第三十四話:砂塵のレイダーズ 中編その7
【第三十四話:砂塵のレイダーズ 中編 その7】
港町クシュナールより北東5キロ オアシス付近 ルガンの町 アズマヤールの砦
この地は北東の諸国へと向かう行商人が、一度は立ち寄るオアシスのある町だ。
四方を砂漠に囲まれているが、このオアシスの周囲だけは青々とした木々が生えている。
水辺の周囲には、砂を突き固めたレンガで造られた平屋が点々と建てられている。
ひときは目を引くのは、水源に隣接するかたちで建てられたアズマヤールの砦だ。
アデルは砦の一室で、遠方から来たフラット公国の大使と話をしていた。
大使はアデルが本来座っている王座のような席に深々と座りながら、神妙な面持ちでアデルに言う。
「我々が直々にここに来たという事は、何を言いたいのか、薄々気づいているだろう?」
およそ砂漠を歩いて来るには似つかわしくない清潔感の漂う服装の大使は、アデルが片膝を着いたまま頭を垂れ何も発しないのを見て、ため息をつくとこう言う。
「…まあ良い。これは仮面王様からの命令書だ」
そう言うと「おい」と脇に立っていた付き人に命令書を手渡す。
付き人からアデルに命令書が渡される。
アデルが命令書の封印を解いて中身を確認すると、低くくぐもった声で言う。
「この命令はどういう意味でしょうか。
これまでの2倍に相当する物資を調達し、本国へ送れとありますが…」
「そのままの意味だが?」
「我々は今日食べる物を手に入れる事で精一杯ですが、どこから手に入れろと…」
すると大使がイライラしはじめた。
「聞けば港町クシュナールと、物資の50%を譲り渡す密約をしているそうだな」
「はい。」
「では、そのクシュナールを手中に収めれば、それで賄える話ではないのか。
何のために仮面王様が貴様に目をかけていると思っている!
少しは自分の頭で考えろ!!」
するとアデルが冷静にこう返す。
「それについては現在、攻略するべく軍備を整えております。
先刻も一部の奴隷どもに威力偵察を命令したばかりです」
すると大使が大きくため息をついてこう言い放った。
「手ぬるい!」
大使はスクっと立ち上がると、アデルに歩み寄り、持っていたトビ砂ネズミ用の鞭をアデルの背中に向けて何度も振り下ろした。
「仮面王様のご意思は、クシュナールの完全支配下であったはず、それがなぜ密約になっている!!なぜ未だに攻略せんのだ!!」
アデルは鞭の痛みに耐えながらこう言った。
「それでは仮面王様の正義が廃ると考えたからです」
「なに!?」
「仮面王様は正義の名のもとに行動を起こされてきた崇高なお方。
その先方たる我々が、正義を貫かなければ、いずれ仮面王の顔に泥を塗る事になるやもしれません」
すると大使は激高した。
「貴様のしみったれた正義など知ったとこか!
仮面王様の正義こそ唯一正しい事である!
それを事もあろうか、自身の正義と比べるなどとは言語道断!!」
アデルに鞭を打つ大使の顔がみるみるニヤケ、悦の表情に変わる。
するとアデルの脇に控えていたアデルの部下が鞭をハシっと手で止めて言う。
「大使殿の仰る事は至極当然でございます!
しかしどうか鞭をお納めください。
先月よりクシュナールの神官から我々に対する上納金が滞っており、
それを理由にクシュナール攻略に向けて現在作戦進行中であり、明日には我々全軍をもって事に当たる次第です」
その言葉に大使は、受け止められた鞭を力ずくで引き離させると、アデルをかばった部下の顔に鞭を入れる。
「遅い!!今すぐやれ!!
このままでは私が仮面王様に合わす顔が無いわ!!
