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第六話:フォーグマ洞窟の死闘 前編

【第六話:フォーグマ洞窟の死闘 前編】

大都市 クレス・ヴェイガルドの北方 アルラン平原

 翌朝、吸魔石にある程度魔煙を貯め、セツナたちはルディウスたちと合流した。


フォーグマ洞窟へは広いアルラン草原を抜けた森の先、エルバレス山の麓にある。


向かう道中、草原で危険度Eクラスのボボイノシシの群れを見つけた。


黒い剛毛に覆われたその巨体は人の腰ほどの高さがあり、口元から左右に2本づつ飛び出た牙は鋭い。


セツナが言う。


「ユアラ…」


「なに?」


「できればあの野獣たちを狩っておきたいんだけどいいかな?

フィールの食事を今のうちに確保したいんだ。」


「あ、そうよね。昨日あげた肉の量じゃたりないものね」


するとユアラがパーティーの先頭を歩くルディウスに言う。


「ルディウス。フィールのために、そこにいるボボイノシシを狩りたいんだけど付き合ってもらえる?」


するとルディウスが振り返る。


「ふむ…確かに。

まだ日程にも余裕がある。そうしよう」


するとレイダーがショートソードを引き抜きながら


「よし。なら一度、連携確認のためにも、狩りをしていこうぜ。」と気合を入れた。


「おうよ。考えてみりゃ俺たちは昨日まで別パーティーだったかんな、洞窟を想定した訓練をちょいとしていこうぜ」とロビン。


「では洞窟を想定し、隊列は縦隊にしよう。」


ルディウスがみんなに指示を出す。


「先頭は俺だな」とすかさずロビンが言う。


ロビンの手にはグラディウスと盾が握られていた。


するとレイダーが負けじとショートソードをヒュム!と一振りし


「なら俺がロビンさんの後方援護役だ」と後につく。


「ふむ悪くない。洞窟では基本一本道だ、ロビンにはすまんが、盾役をしてもりたい」とルディウス。


「任せろ!」


「とはいえ、魔煙除去も必要となると、私は三番手が良いだろうな」


そう言うとルディウスがレイダーの後についた。


ルディウスの手にはウォーハンマーが握られている。


「そうなんだ…なら私は後方支援でいいかしら?」


ユアラは自前のグラディウスを持ってその後ろにつく。


そして最後尾にはセツナだ。


「なら俺は最後尾でユアラと一緒に支援に回るよ」


そう言いながら、ユアラに今朝手渡されたメイスを構える。


「では諸君。本番さながらで狩るとしようか。

洞窟内だ、横移動はせいぜい出来ても2歩くらいだと想定し、各自対応するように」


ルディウスのその言葉を合図に、一列で手前にたたずむ一匹のボボイノシシの間合いに入った。


間合いに入るな否や、警戒していたボボイノシシがこちらに突進してくる。


「来るぞ。」


ロビンが盾を構える。


構えるとほぼ同時にボボイノシシの強烈な突進の衝撃が盾を微かに揺らした。


ロビンの立ち振る舞いは流石Aクラスといったところか。


盾で弾き突進の軌道をグラディウスを握った右手側へと受け流す。


するとすかさず盾の影からボボイノシシの心臓目掛けてグラディウスを突き刺した。


「ヴギャギャ」と短く嘶いてボボイノシシが地面に倒れた。


するとレイダーが思わずつっこむ。


「おいおい。それじゃ訓練にならないじゃないか」


「あ…ワリい。つい反射的に…」と気まずそうにするロビン。


するとルディウスが笑いながら言う。


「ハハハ。すまんみんな。

これまで私の唯一の前衛がロビンだったのだ。許してやってくれ」


すると盾と剣を自在に操る動きを目の当りにしたセツナが思わず言う。


「かっこいい…ロビンさん!今のめっちゃカッコよかったです」


セツナの言葉に気を良くしたのか、ロビンは


「だろ!解ってるじゃねぇか!セツナ!」


と言いながらグラディウスをヒュンっと振り回して軽い演舞を披露する。


そのやり取りを見ていたユアラが「これだから男は…」と呆れた。


その後、何度かボボイノシシを狩った。


ロビンが盾で受け流してすぐ後方に控えたレイダーでトドメを刺す展開や、ロビンの脇をすり抜けたボボイノシシを、レイダーが華麗な剣捌きで足を切り付け機動力を削ぎ、ルディウスやユアラやセツナが魔法で仕留める展開などの連携を確かめた。


