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第三十五話:砂塵のレイダーズ 後編その1

逆鱗の丘 イメージ

挿絵(By みてみん)

【第三十五話:砂塵のレイダーズ 後編 その1】

港町クシュナール 北門付近

 子供たちの奪還作戦に向け、ユアラたちはすぐに行動を開始した。


ユアラがトビ砂ネズミの背中の鞍に武器を載せながらルシーダに最終確認をする。


「今回の作戦は、ガーベイジに紛れて砦に侵入し、子供たちを助け出して巨石群まで引き上げる。で良いわよね?」


「ああ、それでいい。

砦には私らが先頭きって潜入する。

子供たちの居場所は私らが把握しているからね」


するとルカが、ルシーダから返してもらった魔法剣を腰の鞘にスチャっと納めながら聞く。


「それだけ聞いていると、俺らの出る幕はないように聞こえるけど…

実際のところ、どう手伝えばいいんだ?」


「できるだけ事を荒立てずに済めば良いが、万が一荒事になった時は、援護を頼みたい。

私らは、それなりに腕は立つ自信があるが、攻撃魔法が使えない連中ばかりだ。

そこにいるマーラと、その隣にいるルチアは炎魔法と回復魔法ができるが、それ以外の連中はからっきしダメだ。

対してアデルの部下たちは皆、炎魔法が使える厄介な連中ばかりでね。

正面から切り込むと、間合いに入る前にこちらが焼き殺されかねないのさ」


「支援魔法なら任せて!」とユアラ。


「召喚魔法がどの程度有効かは判らないが、いざとなったら暴れてやる!マリアンのためにも」


ルカはそういうと、拳をぐっと握りながら答えた。


そして何やら騒々しいレイダーの方へ視線が注がれる。


「ところで、レイダーはあそこで何やってんだ?」


見ると奥で、ガーベイジの女性陣たちに囲まれていた。


「キャ!!!レイダーくん!かわいい!!」


周囲のガーベイジの仲間たちから黄色い声があがる。


「なんで俺が女装を…」


レイダーが泣きそうな顔になっている。


ガーベイジと同行するにあたり、3人は服装を合わせる事になったが、ルカとユアラは違和感なく馴染めた一方で、レイダーは元々細身だったが、それなりに肩幅があるので、フードを被っても男性だとバレてしまう、そこで女性陣がレイダーに女装をさせようと奮闘していたのだ。


しかし、今となっては、レイダーをいかにかわいく出来るかに趣旨が移っているようだった。


ルシーダが仲間を止める。


「こらお前たち!今は時間が無いんだ。

フードを被せてバレなければそれで良い!!」


「お頭!これ見てやってくれ!!自信あるんだ!」


そこにはカツラと胸パッドまで敷き詰め、美女となったレイダーが立っていた。


「…これは確かに悪かぁないねぇ…。

むしろ一部の客なら喜ぶかもしれないね」


思わずルシーダからも合格点が出る。


「く、くそ…」


思わず顔を赤らめるレイダー。


「さっ!そんな事は今は良いんだよ!!

準備できたなら出発するよ!

ほらレイダーも、いつまでスネているんだい!シャキッとしな!!」


ルシーダが檄を飛ばす。


こうして北門からルカ、ユアラ、レイダーを伴ってガーベイジたちが慌ただしく出発するのだった。



港町クシュナール 商工会議所内

 一方セツナたちは商工会議所で、アデルや、フラット公国をどう迎え撃つか作戦会議をしていた。


クシュナールの騎士団長オーエンが言う。


彼女ガーベイジたちの話をまとめると、アデルが即時投入可能な戦力はおそらく3,000人ほど、もしフラット公国軍がこれと共に行動していた場合は合わせて23,000人の大部隊となります。