貴様たちを見ていると、我らの兵士が不憫になってくる!!」
目をおさえて倒れたアデルの部下を気にする素振りもなく大使はこう言う。
「よもや仮面王様から預かった18,000人の兵士たちに、貴様らと同じような貧相な思いをさせてはおるまいな!!」
するとアデルが言う。
「滅相もないことです。
大使様とまではいきませんが、仮面王様より預かった兵士たちには最上のおもてなしをさせていただいています」
アデルの居城としているアズマヤールの砦から、さらに3キロほど北東に、大きなオアシスを抱くアブカームの町があり、そこではフラット公国から借用された18,000人の兵士たちが駐留していた。
この兵士たちは、借用という形ではあるが、アデルたちの指揮下には入らず、フラット公国のハッケネン将軍の指揮下で活動しているため、実質アデルたちの監視役だった。
「ふむ。ならば良い…
貴様らドブネズミ共と、我々の軍を間違っても混ぜるなよ」
「心得ております!」
アデルの言葉に気を良くしたのだろうか、大使は肩で息をしながら鞭を下すと、ニンマリとするとこう言った。
「では今宵も例のアレに興じるかな。
今回の相手だが…」
大使はそういうと、鼻の下を伸ばして鞭を手のひらでピシっと鳴らした。
するとアデルの「おい。連れてこい」という言葉と共に、部屋の奥から、幼い子供たちが鎖につながれたまま連れてこられた。
その子供たちは皆、首輪をしており、足にも鎖がつながれていた。
大使は目の前に並んだ子供たちに近づくと、一人ひとりの表情や体系を見て言う。
「ほぅほぅ…ん~以前の子たちもよかったが、今回もなかなか良いではないか」
子供たちの表情は様々であったが、怯える者、一点を見つめたまま微動だにしない者、皆一様にその顔に笑顔はない。
するとアデルが大使にこう言った。
「大使殿、こちらはまだ世に出る前の奴隷(商品)ですので、以前のような再起不能は困りますので、どうぞお手柔らかに」
しかし大使は聞いていない様子で子供の一人に聞いた。
「お主はかわいいなぁ。え~?名前は何という?」
「…アイリ…です…ご主人様」
大使は鋭い眼光で子供たちを品定めすると、「おい!」と脇に立つ付き人に合図を送る。
すると付き人からアデルに報酬の入った袋が手渡される。
アデルはそれを受け取ると、自分をかばった者と共に、部屋を後にした。
部屋を出ると、アデルが一瞬ぐらついたので、隣の男が支えるように手を伸ばす。
「いや、大丈夫だ、ズダ。
それよりお前の目は大丈夫だったか?」
「目の下が切れただけです。
それにしても大使は相変わらずの…ですね」
するとアデルが手に持った袋を一瞬見てこう言う。
「そうだな…
この地で、こんな物が役に立つと本気で思っているのだから呆れてしまう」
するとズダが周囲を確認しながらアデルにこう耳打ちする。
「いつまで我々は彼らの言いなりになるのでしょうか」
「ズダ。迂闊なことを言うな」
「しかし!前回、大使の相手をした子は貴方の息子ではなかったですか!!」
するとアデルがズダの喉元を掴んで壁にドン!と押し付けて言う。
「俺がいつお前に意見を求めた!?あ?
一度踏み入れたら最後、死ぬまでこのままだってことくらい判ってるだろ!!」
アデルがズダの首から手を放す。
ズダはそのまま壁際に背中をつけたまま、滑り落ちるようにドスンと尻もちをつくと、首を抑えてグフ、ゴッぐっと喉を鳴らしながらせき込む。
アデルはズダに言い放つ。
「ソマンからの連絡は来てねぇが、直ぐにクシュナール攻略に向かう!」
「…わ…わかりました。すぐ出立の号令を出します」
ズダはそういうと、廊下を駆けだしてゆく。
一人残ったアデルはちらりと大使のいる部屋を振り向いて見る。
すると中から幼い子供たちの声が漏れ聞こえてきた。
アデルは「クソが…」と苦虫を潰したような表情で吐き捨てると出撃を急ぐのだった。
港町クシュナール 商工会議所
その頃、奇襲を被害無しで防いだルディウスたちは、捕えた砂塵のガーベイジの頭であるルシーダと面会していた。
当初こそルディウスに非協力的な姿勢だったが、現在は説得に応じ、共闘して子供たちを助け出すべく奪還作戦の立案を急いでいた。
「君たちの事情は理解した。
現在、その子供たちはアデル・バウロの居城、アズマヤールの砦に監禁されているということだな」
「ああ、そうだ。
アデルはアズマヤールの地下牢に私たちの子供を監禁してやがんだ」
するとルディウスが聞く。
「これは今後作戦を立てる上で重要な事なのだが、他の場所に移動される可能性はあるだろうか?」
「それは無いね。
私らも子供のころ、そこに監禁されていたからね。
何より、子供を言う事を聞かせるには、あの場所はうって付けだからね」
「それはどういう意味だ?」
するとルシーダが苦笑しながらこう言った。
「あいつ等の言うとおりにできないと、罰として適当に仲間の一人を選んで、使役しているサンドワームの巣に投げ込むのさ。
そして残った子供らにこう言うんだ“あいつが死ぬのはお前たちが従順でなかったからだ”ってな。
そうすると子供たちはどうなると思う?」
するとルディウスの顔が一段と険しくなる。
ルシーダは平然とこう続ける。
「大人に対して素直になるのさ…
そして子供同士では互いに監視するようになり、告げ口の応酬が始まる」
そしてルシーダは過去を思い出して吹き出すように笑いながらこう言う。
「プフハㇵㇵ!!おかしい事を思い出したよ。
あるヤツなんかは大人に積極的に体を売って気に入られた途端に、自分が嫌いだったヤツを難癖付けてサンドワームの腹にぶち込む荒業をやってのけたんだぜ。
笑っちまうのが、その数日後、今度はそいつがサンドワームの腹の中に入ったがな」
すると普段であれば冷静に対応するルディウスが、少し感情的にこう言った。
「私はこれまでも悪行に走った者たちを何度も見てきたが、ここまで悪意に満ちた蛮行を聞いたことがない」
ルディウスの目に鋭い光が宿る。
そしてルシーダに聞いた。
「サンドワームを使役していると言っていたが?