そんな中でもっとも笑いを誘った展開は、セツナの必死の攻防だった。


「ほい!そっちいったぞ!」とロビン。


するとレイダーが半身移動でボボイノシシの突進をかわす。


その後ろのルディウスも飛翔魔法でかわす。


ユアラも持ち前の俊敏さでヒラリと側面を抜けてしまった。


一人残ったセツナに向けボボイノシシが突進してくる。


「おわ!」


その慌てた様子を見てロビンがアドバイスを送る。


「セツナ。突進方向の正面に立つな!中心を半身ずらせ!」


その言葉にセツナは即座に反応する。


ボボイノシシに当たる直前に身をひねって転がるように大きく一歩外にずれる。


かわされたと判ったボボイノシシは数メートル先で急制動をかけると、前脚で地面をけり込み、再度突進を試みる。


しかし、それも身を躍らせて大きくかわすセツナ。


その様子を見ていたレイダーが笑いながら言う。


「おいおいセツナ。いつまでそいつと踊るつもりだ?」


確かにその通りだ、しかし相手も反撃のスキをなかなか作らせない。


というよりも、セツナの動きが大きすぎて、武器の間合いに入らない。


かといって魔法を詠唱するほどの時間はない。


レイダーの言葉にセツナは気づいた。


「(踊る?…そうかこのステップは学校で習ったダンスのステップに近いのか…ならば!)」


セツナの動きが急にリズミカルになる。


ブレイクダンスの様に左右に刻むような動きに変化させる。


その様子に動揺したのか、ボボイノシシの動きが一瞬とまった。


しかしまた一気に突進してくる。


セツナは間合いが詰まるギリギリでサイドステップを駆使して、一気に半歩だけ動いて突進をかわした。


そしてすり抜けざま、持っていたメイスを野球のバットのように頭部に向けて振りぬいた。


脳天に直撃を食らったボボイノシシが「プギャ!」と短く嘶いて地面に滑るように倒れ失神した。


その様子にルディウスが拍手しながら言う。


「上出来だセツナ君」


「なにその動き!面白い!」とユアラ。


「(まさか授業で習ったダンスがこんなところで役に立つとはな…)」


セツナは最後にブレイクダンスのスピンを決めてかっこつけてみた。


「ダンスだよ。音楽に合わせて踊るんだ」とセツナ。


するとレイダーが自慢げに言う。


「お!どうやら俺のアドバイスが効いたようだな」


「にしたって、セツナ。お前の洞窟は随分と広いな」とロビン。


その言葉にセツナが言う。


「それならルディウスさんもだろ。さっき空飛んでたじゃないさ!」


その言葉に一同は笑いだすのだった。


ロビンが慣れた手つきでボボイノシシの皮をはぎ、その場で肉塊へと加工する。


ある程度終えた頃、ユアラが上空で旋回していたフィールを呼んだ。


「フィール!降りといで!」


すると「プロロ…」と短く応えて、スーっと草原に降り立つフィール。


そしてセツナがさっき仕留めたボボイノシシをそのままフィールの鼻先に突き出す。


しかしフィールは舌でペロリと舐めるとそっぽを向いてしまった。


「この子、食べないわね…」


ユアラが残念そうに言うと、ロビンが切り分けたばかりの生肉をヒョイっとフィールに向けて投げる。


フィールはそれを器用に口でキャッチすると、二噛みしてゴクリと丸呑みした。


「俺は犬の扱いがうまいんだ」というロビン。


その時全員が思った。


「(フィール…犬だったんだ…)」


その頃、セツナはボボイノシシと奮闘していた。


これまで野生の動物を捌くなんて事をしてこなかったため、ボボイノシシの捌き方なんて当然知らない。


ロビンに血抜きから皮のはぎ方、関節部への刃物の入れ方、全て手ほどきを受けながらしてゆく。


