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第九話:フォーグマ洞窟の死闘 後編

【第九話:フォーグマ洞窟の死闘 後編】

地球 どこかのマンションの外階段

 ノーフェイス・レイスに触れられたセツナは、

突然場面が地球のありふれた風景に切り替わったので混乱していた。


「(この状態はなんだ…)」


セツナの意志に関係なく視線があちこちにブレる。


まるで他人が操作しているFPSの画面を見ている気分になる。


「はあ!はあ!」


息を切らせながら夕方の薄暗いマンションの階段を駆け上ってゆく。


「(…何を見せられている?…)」とセツナ。


すると階段を駆け上っている人の声が頭の中に響く。


「馬鹿にしやがって!」


「(なんの事だ?)」


「どうせお前には出来ないんだろ?じゃない!僕にだってできるよ!」


マンションの外階段の外灯が灯り始め、階段を上る人の影が映り込む。


どうやら背が低い、小学生くらいの少年だろうか。


必死に走る少年の右手にはスマホが握られている。


少年がスマホのコメントに視線を送る。


そこにはこう書かれていた。


「死ねよ」


他にも複数のアカウントからこの少年に向けて辛辣な言葉がつづられている。


視界が歪む。少年は泣いているのだ。


セツナはそれを見て、いや見ざるを得ない状況に、嫌でも自分と境遇が重なり、心が張り裂けそうになる。


「(これは現実なのか?)」


すると少年がセツナの心の声に反応する。


「こんな辛い現実あってたまるか!」


「(そうだよな…現実であるはずがない)」


「でも。

だから終わらせるんだ!」


少年はそう言うと屋上へと向かう最後の階段を駆け上る。


屋上からは町の片隅に沈みかけた赤い夕焼けが視界いっぱいに広がっている。


そこでセツナは胸騒ぎを感じた。


「(これって…まさか)」


少年はスマホを操作して音声を繋げる。


するとスマホの向こうから複数の男の子の声が聞こえてきた。


「よう。準備できたのか?」


「い…今。屋上に来たさ!」


「は?こっからは見えねぇよ。ボケ!」


すると少年は屋上の縁に歩み寄り、下を覗き込む。


おそらく10階以上あるだろうか。


少年は心の中でこう叫んでいる。


「(怖いよ…怖いよ。誰か助けに来てよ!)」


しかしスマホからは「お、やっと見えたぞ!意気地なし野郎」と言葉が投げかけられる。


「(やめろ!)」セツナが叫ぶ。


しかしセツナの言葉はスマホの向こうの少年たちには届いていないようだ。


スマホからは少年に追い打ちをかけるように言葉は発せられる。


「お前が嘘ついてないか確認してやるよ」


「もし嘘だったら、明日、学校に来てもお前の席無いから。そのつもりで…」


「お前なんかこの世界に必要ないんだよ」


すると少年が振るえた声で強気にこう返す。


「判ってるよ!そんなにお望みなら死んでやるよ!!」


セツナは叫ぶ。


「(誰でもいい。この子を今すぐ止めてくれ!行くな!と誰か声をかけてくれ!!)」


しかしその願いはスマホからの言葉に打ち消される。


「はやくしろよ!嘘つき野郎!」


「どうせバズりたいだけなんだろ?ハハハ!」


少年がゆっくり前脚を屋上の端の外に投げ出す。


セツナは叫んだ


「(やめろ!!今ならまだ間に合う!俺が何とかしてやる!!今は頼むから逃げろ!逃げてくれ!)」


すると少年がセツナの言葉に反応した。


「逃げられないよ…

逃げたらまた“嘘つき”って言われちゃう。

僕は…弱虫じゃない!!」


