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第四十四話:仮面王 中編その2

【第四十四話:仮面王 中編 その2】

アズマヤールの砦 フラット公国軍との最前線

 フラット公国軍の本隊が着陣した翌早朝、その日はいつになく冷たい朝だった。


兵士の呼吸に僅かに白いモヤが混じる。


空が藍色から白色へと変化し始める頃。


フラット公国の旗を掲げた兵士を同伴させ、派手な鎧を着こんだ身なりの良い男が、トビ砂ネズミに跨って、自陣からゆっくりと砦の弓の射程内へと進み出て来た。


フラット公国軍側から進み出て来るその一団に気づいたオーエンが思わず声を上げた。


「こりゃたまげた!

ハッケネン将軍直々に使者として来やがった」


そして兵士たちに聞こえるように声を張りながら命令を出す。


「使者がこちらに来ている!

皆、間違ってもあの男に矢を射るなよ!」


城壁の上の騎士団兵も、こちらに近づいて来る人影に弓をつがえたまま、オーエンの指示に従い緊張した面持ちでその様子を見守っている。


ハッケネンは砦の門まで十数メートルのところで停止すると、砦に向かって朗々と声を響かせた。


「我はフラット公国の将軍が一人アルベルト・ハッケネン!

その方の総司令官殿と戦闘前の挨拶に参った!

誰が此度の戦の総司令官殿か!」


するとその声に呼応するように砦の門がギギギっと開き始めた。


重々しく開いた門の向こうからルディウスがロビンを伴ってトビ砂ネズミでハッケネンの前へと進み出る。


「互いに刃を交える運命とは言え、将軍直々の丁寧な挨拶。

誠に痛み入ります。

私が此度の戦の指揮を取る、聖騎士団戦軍神官のルディウス・マルフォです」


ハッケネンはルディウスの出現が予想外だったのだろう、一瞬眉が上がった。


しかしすぐに険しい顔に戻るとこう言った。


「我らは仮面王様の命により、クシュナールの攻略に向かう。

できるなら兵を引いてはくれぬか」


するとルディウスが冷静にこう語り始めた。


「仮面王様の威光はこの地にも轟いております。

正義を重んじる賢王であると。

しかし、クシュナールを含む全ての港は誰の領土でもないのがこの世界の理であったはず。

此度の命。正義を重んじる仮面王様の言葉とはとても思えません。

ハッケネン将軍には今一度、兵を国へと戻し、その真意を仮面王様に確認して頂きたくお願い申し上げます」


するとハッケネンの口元が僅かに緩み、こう言い放った。


「…ふっ…フハハハ!正義か!

それはどちらの側から見た正義なのだ?」


ハッケネンの問いかけにルディウスの顔色が変わらないのを見てさらに言う。


「…どうやら貴公もまた、不動の正義を背負っているのだな。

譲れないもの同士とは…互いに辛いものだな」


「残念な事ながら…」


「あい判った!では、次は戦場で相まみえよう!サラバだ!」


ハッケネンはそう言うと、乗っていたトビ砂ネズミの手綱を引き、向きを自陣へと向けると、ゆっくりと戻ってゆく。


去ってゆくその背中は隙だらけに見える一方で、一矢を放つ事すら躊躇わせる風格を漂わせていた。


 砦に戻ったルディウスにオーエンが城壁の上から声をかけた。


「ルディウス殿!交渉はどうですか?」


「残念ながら、武器を構えて迎撃態勢だ。

来るぞ!オーエン」


それを聞いてオーエンは肩をすくめて言った。


「ま、ここまで派手に振り上げた拳…そう簡単に降ろしてはくれんわな…」


オーエンは弓を装備した兵士たちに檄をとばした。


「2列横隊で待機!最寄りの固定盾の位置、確認しとけよ!」


ルディウスも門の前に整列した槍兵に向けて言う。


「我々の目的はただ一つ!

敵軍のクシュナール方面への進撃を援軍の到着まで遅らせる事だ!

砦の防衛はその要だ!