「セツナ。そのやり方では骨に当たって刃こぼれする。もうこう、この角度でナイフを入れるんだ。そうそうだ。うまいぞ~」


セツナが素直に指示に従うので、ロビンも熱心に教えている。


ユアラが言う。


「私もある程度できるけど。そんな熱心にするのね…」


するとロビンが言う。


「ユアラちゃんはモンスターに切りかかる時、闇雲に切り付けてるのか?」


「いえ、柔らかそうな場所を狙うわね…あっ」


ユアラは自分の言葉にピンときたようだ。


「そうだ。これはただのお手伝いじゃねぇぞ。

解体する事で、生き物の構造を知り、どこを切れば武器に負担をかけないかを知る言わば勉強よ!」


「そっか!そうよね!じゃ頑張ってねセツナ!」


セツナは必死でやっているようで、


「おう!ありがとう」


と短く返事した。


しばらくして、倒した全てのボボイノシシの加工が終わる頃には夕暮れになっていた。


ルディウスが周囲の安全を確認すると言う。


「今日はここで野宿しよう。

明日には森を抜け、洞窟近くにつく予定だ」


夜になり5人と一匹は薪を囲んで談笑した。


セツナは傍らで寝るフィールを撫でながら、その風景を見て、幸せを感じていた。


「(こんな経験したことなかったな…林間学校でのキャンプでは散々だったからな…)」


林間学校の記憶を思い出してセツナの心にガサついた感情がフッと湧き出る。


しかしそれも吸魔石がポコんと飲み込んで魔煙に変えたため、スッキリした。


「そういや。セツナはなんで試験の時、あんな恰好していたんだ?」


ロビンがセツナの制服姿を思い出して聞く。


セツナとユアラはギクっとして顔を見合わせる。


その様子を見てルディウスが


「なにか事情があるようだ。言いたくなければそれでもいい」と優しく話す。


セツナはユアラに向かって頷いてみせた。


するとユアラが口を開いた。


「これから命をかけるパーティーに隠し事はいけないわよね…話すわ」


ユアラからこれまでの経緯を説明する。


一通り話を聞いたルディウスたちは、しばらく沈黙した。


するとロビンが言う。


「でもよお。俺はセツナは良い奴だと思っているぜ!それにそのモアなんちゃらって魔王を倒すんだろ?偉いじゃねえか!」


「いや、私も別にセツナ君を敵視するわけではない。しかし魔煙を自身で生み出せるというのは、確かに危険な気もする…」とルディウス。


するとレイダーが言う。


「それでも俺は彼についていくぜ。な!セツナ!」


「ありがとうレイダー、ロビンさん」


セツナはロビンやレイダーの言葉に救われた気持ちになった。


するとルディウスが重い口を開いた。


「私は、魔煙の恐ろしさをここにいる誰よりも知っている。

第6神殿が魔煙に呑まれた時、幸い遠くの丘の上から見ていたのだ…」


「え、じゃあ!ミーティア・ファリカを知っているか!彼女は逃げられたのか!?」


レイダーがルディウスに迫る。


ユアラが補足する


「彼の、レイダーの許嫁なのよ」


するとルディウスの顔が曇る。


「ミーティア・ファリカ…私と同じ神官の一人だ。

彼女はその時、礼拝堂にいたはずだ…」


その言葉に愕然とするレイダー。


「…そうか。そんな甘かねえか…」


しかしルディウスはレイダーに気を遣う。


「これは気休めにもならないが、魔煙自体は毒の類ではないので身体への直接的な害はない。

ただ触れた者の心がひどく荒むのだ。

人にもよるが、よほど強い意志でもない限り、理性的ではいられないだろう。

しかし神官である以上、彼女も無策ではないはずだ。

今はそれに掛けて、一刻も早く救出へ向かうしかない。

すまない…慰めにはならなかったな」