例えば、サンドワームに赤黒い宝珠や装飾品が着いていたりはしていなかっただろうか?」
ルディウスの脳裏にはレッド・ドラゴンの使役の宝珠の記憶がよみがえっていた。
「そうだね。
どうやったのかは知らないけど、アデルの使役するサンドワームには奇妙な装飾品がついていたね…
それがなんだってんだい?」
するとルディウスが言う。
「そのサンドワームだが、上手くすれば使役を解除できるかもしれない。
それらはどこに生息している?」
「ここから北東に進んだ巨石群を抜けた先さ。
アズマヤールの砦より1キロくらい手前に、行商人たちがサンドワームを恐れて迂回する広大な砂海が広がっていてね。
そこにアデルが使役するサンドワームが巣を作っているのさ」
二人が話していると、ルカたちが戻ってきた。
ルカが部屋に入るなりルディウスに言う。
「子供たちを助けなきゃいけないんだ!!力を貸してくれ!!」
するとルディウスの隣にルシーダが座っているのを見てルカが叫ぶ。
「お、お前!!なんでここに居るんだ!!」
後から入ってきたユアラも叫ぶ。
「あ!!ティアがなんでここに居るのよ!」
「ティア?」とルディウス。
するとルシーダが、バツが悪そうに言う。
「それは偽名だよ、お嬢ちゃん。
ルシーダ…ルシーダ・ウルスだ。」
その後、ルディウスがユアラを説得するのに30分を要した。
「事情は判ったわ!
確かにルカがマリアンから聞いた事情とも合致しているし、嘘は言っていなさそうよね」
するとレイダーがルディウスに聞く。
「んで?俺たちはどうすりゃいい?
さっきの説明だと、このクシュナールも遅かれ早かれアデルとフラット公国の混成部隊の侵略を受けるんだろ?
子供たちを救い出してここで保護しても、ここが攻略されたら意味ないぜ?」
「そう。その点なのだが、今、各地の神殿防衛に回っている騎士団に援軍要請をしている。
本来、港町は神殿と軍で管理する物である以上、私が出した援軍要請には一定の効力があるだろう。
ただ問題はそれがいつどこから到着するかが未定とう事だ」
するとセツナが言う。
「それなら、例のあの魔法をもう一度するのはどうだろう?
それに今回はルカの召喚魔法も使えると思うんだ」
するとロビンが言う。
「トリニティ・サンダーと、トリニティ・アブソリュートの事だな。
確かにそれを使えりゃ数千単位で攻めて来ても勝てる可能性があるが、問題は俺たち3人が揃っている必要があるって事だよな。
どうするルディウス、その計画で行けそうか?」
「うーむ…できないことはないが、その場合、子供の救出に手間取ると、戻ってくるまで撃てないのが欠点だな…」
するとルカがこう言った。
「なら俺とユアラとレイダーで子供たちを助けに行くよ」
「え、俺?」「ん?私もなの?」
思わず声が出るレイダーとユアラ。
「ダメか?」とルカ。
その言葉に二人が答えに悩んでいると、ルシーダが声をかける。
「その話、私らを勘定に入れていないじゃないさ。
この問題は私らの問題だからね。
子供を救うのは親の役目さ!」
その言葉にルディウスが言う。
「そうだったな。ではルシーダたちに、ルカとレイダーとユアラを同行させ、子供たちの奪還をお願いしたい」
「任せろ!」とレイダー。
「判ったわ!行きましょルカ!それと…ルシーダさん」とユアラ。
「おう!行こうぜ!」
「ルシーダで良いわよ。えっと…ゆ」
「ユアラでいいわ」
「ユアラにルカ、そしてルディウスたち男性陣に対して、砂塵のガーベイジを代表して礼を言う。
ありがとう!
そしてどうか私たちと一緒に子供たちを救い出してくれ!!」
ルシーダが深々と頭を下げる。
「おう!任せとけ!」とロビン。
こうして、ルシーダたちの子供の奪還作戦チームが結成されたのだった。