セツナは必死に説得しようとする。


「(これで死んだら奴らの思うつぼだろ!それで良いのかよ!)」


スマホからは「早くしろ!早くしろ!」とコールが上がり始めた。


「うるさい!(怖くなんかないぞ…今なら僕は飛ばなくて済む…やめろ!って誰かあいつらに言って…)」


「見せてやるよ…最期の意地だ。」


「(ダメだ!!!)」


次の瞬間、マンションの縁から少年の体が滑り落ちる。


必死に叫んだセツナの体にドン!という衝撃が走る。


それと同時に、セツナは一瞬にして別次元の白い世界に放り出された。


何もない白い場所で膝をつき、そのままうずくまるセツナ。


「なんで…どうして誰も助けようとしない…」


セツナは目を閉じ、涙を流す。


悔しくて悔しくて仕方がない。


「誰でも良かったんだ…

一言…彼に優しい言葉をかけてくれさえすれば、踏みとどまれた…」


セツナは両手を地面に向けて力一杯ふり降ろした。


しかし何の音も返ってこない。


当たった感触はあるが痛みもない。


セツナはこれまで見せられていた風景の正体に気づいた。


「(ああ…これはノーフェイス・レイスの、地球で生きていた少年の最期の瞬間を見ていたのだ)」


するとセツナの心の奥底から男性の声が響く。


「(セツナ。立ち上がれ)」


「誰?」


「(立ち上がって、少年を救え)」


「救えって…もう少年は死んでしまった…」


「(いや。まだ少年の心は生きている)」


「生きている?」


セツナはその言葉に溢れる涙を裾で拭って改めて周囲を見回す。


真っ白だ…どこもかしこも真っ白だ。


「(これはユアラに初めて会ったあの回廊か?)」


するとどこからかあの少年のすすり泣く声が聞こえた。


「どこにいる?」


セツナは辺りを見回すが何も見えない。


「(私が道を示そう…セツナ…歩け。歩くのだ…)」


セツナはその声に促されるまま、何の目印もない白い空間を歩き出す。


しかし歩けども、何も見えてこない。


「(歩け。歩き続けろセツナ)」


誰だか判らない男性の声に促され、セツナは歩き続ける。


すると遠くに人影が見えた、一人は大人、もう一人は子供だ。


「あ!あの子だ!」


セツナは直観でそう思った。


セツナは少年のもとに駆け寄る。


近づくと2人いたと思った場所には子供の姿しかなかった。


やはりあの少年だ。


しかしその少年の顔には靄がかかり輪郭がはっきりしていない。


その少年は白い空間に部分的に存在しているマンションの縁に腰を据えて、両足を抱え込んで泣いている。


セツナが声をかける。


「ねえ。君。ここで何しているの?」


すると少年は顔を伏せたまま唐突にこう話した。


「僕は嘘つきなんかじゃない…」


セツナは優しく言う。


「そうだね…」


「でも、あいつらは僕を“嘘つき”だって言って、クラスの僕が好きだった子にも言いふらしたんだ」


「…それはひどいな」


セツナはそう言うと同時に、自分のクラスでの扱いと重なり落ち込んだ。


セツナはうずくまる少年の隣に同じ姿勢で座り込んだ。


少年が言う。


「だから僕は怒って、あいつらを殴ってやった…」


「すごいじゃないか!とても僕にはできないよ」とセツナ。


「…でも。負けちゃった。」


少年が悲しむ様子を見てセツナが言う。


「君は勇敢だったと思うよ。

強敵に立ち向かうなんて誰でも出来る事なんかじゃない。

君は自信をもっていい」


すると少年が強い口調で言い放った。


「ダメなんだ!!勝たないとダメだったんだ!!」


少年の言葉に、セツナはドキッとした。