「…いや。いいんだ。ありがとうルディウスさん」


レイダーは肩を落としながらも前を向きパチッと跳ねた薪の火を見つめた。


ルディウスは続けてこう言った。


「セツナ君の力は我々には恐ろしい。しかし私は信じている。

セツナ君の心が強くあれば、その力を制御し、もしかすると魔煙すらも打ち消すほどの力に変えられるという事を…」


ルディウスの言葉にセツナは震えた。


「(信じている…未熟で不安定なこの僕を信じてくれている…)」


するとセツナが言う。


「ルディウスさん。ありがとう。正直これまで自信がなかったんだ…

知らない世界だし、今日やった近接戦闘やロビンさんと一緒にやった捌きも、全部初めてで、戸惑う事ばかりだった。

足手まといだろうなって考えていた。

でも。そんな僕を信じてくれるって言葉が素直に嬉しいんだ…」


セツナは思わず涙があふれた。


「(こんな気持ちいつぶりだろう。

イジメを受けてからずっと、自分は心のどこかで世界を憎んでいた。

こんな辛い生活が続くなら、いっそ大災害でも起きて一夜にして全て壊れてしまえばいい!だなんて思った時もあった。

でも今は違う。僕はこの世界を壊したくない。

それは自分がルディウスたちに認められたという事もある…

でもそれより気づいた事がある…自分は自分の力を信じて行動すれば、

大抵の事は達成できるのだと、この世界に来て、彼らと出会って教えてくれた事だ。

…だから壊させてはいけない…)」


涙を流すセツナを見てユアラが思わず抱きしめる。


「ごめんね…」


「いや…いいんだユアラ。

僕はきっと今よりずっと強くなる。

でもそれは力じゃない。心を強くするんだ。

そして。魔王を倒して…エヴァージェントに平穏を、そしてみんなが怯えずに暮らせる世界を作りたいんだ」


セツナのその言葉に「いけねっ」とロビンは目頭を抑えた。


するとルディウスが言う。


「その討伐。我々も参加しよう。

当初は今回限りのパーティーと想っていたが…

セツナの素直な言葉に私は心打たれた」


すると「俺もついてくぜ!」と鼻をすすりながらロビンも言う。


湿っぽい雰囲気を察したレイダーがロビンをちゃかす。


「セツナの涙より大男の涙のほうが強烈だな…」


「なんだと!」ロビンが恥ずかしさを紛らわすようにレイダーを腕に挟んで締め上げる。


「アタタ…ちょっと腕強すぎ。降参!降参!」とレイダー。


「さすが力加減はCクラスだな」とルディウス。


その様子にセツナたちは笑った。



アルラン平原 泣き別れの森付近

 翌日、一行はアルラン平原を抜け、通称“泣き別れの森”の手前にさしかかった。


すると先頭を歩いていたロビンが「まった!」と足を止める。


ロビンは森の茂みの奥から漂う気配を感じていた。


「ルディウス…」


「ああ、わかっている…魔物だ…」


二人のやり取りにセツナたちは目をこらす。


しかし遠目からでは何も変らない。


するとルディウスがセツナに頼む。


「セツナ。フィールにこの先の森の様子を確認してもらえるか」


「わかった。フィール!頼んだぞ!」


セツナの言葉に「プロロ」と反応すると、一気に森の上空へと飛んで行く。


セツナは目を閉じ、フィールと視界をリンクさせた。


しかしすぐさま目を開けるセツナ。


「どうした?」とレイダー。


「いや、なんでもない…もうちょっとまってくれ」


セツナはびっくりした。


VRで空中から森を眺めている感覚だったのだ。


セツナは一呼吸するともう一度目を閉じて、フィールと視界をリンクする。


ドラゴンの視界は特殊だ。


