセツナが苦い顔をする。


するとフィールが飛び込んだ結晶石群の方から「ギャぁ!!」というゴブリンの悲鳴が聞こえた。


トロッコの影からチラリと見ると、結晶石に写ったフィールの赤い体が至る所に躍っている。


ゴブリンたちは突然のフィール(天敵)の襲来に混乱した。


ゴブリンたちは必死にフィールに向けて攻撃を仕掛けているが、結晶石に移った虚像に惑わされ、一匹、また一匹とフィールのその強力な顎で噛み伏せられてゆく。


しばらく騒々しいゴブリンの悲鳴が響いていたが、数分後にはゴブリンたちの声もしなくなった。


トロッコから外を見ると、何事の無かったかのようにフィールがセツナたちのもとに滑るように戻ってきた。


トロッコまで戻ってきたフィールをセツナが褒めようとした途端、横からユアラが割って入ってフィールに抱き付いて撫でまわした。


「よ~しよし!!フィールあなたよくやったわね!」


フィールがしっぽを嬉しそうにパタパタしているのを見て一同は思った。


「(あ…やっぱりフィールは犬なんだな…)」


ロビンが自分たちが歩いて来た坑道を警戒しながら言う。


「フィールのおかげでこの場所のゴブリンどもは一掃できたようだが、間もなく本隊とノーフェイス・レイスがこっちにくるぜ?」


レイダーも「ここならまだ戦いようがあるが、今までみたいな狭い通路での挟み撃ちはまずいぜ。」と汗を拭った。


するとルディウスが口を開いた。


「ここで迎え撃つ。

進撃速度を考慮するとおそらく、少数のノーフェイス・レイス側が一足早く到達するだろう。

であれば、ノーフェイス・レイスの部隊を素早く叩いて、逃げ道を確保し、地上へ戻ろう。

今は時間が惜しい、配置については、作戦を説明しながらにしよう」


ルディウスがさっそく指示を出す。


「ロビンとレイダーは万が一に備えて、ゴブリンの本隊を、ここ、この狭い出入口手前で迎え撃ってくれ」


「ひえ!マジかよ。隠れて奇襲するんじゃないのかよ?」とレイダー。


するとルディウスが言う。


「この広い場所に本隊を引き入れてしまったら、数で劣る我々があっという間に囲まれて負ける危険がある。

なのでノーフェイス・レイス側を仕留めるまでの時間稼ぎをするだけでいい」


「任せろ!」とロビン。


「問題は、我々の活路と重なる、後方から迫るノーフェイス・レイスたちだが…

ユアラとセツナと私は両脇の結晶石群の陰に隠れて待つ。

我々がさっきまで留まっていたトロッコの手前、最初にゴブリンの集中攻撃を受けた辺りは、射線が通るので、あの位置まで奴らが侵入したら、私の合図で一斉に魔法で両側から畳みかけてくれ」


「わかったわ!」とユアラ。


ルディウスが申し訳なさそうに言う。


「だいぶ強引で無茶な作戦ではあるが、今はこれがベストな案だ。

確認しておくが、この作戦の趣旨は本隊の殲滅ではない。

あくまで地上に戻るための活路を切り開く事だ。

ノーフェイス・レイスの殲滅ができずとも、弱らせられれば、地上への帰り道を確保できるだろう」


するとロビンが手をみんなの前に突き出して言う。


「おうよ!じゃ!いっちょコレやっとこうぜ!」


レイダーが聞く。


「なんだよこれ?」


するとルディウスが補足する。


「ロビン曰く、みんなで力を合わせる時のゲン担ぎだそうだ。

すまんがみんな付き合ってやってくれ」


それは試合前に円陣を組んでする掛け声と同じだった。


ロビンが片手を皆の前にかざして大声で言う。


「片手を俺の手の上に重ねてくれ。

準備はいいか?

俺に続いてオー!と叫べよ!

じゃ、やるぞ!

ぜってえ生き残るぞ!オー!!!」


「…」「おー!」「おぅ…」


「みんな遅い!声が小さい!

なーに恥ずかしがってんだセツナ!