「(そうだ。勝てないともっとつけ上がる…イジメが酷くなる)」


セツナは言う。


「…勝てなかったから、あんな事をしたの?」


「本当はしたくなかった…」と少年。


「逃げるって選択肢は無かった?」とセツナ。


すると少年はまた号泣しだす。


「逃げたかった…でもあいつら逃げても、逃げても追いかけてくるんだ」


「(ああ、同じだ…どんなにこっちが目立たないように振る舞っても、イジメっ子は難癖つけて突っかかる)」


少年がセツナに聞く。


「僕は…どうしたら良かったのかな…」


セツナはこれに対して、自分自身も答えを持ち合わせてはいなかった。


自分の問題ですら解決できていなかったからだ。


その時ロビンの言葉が頭をよぎった。


「…ある人が僕にこう言ったんだ。

自分が後悔しない選択をしろ。それが一般的に間違いであっても正解だ!って。」


すると少年はこうつぶやく。


「なら…僕の選択はきっと間違いだった…

今は母さんが恋しいんだ…こんな気持ちになるのなら、あんな事しなけりゃ良かった」


セツナにはその言葉が痛いほど判った。


「(どうすればこの子を慰められるだろう…どんな言葉をかければよいだろう)」


セツナがそう思った時、少年が「ウぅ…うわ…」と苦しみだした。


「まただ…なんで?…なんで皆、僕を寄って集ってイジメるんだ…」


その言葉にセツナはハッとする。


魔法だ…おそらくユアラ達がノーフェイス・レイスに向けて魔法を撃って戦っているのだ。


するとセツナの心にあの男性の声が響く。


「(救え。少年の心が消失する前に…)」


「でもどうやって!!」セツナが叫ぶ。


「(君ならわかるはずだ…今の君なら…)」


セツナは戸惑いながらどう声を掛けようかと考えた。


しかしどんな言葉も少年を傷つけるだけだと思った。


「(かける言葉が…見つからない…)」


セツナがそう思った時だった。


不意に自分が泣いていた時、ユアラが自分を抱きしめて、背中をさすってくれたことを思い出した。


セツナは居ても立っても居られず、少年の背中に手を回すとそっと撫でた。


そして背中を摩った時、セツナの口をついて言葉がほとばしる。


「今までよく頑張ったね。ほんと偉いよ。

後悔も多いだろう、失敗したかもしれない。

でも、まだこうして君は生きている。

僕がこうして君に触れているという事は、君はまだやり直せる」


すると少年が言う。


「怖いんだ!ここはどんなに踏みしめても音がしないんだ。

歩いている感覚がないんだ。」


「大丈夫。見て。君の足はちゃんとある。立てるよ」


セツナはゆっくりと少年の背中を支えながらその場に立たせてみる。


「ほら。立てた。」


すると少年が泣きながら言う。


「でもどこに向かって歩けばいいのか判らないんだ!」


そこでセツナもスクっと立ち上がると、少年の手を握って言った。


「なら一緒に歩こう。君は一人じゃない。大丈夫僕がついている」


セツナは内心随分と無責任な事を少年に言ってしまったと後悔した。


すると男性の声がセツナの心に響いた。


「(大丈夫だ…セツナ。私が君たちを導こう…)」


セツナは少年の手を取ると、歩き出した。


しばらく歩くと、足音が響いてきた。


「(そうだった。ユアラに手を引かれて歩いた時も同じだったな…)」


手を引く傍らの少年に視線を向けるセツナ。


するとその少年は幼稚園児くらいの身長になっていた。


「(えっ…どうして?)」


セツナは動揺したが、その少年は歩みを止めない。


しばらく歩くと少年は乳幼児になっており、ハイハイしている。