ドラゴン・アイと呼ばれるその目には、数十キロ先まで見通せる視界に加え、物を透過して物陰にいる物を確認できるうえ、魔物や魔煙が放つ特有のモヤや光の帯が見える。


セツナは森の奥に点在する魔物を確認して告げる。


「森の境界からさらに北に200メートル入った道端に2匹の…赤い巨人、魔煙付きだが武器はない」


するとロビンが言う。


「赤い巨人…オーガか!」


さらに見ていると、道のど真ん中で馬車が横転し、2名の兵士たちが複数のゴブリンたちと交戦しているのを見た。


「さらに500メートル奥で馬車が横転。魔煙付きのゴブリンが1,3,6…15匹。兵士2人が応戦している」


「セツナ。すぐに移動を開始する!」


ルディウスが緊張した声で促しつつ駆け出す。


そこでセツナは目を開け、フィールに戻るように言いつつ、ルディウスの後を追って駆け出した。


森に入るとすぐにロビンが盾とグラディウスを握り先頭に躍り出る。


昨日やっていた訓練のおかげで陣形はスムースだった。


100メートルほどかけると、セツナの言っていたオーガ2体がこちらに気づいて駆けてきた。


「大丈夫だ。訓練どおりいくぞ!」とロビンが激を飛ばす。


一足早く向かってきたオーガはロビンに向かうな否や大きく腕を振り上げて殴ってきた。


バキャン!と盾で受け止める。


「相変わらずスゲー力だな」


ロビンが支える盾の脇からレイダーが脇腹を狙ってショートソードを突き立てる。


「しかも硬いときてる…」とレイダー。


しかしオーガをのけ反らせるにはそれで十分だった。


のけ反ったのを見て、ロビンが一気に押し返し、地面にドシンと張り倒す。


倒れたのを目掛けて後ろからルディウスが炎魔法を浴びせ追撃する。


「グギャギャ!」


オーガは身に纏わりついた炎を振り払おうともがく。


「これで終いよ!」


そのチャンスを逃すかとロビンがグラディウスでオーガの首を両断した。


一方その間、もう一匹のオーガに向けて、ユアラとセツナが地面を泥沼に変える魔法で足止めする。


魔法で足を取られたオーガだったが、数秒後には脱出していた。


しかしその数秒は、先行してきたオーガを仕留めるには十分な時間だった。


「二匹目がくるぜ!」


体制を整えたロビンが言う。


二匹目は地面に転がったオーガの足をムンズと掴むと、力任せにロビンに向けて投げつける。


「まじかよ!」


思わず盾で防ぐロビン。


その脇をオーガがすり抜け後方のルディウスたちに襲い掛かる。


「させるかよ!」


レイダーが脇から飛び出して、足を切り付けるが、一瞬遅れただけで、動きを止めるほどの決定打にはならなかった。


ルディウスが身構えたその時だった。


セツナの爆炎魔法がオーガの顔に飛び包み込んだ。


思わず手で炎を払いながら怯むオーガ。


「くそ。弱くしすぎた」とセツナ。


しかしそのひるんだ一瞬をユアラは見逃さなかった。


風の支援魔法を足にかけつつ、足元に滑り込み関節を狙い切り込む。


「浅い!」


ルディウスがこの隙にオーガの後背へと回り込む。


オーガはそのままセツナに向けて突進した。

しかしセツナは冷静だった。


「(さあ訓練を思い出せ!)」


セツナは振り下ろしたオーガの腕を寸前でかわすとすり抜けざまに、ハンマーを関節にぶち当てる。


ビキっと音が響き関節が砕ける。


しかしそれでもオーガは崩れない。


振り向きざまセツナに向け太い腕を振り下ろしてきた。


「(この調子なら余裕で回避できる!)」


そう思った直後、セツナの足が地面に突き出た石に引っかかった。


「しまった!」


地面に転がった状態で振り下ろされる腕を前に成す術がないセツナ。


するとロビンが盾をかざして間に割り込む。


グキャン!