加えて、アデルがサンドワームを使役しているとなると、クシュナールに籠城するのは得策とは言い切れないかもしれません。

戦軍神官殿ルディウスの意見はいかがでしょうか」


「私も、当初は援軍が到着するまでは籠城をと考えていたが…

サンドワームが使役できるとなるとオーエン殿の言う通り城壁は意味を成さないだろうと考えている」


するとロビンが口を挟む。


「って事は、城壁の外に出て迎撃するって事なのか?大分リスクがあると思うぜ?ルディウス」


「ロビンの懸念は最もだと私も思う。

しかしそのリスクを取ってでも前哨陣地を築いて待ち構えたいところだが…」


するとオーエンが地図を見ながら言う。


「それなら街道沿いに1.0キロ北上した所に、岩肌がむき出になっている小高い丘があるんです。

逆鱗の丘という地名ですが…ここです戦軍神官殿」


オーエンが地図に書かれた一点を指さした。


「逆鱗の丘か、なかなか恐ろしい地名だな…」


「はい、ですがこの場所はその名のとおり、砂漠の風で浸食した岩肌が、まるで竜の鱗のように連なって見えるのでそう呼ばれています。

丘と称していますが、実際には3階建てほどの高低差のある地形が、さざ波のように広がっているイメージでしょうか。

ここは岩盤がむき出しになっている場所も点在しているので、その上であればサンドワームに足元を掬われる事もないかと考えます」


「なるほど。確かに話を聞く限り布陣するには良い場所のようだ」


「はい!地の利を生かせる数少ない要所かと具申します」


そこでルディウスは少し考えてからこう言った。


「うむ…では、この地形実際にどういう配置なのかを確認したい。

その逆鱗の丘と、街の位置関係のわかる詳しい地図はあるだろうか?」


「はい、こちらの地図になります」


その地図には、逆鱗の丘の中央を街道がつづら折りするように南北に向けて走っていた。


北上する先にはアズマヤールの砦を有するルガンの町、そしてさらに北上してアブカームの町と続いている。


一方、南下した先には港町クシュナールがある。


つづら折りになった街道の折り返し地点からは、脇道が複数伸びており、それぞれの脇道が、逆鱗の丘の至る所で交錯したり離れたりを繰り返し、それがまるで鱗のような模様を描いている。


逆鱗の丘を抜け、分岐を繰り返した道は、緩やかにカーブを描きながら東や西へと伸びていた。


「オーエン殿。この東と、西の道の先はどこに繋がっている?」


「西側の地図は…ええと、こちらですね」


オーエンが別の地図を広げて説明する。


「この西の道は風鳴きの渓谷(巨石群)へと繋がっており、渓谷内は迷路のようになって判りにくいのですが、馬車が並走できるほどの広めの道を進むと、丁度渓谷の中心辺りで丁字路になっております。

そのまま直進して巨石群を抜け、西に進めば海岸に出ます。

海岸沿いに北上すればソルエネーラ公国との国境、南下すればクシュナールに戻って来ます。

丁字路のもう一方は北に進んでいますが、渓谷を抜けると途中で二股に分かれます。

北東に進めば、アデルが根城にしているルガンの町へと繋がっています。

北に進めば、私の故郷、ノース・クシュリナの町に通じています。

ただし、この北に抜けるルートにはサンドワームの巣穴が隣接しており、実質このルートは危険なので使えない印象です」


「となると、アズマヤールの砦から出た軍隊は、風鳴きの渓谷は通らずに、直接南下して逆鱗の丘を通過する可能性が高いと言えるのか…」


「おそらく間違いないかと思います。

仮に、風鳴きの渓谷を目指して進撃した場合、サンドワームは音と振動に敏感に反応し襲ってくるので、例えどんなにトビ砂ネズミがすばしっこくても、殿の被害は数百人規模は覚悟しなければならないだろうと推察します」


「ふむ…では彼らが北から進撃してくる想定で陣を敷こう…」


するとオーエンが東側の地図を見せて言う。


「念のため、東側の地図もお見せしますが、この道の先は砂丘へと繋がっていて、その先は街道にはなっていません。ただ、ドワーフ族の国であるゾロッサ・ロンド公国へと繋がっています」