それを見て、セツナは人生初めての抱っこをしてみる。


不器用に抱きかかえると、ほんのりと温かい。


「(ああ…この子はこうして生きているんだな…)」


そう思って視線を前に向けると、七色の光の帯が伸びていた。


「(そうだった。これに包まれてエヴァージェントに入ったんだったな…)」


すると腕に抱いた赤ちゃんが七色の帯の一つを掴んだ。


その瞬間!帯が急速に縮んで赤ちゃんごと光の中へと吸い込まれてゆく。


セツナの腕から少年が離れる瞬間に、セツナが叫んだ。


「生きろ!!」


するとセツナの心の声がこう言った。


「(ありがとうセツナ。これで俺は“ナッセ”として生き続けられる)」


「なにを…」


「(戻ったらユアラに伝えてくれ。“カタチは違ってもずっと君を愛している”と。

そうだ一つ良い事を教えておこう。

ユアラは誕生日にクオンディ・パンケーキを食べるのが決まり事なんだ)」


「まってくれ!ナッセ!!」


「(またな。セツナ…)」


するとセツナの視界がまた眩しくなる。


「うっ!」


セツナは余りの眩しさに目を閉じた。



フォーグマ洞窟内 鉱脈採石場

 しばらくしてセツナが目を開けると、地面を揺らす地響きと。騒がしい戦闘の喧騒が耳に聞こえてきた。


ユアラが詠唱している。


『放て。灼熱の理をもって、立ちはだかるモノを灰に帰せ』


霞んだ目で、魔法が炸裂した方を見ると洞窟の下層へ続く横穴から数匹のブラッディ・ゴブリンが這い出てきていた。


先ほど撃ったユアラの魔法が辛うじて間に合い、出入口からの更なる前進を食い止めている。


セツナは地面に寝ており、ユアラが片腕でセツナを抱きかかえている状態だった。


「ユアラ…」


セツナの言葉にユアラはハッとこちらを見る。


「気が付いたのね!」


ユアラの涙がセツナの顔に零れ落ちる。


セツナはスクっと身を起こすと周囲を見回す。


レイダーは詠唱しようとするブラッディ・ゴブリンを優先して切掛っているようだ。


ロビンは盾を握って構えているが微かに震えている。


おそらく立っているのがやっとだろう。


ロビンの後ろではルディウスが詠唱で回復をしているが、完全回復まではまだ時間が必要そうだ。


「(何とかせねば…)」


セツナがそう思った時だった。


白い回廊で聞いた、男性の声が心に響く。


「(合唱魔法だセツナ)」


セツナがおもむろに言う。


「合唱魔法…」


するとユアラが「え?」っとなる。


セツナがもう一度言う。


「ユアラ合唱魔法を使うぞ」


ユアラは何が起きたのか判らなかった。


しかし合唱魔法には覚えがあった。


ナッセと一緒によく練習した魔法だ。


詠唱者複数で、同時に詠唱する事で、威力や性能を増大させて打ち出す特殊な魔法だ。


「いけるの?」とユアラ。


「任せろ!俺を誰だと思っている」


セツナの口から思いもよらぬ言葉がついて出る。


しかし、セツナのその反応はユアラにとって懐かしいナッセの反応だった。


二人は示し合わせたように背中合わせに立つと、

互いの腕を重ね合わせ、敵に向けてかざす。


セツナの体は自然と動いていた。


そして一呼吸おくと、同時に詠唱しだす。


『踊り狂え。烈風の刃よ、貪欲なる炎よ、愚か者を刻み、彼の髄まですすり燃やし清めよ』


詠唱した瞬間、二人の手のひらから無数の白い光の刃が、ブラッディ・ゴブリンに向かって飛翔した。


炎を纏い白い光と化した風の刃は、まるで意志を持つかのように躍動すると、出入口付近まで来ていたブラッディ・ゴブリン三匹をシュパパン!!と瞬く間に真っ二つにして次の瞬間には火柱に変えていた。