「セツナ!!俺のグラディウスを使え!」


見ると、手元にグラディウスが転がっている。


ロビンが脇をすり抜けた時に投げ落としたものだ。


直後にユアラがセツナに風の支援魔法を付与する。


セツナはそれを素早く握ると、盾の隙間から飛び出して、ユアラがさっき切り付けた場所目掛けてグラディウスを突き立てた。


「うおおおお!!」


ズグン!とオーガの傷ついた関節に刃が滑り込む。


「グギャー!!」


オーガが雄叫びをあげると、その巨体がグラリと揺れ、転ぶように地面に倒れた。


すると駆け付けたレイダーがオーガの開いた口にショートソードを素早く突き刺し、力任せに捻り倒しフィニッシュする。


見事な連携によって二匹目のオーガも倒された。


動かなくなったオーガを見てセツナは深く息を吐いた。


「よくやったなセツナ」とロビン。


「助かったよロビン。ありがとう!」とセツナ。


するとルディウスが言う。


「勝利に浸るにはまだ早いぞ。兵士の援護に向かう!」


その言葉にセツナたちは武器を持ち直して駆け出す。


途中レイダーがセツナに言う。


「ルディウスって本当に神官なのか?どっかの将軍の間違えじゃね?」


「確かに…」


すると並走していたロビンが言う。


「確か、神官の前は軍隊に居たっていってたな」


その言葉に二人は納得するのだった。


 現地につくと、兵士は一人になっており、その後数匹倒したようだったが、依然として周囲をゴブリンに取り囲まれていた。


「各自突入して各個撃破!」とルディウス。


セツナたちはルディウスを先頭に勢いを殺す事なくゴブリンたちの後方から奇襲をかける。


不意をつかれたゴブリンたちは、次々と切り伏せられた。


こうして、数分後には、残っていた10匹全てのゴブリンが排除された。


セツナはフィールに周囲を警戒させる。


ルディウスは生き残った兵士に歩み寄ると回復魔法を掛けながら質問した。


「何があった?」


すると兵士が震える声でこう話す。


「フォーグマだ…フォーグマ洞窟から魔物が飛び出してきた」


「なに!?」


「あれは魔物なんかじゃない…あれは、あれは幽霊だ…」


「それはどんな奴だ?」


「…みな正気を失って…ああ…やつに捕まると心が狂うんだ」


兵士の言葉にセツナたちの顔が強張る。


「それじゃまるで魔煙そのものじゃないか…」


ユアラは、横転した馬車の中を確認する。


「ねえ!こっちに来て!」


兵士の回復を開始したルディウス以外が馬車の中を覗き込む。


そこには傷ついた兵士や冒険者、そして同じく傷つき意識を失った女性の神官の姿があった。


その神官の吸魔石はすでに空だった。


ユアラが素早く神官に回復魔法を掛け始める。


すると彼女の意識が回復する。


「大丈夫。痛いところある?」とユアラ。


「…大丈夫です。」と彼女が応える。


兵士を回復し終えたルディウスが彼女を見て言う。


「ルシエラじゃないか!」


「ルディウス…」


ルディウスの言葉にルシエラが泣き出した。


ルシエラが言う。


「あれは武器が効かない魔物です。

私たちはギルドの命により、ここにいる冒険者と共に、フォーグマ洞窟に入りました…

中には最初何もいないかのようにひっそりと静かでした。

冒険者たちはその雰囲気に呑まれて警戒していませんでした。

すると突然、洞窟の奥からゴブリンの突撃の太鼓が響いたかと思った途端…

沸きだすようにゴブリンが殺到してきたのです」


ルシエラにレイダーが「これを飲め」と水筒の水を差しだす。


「あ…ありがとう」


一息つくとルシエラはつづけた。