オーエンが説明していると、不意にルディウスの目の前に青い鳥が飛来した。

それは遠くクレス・ヴェイガルドの大神官からの伝令精霊だった。


『ルディウス・マルフォよ。


港町クシュナールに迫る危機について、我々は由々しき事態と判決を下した。


よって、ゾロッサ・ロンゾ公国に駐留しているドワーフ族率いる3,000人の重歩兵と、ソルエネーラ公国に駐留しているエルフ族と人族で構成された2,000人の弓兵を港町クシュナールに向かわせる事とした。


しかしながら、準備までに今より2日、到着までにはさらに5日を要する事となるだろう。


その間の貴殿の奮戦を期待する。』


伝令精霊を聞き、ルディウスの顔が僅かに曇った。


するとロビンがルディウスに言う。

「援軍の到着まで7日だってよ…

ちと遅い気がするけど気のせいか?」


「いや、気のせいではないだろう」


「だよな…」


するとずっと静観していたセツナが恐る恐るこう言う。


「ルディウス。それならさ…一つ提案なんだけどいいかな…」


「いいぞ。是非セツナの意見も参考にさせてほしい」


するとセツナが、地図を見ながらこういった。


「この地図を見ると、逆鱗の丘に入った場合、陣形が縦に長く伸びると思うんだ。

そこで、逆鱗の丘の内部で側面から奇襲をしかけて、本陣のみを狙うのはどうかなって…」


この時、セツナは今川義元を奇襲した織田信長の桶狭間の戦いを思い出していた。


「なるほど。それは良い案だ」とルディウス。


するとロビンが慌ててこう言う。


「おい、ルディウス。逆鱗の丘に布陣するんじゃなかったのかよ」


「布陣はする。

しかし、セツナの案も採用する。

奇襲を成功させるための囮としてな」


「それならド派手にしなきゃな!!

で?どこに布陣するんだ?ルディウス」


「地理的に逆鱗の丘の奥深くに布陣すると、セツナの作戦を逆手にとられて、逆に相手の奇襲を許す可能性がある。

よって、前哨陣地は逆鱗の丘を抜ける直前、つづら折りの最後の折り返した場所で待ち構えるとしよう。

ここであれば正面からの攻撃に対応すれば良いし、左右の高台(鱗)はこちら側からしか登れない作りなので弓兵を配置しやすいだろう」


するとオーエンが言う。


「私も賛成です。

この場所であれば、地面は岩盤ですし、この街道の幅も最大で馬車3台がギリギリ並走可能な一本道です。

ここであれば幾ら戦力差があったとしても、ここなら差は生まれないでしょう」


するとセツナが口を開いた。


「それで、奇襲部隊はどこから侵入して、どこへ撤退する?本陣の特定はどうすれば?」


「その事なのだが、セツナとフィールの力を借りたいのだ。

本陣の特定はフィールの上空からの目を頼りたいが、良いだろうか」


「もちろん!」


「では、後ほどオーエン殿から、アデルの容姿のモンタージュ画を見せてもらうと良い。ルシーダたちに協力して描いた物だ、きっと役立つだろう」


「わかりました。オーエン殿よろしくお願いいします!」


「おう!」


「続いて、奇襲部隊の進入路だが、本陣を特定したら、東側から襲い、西側の風鳴きの渓谷方面へと撤退するのが良いだろう」


するとロビンが言う。


「それなら俺が先陣切っていくぜ!構わないよなルディウス」


「ああ、奇襲部隊には私とセツナとロビンを含めた部隊でゆく。

オーエン殿は本隊を率いて、正面からの攻撃に耐えてくれ」


「判りました!」


「では、早速行動に移るとしよう」


こうしてルディウスたちは、アデル率いる砂塵のガーベイジ本陣を逆鱗の丘で迎撃するべく行動を開始するのだった。


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