ほれ!もう一度いくぞ!!俺の後に続いてオー!だぞいいか?いくぞ!」


ロビンが改めてコールする。


「絶対生き残るぞ!!オー!!」


『オー!!!!』


みんなの声が重なり、結晶石すら共鳴するほどの声が洞窟内に響き渡った。


配置についたセツナは短槍を握りしめると、傍らのフィールに視線を落とす。


フィールもセツナを見て長い舌をペロリと出し入れしている。


「(生き残る…か…)」


セツナはフィールをなでる。


するとセツナの耳もとでルディウスの声が響いた。


「皆、私の声は聞こえているな?」


それはルディウスが詠唱した伝達魔法(相互通信)の効果だ。


「ああ、こっちはしっかり聞こえてるぜ」とロビンとレイダー。


「大丈夫よ」とユアラ。


「こっちも大丈夫」とセツナ。


「足音が近づいてきたようだ。

臨戦態勢」


ルディウスの言葉のとおり、間もなく4匹のゴブリンが、セツナたちが通り抜けてきた通路側から走って現れ、結晶石の乱立する採石場に駆け込んできた。


そのゴブリンは斥候のようで、周囲を確認するように見回すと、トロッコのさらに先、下層へ繋がる横穴の手前にレイダーとロビンが立っているのを確認して、指をさしながら「キキっ!」と声をあげる。


すると、その後からゆっくりとオーガが3体その重そうな体を震わせて採石場に入場してくる。


しかし肝心のノーフェイス・レイスの姿がそこにはなかった。


ルディウスが言う。


「ヤツはどこだ?」


すると先行していたゴブリン4匹がレイダー目掛けて駆け出した。


「ルディウス。攻撃するのか?」とセツナ。


「いや。まだだ。ヤツの姿がない…」


ゴブリンたちが作戦開始範囲の中央を通過したが、ルディウスからの総攻撃の指示は出ない。


するとロビンがレイダーに声をかける。


「おい。俺は本隊側を警戒する。背中は預けるぞ」


するとレイダーが小鼻をチョイと親指ですすり上げる。


「へへ。見せ場を作ってくれたってところか?」


レイダーは低い姿勢でショートソードを構えると、トロッコを飛び越えてさらに突っ込んでくるゴブリンたちとの間合いを見極める。


ゴブリンがレイダーの間合いに入った途端、レイダーの眼光が光り、その身が躍動する。


レイダーはタンっ!!と一気に地面を蹴りだすと、ゴブリンとの間合いを詰め、進路上のゴブリン3匹にヒュン!ピュっ!キュン!という乾いた風の音を響かせながら、流れる水のように刃を振り抜いてゆく。


3匹はレイダーの動きに全く反応できず、切られた箇所を腕で抑えると、次の瞬間、真っ二つになりながら地面に突っ伏し息絶えた。


レイダーは冷静にさらに残った1匹に向けて投げナイフを放つ。


それはロビンから貸してもらった投げナイフだった。


「ギャン!!」


投げナイフが頭に刺さってゴブリンが地面に倒れ伏す。


「いっちょ上がり!」


レイダーは余裕のようだ。


しかしその背後からオーガ3体が迫ってきた。


ほぼそれと同時にロビンからの声が響く。


「本隊が上がって来やがったぞ!レイダー戻れ!」


するとルディウスが言う。


「止むを得ない。一斉攻撃開始!」


その号令と同時にセツナとユアラ、ルディウスがオーガに向けて魔法を放った。


セツナとユアラが詠唱する。


『爆ぜろ。怒りの炎よ、下劣な彼の四肢すら別て』


ルディウスも2人と同じタイミングで詠唱した。


『切り裂け。烈風の刃よ、愚か者を刻め』


オーガ3体は3方向からの突然の魔法攻撃に混乱しだす。


「オオオ!!」


オーガの一匹がユアラの爆炎攻撃を腕に受けて片腕が再起不能となったが、それでもオーガは、そのぶらつく片腕すら武器のように振り回すと、ユアラに向けて振り下ろす。


しかしその攻撃は結晶石に当たるとユアラごとパリン!と砕け散る。


虚像が映り込んだ硬い結晶石を打ち叩いたオーガの腕にさらにダメージが入り「オオオ!」と雄たけびがあがる。


「残念でした!」とユアラ。


一方ルディウスの放った空魔法によって、オーガの一体は足に傷を負い行動不能に陥っている。


残りの一体はセツナの放った爆炎魔法によって、あっと言う間に全身に火が回り、太い二の腕を振り回しながら、もがいて暴れていたが、ついには膝をついて倒れ伏した。


ユアラは結晶石を叩いて大きくのけぞったオーガの心臓を狙って追撃の詠唱をする。


『貫け。執心なる炎よ、愚者を穿つ鉾となれ』


ユアラの手先から炎の塊が鉾となってオーガの分厚い胸板をスピュン!!と貫いた。


ルディウスによって動きを封じられたオーガに向けて追い打ちをかける。


『押し潰せ。雄々しき大地よ、閉じて愚者の墓標となれ』


オーガを囲むように両脇から急速に地面が隆起すると次の瞬間、ズドン!!という爆音と共に、オーガを左右から挟み込んで押しつぶした。


そのころ、洞窟のさらに下層へと続く横穴の狭い出入り口付近で本隊を押しとどめているロビンとレイダーの前にこれまで倒してきたモノとは違うゴブリンたちが立ちはだかっていた。