光の刃は動きを止めることなく、さらに通路の奥へと飛び込むと、通路にそって素早く曲がり、そこにいたブラッディ・ゴブリンたちを次々と薙ぎ払っては火柱に変えてゆく。


本隊の最後尾には突撃太鼓を叩くブラッディ・ゴブリンと、全軍に指示を出していたブラッディ・ゴブリン・ロードが立っていた。


ブラッディ・ゴブリン・ロードは正面からブラッディ・ゴブリンたちを薙ぎ払いながら迫ってくる光の刃に気づき、慌てて持ていた盾で防御姿勢を取る。


しかし光の刃はその盾ごとブラッディ・ゴブリン・ロードを容易く真っ二つにした。


光の刃は中空でクルクルと舞っていたが、敵の気配が消失すると同時に光の粒子となって大気に溶けるように散った。


光の刃の通過した跡には無数の火柱が上がり、まるで灯篭のように通路を照らしている。


ブラッディ・ゴブリンの本隊はセツナとユアラの放った合唱魔法の前に全滅した。


 これまでの激闘が嘘のように、シーンと静まり返る採石場内。


それまでずっと鳴り響いていた突撃太鼓の音も消えている。


ロビンが傷の痛みに耐えながら言う。


「やった…のか?」


するとルディウスが耳を澄ました後、こう言う。


「音が止んだ。

どうやら凌いだようだ」


セツナとユアラは合唱魔法の姿勢を維持したまま、肩を揺らして息をしている。


それを見てレイダーが二人に駆け寄り、二人纏めて抱き着く。


「凄かったぞ今の!!あんな魔法使えるなら早く言ってくれよな~」


するとユアラが急に涙を流してこう言った。


「…ナッセだった」


「えっ?誰だって?」レイダーが聞く。


するとユアラはセツナの方に向き直ると言う。


「セツナ…あなたナッセと同じだったわ」


するとセツナもユアラの方を向いて言う。


「僕の中にいるナッセが教えてくれたんだと思う…」


レイダーは二人の世界に入るとまずいと思ったのだろう。

静かに腕をほどいて二人の様子を見守る。


セツナが言う。


「ノーフェイス・レイスに触れたあと、僕はユアラと初めて会った、あの真っ白い回廊の中にいたんだ。

そこでノーフェイス・レイスの真の姿の少年と会話していた」


するとロビンが空気を詠まずに話に割って入る。


「おうよ!ノーフェイス・レイスに触るなりセツナが倒れたんで、こっちは魔法で応戦したりして大変だったぜ!でもしばらくすると消失したけどな!ハハハ!いてて…」


「ロビン。少し安静にしてくれ」とルディウス。


ユアラが涙をながしながらセツナに聞く。


「それで…」


「そこで僕はその少年と共に誰かの声に導かれたんだ。

その声が言ったんだ“これで俺はナッセとして生き続けられる”って…

だからきっとナッセは今、僕の中にいるのだと思う」


ユアラはその言葉で全てを悟ったようだった。


涙ぐみながら何度もうんうんと頷く。


セツナが思い出して言う。


「そうだ。ナッセが言っていたんだけど…」


そこまで言いかけてセツナは少しはにかんだ。


「なに?」とユアラ。


するとセツナは一呼吸入れてからユアラの瞳を真っすぐ見て、ナッセと同じ声のトーンでこう言った。


「カタチは違ってもずっと君を愛している…」


その言葉にユアラは思わず抱きしめると、勢いそのままにセツナの唇を奪った。


間近で見ていたレイダーが気まずそうに「あちゃ~」と目を背ける。


ロビンもルディウスもその情景に唖然とした。


セツナが戸惑いながら言う。


「ユアラ。これは…その…」


するとユアラが言った。


「セツナもナッセも、私には同じ大事な人なのよ」


ユアラの言葉に、セツナはほほ笑みながらこう返した。


「ありがとうユアラ。僕(俺)も大切に想っているよ」


すると流石に堪えきれなくなったロビンが口を開く。


「かー!!!そういうのは人前ですんな!