「それでも当初は対応できていました。

冒険者たちはAクラスが3人いましたから。

でも状況が一変したのです。

ゴブリンに交じってオーガが現れ、さらにその奥から、黒い布を全身に纏ったような影が現れたのです。

その影には赤い目が2つありました。表情などはありませんでした。

冒険者の一人がそれに気づいて切掛ったんです。

しかし、剣撃は鳴らず。攻撃は空を切りました。

そして、その影が冒険者に触れた時でした。

触れられた冒険者が奇声を発して発狂しだしたのです。

そして武器を振り回すと、敵味方関係なく周囲の全ての者に切掛ったのです」


ルシエラの言葉にルディウスは驚愕した。


「間違いない。魔煙に触れた時の状態そのものだ…

ルシエラ!魔煙は、魔煙にその冒険者が足を突っ込んで触れたんじゃないのか?」


するとルシエラがルディウスの目を見てこう答えた。


「魔煙は私がすでに周囲から回収し終えていて、安全確保されていた場所だったんです」


その言葉に背筋が凍る感覚になった。


ルディウスが聞く。


「もしヤツの正体が魔煙であれば吸魔石で吸収できるはず」


するとルシエラが首を横に振って言う。


「無理でした。少しは吸収できたのですが、存在を消すまでには至りませんでした…」


「そんで、生き残ったのはここにいる人だけになったってか?」とロビン。


「そうです。私たちは状況不利と見て、すぐさま引き返し始めました。

しかし、余りにも多くのゴブリンに、一人、また一人と倒され、入り口につく頃にはこの通りの有様です」


レイダーが言う。


「そうとう壮絶な逃避行だったみたいだな…どおりで吸魔石が空になるわけだ…」


するとセツナがユアラに小声で聞く。


「(現地の魔煙を吸収した吸魔石で魔法は撃てなかったのか?)」


「(天然の魔煙はそのままでは使えないのよ。だから一度、神殿の大きな吸魔石に集めてから神官が再分配しているのよ。理由は不明だけどね…)」


ルシエラが言う。


「逃げてください!ルディウス。

もうあの洞窟への侵入は不可能です」


その言葉に一同は沈黙した。


しかしルディウスは首を横に振った。


「いいや…すまないが逃げるわけにはいかない…そんな危険な状態を放置できる状態じゃない。誰かが止めなければ…」


「でもそれではあなたが!!」


「すまないルシエラ…それに私の事は誰よりも知っているだろ?」


その言葉にルシエラの顔に諦めと悲しみが滲む。


ユアラはルシエラのその表情を見てハッとした。


ルディウスが言う。


「みんなもすまない。

単純な探索任務というわけにはいかないようだ。

無理強いはしない。今からでもパーティーを抜けたいと言うのであれば止めはしない。

しかし私はそれでも向かう」


ルディウスのその言葉に沈黙が流れた。


するとロビンが言う。


「ルディウス。お前が行くなら前衛の俺が抜けるわけにはいかないな。ついてくぜ」


「他は…」


ルディウスの言葉に誰も声を上げないかに見えた時だった。


セツナが口を開いた。


「…俺も行きます!…この世界を救うって決めたから」


するとユアラも続く


「私もいきます。魔法支援は任せて!」


するとレイダーも最後に


「…ったくしかたねぇ。世界を救う…悪くはないわな」と賛同した。


「では、この馬車を起こして彼らを見送ったら、我々はそのままフォーグマ洞窟に向けて出発する」


ルディウスの言葉にルシエラは静かに涙を流すのだった。

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