気を抜くな。頭上からの矢に注意しながら命令あるまで待機せよ!」


一方、自陣の本陣に戻ったハッケネンは伝令役の兵士に向けて低く静かにこうつぶやいた。


「攻撃開始!第一陣出撃」


「は!!」


伝令は短くそう発すると本陣横に立てていた指令旗の一つをバサッと開いて、天高く振り回しはじめた。


「第一陣出撃!!第一陣出撃!!」


伝令はそう繰り返しながらバサッバサッっと旗を大きく振る。


すると旗の合図に呼応するように各所の指令旗も同様に揺れ始める。


全ての旗が振られたタイミングで「プオー!プオー!プオー!!!」という角笛の音が寒空の空気を振るわせて鳴り響いた。


角笛の音を砦の上で聞いたオーエンが隣に整列した兵士たちへ檄を飛ばす。


「来るぞ!弓兵構え!!」


オーエンの号令と共に、砦の上に整列した弓兵たちが矢をつがえて弓をギュッと引き絞る。


最初にフラット公国軍で動いたのは身の丈ほどある盾を持った兵士たちだ。


横一線、5列横隊で並んだ盾持ちたちは「オウ!オウ!」と掛け声と歩調を合わせながらアズマヤールの砦に向けて前進してゆく。


その数およそ2,000人。


特徴的なのは、独特な陣形だ。


まるで四角いハンマーを寝かせたようなカタチになっている。


横隊の中央から、グリップ部のように盾持ちたちが自陣に向かって整列してゆく。


横一線で並んだ盾持ちたちは砦から200メートルまで迫ると、アズマヤールからの弓の攻撃を防ぐように正面と側面、そして天面を、その持っている大盾で覆い始めた。


それを見たオーエンがすかさず弓兵に攻撃命令を出す。


「陣を整えさせるな!一斉放射!!矢の雨を降らせてやれ!」


オーエンの号令から一呼吸置いて、矢が放物線を描いて宙を舞い、そのまま盾持ちたちの頭上へと降下してゆく。


ズカカン!とけたたましい音と共に盾に降り注ぐ矢の雨。


矢の大部分は盾で弾かれ、もしくは盾を貫通するに留まったが、ごく一部の矢は盾の隙間を抜けて砂地や兵士の太ももに突き刺さった。


しかし盾持ちたちは構築のペースを落とすことなく、淡々と陣形を整えてゆく。


「くそ。こんなしょんべん攻撃じゃ揺さぶりにもならねぇ!

もう一度だ!構え!!」


オーエンは悔しそうに一斉射の号令を弓兵に出した。


淡々と構築されてゆく四角い陣形の後ろで、長く伸びた盾持ちの列をよく見ると、盾と盾の間にチラチラと何かが走っているのが判る。弓兵だ。


その様子をフィールの視線で見ていたセツナがある事に気づいた。


「ん?気を付けて!!盾持ちの間を弓兵がこちらに向けて走ってきている!」


すると伝達魔法で繋がっていたルディウスが言う。


「どうやらハッケネンのお得意の鉄槌陣のようだな」


「鉄槌陣?」


「先行で盾持ちを送り込み、即席の橋頭堡を前線に構築する。その橋頭堡に向けて、別の盾持ちが前線までの安全な通路を確保。

その通路を通って弓兵が前線に送り込まれる、展開に時間が掛かるが、一度敷いてしまえば攻守抜かりない厄介な特殊陣形だ」


するとユアラがルディウスに聞く。


「何かあの陣形を破る方法はないの?」


「あるにはあるが…」


するとレイダーが悔しそうに言う。


「機動力のある騎馬やワイバーンで側面や背面から強襲できれば、簡単に打ち破れるってのに!

こっちが迂闊に動けないのを判っていて、あんな鈍くさい陣形で攻めてきやがる!」


「機動力があればいけるの?」とユアラ。


するとルディウスが言う。


「ああいった防御重視の陣形は、弓矢には強い反面、視界が制限されるため機動性に欠け、臨機応変に対応できない。

そこに付け込んで機動力に優れた騎馬で側面や後背へ回り込んで切り崩すというのがセオリーだ。

が、今回の戦力でそのような戦法は取れない」


すると話を聞いていたセツナがルディウスたちに言う。


「それってつまり、あの敵陣を崩せれば勝機があるって事?」


「おん?セツナ。また何かぶっ飛んだ事を思いついたのか?

えーとあれだ…サラマンダー戦の時みたいなド派手なやつをよ」とロビン。


するとルディウスが聞き返す。


「セツナ。何か良い作戦があるなら聞かせてくれないか」


するとセツナがある作戦と合唱魔法を立案した。


それを聞いたルディウスが思わず唸る。


「うーむ。その案は試してみる価値はありそうだ…しかしどの程度の効果範囲になるか予測ができない。間違うと砦にも被害が及ぶが…」


するとロビンがルディウスに言う。


「なーに迷ってやがる。そんなもんやってから考えりゃいい」


するとレイダーが付け加える。


「そんなに不安なら、いっそ砦の裏手側で試してみちゃどうだ?

ぶっつけ本番を2回も経験した俺からの必死のアドバイス(お願い)だ」


「判った。セツナとユアラに砦の後方で試してもらおう。

そこで、その地震の魔法が狙い通り操れるか確認する。

二人とも頼んだぞ」


ルディウスの言葉に二人は「はい!」「任せて!」と応答するのだった。


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