見ているこっちが恥ずかしくなるぜ」


するとルディウスがわざと咳込んでから言う。


「お取込み中にすまんが、これ以上進む事はできない。

一旦街に帰って報告しようと思うが、いいかな?」


セツナとユアラはルディウスにそう言われて、そこで初めてお互いに抱きしめ合っている事に気づいた。


「あ!」「いや!」


二人はほぼ同時にパッと距離を取る。


「ど…どうぞ」とセツナとユアラ。


この後、街までの帰り道で、ロビンやレイダーから何度となく、からかわれたのは想像に難くない。



大都市 人族領内 クレス・ヴェイガルド お食事処ミナキ亭内

 ギルド長エルヴィンにフォーグマ洞窟の探索依頼の報告をしたセツナたちは、ミナキ亭で祝勝会を開いていた。


一同を代表してルディウスが第一声をあげる。


「では…今回の依頼は実に困難だっ…」


するとロビンが慌てて口を挟む。


「ルディウス。その話…長くなりそうか?」


するとルディウスが一つ咳ばらいをして言葉を変える。


「全員でこうして生きて集えた事を喜びつつ…イヤサカ!!」


『イヤサカ!!』


一同はそう言うと飲み物をぶつけ合った。


テーブルには焼き物に揚げ物、サラダにフルーツなど、ありとあらゆる料理が並んでいる。


「これよ!これが食べたかったのよ~」


ユアラが皿に盛られたシシ豚の串焼きを両手で掴むと、手元の皿に移す間もなく口へと運ぶ。


「ん~うまい!!」


その隣ではセツナがどれから手をつけようかと迷っている。


それを見てレイダーがニヤニヤしながら「コレ食ってみろよ」とセツナに青々したフルーツを手渡す。


「これは?」


「ま、そのままガブっと…」


セツナは嫌な予感がしつつも、言われるがままそれを丸かじりした次の瞬間


「ん゛!!!!」


口の中一杯に檸檬の酸味が広がった。


一瞬にしてよだれが出て、口が半開きになるセツナ。


「ワハハハ!引っかかった」とレイダー。


するとロビンがセツナに飲み物を差し出す。


「仕方ねえ…これで口をゆすげ…」


言われるがまま差し出された飲み物を口に運ぶ。


「ブっ!!!」


今度は強烈な苦さが口を襲う。


思わず自分の飲み物をがぶ飲みして、二人を睨むセツナ。


「ブハハハ!セツナそんな怖い顔すんな。悪かったよ」


そう言いつつもレイダーとロビンは腹を抱えて笑っている。


するとルディウスが二人を諫める。


「大人げないぞ二人とも。

すまない。中身は子供のままなのだ。許してやってくれ」


「い゛…いいです…でも何か口直しを…」とセツナ。


するとルディウスが、自分が飲もうとしていたジュースをセツナに渡した。


それは、以前にユアラと来た時、飲みたかったルーティ・パパイヤのジュースだ。


一口飲んでセツナの表情が途端に明るくなる。


思わず「おいしい…これ」と心の声が漏れる。


するとユアラがそれを見て言う。


「でしょ?…ってあ!それこの前“いらない!”って意地張ってたヤツじゃない。

セツナはやっぱ子供なのねぇ~」


「ち、違うよこれはその…ルディウスがぁ…」


ルディウスが二人のそのやり取りに思わず吹き出す。


「ぶっ!フハハハ!」


「…なんだよ」とセツナ。


「いや。すまん。

どんなに苛烈な戦闘を経験しても、セツナは歳相応なんだと…」


その言葉に気まずそうに「なんだよ二人して。悪かったな子供っぽくて…」と返すセツナ。


「いや。馬鹿にして笑ったわけでない。

セツナの自然な反応に安心したのだ。

セツナにとっては、今回の探索は心身共に厳しい闘いだっただろうと思って心配していた。

しかしその心配は無用だったようだな。」


セツナはルディウスが“ありのままの自分”を受け入れてくれたようで嬉しかった。


「そっか…ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよルディウス。」とセツナは返した。


確かにこの世界に来て、地球では経験できない事を色々してきた。


正直、ノーフェイス・レイスの深層に触れた時は、イジメを追体験してしまいキツつかった。


セツナはルーティ・パパイヤのジュースを一飲みすると、フーっと息をはく。


「(結局、僕はあの少年を助けられていたのかな…)」


すると心の声がする


「(大丈夫だ。救われたよ)」


「(そうか)」


セツナはその心の声になぜか納得できた。


するとロビンが少し言いづらそうに、こう切り出す。


「あ、あー…セツナ。

ふざけっちゃいるが、俺たちは別にセツナを子供扱いしてはいねぇぜ。

何より今回はセツナとユアラに助けられた。

二人とも、ありがとうよ!」


レイダーも言う。


「ほんとあの合唱魔法には驚いたぜ。いつ練習していたんだ?」


するとユアラが言う。


「あれはねぇ…ないしょ!」


ユアラははにかみながらセツナにウィンクしてみせる。


そしてセツナの皿に肉料理を盛り始めると言う。


「それより早く食べましょ。せっかくの料理が冷めちゃうわよ!」


するとレイダーが慌てる。


「やばい。ユアラもうこんなに食べてる!」


その風景をセツナは嬉しそうに眺めるのだった。

フォーグマ洞窟死闘編はこれで完結です。

次は孤独屋敷編(仮タイトル)を出筆予定です。

乞うご期待。

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