「赤い…ゴブリン?」


ロビンが盾越しから赤いゴブリンを観察する。


すると赤いゴブリンが詠唱を始めた。


それを見てレイダーが叫ぶ。


「まずい!ブラッディ・ゴブリンだ!」


その言葉に即座に反応したロビンが、素早く投げナイフを詠唱しているブラッディ・ゴブリンに向けて放つ。


「ギャン!」


ナイフが詠唱中のブラッディ・ゴブリンに突き刺さり中断された。


しかしその後ろに控えているブラッディ・ゴブリン1体がさらに詠唱を開始する。


ロビンが慌てて詠唱する。


『引き倒せ。怒れる大地よ、愚者を赤き地に沈めよ』


ロビンの詠唱が終わると同時に向こうも詠唱し終える。


ロビンの盾と、盾の外に出ていた腕や足に風による切り傷が深々と入った。


「くそ。このやろう!」


一方、ロビンの放った地属性魔法も効果を発揮し、地面から赤く湧き出た溶岩が噴出する。


湧き出た溶岩は突撃してきた先頭の数匹と詠唱していた1匹の足元をドプンと飲み込むと、足元から燃やしだした。


「グギャギャギャ!!!」


地面が溶岩となった事でブラッディ・ゴブリンの進撃が止まる。


「ロビンが負傷した!」とレイダー。


レイダーは足を負傷し動けなくなったロビンを引っ張ると、ブラッディ・ゴブリンの視界の外の、横穴脇まで肩を貸して背負って戻る。


その知らせを受け、ルディウスが結晶石の間から姿を現した。


「回復させる。レイダーは横穴から飛び出した相手のみを切りつけてくれ!」


ロビンの負傷を聞き、ユアラとセツナも駆けつける。


セツナは駆け付けると同時に、本隊が突入して来る横穴に向けてノールックで魔法を放つ。


『放て。灼熱の理をもって、立ちはだかるモノを灰に帰せ』


セツナの放った火炎放射は、横穴の出入り口付近まで、側面の壁を伝って近寄って来ていたブラッディ・ゴブリンたちを次々と溶岩の中に転がり落とす。


ルディウスがロビンに手をかざして詠唱をする。


『癒せ。慈愛の原初よ、傷を塞ぎたまえ』


しかしロビンの傷は思いのほか深く、一回の詠唱では完全にふさぐ事はできそうになかった。


「私も手伝います!」


ユアラが回復に加勢する。


ルディウスが再度詠唱しようとした時だった。


フィールが採石場の中央に向けて「グロロ…」と鳴いた。


そしてセツナの耳に少年の声が響いた。


「…これは僕の…意……」


セツナが叫んだ。


「ノーフェイス・レイスが来ます!!」


「こんな時にか!」とレイダー。


採石場の中央、何もなかった空間がゆっくりと歪み始めた。


黒い魔煙が収束しだし、ノーフェイス・レイスが姿を現した。


するとロビンがすかさずノーフェイス・レイス目掛けて詠唱する。


『噛み砕け…大地の牙よ…愚鈍なる敵に更なる枷を』


ロビンは痛みに耐えながら、足手まといにはなるまいと、魔法を放った。


しかしその攻撃程度では怯まない。


セツナも魔法を撃とうと手をかざしたが、ノーフェイス・レイスと視線が重なった。


そしてノーフェイス・レイスがはっきりとセツナにこう言った。


「君も一緒なの?」


「えっ…」


その言葉に手をかざしたまま立ち尽くすセツナ。


するとノーフェイス・レイスがセツナの突き出した手にそっと触れた。


ユアラがその様子を見て悲鳴にも似た声を発した。


「セツナ!離れて!!」


ノーフェイス・レイスに触れられた瞬間、セツナは堪えきれない眩しさを感じると同時に、意識が飛びそうになり、グラッとめまいに襲われるのだった。

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